刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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研修終了
旅立ちの日


魔法の呪文は必要ない6

 

 

「お世話になりました」

揚羽はぺこりと頭を下げる。刀剣たちが餞の言葉をかける。揚羽はいはいとそれに頷く。別れを惜しむような言葉もあった。激励する言葉もあった。総合的に見て、好感度は高めである。あくまで、共に同じ敵と戦う同志としての話だが。

小鳥が揚羽にメモを一枚渡す。

「緊急用のオープンアドレスだ。用事があれば使え」

「え、は、はいっ」

「日に一度程度しか見ないからあまり迅速な反応は期待するな」

「メール用のアドレスなんですか?…電話としては使えないのですか?」

「電話は嫌いだ」

「そうですか…」

揚羽はメモを大切にしまい込む。

「落ち着いたら、一度連絡しますね」

「・・・」

小鳥は肩をすくめた。

 

 

揚羽が一旦現世に戻るため、ゲートが繋げられる。名残惜しそうにしながらもゲートをくぐろうとした揚羽は、ゲートの先を見て表情を凍らせた。それに気付いた光忠他数振りが訝しげな顔をする。

男が一人、ゲートをくぐって本丸にやってきて、顔をしかめた。

「…なんだ、これは」

「…そちらこそ、どなたかな。客が来るなんて話は聞いていなかったんだけど」

「…おとう、さま」

その揚羽の呟きで、何人かは事情を把握した。高練度の太刀が小鳥とついでに揚羽を守るように立ち位置を変える。

「命じられたことも満足にできないのか、お前は。何のための道具だ?」

「・・・」

揚羽は俯いて口を引き結ぶ。男がその場の刀剣を見回して何か言おうとした時、興味なさげにしていた小鳥が言う。

「臭い。用がないのであればとっとと帰れ。お前にこの本丸に足を踏み入れる許可を出した覚えはない」

「なっ…この私に、言うに事欠いて臭い、だと?」

「言うに事欠いても何も、単純に臭い。それ以上一歩たりともこちらに近づくな」

小鳥は本当に嫌そうな顔で言うが、揚羽や刀剣たちには、そこまでの悪臭が男から発せられているとまでは思わない。思わないが、それ以上入ってくるな、という点に関しては刀剣たちも小鳥に同感である。

「そうだなあ、招かれざる客が図々しい。何れのものか知らぬが、礼儀がなっておらぬのではないか?」

三日月がすっと目を細める。その目は、男より寧ろ男に付き従う(彼の刀剣であろう)長谷部に向けられているかもしれない。基本的に、人間は物理的に刀剣には敵わない。元のポテンシャルが違うのだ。それがすなわち人間が刀剣に大して優位に立てないということではないが。

「…私は御巫(みかなぎ)現当主、来隼(らいじゅん)だ。術師であればこうべを垂れてしかるべきだろう。由緒正しい血など一欠片も流れていないのなら尚更だ」

「皇族、王族ならまだしも、縁もゆかりもない不審者(おっさん)に頭を下げる必要性は感じない」

小鳥はかくりと首を傾げる。

「貴き血と呼べるのは日本では皇の縁くらいだろう。興味ないな」

小鳥は深く溜息をつく。

「そもそも俺は術師じゃない。先輩に呪術の基礎は教わったが」

「…あれ、主ちゃんって巫覡の家系とかなんじゃないの?」

「家族親戚含め完全無欠の一般人だぞ」

刀剣たちが若干ざわつく。

「…一般人?これだけの場を作り上げておいて一般人だと?」

「至極どうでもいい。早う去ね」

しっしっ、という手振りを小鳥はする。

「まあ、主の出自や現世での位置づけなんて至極どうでもいい事だね。本丸(ここ)ではそんな事は何にもならないんだから」

尊い血筋ならば刀剣や式神が従うということはない(…帝の血筋ならば影響が出る可能性もあるが)。喚んだ主以外に刀剣が従うのは、単純にそのものの資質である。

「それで?何処ぞの御当主様が何ら現世に権力を持たない我らが主に何の用だい?…まあ、くだらない用事なんだろうけれど」

歌仙が皮肉を込めて笑う。その目は全く笑っていない。とっとと尻尾巻いて帰れと言っている。

「…こんなに虚仮にされたのは初めてだ」

「それは良かったね。態々こんな所に来ずに自分をちやほやしてくれる者の所へ帰ればいい」

小鳥は飽きたのか祝詞を口ずさんでいる。

「"客"ではないのであれば排除しても構わないはずだが」

「いや、やりすぎたらダメなんだろ?あんまはしゃぐと怒られるんじゃないか?」

一部不穏な空気を漂わせている。

「というか、何で入ってきたんだ?許可なしに出入りできないんじゃなかったのか」

「こんのすけ?」

「・・・」

こんのすけは目を泳がせている。

 

「力は有効に使われるべきだ。無為に浪費するなど愚かにも程がある」

「僕たちは課せられた仕事はこなしている。それでは不十分だとでも?」

「それを判断するのはお前たちではない」

「だとしても、僕らに主以外の人間に従う義理はないね」

 

「この本丸は解体し、刀剣男士、審神者共にしかるべき本丸に移ってもらう」

「…は?」

「それはつまり、僕の刀を他者に譲れと、そういう意味か」

「碌に仕事をしていない審神者だというなら、他のものと変わったとてそう変わらんだろう?」

「俺はそれを否定しないが、"俺のもの"を他者にやるつもりはない。己の意思で俺から離れるならともかく、そうでないのなら承服する必要性を感じない」

「…主をその必然性もなく変える事を是とする刀剣男士はこの本丸にはいないぜ。俺たちは喧嘩を売られてるのか?」

「前田から主君を奪おうというのであれば、地獄を見せて差し上げましょう」

「相変わらず前田のは過激だな…まあ、俺たちも大将と引き離されるって聞いてそう易々と頷けねーけどな」

「上の決定に逆らうと?」

「ははは。…俺たちから主を奪おうと言うなら、俺は主を隠すこともやぶさかではないぞ」

三日月の目は笑っていない。

「何を言っているのですかあなたは。抜け駆けは許しませんよ」

「お前も何言ってんだ」

何振りかが神妙な顔をしている。

「大将…」

「隠れて解決する話とも思わないが」

不安そうにする後藤に小鳥は肩をすくめる。

 

 

「今からでも遅くない。さっさと役目を果たせ。方法も道具も渡したはずだ」

「…できません」

顔を上げた揚羽の目は強い光を宿している。

「お父様の命令でも、それだけは聞けません。私は、先輩を悲しませることはしたくない」

「揚羽ちゃん…」

揚羽は荷物の中から呪具を取り出して足元に叩き付ける。ごとり、と石が音を立てた。

「こんなものっ…」

くすり、と小鳥が笑う。

「使ってみればいいんじゃないか」

その言葉に面白がるような響きを歌仙は感じ取り、とても嫌な予感を覚えた。

この本丸(俺の領域)で、俺の目の前(支配領域)で、そんなものが役に立つと思うなら使ってみれば良い。もう面倒だからそれで決着を付けよう。文句は言わないし言わせない。誰にも」

「先輩私の話聞いてました?!」

「それは、刀剣をその男の望む状態にするための道具なんだろう。そうなればその男の勝ち、ならなければ私の勝ちだ」

「やったら私先輩の刀剣に殺される気がするんですが?!」

「俺の手元に残った奴からの危害は止めてやる」

小鳥は悪役のように笑う。

「やれ、揚羽。そしてさっさと旅立て」

「…主、退屈して来たんだね…?」

「磯辺焼き食べたい」

「…後で餅を焼こうか」

歌仙はやれやれと肩をすくめる。揚羽は助けを求めるように刀剣たちに視線を向けるが苦笑を返された。茫然としていた男が我に返って揚羽と小鳥を睨む。

「…早く、やれ」

二人から促され、揚羽は呪具を手に取る。

「どうなっても、知りませんからね」

揚羽は呪具に霊力を込める。対象を絡め取ろうとするような力が呪具から刀剣たちに伸び、巻き付こうとして弾けた。

「…何?」

男が動揺したのを見て小鳥は首を傾げる。小鳥には霊的なものは見えないのである。揚羽はなおも霊力を込めるが、全て防がれてしまう。暫く続けた後、はあ、と溜息をついて揚羽が言う。

「…これでいいですか」

「あれ、もう終わったの?何かあったって感じもしなかったけど」

「先輩に全部レジストされましたからね…」

「"俺は特に何をした覚えもないけど"」

「まあ、僕たちを形作る霊力は全て主のものだからね。主との繋がりが断たれない限りはその特性も出るだろうさ」

歌仙はにこりと笑う。

「さて、それでは、招かれざる客にはお引き取りいただこうか。主の怒りに触れたくなければ、さっさと立ち去ることをおすすめするよ?」

「…貸せっ」

男は揚羽の手から呪具を取り、霊力を込める。先程より禍々しい力が呪具から出るが、すぐにかき消された。

「…!」

「…無駄ですよ。先輩の力を抑え込もうと思ったら、ハッカイレベルの呪力がないと負けますから。…というか、そのレベルの呪力も本人はレジストした実績があるそうですから」

先輩の先輩に聞きました、と揚羽は言う。

「んー…んー…?」

小鳥は何の事だろう、というように首を傾げる。何振りかは何の話かわかって冷や汗を垂らす。"前の本丸"ヤバすぎである。

 

 

 

 

 

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