髭切と似たような状態で兄が目の前で折れている へたれ紳士な膝丸
半年くらい 最初金目だったけど浄化するにつれて琥珀色に移り変わっている
付喪神が、神が、人の子を愛おしく思うのは、ある意味で本能に近いところがある。特に、彼らは人の手で振るわれてこそ意味のあるモノだ。人間に対する愛着、執着は強い。ある意味では、人がいなければ存在意義を喪うとも言えるのだから仕方のないことかもしれない。元より、刀剣男士は人の子に手を貸す為に地上に降りているのだ。
「…?俺の顔に何かついてるの?ひざまる」
「…いや、別に、君の顔に何か変なところがあるわけじゃないぞ。ただ…その、なんというかだな」
「?」
小鳥は首を傾げる。膝丸は目を泳がせる。
小鳥は、本人に自覚こそないが、優れた浄化の力の持ち主だ。鬼と化し、ささくれだっていた膝丸の心もその力に触れてゆっくりと癒されてきた。そうやって、癒され、鎮められ、膝丸は刀剣男士に戻った。人を慈しむ神に、戻った。
それ自体は僥倖だろう。政府が破壊することもできず本丸ごと封じる事しか出来なかった刀剣が本来の姿に戻ったのだ。まあ、政府はこの本丸を一種のブラックボックスとしてしまったのでその事に気付いていないかもしれないが。
問題は…膝丸にとって、問題なのは、その経緯から未だ契約を結んですらいない小鳥が愛おしくて仕方なくなってしまっている事である。
それは、愛欲、性欲すら含んだもので、きっとそれは小鳥を怯えさせてしまうものだろうと膝丸は思う。小鳥は精神的に幼げな所があり、そういう熱情とは無縁であるようだからだ。小鳥は膝丸に親愛の情を見せているが、それは友愛に近い。
「膝丸?」
「…小鳥は、愛らしいな、と」
「えっ、あ、ありが、とう…?」
褒められなれないのか、小鳥は戸惑った様子で目を泳がせる。
膝丸は小鳥を愛おしく思っている。小鳥に嫌がられ拒絶されるのが嫌で何も強制できない。関係が変わるのが嫌で、己の気持ちが変わるのが嫌で、審神者と刀剣の主従契約が結べない。本当は、誰にも断ち切れない繋がりが欲しいのに。小鳥の特別な相手でいたいのに。膝丸にとって小鳥は確実に、特別な人間なのに。
「君は、俺の事をどう思っている?」
「…どう、って?」
うーん、と小鳥は首を傾げる。
「んー…膝丸はいいひと。好き」
「あ、ありがとう…」
特にてらいもなく、まっすぐ好きと言われて膝丸は照れる。それが所謂LoveではなくLikeの意味だとしても、好きと言われれば嬉しい。その意味がすれ違っていると判ってはいても。
小鳥は欲に乏しい。孤独こそ恐れるが、"必要なもの"以外を求めることはない。あらゆるものに対する執着が薄い。それはおそらく、その霊力特性も関連しているのだろう。浄化特化、それも忘却よりだ。文字通り忘れてしまうのだろう。高い霊力を持つ者には、特に己の霊力を持て余しているようなものには、己の霊力に蝕まれてしまう者も少なからずいる。彼女の場合は呪祝の影響もあるだろうが。
「君は団子を美味そうに食べるが、自分からは欲しがらないな」
「んー、だって僕別にお団子食べられなくても死なないし」
「だが、好きだろう?」
「うん、好きだよ」
茶屋での一時。必要品を買いに妖横町に訪れた帰り、こうして茶屋に立ち寄るのは珍しいことではない。
「膝丸は好きじゃないの?」
「勿論、俺も好き…だ」
膝丸は意味もなく照れる。団子の話とはわかっているのだが。
「同じだねぇ」
「(小鳥が可愛過ぎてつらい)」
「――おや、逢引かな」
「…兄者、余所の俺にまで迷惑をかけようとしないでくれ」
「あいびき…挽肉?」
「いや、そういう意味ではないだろう」
小鳥は余所の髭切と膝丸を見て目を瞬かせる。膝丸は僅かに眉をしかめた。
「うちの兄者が邪魔をしてしまってすまない。…いや、
「ああ、まあ…な」
「お嬢さんはそちらの肘丸の審神者でいいのかな。君の所に僕はいないのかい?」
「え?えっと、えっとね」
「兄者、俺は肘丸ではなく膝丸だ」
「うちの本丸は、ひざまるしか、いないよ」
「そっか。僕は髭切。ピザ丸の兄だよ」
「僕は小鳥だよ」
「…小鳥」
「なに?ひざまる」
「…号とはいえ、そうそう名乗らないでくれ」
「ありゃ、怒られちゃった」
「・・・」
余所の膝丸が目を細める。
「…なあ、お嬢さん。君はその刀剣ときちんと契約を結んでいるのか?」
その言葉に、膝丸は殺気を飛ばした。髭切が神妙な顔になる。
「…あぁ、成程」
小鳥はきょとんと首を傾げた。
「俺たちはこれでいいんだ。何も不都合はない」
「誰かしらと契約を仮でも結ばずに
「小鳥を戦場に連れていくことなどするわけがないだろう。この子は戦う術を持たないか弱いおなごだぞ」
「君は本当に審神者なのかい?」
「…僕、審神者じゃないの?」
小鳥はかくりと首を傾げる。髭切は苦笑する。
「君の仕事はなんだい?」
「本丸を維持することだよ」
「他には?」
「他?」
「他にも、あるだろう?」
「…?」
「ええと、それじゃあ、どういう経緯で審神者になったのかな」
「?んー…ええとね、試験受けたの。それで、ちゃんと降ろせたけど、試験官の人達が怖い顔で還せっていうから、ごめんなさいして還ってもらって、初期刀無しで今の本丸に配属された。…あ、ちゃんと先輩に呪術の基礎は教えてもらったよ」
「・・・」
「?」
「…声丸、この子所謂ブラック引き継ぎ案件だと思うんだけど」
「それを言うなら吼丸だ兄者。…ブラック引き継ぎ?虐げられているようには見えないが」
「俺が小鳥を虐げるわけはないだろう」
「ブラック?んー…本丸、最初は荒れてたけど、今は綺麗になったよ。僕と膝丸で綺麗にしたもん。ね」
「…ああ」
「君と肘丸の二人?他の刀剣は手伝ってくれなかったのかい?」
「他?うちの本丸は、膝丸しかいないよ」
「…それはつまり」
「本丸、僕と膝丸の二人きりなの」
「膝丸、何か怒ってる?僕何か変なこと言った?」
「…いや、小鳥は悪くない」
膝丸は小鳥を庇うように抱き寄せる。
「…お前以外の刀剣は?」
「随分前に全て折れた。小鳥が寄越される前の話だ。…まあ、そもそも前の主と小鳥の間に、何人か他の審神者がいたこともあるんだが」
「…解体されなかったんだね、本丸」
「俺がいたからな」
含みのある発言に余所の膝丸と髭切は目を細める。
「俺たちはこのままでいい。俺も、小鳥も、不都合は感じていない。放っておいてくれ」
「「・・・」」
きょとん、と首を傾げている小鳥だけが、状況を理解していない。膝丸が何故二振りを威嚇しているのかも。
「ひざまる」
小鳥が名を呼んで袖を引く。伝わった霊力で膝丸の神力が和らぐ。
「道で喧嘩したら他人の迷惑になるよ」
「………ああ」
膝丸が威嚇を止め、二振りは自分たちが気付かない内に戦闘態勢に入ろうとしていたのを自覚した。この膝丸は尋常の存在ではない。
「…帰ろう、小鳥」
「うん。ばいばい、髭切さん、膝丸さん」
「主、出先で余所の肘丸に会ったんだけど、その肘丸、練度が99を越えているようだったんだよね」
「…は?」
「その本丸、審神者と肘丸の二人きりなんだって。…おかしいよね?」
「待て、膝丸が練度限界突破で、審神者と二人きり?それは何の冗談だ?」
「冗談だったら良かったんだけどねー。ついでに言えば、その審神者の子も碌な教育されずに本丸に送り込まれたみたいだったね」
「…完全に政府がブラック案件じゃないか…」
「肘丸は放っておけというし、その子も特に心身を害した様子はなかったけれど、一応主には報告しておくべきかなって」
「・・・」
「ひざまる」
「…何だ、小鳥」
「契約って、しないと困るもの?」
「…今のままなら、何も困らない。状況が変わったらわからないが」
「本当に?膝丸は困らない?」
「何故俺が困ると思うんだ?」
「さっきの膝丸さんが気にしてるみたいだったから」
「・・・」
「神様と約束するのは大変なことだって聞いた覚えあるよ。契約って、約束だよね」
「いや、契約は約束というか…まあ、一種の約束ではあるかもしれないが…」
「違うの?」
「うむ…解釈による、かな」
小鳥はきょとんと首を傾げる。
「…君が望んでくれるなら、契約を結びたいとは、思っている」
「どうすればいいの?」
「え、いや、その…帰ってからにしよう」
「うん」
膝丸は戦装束に着替えた。最近はほぼ使っていなかった衣装に身を包んだ膝丸を見て、小鳥はきょとんと首を傾げる。
「僕も着替えた方が良い?」
「…いや、いい」
内心冷や汗だらだらである。どういう形で契約を結ぶべきか、わからない。主従よりも対等な関係でありたい。彼にとって小鳥は守るべき存在だ。愛し子を守るのは己でありたい。ずっとずっと、傍にいてほしい。
「…指切りをしよう」
「ゆびきり?」
「俺は…膝丸は、必ず何者からも小鳥を守ってみせる。だから、君は…ずっと、俺の傍にいてくれ」
「わかった」
小鳥は膝丸の小指に自分の小指を絡める。
「ゆびきりげんまん、うーそついたらはりせんぼんのーます」
「「ゆびきった」」
約束という繋がりが結ばれる。契約というには頼りないが、只の口約束よりは強い繋がりだ。もっとも、小鳥はあまりそれを理解していないようだが。
「…おわり?」
「…もっと強い契約となれば、それこそ、その…婚姻契約とかになるからな。小鳥は、俺にそういう感情はないだろう」
「…ひざまるはあるの?」
「え」
「まあ。確かにそういうことを考えたことないんだけど」
「…だろうな」
そもそも小鳥は膝丸を異性として見ていない。見ていたら、無防備さももう少しマシだっただろう、多分。ムラムラする。