「小鳥さん、元気…じゃなさそうだね」
青嵐は苦笑いを浮かべた。小鳥の傍にはもはや定番メンバーである歌仙、前田、三日月がいる。残りのメンバーは後藤、太郎、鳴狐、獅子王、長谷部となっている。また、揚羽もいる。
「おや、そちらの子は?」
「揚羽と申します。小鳥先輩の元で見習いをさせていただいています」
揚羽はにこりと笑う。
「小鳥さんの所で見習い研修」
「…人が人なら所謂乗っ取り案件を疑ってるところだけど」
揚羽はふっと真剣な顔をして声をひそめる。
「…実の所、誑かしてこい、と送りだされてきました」
「えっ」
「今の私に、そうするつもりはありません。殺される気がしますし、それに」
言葉を切り、揚羽は流し目に小鳥を見る。
「小鳥先輩を悲しませるのは、嫌ですから」
「…良い子じゃないか」
「何故好意的なのか理解できません」
小鳥の目が死んでいる。
「主、見習いが来てから完全に仕事放棄していたものね」
「前田の本体を使って本式手入れの練習をされていました」
「大将、本当に天岩戸してたもんなぁ…」
「それでも刀剣からの信頼が揺らがないのはすごいと思います」
「…ああ」
青嵐はぬるい目を向ける。何となく状況を理解した。青嵐はぽん、と小鳥の肩を叩いた。
「小鳥さんが小鳥さんであるだけで好いてくれる人も偶にいるんだよ」
「理解できません」
光忠が苦笑する。
「人の心って、不思議だよね」
「一応偏見はないつもりで聞くが…揚羽さんが小鳥さんを好きなのって、性的な意味は含んでないよな?」
小鳥の刀剣の模擬試合を観客席から眺める傍ら、青嵐が揚羽に問いかけた。揚羽は青嵐と目を合わせないまま返す。
「何言ってるんですか、小鳥先輩押し倒したいと思った事は一度じゃありませんけど実行する予定はありませんし先輩に言うつもりもありませんよ当たり前じゃないですか」
「うんそれは当たり前じゃないから落ち着こうな」
「何でですか先輩すごく可愛いじゃないですか天使じゃないですか浄化されるじゃないですか…浄化されるじゃないですか…」
ゲンドウポーズ。
「いや、確かに小鳥さんは浄化体質だろうけど…」
青嵐は若干引いた。
「…揚羽ちゃんは女の子だよね」
「はい」
「…小鳥ちゃんが女の子だって知ってる、んだよね?」
「知ってますよ、お風呂もご一緒しましたし」
光忠が何で?!って顔をして、歌仙と青嵐が頭を抱える。
「…忠告、するべきかな」
「いや、これはもう無事に研修期間が終わる事を祈るしかないんじゃないかな…」
「なあ大将、大将は結局、揚羽さんのことをどう思ってるんだ?」
「特に何とも思っていない。理解できないし鬱陶しい」
「…でも本当に何とも思っていないならこうやって態々先輩さんに相談しにくる必要もなかったんじゃないか?」
「…揚羽がどういう人間でどう考えているかに興味はない。ただ、その必要性も必然性もないのに寄ってきて感情を共有したがるのが鬱陶しい」
「…大将は、俺たちが大将の傍にいるのも鬱陶しいのか?」
「刀剣が人との関わりを求めるのは知っている」
小鳥は首を傾げて言う。
「迷惑と言う程ではないからいい」
「後藤、主は僕たちの"持ち主"なんだ、自分のものを大切にするのは変なことではないだろう?」
「え、ああ…」
歌仙はにこり、と笑う。
「主、ちゃんと試合を見ないとまた拗ねるものがいるんじゃないかな」
「ん」
「主君、三日月殿のドジは見ておられましたか?」
「見ていない」
三日月が物凄く複雑そうな顔をした。
「長谷部と前田が一直線に蛍丸に向かっていったのと、太郎が太郎太刀とぶつかっていたのは見た」
「大太刀は敵に回すと厄介だからな…」
「一太刀で断ち切れなかったのは残念でしたが」
「やはり、機動で長谷部さんに勝つことはできませんね」
「お前は短刀の内では遅い方だろう」
「むむむ」
「いやはや、馬に乗っても勝てぬものもいるのは、頼もしくもあり、恐ろしくもあり…」
「…こわい」
「私は全く追いつけませんからね…」
「長谷部に追いつける大太刀ってそれこそ手ぇつけらんないだろ!?敵に回したら全滅必死じゃねぇか」
「蛍丸より足の速い大太刀か。太刀の出番がなくなるなあ」
「…場合によっては一ヶ月、とは言っていたが、そうなるのか?」
「…なるかもしれませんねぇ。揚羽殿に研修内容に関するテストを受けていただく必要もありますし」
「研修内容…?」
「刀剣男士が主さまの代わりに本丸の運営に必要な知識を指導してございます。テストは…本部との通信になりますね」
「受けてないのか」
「受けていらっしゃいません。一度で合格したいけれど、まだその自信がないそうで…」
「…優秀そうに見えたが」
こんのすけは苦笑した。