刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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五か月くらいかな


孤独の庭園2

 

 

 

このままでいいのではないか、と髭切は思う。己を慕ってくれる、愛らしくも清らかな存在と共に、二人きりで穏やかに過ごしていく。髭切にそれで不都合はないし、小鳥も特に否やは言わないだろう。小鳥がこれまでの審神者のように狂ってしまいそうな兆しはない。本丸内も大分片付いている。使わない部屋はただの伽藍堂になっているが、使っている部屋は整えられた居心地の良い空間となっている。時折、妖横町へ出掛けて茶屋で甘味を食べて、それだけで小鳥は幸せそうに笑ってくれる。それで十分なのではないか。

政府が知れば、このままにはしておかないだろうが。

髭切も小鳥も、政府から見れば有用な人材になるだろう。髭切は強い刀剣男士だし、小鳥はとても優秀な浄化能力の持ち主だと髭切の件で証明されたことになる。彼のように穢れにまみれた刀剣は他にもいるだろう。それを浄化できる存在は、貴重な筈だ。

「…嫉妬すると鬼になるとは言うけれど、でもやっぱり、大人しく奪われる気にはなれないかな」

髭切と小鳥は正しく契約を結んではいない。どういう契約を結ぶべきか、決めかねているのだ。審神者と刀剣男士の主従契約は関係性が変わってしまいそうで嫌なのだ。

「…せめて、共にいる約束くらいはしておくべきかな」

 

 

「ねぇ、指切りしないかい?」

「ゆびきり?」

「ダメかな」

「ダメじゃないけど、何のゆびきり?」

「僕と君が、ずっと一緒にいるって指切り」

「僕は特に余所に行く予定はないけど」

「それは知っているけど、ちゃんと約束しておきたいんだ」

「ふーん。いいよ」

小鳥は小指を差しだす。髭切はそこに自分の小指を絡めた。

「ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます」

「ゆびきった」

縁が繋がれる。それは通常の契約よりは弱いが、確かに約定には変わりないものだ。

「破ったらダメだよ?」

「君の方も、破らないでね」

小鳥は悪戯っぽく笑う。彼女は自分が彼と何をしてしまったのか、それがどれだけ取り返しのつかないものか、理解していなのだ。髭切も穏やかに笑う。小鳥はそうやって笑っていればいい。何も、知らなくていい。

 

 

 

「…わかっているよ、大丈夫」

心配そうに己を見る式たちに、髭切はにこりと笑いかける。

髭切は一般的な意味で小鳥を幸せにすることはできないだろう。けれど、だからといって、小鳥が不幸だとは言い切れない。だって、どんな状況でも本人が幸せなら幸せだし、不幸だと思えば不幸なのだ。他から見てどうであろうと。

まあ、詭弁ではあるのだが。

「僕だって、あの子のことは好いているんだ。積極的にあの子を傷つけたりはしないよ」

「…まあ、信用は出来ないか。君たちは僕の事をよくわかっているもんね」

髭切が何故狂ったのか、何故この本丸ごと封じられたか、これまでの審神者に何をしたのか、その全てを式たちは知っている。小鳥が来てからのことも勿論見ているが、全面的な信頼には程遠いようだ。

「あの子の嫌がることはしないよ。…ダメ?」

そんな事は当然だ、という素振りを式たちは見せる。彼女は式たちにも慕われているらしい。

「…あの子は本当にいい子だよね。今の世には珍しいんじゃないかな。…それがあの子にとって幸せなことかはわからないけれど」

人の世では、神や妖に好かれる程に清いものは生き辛い。多数派が生きやすいのは世の習いだから仕方がない。それに、だからこそ神隠しというものがあるのだとも言える。理性ある神であれば、余程強く執着を持ち手元に置きたいと望まぬ限りは愛し子が幸せである事を望むものだ。人の世に置いておけば不遇であり不幸なのだと思うから隠すのである。己の元にある方が愛し子には幸いだろう、と。

「君たちは、どう思う?」

 

 

 

小鳥が自室としている部屋には、大きな縫いぐるみが幾つも置かれている。それは彼女自身の手作り(概念の物質化による)で、抱き枕のように使われているものだ。

「…どうして、寂しいって思うんだろう」

言葉を交わせる相手がいて、仲も悪くない。この本丸に来る前から、引き籠り気味で他者と顔を合わせたり出掛けたりすることはあまりなかった。耐えられない程の不自由はない。

何も、問題はないはずだ。寧ろ、これ以上を望めば罰が当たるかもしれないくらいだろう。それなのに、こうして一人になった時や、妖横町に出かけた帰りなどにわけも判らず寂しくなるのだ。

「…つかれてるのかなあ」

小鳥はぬいぐるみを抱えて寝転がる。場の静けさに、わけもなく不安がこみ上げてくる。そう、例えば、此処にいるのは、自分一人だけなんじゃないか、と。

「…やくそく、したもん、だいじょうぶ」

彼は、きっと彼女を一人置いて何処かにいなくなったりはしない。

 

 

 

 

 

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