ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

〈 ふたり 〉のアラフェネ版です。
 セリフの改行位置を調整しました。一行全角44文字とします。




〈 ふたりふたり 〉

 アライグマとフェネックが抱き合っていた。

 

 ふたりの周囲には、おそらく空気があり、どこからでもなくやってくる光があった。時間が流れていた。ここにあるものは、それだけだった。

 

アライグマ 「ここはどこなのだ!」

フェネック 「どこだろうねえ」

アライグマ 「だれもいない、なにもないのだ……」

フェネック 「わたしがいるじゃないかー」

 フェネックの声は、いつも以上に優しかった。少し色っぽくもあった。

アライグマ 「フェネックうぅ……」

 アライグマは、フェネックを強く抱きしめた。フェネックはやさしく抱きしめ返した。

フェネック 「ちょっと、いたいよアライさん」※1

アライグマ 「ごめんなさいなのだ……」

フェネック 「こわがることないんじゃないかなー」

アライグマ 「でも、さっきまで…………む、思いだせないのだ……」

フェネック 「どうしてこうなったんだろうねえ。アライさん、知ってる?」

アライグマ 「だから思いだせないのだ! しらない、のだ……」

 アライグマの声が、小さくなっていった。

フェネック 「ははーん。知ってるんだねぇ」

アライグマ 「知りたくない……。思いだしたくないのだ!」

 フェネックは、アライグマの頭をやさしくなでた。

フェネック 「よしよし……。むりしなくていいよー」

アライグマ 「フェネック、なんか、いつもとちがうのだ……」

フェネック 「アライさんのせいだよー」

アライグマ 「ふぇ?」

 

 ……………………。

 

 ふたりは、横にならんで手をつないでいた。立っているのか寝ているのかは分からなかった。

アライグマ 「ひまなのだ」

フェネック 「わたしは、このかんじ、嫌いじゃないけどねー」

アライグマ 「なにか、だれかいるはずなのだ! さがしにいくのだ!」

 アライグマが、フェネックから離れようとした。

フェネック 「ちょっとアライさん、はなれちゃだめだってば」

 フェネックは、少し強い感じで言って、アライグマの手をつかんだ。

アライグマ 「フェネックもいっしょにいくのだ!」

フェネック 「ゆっくりいこうねー、アライさん」

 フェネックの声は、優しい感じに戻っていた。

 ふたりは、手をつないで歩きだそうとした。手足が歩くように動いたが、ふたりの周囲には空気しかなく、なんの変化もなかった。

アライグマ 「じめんがないのだ! すすまないのだ!」※2

フェネック 「アライさん、ここにはわたしたちしかいないんだよ。なにもないんだよ」

アライグマ 「そんな、ひどいのだ……」

 

 ……………………。

 

 ふたりは手をつないでいた。

アライグマ 「フェネック、フレンズって、なんなのだ?」

フェネック 「動物に、サンドスターが当たって、ヒトのすがたになったものだよー」

アライグマ 「そうじゃないのだ! そうだけど、なにか、ちがうのだ……。意味がある気が

       するのだ」

フェネック 「哲学的だねー」

アライグマ 「哲学じゃないのだ……。わからない、わからなくなったのだ!」

 

 フェネックの声と表情が、ほんの少し暗くなった。

 

フェネック 「アライさん、フレンズは…………いないんだよ」

 

アライグマ 「え? ……なにを言ってるのだ! フェネックもアライさんもここにいるのだ! 

       ほかのみんなも……」

フェネック 「ほかのみんなも、どこかにいるねー。ここではないけどさ」

アライグマ 「やっぱりいるのだ!」

フェネック 「いないのに、いる。そんなものかなー」

アライグマ 「哲学的なのだ……」

フェネック 「むずかしいことじゃないよ。フレンズは、いない。サンドスターもない。

       パークもない……」

アライグマ 「フェネック! へんなこと言うのはやめるのだ! こわいのだ!」

フェネック 「ごめんねー。……わたしたちのもとになった、動物もいないんだよ。それだけの

       ことなのさー」

 アライグマは、泣き出しそうだった。

アライグマ 「やめるのだ……。すっごく、すごくかなしいのだぁ……」

フェネック 「そう思うってことは、アライさんもわかってるんじゃないかなー」

アライグマ 「いやなのだ! みんないないなんて!」

 

 フェネックの声が、少しはっきりとしたものに変わった。

 

フェネック 「ふしぎだねー。わたしたち、いないはずなのに、なんでいるのかなー?」

 

 アライグマが叫んだ。

 

アライグマ 「アライさん、フェネックにいてほしいのだ!! いなかったら、困るのだ!!」

 

 フェネックは、少し考えこんだ。

フェネック 「……おー。すごいよアライさん。一発で解決しちゃったねー」

 フェネックの声は、いつもの感じに戻っていた。

アライグマ 「え?」

フェネック 「それが答えなんだよ。いてほしい、って思うひとがいるから、いる。かんたんな

       ことなんだねえ」

アライグマ 「そんなのでいいのか!?」

 アライグマの表情が、ぱっと明るくなった。

フェネック 「いいんだよー」

アライグマ 「じゃあじゃあ、アライさんがいるのは、だれかが!」

フェネック 「アライさんがいてほしい、って思ってるひとは、いっぱいいるよー。でも、

       いちばん、アライさんがいてほしいーって思ってるのは……わたしだよー」

アライグマ 「フェネックうぅ……」

 ふたりは、強く抱きしめ合った。

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 この「いたいよ」は、他のセリフよりも、色っぽくけだるい感じが強いです。(重要)

でも、けだるいともちょっと違う、鼻にかかる、のもちょっと違う、うまく説明できません。

 

※2 ふたりの距離を離したり近づけたりすることはできます。でも周りに何もないので、ふたり一緒に移動することはできません。何もない、と言っても、ふたりの体や衣服(らしきもの)と、相対的なものとして空気(らしきもの)があるので、空間や移動の概念はあるかもしれません。でも、移動の意味はありません。

 ふたりが離れすぎて、お互いの位置が分からなくなると、二度と会えないかもしれません。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 このおはなしは、メタ的なものなのか、違うのか、どちらとも捉えられます。メタ的なものと捉えるならば、「フレンズは実在しないけど、存在はしている」という感じです。
 そうすると、フェネックが「もとになった動物もいない」と言っているのはおかしいのでは? という疑問が浮かびますが、これは、「パークが無いのならば、パークで飼育されている、あるいはパークに生息している、動物はいない」ということです。
 そうではなく、「本当にどこにも動物はいない」として、この先に「地面もない」「水もない」「空もない」「世界もない」などと続けることもできます。ですが、そうすると(作中における)実在と虚構の境界線もなくなってしまい、私が書きたいものとずれるので、ここで切っています。

 これを読んでいる方のほとんどは、アライさんとフェネックがいてほしい、と思っているはずです。これは、「実在してほしい」という意味ではなく、「存在してほしい」という意味です。これは、原作を作った方々も同じでしょう。
 あれ? ちょっと違うような……。

 (2018/12/12)クリスマスが近いです。毎年やってくるあの人も、似たような感じでしょうか。



 この作品は、フェネックの演技が重要です。ただ、それを文章化するのは難しいです。
 声は、いつものフェネックの感じを残しつつ、耳元で優しくささやくような、少しだけ色っぽくて、けだるい感じです。でもちょっと違うような……。うまく説明できません。表情は声に合わせつつ、薄い感じです。でも、体の動きは少し力強い感じです。
 かわいさと優しさと色気と……。それもあのフェネックが、です。間近でやられたら、くらくらしてしまいます。
 ただ、何箇所か例外があります。「おー、すごいよアライさん。……」以降は、いつものフェネックに近いです。


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