現世で一晩過ごし、担当の人間によって二振りが連れて来られた本丸で一番に彼らを迎えたのは、こんのすけと長谷部だった。
「あなたがたがお預かりする刀剣男士の方たちですね。四振りと聞いていますが…ああ、二振りは刀に戻っておられるのですか」
こんのすけは五虎が抱えていた太刀と、鶴が腰に差している打刀を見て一人で納得したような顔をする。
「変わった組み合わせだな。…まあいい、お前たちが滞在する部屋は二の丸に用意してある。二人部屋を二つ用意したから好きに使え」
「挨拶なんかはしなくていいのかい?」
「短期間とはいえ、滞在する以上荷があるんじゃないのか。荷解きするかはともかく、荷を抱えての移動は煩わしいだろう」
「…いや、荷と言える程のものは俺たちにはないし、倶利坊と光忠は…意識があるかはわからんが、共に案内してもらいたいんだが」
「…そうか。お前たちがそれでいいならそれで構わない。では、本丸内を案内しよう。ついてこい」
中庭で短刀と保護者太刀が雪合戦をしていた。特に前田と三日月が白熱している。渡り廊下で髭切に抱えられた小鳥がそれを眺めている(ように見える)のを見て、長谷部はぴくりと眉を動かした。
「髭切、お前たち兄弟は練度上げの出陣に出ているはずじゃなかったか」
「うん…まあ、そうなんだけど、今日は客人があると聞いていたから、気になっていてね。あ、弟はあのへんの何処かにいるよ」
髭切が指さす先で膝丸は丁度三日月からの流れ弾が顔面に当たるという醜態をさらしていた。ついでにいえばこの本丸の鶴丸と五虎退も雪合戦に参加している。
「…一兄」
鯰尾と骨喰からのコンビネーション攻撃を受けて笑っている一期を見て五虎が呟く。鶴はそっとその頭を撫でた。
「――主、此処は冷えるからそろそろ室に…って」
歌仙は片眉をしかめる。
「こんな所で立ち話かい、へし切。暇なんだね」
「歌仙兼定、へし切長谷部は預かり刀の案内をしていたのです。サボりではありませんよ」
「怠慢をしているのは俺ではなくそこの新入りだ」
「寒いとあんまり動きたくなくなるよねー」
「そんな事は知っているよ」
歌仙は小鳥に膝をつく。
「主、温かい茶を淹れたから来てくれないかい?」
「前田と三日月のどちらが勝つか見届けてほしいと言われている」
「あの秩序のない混戦にどう決着がつくって言うんだい…どうなったら勝ちか、事前に決めていないんだろう、どうせ」
「知らん」
「それに、主の視力じゃ此処から中庭の様子なんて見えてないだろう」
「上に式を飛ばして見ている」
「それこそ君が此処に留まる必要性がないと思うんだけど」
はあ、と歌仙は溜息をついた。
丁度雪合戦の方にも一定の区切りがついたのか、衣服や髪についた雪を払いながら何振りかがやってくる。
「おー、預かる刀ってのは
「五虎退も預かるのですか。…仕える主が違うとはいえ、あなたも私の弟。甘えてきても構いませんよ」
「えっ、はっ、はいぃっ…」
「…そう言われる程以外なものかねぇ。ほれ、兄弟みたいに良く似てるだろ?」
色相は同系である。
「ははは、五虎退は
「え、えっと、その、僕たちの本丸は、一兄は、顕現してなくて、その…」
「主、俺の勝ちだっただろう?」
「主君、前田の勝ちでしたよね」
「ぶつけたのも避けたのも前田の方が多かった」
「だが最終的に雪まみれになったのは前田の方だろう」
「それは被弾位置の問題です」
小鳥は肩をすくめる。
「雪玉を狙った位置に当てられる方がすごいよねぇ」
「三日月は数撃ちゃ当たるという感じだったからな。…兄者、どうしてまた主を抱えているんだ」
「ほら、だって此処は寒いだろう?じっとしていると特に」
「だからといって主を懐炉にするか」
「――あ、丁度雪合戦は終わってたんだね。御汁粉が出来ているから、手を洗って、濡れた衣服は替えておいでよ」
「…主は、食べるか?」
「んー…食べる」
光忠と大倶利伽羅を見て、鶴と五虎は僅かに動揺する。
「そっちの鶴丸さんと五虎退君は預かり刀の子かい?甘いものは好きかな」
「は、はい…」
「おや、俺たちも貰って平気なのかい」
「多めに作ってはいるからね。御代わり出来る数が少なくなるだけだよ」
「前田も着替えてから参りますので、待っていてくださいね、主君」
「おー」
「…俺も着替えてくるが、兄者は他の刀剣や主に迷惑をかけないでくれよ」
「ははは、心配性だなあ。僕だって常識が全くないわけじゃあないんだよ?」
「兄者…」
刀剣に戻っている二振りの様子を小鳥が見ることになり、共に来た二振りと長谷部、歌仙が立ち会うことになった。といっても、メインで診るのはこんのすけなのだが。
「…いくらか傷を負っているようですが、それよりも疲労と霊力の不足が原因で実体を保てなくなっているようですね。霊力を補給してじっくり休めば再び人型を取る事が出来るようになるでしょう。…本刃にその意思があれば、ですが」
「手入れする?」
「式神に任せてもいいと思うけど…主の好きなようにすればいいんじゃないかな」
「んー…」
小鳥は僅かに首を傾げる。
「どっちがいい?」
結局、四振りとも小鳥の手で手入れすることになった。負傷だけでなく、前の本丸で溜めこんだ穢れまでも清められていく。初めてのその感覚にむず痒いような感覚を覚える。この本丸が酷く澄んだ気に満たされていることは足を踏み入れた時にはわかっていたが。
「…審神者にも色々いるもんだな」
鶴の独り言に近い呟きに小鳥は反応しない。代わりに歌仙が「何を当然の事を」と言った。
「主のような人間ばかりならばブラック本丸なんて生まれないし、逆にブラックを生むような審神者ばかりならば本霊に見限られているだろう。
「…人は変わるものでもあるがな」
ぼそりと長谷部が言う。少し遠い目をしている。
鶴が二刀を差しているのはともかく、五虎が太刀を抱えているのは酷く目立つ。目立つが、無理に問うものはいなかった。大半の刀剣はある程度空気を読めるのである。そして、空気を読めないものは他の刀剣にあまり関心がない。
何やら思う所のあるものはいるが。
「一兄、絶対あの光忠さんに焼き餅妬いてるよね」
「一兄はブラコンだからなあ」
「主君と別の刀剣じゃあ違うってことですかね」
「"僕"の所為で、ごめんなさい…」
「五虎退が気にすることじゃないよ。あの四振りはあくまで預かってるだけで正式にこの本丸の刀剣になる予定はないんだし」
基本的に、同一の刀剣を同一の本丸で複数運用することは非推奨となっている。理由があってそのようなことをしている本丸がないわけではないのだが。
「あっちの本丸には一兄がいなかったらしいし、よく面倒を見てくれたんだろうな、多分」
「光忠さん、面倒見のいい方ですもんね」
「面倒見が良いというか、世話焼きというか…」
「一兄も、その辺わかってるはずなのにね」
「頭で理解してる事と心情的に納得できるかは別ってことだろ。あの光忠がちゃんと実体化したらマシになるんじゃないか?」
「そうかなあ…」
「なんだか、本丸が浮足立ってる感じがするね」
「異物があれば気にせざるを得ないという事だろう。それより兄者、兄者は主を抱えていないと落ち着かないのか?」
「うーん、まあ、主を抱えていると落ち着くのは確かだね」
小鳥はうとうとと目を細めている。髭切は眠気をそのまま深めるように優しく頭を撫でた。
「主は嫌がっていないし、別にいいんじゃないかな」
「主は嫌がらなくとも他の刀剣は苛立ったりするがな…兄者、あまりまだ認められていないだろう」
「強くなる事にも、戦う事にも、あまり意欲を持てないんだよね。主の傍は特に穏やかだし」
「意欲がない、で済ませていい話じゃないだろう。それで本丸に不都合が出るわけではないとはいえ」
「
小鳥はすっかりすよすよと寝息を立て始めている。髭切は穏やかな調子で続ける。
「僕が弱くても誰も困らないし、主も特に気にしない。そりゃあ、守る為にも力は必要だけど、危機感も持てないんだよね」
三日月が鍛錬をサボりがちだったのも、似たような理由だろう。近頃は前田他張り合う相手がいてサボることが減っているが。
「逆に、強くなれば主が褒めてくれるという事もなさそうだし」
小鳥は刀剣の強さにとことん興味がない。褒めてくれーと向かってくれば適当に褒めるだろうが。
「兄者にだって源氏の重宝としての矜持はあるはずだろう。軽んじられるとは思わないのか」
「どうせ主からの扱いは他の刀と同じだしなあ」
しいて言えば歌仙だけ特別視している節があるが、小鳥はどの刀剣も同じように扱っている。特に区別はない。まあ、それも善し悪しなのだろう。
「…兄者」
「別に、不満という程のことでもないんだ。こうやって穏やかに主と過ごすのは好きだしね。…でも、主は僕たちにあんまり興味はないだろう?」
「…ないんだろうな」
膝丸はまだ付き合いが浅いが、小鳥がどういう人間か、おおよその所はわかっていると思っている。彼女は、一人で完結している。一人の世界で閉じている。
短刀で唯一生き残った五虎退、来てすぐだった鶴丸、折れてないが主を喪って実体を保てなくなったくーと光忠 練度はどっちも微妙