ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 クロスオーバーです。
 後編のあとがきに、オリジナル設定が書いてあります。



〈 雨とロボット 前編 〉

 

 廃墟の町の地下道。

 

 薄暗い地下道を歩く、かばん、サーバル、アライグマ、フェネック。地下道の床は水浸しで、水はにごっており、ひざの高さまであった。 ※1 地下道の外では雨が降り続いていた。

アライグマ 「この水、においが変なのだ……」

サーバル  「雨とおなじだね……。たぶん、体にわるいよ」

かばん   「外から水が流れこんでいるんだね……」

フェネック 「べつの場所にうつらないとだめだねー」

アライグマ 「わわっ!」

 アライグマが、水に沈んでいたがれきに足を取られ、倒れた。

フェネック 「またころんだねアライさん。気をつけなきゃだめだってば」

かばん   「がれきだらけだね。水、飲まなかったですか?」

アライグマ 「だいじょうぶ、なのだ……」

 4人の行く先には、地上へ上がる階段があった。

かばん   「こっちは崩れてないね……。外に出られるよ」

サーバル  「またぬれるの? やだなあ……。ん?」

フェネック 「うしろから音がするねー」

 4人が振り返った。

サーバル  「なにか、くる! あぶないやつ!」

フェネック 「セルリアン? じゃ、ないねー」

 フレンズより一回り大きいサイズの、4本の足を持った機械が3台、地下道の途中にある広場の階段を下って地下道に入って来て、車輪で水しぶきをあげながら向かってきた。※2 それらは4人に向けて機銃 ※3 を連射した。

 アライグマがフェネックに抱き着き、押し倒した。アライグマは左肩に銃弾を受けた。

アライグマ 「うっ!」

フェネック 「アライさん!」

 サーバルは、かばんを突き飛ばして前に出た。

かばん   「うあっ!」

サーバル  「みんな、にげて!!」

 機械Aがサーバルに向けて機銃を撃った。サーバルはジャンプして攻撃をかわし、機械Aに飛びかかった。直後、サーバルの背後のコンクリートの天井に、数個の弾痕ができ、破片ががはじけ飛んだ。サーバルが右手の爪を斜めに振り下ろして、機械Aを攻撃した。

サーバル  「みゃっ!」

 ガチン、と爪が機械Aの側面に当たった。

サーバル  「かたい!」

 サーバルは機械Aを飛び越えて、空中で体を180度ひねって機械Aの方を向いて着地、すぐにジャンプし、空中で姿勢を変え頭を下にし、天井を蹴って、機械Aに爪を振り下ろした。

サーバル  「うみゃあっ!!」

サーバルが攻撃した機械Aは、天板が裂けてへこみ、機銃の基部を破壊され、勢いを失った。※4

 サーバルは機械Aを踏んで後ろへジャンプし、再び機械Aの後方へ着地した。

かばん   「サーバルちゃん!」

 機械Bがサーバルに機銃を撃った。サーバルは左右にジャンプしながら走り、攻撃をかわしながら、ほかの3人から離れていった。サーバルを追って、地下道の左右の壁のタイルが次々にはじけ飛んだ。機械Bがサーバルを追って走った。 

 フェネックが走り、サーバルを追っていた機械Bの尻を蹴り上げた。フェネックに攻撃された機械Bはバランスを崩して、水で滑って横転し、地下道の壁を削りながらひっくり返った。 サーバルが3人の元へ戻って来た。機械Cがフェネックを追った。サーバルがジャンプして機械Cを攻撃しようとしたが、機械Cが急に反対方向に走ったため当たらず、勢い余って壁に頭をぶつけた。

サーバル  「うぎゃ!」※5

 フェネックは走って機械Cから逃げたが、水に沈んでいたがれきに足がはまり、倒れて両手をついた。

 かばんが、大きながれき ※6 を持ち上げようとしたが、重くて持ち上がらなかった。

アライグマ 「手伝うのだ!」

 機械Cが停止し、フェネックに照準を合わせた。

かばん&アライ「せーのっ!」

 かばんとアライグマが協力して、大きながれきを持ち上げ、投げた。機械Cが機銃を撃った。飛んできたがれきに数か所の穴があき、フェネックの背後の壁のタイルがはじけ飛んだ。※7 タイルの破片がフェネックに当たり、右腕にちいさな切り傷ができた。がれきはフェネックと機械Cの間に落ち、水しぶきをあげた。フェネックは、がれきにはまっていた足を抜いて、立ち上がって逃げた。機械Cは再びフェネックに照準を合わせ、機銃を撃った。フェネックはジャンプして天井に手をつき、体をひねって向きを変え、元来た方へ着地した。直後、フェネックが手をついた天井のコンクリートに弾痕ができ、破片が飛んだ。

 機銃の射線が走るフェネックを追い、壁のタイルをはがし、掲示板を穴だらけにしながらフェネックに近づいていった。

 

アライグマ 「フェネックー!!」

 

 突然、機械Cが射撃を停止した。

 ゆっくりと動いていた機械Aも停止した。ひっくり返ってもがいていた機械Bも停止した。

 地下道は静かになった。

 

ラッキービースト(腕時計型、以下ボス)「強制停止サセタ、モウ動ケナイヨ」※8

 

かばん   「ラッキーさん!」

フェネック 「助かった、みたいだねー」

サーバル  「みんな……だいじょうぶ……」

 サーバルはふらつきながら戻って来た。

フェネック 「アライさん!」

 フェネックが、しりもちをついていたアライグマに駆け寄った。

アライグマ 「フェネックも、ころんだ、のだ……」

 かばんは3台の機械を見た。

かばん   「ラッキーさん、なんなんですか、これは?」

ボ ス   「コレハ、自律戦闘機械(ウォーモンガー)ダネ。…………ボクト、同ジヨウナモノダヨ」

かばん   「ラッキーさんと、おなじ?」

フェネック 「血がすごいね。ちょっと服をやぶるよー」

 フェネックは、アライグマの服の左の袖をめくり、服を破った。弾丸は背中側から左肩を貫通し、前に抜けていた。前側の出血がひどかった。

フェネック 「このけがであんなものを持ち上げたの? アライさん、むちゃしすぎだよ」

 サーバルも、アライグマの元へやってきた。

サーバル  「血をとめないと」

かばん   「なにか、清潔な布を」

フェネック 「これ、使えるかな? 清潔、じゃないけどねー」

 フェネックが自分のボウタイをはずし、かばんに渡した。

サーバル  「これを使って」

 サーバルが手袋を脱ぎ、かばんに渡した。かばんはサーバルの手袋をアライグマの左肩に巻き付け、その上からフェネックのボウタイを巻いて締めた。

ボ ス   「カバン、強ク締メナイトダメダヨ」

かばん   「ええ? でも……」

フェネック 「かばんさん、代わって」

 フェネックがかばんに代わり、ボウタイの端をつかんだ。

フェネック 「アライさん、ごめんね」

 フェネックがボウタイを強く締めた。

アライグマ 「うあああ!!」

サーバル  「……痛そう」

ボ ス   「カバン、ボクノ裏面ヲ、アライグマノ包帯ノ上二アテテ」

かばん   「えっと、こうですか?」

 かばんはボスを手首から外し、アライグマの左肩にあてた。

ボ ス   「体温ト脈拍は基準値以内ダネ。カバン、肩二沿ッテ、ユックリ右ヘ移動サセテ」

かばん   「こうですか?」

 ボスの丸い画面に、アライグマの左肩の透視画像が表示された。※9

ボ ス   「弾丸ノ破片ハ見当タラナイヨ、骨ガ損傷シテイルネ。タブン折レテハイナイケド、スグニ病院デ検査ト処置ヲ受ケル必要ガアルヨ。左肩ハナルベク動カサナイデネ」

かばん   「病院? この近くにあるのかな……」

ボ ス   「救急車ノ手配……近隣ノ病院……検索中……検索中……」

かばん   「だめみたいだね……」

サーバル  「ボス、さっきはかっこよかったのに……」

フェネック 「外には、だれもいなかったねー」

かばん   「また、似たようなのが来るかも……」

ボ ス   「コノ付近ニ、軍用ノ通信電波ハ確認デキナイヨ。……民間ノ高速通信ノ電波ガ確認デキルネ。……ソノ階段ノ外、スグ近クダヨ」

かばん   「だれかいる、ってことかな?」

フェネック 「ちょっとあぶないかもしれないけど、行ってみるしかないねー」

アライグマ 「アライさんがむちゃしたせいなのだ……。ごめんなさいなのだ……」

フェネック 「なにを言ってるのさアライさん。アライさんは2回も助けてくれたじゃないかー。アライさん、本当に、ありがとうだよ」

 

 4人は地下道を出て、大きなビルにたどり着いた。

かばん   「ラッキーさん、この建物ですか?」

ボ ス   「高速通信ノ電波ハ、オソラクコノ建物ノ一番上カラ出テイルネ。……コレハ送信ノミデ、相手ノ電波ガ確認デキナイヨ」

かばん   「一番上……あの丸いものかな?」

 建物の屋上に、半球状のドームがあった

サーバル  「おっきいねー、なんだろう」

 建物の入り口の上には、「HANABISHI」とあった。※10

かばん   「はなびし?」

 4人は建物の中に入った。中は暗く、窓からわずかに光が差し込んでいた。

かばん   「真っ暗だね……」

サーバル  「あれが、階段じゃないかな」

アライグマ 「こっちなのだ!」

フェネック 「足元に気をつけてねー」

 暗闇の中に、濡れた床を歩く音が響いた。かばんだけが、入り口を入ってすぐの所に取り残された。

かばん   「なにも見えないよ!」

ボ ス   「カバン、ボクヲ前ニカザシテ」

 かばんは腕を前に突き出した。

かばん   「こう、ですか?」

 ボスのレンズ(画面)が光り、行く先を照らした。

フェネック 「おー」

サーバル  「すっごーい」

アライグマ 「あかるいのだ!」

サーバル  「あそこから登れるよ」

 行く先には、止まったエスカレーターがあった。

サーバル  「かばんちゃん、だいじょうぶ?」

かばん   「ちょっとまだ怖い、かな」

サーバル  「ほら、手をつないで」

 サーバルはかばんの手を握った。

かばん   「あ……ありがと」

 

 4人は止まったエスカレーターをのぼって、屋上に出た。そこには、下から見えた半球形のドームがあった。

 ドームへ行くには一旦外に出なければならなかったが、昇降口からドームまで続く雨除けの屋根は、アーチ型の骨組みだけになっていた。

かばん   「ここから入れるね……」

 4人はドームの手前の入り口から、中へ入った。

 そこには受付があり、『ただいま投影を中止しています』と書かれた案内板が立っていた。

かばん   「とうえい、って読むのかな? どういう意味だろう?」

 その先にはドームの入り口があった。4人はドームの中に入った。

かばん   「ここも真っ暗だね……」

フェネック 「虫みたいな音 ※11 がするねー」

サーバル  「ぶーんって聞こえるよ。こっちかな?」

アライグマ 「空気はかわいてるけど、なんか、へんなにおいがするのだ」

サーバル  「カビのにおいじゃないかな」

 突然、ドーム内が明るくなった。

サーバル  「なに!」

かばん   「うわあっ!」

アライグマ 「のだっ」

フェネック 「まぶしいねー」

ボ ス   「明カリヲツケテミタヨ。無線デ制御デキルネ」

かばん   「すごいですよラッキーさん。さわらずに動かせるんですね」

サーバル  「真ん中の黒いものはなにかな? へーんなかたち」

 ドームの中央に、傾いた巨大な黒い鉄亜鈴のようなものがあった。

フェネック 「いきものではないねー」

アライグマ 「いすがたくさんあるのだ」

サーバル  「なんか、声ががひびいて気持ちわるいよ」

かばん   「ふしぎな場所……。なんのためにあるんだろう?」

ボ ス   「ココハ、プラネタリウムダネ。星ヲ見セル施設ダヨ」

かばん   「星を、見せる?」

ボ ス   「中央の投影機から発セラレタ光ヲコノ天井にアテテ、星空ヲ再現スルンダ」

サーバル  「よくわからないけど、ここで星が見られるの?」

かばん   「そういうことだね……ヒトは、夜空を作ったんだ……」

サーバル  「まさか、そんなことできるわけないよ」

アライグマ 「ずっと雨ばっかりで、星を見ていないのだ……」

フェネック 「太陽も見えないから、方角がわからなくなるんだよねー」

かばん   「ラッキーさん、これは動かせないんですか?」

ボ ス   「マカセテ、……マカ、セ、マママ、マカ、マ、マママ……」

サーバル  「いつものボスだね……」

かばん   「星を見ることは、できないってことだね……」

フェネック 「星もいいけど、アライさんのけがを診てもらえるところを、探さないと」

サーバル  「ぶーんって音、あっちから聞こえるよ。ヒトがいるのかも」

 

 4人は受付の隣の部屋へ移動した。

 

サーバル  「だれかいるよ!」

 部屋には椅子があり、それに、小柄な少女の形をしたものが座っていた。椅子は無骨なデザインで、背もたれが大きく、寝椅子のようになっていた。椅子のそばにはコンピューターのディスプレイがあり、文字や数字が表示されていた。

かばん   「ヒト、なのかな?」

アライグマ 「ねているのだ」

フェネック 「かわいそうだけど、おきてもらわないといけないねー」

かばん   「ほしの、ゆめみ?」

 少女の右胸には、『ほしのゆめみ』と書かれたネームプレートがあった。

サーバル  「なんか、へんだよ……。息、してないよ!」

 少女の形をしたものは完全に静止していた。それは、精密で美しい等身大の人形だった。

かばん   「えええ! 死んでるの!?」

アライグマ 「ちがうのだ! いきもののにおいがしないのだ!」

サーバル  「この子、ボスに似てる……」

フェネック 「ボスと同じにおいがするねー」

かばん   「でも、見た目はフレンズ……ヒトに見えるよ」

ボ ス   「コレハ、コンパニオンロボットダネ。……通信中……型式、SCR5000 Si/FL CAPEL II 機体固有名、ホシノユメミ……現在、停止状態……充電中……」

サーバル  「なにを言っているのかさっぱりわからないよ」

かばん   「ぼくにもよくわからない。ほしのゆめみっていうのが名前なのかな?」

ボ ス   「ソウダヨ。……ボクト、同ジヨウナモノダヨ」

かばん   「さっきも言いましたね。ラッキーさんとおなじって、どういうことですか?」

ボ ス   「人間ノタメ、オ客サマノタメに働クモノ、トイウテコトダヨ」

かばん   「でも、さっきの機械、攻撃してきましたよ? あれは違いますよね?」

ボ ス   「…………」

サーバル  「さっきの、こわいやつ、ボスに似てた……」

アライグマ 「おなじなのだ」

かばん   「わからないよ! 全然似てないよ! みんななにを言っているの!?」

フェネック 「かばんさん、ちょっと落ち着いてねー。……ボスとあの機械、それに、この子は、においが似ているんだけど、それだけじゃないんだよ。うまく説明できないんだけど、似てるって感じるのさ」

サーバル  「たぶん、みんな、いきものではないんだよ……」

かばん   「…………ヒトが、つくったもの?」

 

 

 

 後編へつづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 地下道の途中にある広場が開口部になっており、そこから光が差し込んでいました。

 あの地下道は実際に水没したことがあり、その時は透明な水がたまっていましたが、本編の地下道にたまった水は透明ではなく、にごった水です。

 

※2 基本的には車輪で移動しますが、足を使って段差を越えることも可能です。

   詳細は後編のあとがきに書いてあります。

 

※3 機体に半分ほど埋め込まれた7.62mm機関銃です。

   詳細は後編のあとがきに書いてあります。

 

※4 上からの攻撃には弱いです。

 

※5 4話でスナネコが降ってきた時に、サーバルちゃんが「うぎゃ!」って言っています(私にはそう聞こえました)。他にも「うぎゃー!」って言っている所がいくつかあります。個人的には「みんみー」より印象に残っています。

 

※6 大きながれきは地下道の出口の案内板です。鍛治町方面です。

 

※7 弾丸は簡単にがれきを貫通しますが、がれきが割り込んだことで自律戦闘機械の照準が狂ったことと、弾丸ががれきに当たったことにより、わずかに弾道が変わったため、フェネックに命中せずに済みました。

 

※8 軍用の(多分)暗号化された通信に割り込み、自律戦闘機械の制御システムに侵入して、電源系統を根元から切断して、強制停止させました。ラッキーさん高性能すぎます。普通のロボットには出来なかったことですからね。

 

※9 簡易的な超音波(エコー)検査を行っています。X線ではないので骨の損傷の詳細までは分かりません。

 

※10 取り壊されてしまいましたね。「MATSUBISHI」。

 

※11 メンテナンス用端末のファンの音と、充電器の音です。空調の音も混じっています。

 




 あとがき

 長いので前後編に分割しました。



 [ 初投稿日時 2018/04/30 17:36 ]
 

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