まえがき
暗いです。フレンズが登場しません。原作(アニメ1期)とは別の世界のおはなしです。
セリフの改行位置を調整した所があります。環境によっては、表示が変になるかもしれません。
秋の夕方。東京23区のはずれにある、坂や階段、入り組んだ細い道がある住宅地。
その中のとある民家。その1階の、畳敷きの居間。
学校の制服を着たかばんが、居間に入って来た。そして、座卓の上に置いてあった、リモコンを手に取り、テレビをつけた。
テレビでは、報道番組をやっていた。
テレビのナレーション「先週の、飼い犬が怪我をした事件は、野生化したサーバルとのケンカが
原因だと、専門家はみています」
民家の映像が流れた。怪我をした犬の写真が映された。その傷は、鋭い爪で引っ掻かれたようだった。
テレビのナレーション「野生化したサーバルは、東京の住宅地にも出没しています。ゴミを荒らし
たり、糞尿による被害が出るなどして、問題となっています」
荒らされて散乱したゴミの映像が流れた。
テレビのナレーション「今から5年ほど前、サーバルを飼うことが、密かなブームとなりました。
その頃流行した、アニメの影響が大きかったと言われています」※1
夜の住宅地で、カメラを見て、目を光らせるサーバル(元の動物)の映像が流れた。
テレビのナレーション「しかし、ブームが去り、飼いきれなくなったサーバルが捨てられたり、
脱走するなどして……」
かばんは、無表情でテレビを消した。
かばんは、携帯電話(二つ折りのガラケー)を、学生かばんから取り出し、開いて、写真を全画面表示させた。
写真には、細い路地の真ん中に座って ※2、カメラを見ている、サーバル(元の動物)の姿が写っていた。サーバルは無表情だが、少し警戒しているようにも見えた。
ミライ 「またその子に会ったの?」
かばんが、慌てて携帯電話を閉じて、振り向くと、居間の入り口に、ミライが立っていた。
かばん 「……のぞき見しないで」
かばんは、不機嫌な様子だった。
ミライ 「ごめんね。……食べ物をあげちゃだめよ。あと、さわったりすると、病気が……」
かばん 「どいて」
かばんは、そっけない感じで、ミライを押しのけるようにして、居間を出ようとした。そして、すれ違いざま、小さな声で言った。
かばん 「そんなこと、しないよ」
かばんは、居間を出ると、階段を上がっていった。
夜。2階の子供部屋。
かばんが、机に向かって、動物の写真集を見ていた。かばんがページをめくると、大きな口を開けて、あくびしている、ライオンの写真が現れた。
かばんが、微笑んだ。
コンコンと、ドアをノックする音がした。かばんは、それに気づいたが、無視して、写真集のページをめくった。
再び、ドアをノックする音がした。
ミライ 「かばん?」
三度、ドアをノックする音がした。
かばんが立ち上がり、けだるげに歩いて、部屋のドアを開けた。
かばん 「なあに?」
かばんは、わざとらしく不機嫌な様子だった。
ミライ 「これ、使ってみない?」
ミライが、かばんに見せたのは、35mmフィルムを使う、一眼レフカメラだった。それには、標準ズームレンズがついていた。 ※3
ミライ 「わたしが、昔使っていたものなの。古いけど、ちゃんと使えるわよ」
かばんは、カメラをじっと見つめた。
かばん 「……そんなのいらない」
ミライ 「そう。電池はあるわ。フィルムは、自分で買ってね」※4
ミライは、笑顔で、かばんにカメラを差し出した。強引に押し付ける感じだった。かばんは、
一瞬驚いた顏をして、眉をひそめて、カメラを受け取った。
かばん 「めんどくさいなあ……。今時こんなカメラ使わないよ」
ミライ 「大事に使ってね」
ミライは微笑んだ。かばんは顔を上げて、不服そうに、ミライをにらみつけた。
休日の昼過ぎ。
かばんは、カメラを持って、近所の坂道や、まがり道、細い階段などをうろうろしていた。
車がギリギリすれ違える幅の道路で、かばんの前、少し離れたところを、シロネコが横切った。かばんがカメラを構えた。ファインダーの中には、民家の隙間に入っていく、しっぽだけが、一瞬見えた。
かばんが、駐車場を歩くサビネコを見つけた。かばんは、ゆっくりとその後を追った。サビネコが振り返った。シャッター音がした。かばんがサビネコに近づくと、サビネコは足早に逃げて、車の下に逃げ込んだ。かばんが車の下を覗き込むと、奥の方で、サビネコが姿勢を低くして、かばんを見ていた。かばんは、サビネコにカメラを向けたが、シャッター音はしなかった。
民家の隙間を通る階段。かばんが階段を上っていくと、座っている ※5 黒ネコを見つけた。かばんが黒ネコに近づき、しゃがんで、カメラを構えると、黒ネコはカメラ目線になった。シャッター音がした。さらに近づくと、黒ネコが立ち上がって逃げようとした。かばんは、一歩後ろに下がった。黒ネコがのびをした。シャッター音がした。
黒ネコが、かばんのわきをすり抜けて、階段を下っていった。かばんは、それを追った。
黒ネコは細い路地に入っていった。それを追って、かばんが路地に入ると、そこは日陰で薄暗く、黒ネコの姿はなかった。代わりに、黄色いかたまりが、道の真ん中にあった。
かばんが、音を立てないように、ゆっくりと、黄色いかたまりに近づくと、それは、横になって眠っている、サーバル(元の動物)だった。かばんが、しゃがんで、カメラを構えた。
シャッター音がする前に、サーバルの耳が、ぴくっと動いた。サーバルが目を開けて、少し首を起こし、かばんを見た。シャッター音がした。かばんが、ファインダーから目を離した。
かばん 「ごめん。おこしちゃった」
サーバルが、立ち上がって、すたすたと歩いていった。サーバルは、かばんから距離をとったところで、振り向いた。シャッター音がした。
別の休日。
かばんが、例の路地に入った。眠っていたサーバルが目を覚まして、立ち上がって、のびをして、かばんに近づいてきた。そして、かばんの足に、頬をこすりつけた。
かばんが、しゃがんで、サーバルの頭に触れようとして、一瞬ためらった。
かばんは、サーバルの頭をくすぐるようになでて、カメラを構えた。だが、近すぎて、ファインダーの中には、大きな耳と、頭しか映っていなかった。かばんが、ファインダーから目を離した。
サーバルが、かばんに背中を向けて横になって、ちらりとかばんを見た。かばんは、サーバルの背中を、くしでとかすようになでた。かばんの手が、しっぽの付け根に来たところで、サーバルが、「みゃあ」と鳴いた。
かばんが、しっぽの付け根をくすぐった。サーバルは、気持ちよさそうに、「みゃああー」と鳴いた。かばんが、サーバルの頭を、指先でこりこりとかくと、サーバルは、ごろごろと喉を鳴らした。
その後、かばんは、休日にその細い路地に通うようになった。サーバルは、そこにいたり、いなかったりした。すぐ近くの道路を歩く、サーバルの姿を見かけることもあった。サーバルは、かばんがそばにいても、眠ったままの時もあった。足音を察して、路地の入り口で、かばんを出迎えることもあった。そして、かばんになでられると、とても喜んだ。かばんは、サーバルをなでて、写真を撮るだけで、食べ物は与えなかった。
かばんが撮った、サーバルの写真は、少しずつ増えていった。かばんは、少し恥ずかしそうに、でも誇らしげに、ネコやサーバルの写真を、ミライに見せた。
冬。
かばんが、いつものように、細い路地にやってきた。だが、サーバルの姿はなかった。
翌日も、サーバルの姿はなかった。
その後、かばんは、毎日のように、路地の周辺を探し回ったが、サーバルの姿を見ることは無かった。
畳敷きの居間に、かばんが座っていて、テレビを見ていた。テレビでは、天気予報をやっていて、近く、寒波が来ると言っていた。そこへミライがやってきて、かばんの後ろから声をかけた。
ミライ 「写真、見せてくれないの?」
かばん 「……どうでもいいでしょ」
かばんは、テレビを見たままで、しゃべり方は、うっとうしがるような、むくれたような感じだった。
ミライ 「寒いから、ちがう場所にいるのかもね」
かばん 「どこにも、いないの……」
かばんの声は暗く、小さかった。
ミライ 「……かばん、ジャパリまんの新作、食べる?」
ミライは、明るい声だった。
かばん 「いらない!」
かばんは立ち上がり、ミライを押しのけるようにして、足早に居間を出ていき、階段を上がっていった。
雪が降った日。
かばんが、カメラを持って、あの細い路地にやってきた。周辺を歩き回ると、薄く積もった雪に、いくつかのネコの足跡を見つけることができた。だがそれは、小さいものばかりだった。
かばんが路地に立って、足跡を見ていると、後ろから声がした。
男の声 「何を撮っているの?」
かばんがビクッとなって、振り向くと、落ち着いた感じの、初老の男が立っていた。
かばん 「え? えっと、ネコの、写真を……」
かばんは、悪いことをしていたのが見つかったような態度だった。
初老の男「最近はネコが減ったねえ。この近所でも、保護活動やってるとか」
かばん 「あの! ここにいたサーバル、大きなネコ、知りませんか?」
初老の男「……だいぶ前に、見かけたきりだね。……ん……あのね……多分、あれだ……」
初老の男は、言いづらそうだった。
かばん 「知ってるんですか!?」
かばんの表情が明るくなった。
初老の男「えーと、な……。罠があったんだよ。あの自転車のあるあたりだ」※6
子供部屋。
かばんが、机に向かって、アルバムを見ていた。アルバムには、L版にプリントされた、サーバルの写真が収められていた。
コンコンと、ドアをノックする音がした。かばんは、それに気づいたが、無視して、机に突っ伏した。
再び、ドアをノックする音がした。
ミライ 「かばん。保護施設に、サーバルがいるんだって」
かばんが、素早く立ち上がって、ドカッとドアを開けた。
かばん 「どこ!? どこにいるの!?」
ミライが微笑んだ。
かばん 「あ……」
かばんは、ハッとして、顔を赤くした。そして、すぐに、バタンとドアを閉めた。
動物保護施設。
部屋の中にたくさんのケージが並んでいて、中には犬や猫などが入っていた。
かばんが、大きめのケージの中を見つめていた。ケージの中に、サーバルが横になっていた。サーバルは、少し首を起こし、かばんを見ていた。
かばん 「違います。この子じゃないです」
かばんの横から、動物愛護団体の女性(トキワ)が声をかけた。
トキワ 「顔がわかるの?」
かばん 「顔だけじゃなくて……模様とかが違います。あと、なんか、雰囲気も」
トキワ 「さすがだわ」
かばんは、あたりを見回した。
かばん 「ぼくが会った子は、ここにはいないんですね……」
トキワ 「うちでは、あなたの住んでいるあたりには、トラップを設置していないわね」
かばん 「ほかの施設にいるんじゃないですか?」
トキワ 「ちょっとまってて。電話してみるわ」
トキワは、部屋の奥へ行き、電話をかけた。しばらく話したあと、かばんのもとへ戻って来た。
トキワ 「多分、あっちだわ……。地下鉄の駅の、すぐそばよ」
トキワは、メモをかばんに渡して、メモを指差しながら説明した。
トキワ 「道路を渡って、左。ここの、3階で聞いてみて」
かばん 「ありがとうございます。行ってみます」
トキワは、ケージの中のサーバルを見た。
トキワ 「……ねえ、あなた、この子を引き取ってもらえないかしら? 里親が見つからないの」
かばん 「ちょっと無理ですね。お母さん、動物嫌いみたいだから」
トキワ 「ぷっ、ふふふ」
かばん 「なんで笑うんですか?」
トキワ 「ミライさんが、動物嫌いなはずないわ」
かばん 「なんで知ってるんですか?」
トキワ 「有名だもの。……あなたのお母さんは、動物が大好きだから、飼わないのよ。説得
できないかしら?」
かばん 「……うちでは、飼えません」
かばんは、少し落ち込んだ様子だった。
トキワ 「あなた、ミライさんにそっくりだわ」
かばん 「ええ!? 似てないですよぅ……」
かばんは、恥ずかしそうだった。
トキワ 「うふふ……その子に、会えるといいわね」
かばん 「はい。ありがとうございます」
かばんが、保護施設を後にした。その後ろから、トキワが、つぶやくように言った。
トキワ 「がんばってね」
保健所の相談窓口。
かばんと職員(コシバ)が、話をしていた。二人は、机を挟んで向かい合って、椅子に座っていた。
かばん 「……あの子にまた会えるんですね」
かばんの声と表情は、明るい感じだった。
コシバ 「ちょっと駅から離れているの。これに、地図があるわ」
コシバは、小さなパンフレットの、裏面の地図を見せて、それをかばんに渡した。かばんは、それを見つめた。
かばん 「ここなら、自転車で行けます」
コシバ 「ごめんなさいね。本当に」
かばん 「いえ。ありがとうございました」
かばんが立ち上がり、窓口から去っていった。
コシバの後ろから、別の職員(サガワ)が声をかけた。
サガワ 「いやな仕事だな」
サガワは、ためいきをつくような口調だった。コシバが振り返った。
コシバ「今の子、すごくショックだったみたいです。わたし、ひどいこと言っちゃいました……」
コシバがうつむいた。
サガワ 「仕方ないよ。いやな仕事はたくさんあるし、衛生課の現場は、もっとキツイよ」
コシバ 「わかっています」
大きな川の近くにある、ペット霊園。
かばんが、黄色い自転車に乗ってやってきて、駐車場の端に、自転車をとめた。
かばんは、動物慰霊塔(慰霊碑)※7 の前に立った。慰霊塔の台座部分は大きくて、がっしりしていた。その上に乗っている石は、少し先細りの、四角い柱のような形で、かばんの背よりも、かなり高かった。かばんは、しばらくの間、慰霊塔を見つめた。かばんは、無表情から、ほんの少し、やさしい表情に変わった。
かばんは、カメラを縦位置に構えて、慰霊塔に向けた。
ファインダーの中に映った慰霊塔は、少しフレームからはみ出していた。画面が細かく揺れた。
かばんは、ファインダーから目を離して、三歩後ろに下がって、目を閉じて、深呼吸した。
かばんが目を開けて、再びカメラを構えた。
シャッター音がした。
おわり
※1 サーバルは、特定動物なので、簡単には飼えません。このおはなしでは、サーバルは特定動物ではない、という設定です。ありえないです。
※2 エジプト座りです。前足を立てて座る座り方です。ネコの正座とも呼ばれます。
※3 New EOS kiss(シルバー)です。レンズは、タムロンの28~80mmです。
※4 電池は、カメラ用リチウム電池(CR123A)を2本使用します。
このおはなしは、『デジタルカメラの普及率が上がっているが、フィルムカメラもまだまだ使われている(我々の世界で言う、2000年代中頃~後半)』、という設定です。それなので、フィルムの入手や、現像は容易です。
※5 エジプト座りです。
※6 この罠は、四角い檻のようなタイプです。
※7 これは、慰霊碑のようなものですが、碑文が無くて、高さがあるものを「慰霊塔」と呼ぶようです。この慰霊塔は、「塔」と呼ぶには低めです。無宗教のもので、シンプルなデザインです。台座部分に、説明文があります。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
また、〈 こんなけものフレンズは嫌だ 〉が、発想のもとになっています。
かばんちゃんが、ちょっと反抗期っぽいです。反抗期といっても、激しく反発はせず、わりと素直です。かわいい感じにしたかったのですが、うまくいったでしょうか……。
ラストで、かばんちゃんが泣くか、泣かないかで迷いました。結果、泣かない方にしました。感情の起伏が激しくて、激怒したり、声を出して泣いたりするほうが、この年頃っぽい気もするんですが。
下書きには、もっと生々しい部分があったのですが、カットしました。
フィルムカメラのシャッター音には、フィルムを送る音が混じります。デジタルカメラでは味わえないものです。今思えば、あの音が結構好きでした。思い出補正とも言えますが。
「シャッター音が鳴った。」「シャッター音がした。」「シャッターが鳴った。」「シャッターが音をたてた。」どれが正解なんでしょう? わかりません。
登場する場所や慰霊塔などは、架空のものです。
オリジナルキャラクターの紹介
オリジナルといっても、どこかで見たような人たちです。
初老の男
例の路地の近くに住むおじさん。ネコ好き。昔は、野良ネコに餌をあげていたが、考えを変えて、今は餌やりをやめている。
トキワ
動物愛護団体の女性。ミライさんの知り合い。トキではない。
コシバ
保健所の新人職員。最近、窓口業務を任されるようになった。ギンギツネではない。
サガワ
保健所の職員。コシバの先輩。以前は別の部署にいた。ジャガーではない。
カヌマ
コシバ・サガワの上司。サガワの配置換えに大きく関わった人物。カバではない。
[ 初投稿日時 2018/09/09 22:40 ]