ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 このおはなしは、オリキャラがメインです。けものフレンズから大きく逸脱しています。

 あとがきに設定が書いてあります。



〈 ヤー・パー・リー 〉

 

 ふたりの人物が、ジャングルを歩いていた。周囲は木や草が茂り放題で、薄暗かった。

 男が先を歩き、女が後を追っていた。

 

フェネコ「アラインさーん……。ゆっくり行きましょうよー」

 後を追う若い女はフェネコ。彼女は少し疲れた様子だったが、しゃべり方はゆっくりおっとりとしていた。

 フェネコは、金髪で、小さくてつぶれたようなけもの耳があった。服は、薄い茶の長袖シャツと暗い緑色のズボンだった。ズボンから、太くて短いしっぽが飛び出していた。そして、大型の、白い汚れたバックパックを背負っていた。

 先を歩く男、アラインが振り返った。

アライン「キャンプに戻る前に日が暮れるぞ」

 アラインは黒髪で、服は、灰色の長袖シャツと、シャツより少し暗い色の灰色のズボンだった。さらに、シャツの上から黒いベストを羽織っていて、それにはいろいろなもの※1 が付いていた。

 

 アラインは、行く手を阻む木の枝や草をかき分けて進んでいった。アラインが太い木の枝を握ると、スパッと枝が切れた。アラインは、手にはさみのような器具 ※2 をつけていた。

フェネコ「道、だったんですね……」

 フェネコは、感慨深げに足元を見ていた。舗装は無かったが、そこは平坦で、ところどころに、150mm角ほどの四角いコンクリートの何かがあった。※3

アライン「自然に配慮か。ご丁寧なこった」

 

 ふたりは突然、高い木のない、背の高い草が茂っている場所に出た。

 フェネコが、左腕に付けている携帯端末 ※4 のカバーを開き、画面を見た。

フェネコ「このあたりです。360年前の衛星写真で、人工石のかたまりがあったのは」

 アラインがしゃがんで、草に埋もれていた、石の板を探り出した。それには文字が彫られていたが、浸食されて不鮮明になっていた。

 

アライン「ヤー・パー・リー……パル……。そこらじゅうにあるな」

 

フェネコ「古代ニゴリス語じゃーないんですよねぇ……。どういう意味なんでしょう?」

アライン「わからん。神の名前、なんて言う学者もいるが、ここが宗教施設だとは思えん。規模が大きすぎる」

フェネコ「カヌマさんの説ではー、広範囲に、30か所以上あるって……」

アライン「いや。おそらく全部一つの施設だ」

フェネコ「まさかぁ! このあたりの島全部ですかー?」

 フェネコは、あんまり驚いていないように見えた。

アライン「……冗談だよ」

 アラインは、フェネコを見て笑った。

アライン「似たような話はたくさんあるがな」

フェネコ「ホシズナの鉱山だったー、とか、生物の研究施設とか……。巨大な娯楽施設だった、とも言われてますねぇ」

アライン「どれも信用できん説だ。都市伝説の方がマシだよ」

 

 ふたりは、レーザーナイフ ※5 で草を刈りながら進んでいった。

 

アライン「当たりだ」

フェネコ「さすがですー。ほんとにこっちでしたねぇ」

 草の隙間から、コンクリートのかたまりがいくつも見えた。朽ち果てた建物だった。

 

 

 ふたりは、棒状の器具 ※6 を片手に持って、地面にかざしていた。

 フェネコの携帯端末から、ピーピーと音がした。

フェネコ「空洞があります。四角い、箱? 中身はー……。んー、わかりません。不鮮明です」

 アラインがフェネコの携帯端末を覗き込んだ。携帯端末には、地下の透視画像と、20項目ほどの数値が表示されていた。

 

アライン「これは……骨、か?」

 

フェネコ「掘りますかー?」

アライン「……いや。カバー ※7 を設置する。応援を呼んで……三日はかかるな」

フェネコ「そうですねぇ。これは、大発見かもしれませんよー!」

 フェネコは、嬉しそうにアラインの顔を見た。

アライン「びっくり箱、だな」

 アラインは、フェネコを見て笑った。

 

 

 ふたりが、遺跡を後にしようとした時だった。

フェネコ「待ってください!」

 フェネコは、驚いた様子で立ち止まった。

 アラインが振り返った。

アライン「どうした?」

フェネコ「音、声が聞こえます……。マット語です。『たべて』と……」

アライン「お前はまたそんなことを……」

 アラインはあきれた様子だったが、すぐにハッとなった。

アライン「聞こえるな。ノイズか?」

フェネコ「いえ。はっきりしています。開けないと止まってしまいますよー」

アライン「仕方ねえ。掘るぞ」

 

 

 アラインが拳銃 ※8 を地面に向かって撃つと、コン!! と音がして、一瞬あとに、ドン!! と土が吹き飛び、地面に大きな丸い穴が開いた。

アライン「もう一発」

 フェネコが銃を撃った。再び土が吹き飛んで、地面の穴が大きく深くなり、穴の底に、土ではないものが現れた。異質なものは、平面で、四角い蓋があった。それは、2m×1.2mほどの大きさで、水平方向にスライドするものだった。

アライン「やはり棺桶か……」

フェネコ「いえ。大昔のインチキコールドスリープ装置ですよぅ」

アライン「似たようなもんだ」

 

 

 フェネコが、地面に置いていたバックパックから大型の工具 ※9 を二つ取り出して、それの先端のツメを、扉の隙間二か所に突っ込んだ。フェネコが携帯端末の画面に触れると、ギュイーンと音がして、工具のツメが開き、蓋をこじ開けていった。隙間が300mmほどになった所で、工具が止まった。

アライン&フェネコ「せーのっ!」

 アラインとフェネコが、蓋をスライドさせて、大きく開いた。

 

 蓋を開いた中は、2m×1.2m×深さ1mほどの四角い空間で、底には茶色い水 ※10 が溜まっていた。茶色い水から、茶色い、何かの骨らしきものが見え隠れしていた。

 

 ふたりは、棒状の器具を片手に持って、水面にかざした。

フェネコ「ネコー? にしては大きいですねぇ……」

 

 フェネコの携帯端末には、ほっそりした大きいネコのような、動物の骨が表示されていた。

 

フェネコ「丸いのはー……。まさかぁ!」

 フェネコは、ちょっと驚いているように見えた。

 アラインが画面を覗き込んだ。

アライン「ヒトの頭蓋骨だな。……また謎が増えちまった」

 

 その動物の骨は、ヒトの頭蓋骨を抱きかかえていた。

 

フェネコ「声が、止まりました……」

アライン「発信源は?」

フェネコ「ここです」

 フェネコが、棒状の器具を『棺桶』の隅のあたりにかざした。携帯端末に、小さな四角いものが映った。

フェネコ「材質からしてー、たぶん、機械人形の部品ですね」

アライン「ナビゲーターか、トモダチか……」

フェネコ「ロマンチストですねー。アラインさん」

 フェネコが、アラインの顔を見て、ふにゃっと微笑んだ。アラインは顔をしかめた。

アライン「……ネコを調べるぞ」

 フェネコの携帯端末に、ネコ科動物のCGが表示された。アラインが画面を覗き込んだ。

アライン「レプ……レプタ……」

フェネコ「リェプタイ・ルルースです。絶滅していますねぇ」

アライン「生物学者が大喜びだ」

 

フェネコ「ヒトの頭蓋骨、ほかの部位が見当たりません」

アライン「痕跡も無いな……」

フェネコ「解析結果が出ました。死亡推定時期、3250年前、若い、性別不明、本土のネイティブです。病歴、死因はー……頭だけの簡易スキャンではわかりませんねぇ。首回りに、浅い引っ掻き傷がありますよー」

アライン「わからんなあ。普通逆だろう。ヒトがネコを抱いているならわかるが。しかもヒト用の棺桶に……」

 

フェネコ「トモダチ、いやぁ、恋人ですかねぇ」

 

 フェネコが、アラインの顔を見て、いたずらっぽく笑った。

 アラインは、一瞬ハッとして、あきれたような顔になった。

 

アライン「お前の方がロマンチストだ」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 アラインのベストに付いている(ポケットに入っている)ものは、懐中電灯、携帯端末、携帯物質解析機、小型カメラ(魚眼レンズ・常時撮影・録画。簡易な三次元スキャナーを兼ねる)、無線機、工具類、メモ帳、ペン、レーザーナイフなどです。

 

※2 はさみのような器具は『低枝切りばさみ』です。手の内側に刃が付いているものです。刃が細かく振動するので、軽い力で枝を切ることができます。

 

※3 ここにはかつて、板張りの遊歩道がありました。板は柱で支えられていて、地面から浮かせて設置されていました。アラインとフェネコが調査した時には、板は完全に失われており、基礎の一部だけが残っていました。

 

※4 フェネコの携帯端末は、7インチタブレットほどの大きさで、非常に薄く、ほぼ全てが画面で、厚紙のようにやわらかいものです。これを、腕に付けた耐衝撃カバーの中に入れています。網膜投影や神経接続などの、未来的なインターフェースは、あえて登場させていません。

 アラインの携帯端末は、スマホほどの大きさで、こちらもカードのように薄いです。

 

※5 レーザーナイフは、刃の無いナイフのような形で、レーザーで物を焼き切るものです。草や細い枝はまとめて簡単に切れますが、太い枝は何度か往復させないと切れません。薄い金属版も切れますが、石などの、硬くて熱に強いものは切れません。

 

※6 棒状の器具は、『携帯多用途三次元スキャナー』(アラインの小型カメラとは別物)です。

  詳細はあとがきに書いてあります。

 

※7 カバー(発掘用防護カバー)は、テントのようなものです。

  詳細はあとがきに書いてあります。

 

※8 この銃は、『重力空間衝撃波拳銃(通称ブロア)』といいます。

  詳細はあとがきに書いてあります。

 

※9 この工具は、電動ジャッキのようなものです。サイズの割に、大きく(400mmほど)物を動かせます(伸縮します)。ドリル、スパナ、ペンチのような使い方もできます。

 

※10 茶色い水は、遺体が溶けたものではなく、外からしみ込んだ雨水で、新しいものです。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 もはや、けものフレンズではなくなっている気がします。
 頭蓋骨だけ見つかるとか、怖いです。こうなった理由は、別の話にヒントがあります。そっちの話とこれは、つながっているような、いないような……。

 アラインとフェネコのおはなしは、アイデアが出たらもっと書いてみたいんですが、けものフレンズから大きく離れてしまいそうです。すでに逸脱していますが……。




 ――― 設定 ―――


 【 オリジナルキャラクター(オリジナルといっても、誰かに似ていますが) 】


 アライン・ラコン (ラコンが姓。ラクーンではなくラコン。)

 考古学者…ではなく、半分趣味で古代の遺跡を調べている男。年齢不詳。黒髪で長身。がっちりした体格。
 発見した遺物を売ったり、考古学者のガイド(有料)をするなどして、生計を立てている。探すことと、調べることが好きであり、発見した遺物そのものには執着しない。ちょっと皮肉屋で、危険やトラブルを楽しむタイプ。
 体力(持久力)が並外れており、ジャングルの中を数日歩き回ったり、高山地帯を数10km歩くこともある。サバイバル能力も高い。食べられるものは何でも食べる。
 フェネコのことを弟子や妹のように扱っている。だがフェネコに弱い面もある。フェネコのかわいい言動に、ドキッとすることもある。フェネコのしっぽを思いっきりなでたいと思っているが、なかなか言い出せない(頭はしょっちゅうなでている)。
 実は、フレンズの子孫、あるいはヒトのフレンズの子孫。小さなしっぽがあるが、隠している。けもの耳は無い。


 フェネコ・フォクス (フォクスが姓。フォックスではなくフォクス)

 アラインの助手。20代中頃だが、年齢よりも若く見える。フレンズのようでも、ヒトのようでもある。金髪で、小さなけもの耳(前に倒れていて、つぶれたような形。目立たない)と、太くて短いしっぽがある。しっぽの色は髪色と同じ。しっぽはふわふわで、とてもさわり心地が良い。
 おっとりのんびりな性格だが、芯の強さもある。知識が豊富で、機械類の扱いに長けている。アラインほどではないが、体力もある。五感が優れている。好物は肉。寒いのが苦手。
 アラインのことを慕っており、憧れている。アラインについていくことが多いが、良いアイデアを思いついて、アラインを強力にサポートしたり、時には引っ張って行くこともある。
 ある出来事により、アラインにしっぽがあることを知った。


 アラインとフェネコは、結構親密。仕事だけでなく共同生活もしており、互いに下の名前で呼び合う。だがふたりとも、恋仲とは認めていない。親友、相棒、コンビ、上司と部下、師弟、親子、兄妹、恋人、夫婦……のような関係。周囲からは、「もう結婚しちゃいなよ」「すでに夫婦」と思われている。
 学生時代の研究でフィールドワークをしていたフェネコ。その現地ガイドにアラインがついた。これがふたりの出会い。この時、ふたりは死ぬほどのトラブルに遭ったらしい。


 カヌマ

 アライン・フェネコと親交のある考古学者。カバではない。




 【 アイテム 】


 携帯多用途三次元スキャナー

 広い帯域の電磁波(パッシブ・アクティブ両方式)や音波、空気中の物質などで、物体を調べるもの。手持ち式金属探知機のような使い方をする。地下に埋まっているものや、壁の向こうにあるものも調べられる。これで収集したデータを、無線接続した携帯端末で解析することで、物体の形状、材質や年代などが、ある程度分かる。厚い遮蔽物があると鮮明に映らないこともある。
 材質や年代を、もっと詳細に、正確に調べるには『携帯物質解析機(ペン型接触式)』を使う。


 発掘用防護カバー

 テントのようなもの。遺物や発掘穴にかぶせるだけの小型のものから、人が数人入れる大型のものまである。風雨や紫外線を遮り、気温の変化を抑え、発掘したものが飛散するのを防ぐ。
 大型のものは、かさばるので、人がジャングルの中を歩いて運ぶことは難しい。一般的には、分解した状態で、運搬用無人航空機(ドローン)を使って現地へ運び、設置は人力で行いう。


 重力空間衝撃波拳銃(通称ブロア)

 大型拳銃のような形で、バレルが極端に太くなっている。信号弾を撃つ銃のような形。
 この銃は弾丸を発射するのではなく、衝撃波(原理は不明。見えない)を発生させ、物を破壊する仕組み。
 射撃時には反動があり『コン!!』 とか、『コッ!!』 という大きな音がする。
 銃から発生する衝撃波を制御(威力・指向性・周波数など)して、やわらかい土だけを吹き飛ばすことができる。塵や破片の飛散方向も(多少は)制御できる。衝撃波制御の設定は、銃本体の小型画面か、携帯端末で変更できる。(携帯端末の方が詳細に設定できる)
 エネルギー源は電気で、グリップ内に強力なバッテリーが入っている。
 探索の障害になるものを除去するための銃だが、護身用としても使える。
 アライン・フェネコが持っている銃は同型だが、カスタマイズされており、グリップなどの形が異なる。
 撃ったり所持したりするには免許が必要。アライン・フェネコは免許を持っている。




 【 言語 】

 世界中で広く使われている言語は『新ニゴリス語』。古くから広く使われていた『古代ニゴリス語』が変化したもの。
(作中では日本語をしゃべっていますが、実際には訛りがある新ニゴリス語です。)

 『マット語』は、作中に登場する狭い地域で使われていた言語。




 【 世界 】

 3000年ほど前に、ヒトは絶滅寸前になったらしい。だが詳細は不明。古い電気磁気記録媒体は、損傷していたり、フォーマットが不明なため読み出しが困難で、フィルムや紙媒体の多くは焼損、劣化しており、過去の記録はほとんど読むことが出来ない。確実に読めるのは、石などに掘られた文字のみ。
 科学技術は、我々の世界の現在のものよりも、少し進んでいる。だが遅れている部分もある。
 一時絶滅寸前になったヒトも、かつてほどではないが、それなりに生息数が回復している。
 フレンズ(アニマルガール)は、伝説上の存在になっている。だが、フレンズとヒトの中間のような者が多く生きている。



 [ 初投稿日時 2019/01/15 16:17 ]
 

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