ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 先に謝っておきます。ごめんなさい。残酷な、ひどいおはなしです。キャラをいじめています。キャラが死にます。

 今回も、セリフの改行位置を調整しています。一行全角44文字です。








〈 やさしさ 前編 〉

 

 

 

 

 

 

 異様に明るい、窓の無い部屋、“実験室”。

 

 手術台にサーバルが横になっていた。サーバルは裸で、手足が固定されており、腰から太ももまでは水色の布をかぶっていた。おなかや胸に縫い痕があった。右のけもの耳が失われており、代わりに、電極が4本突き刺さっていて ※1 、そこからケーブルがのびていた。後頭部からもケーブルがのびていた。

 周囲には、青緑色の手術服を着た人物が二人、白衣を着た人物が二人立っていた。その人物たちは、マスクをして、帽子をかぶっていて、顔が良く見えなかった。

 手術服を着た人物の一人は、胸に緑の札をつけていた。もう一人は黄色の札をつけていた。

 白衣を着た人物の一人は、胸に赤い札をつけており、もう一人は、青い札をつけていた。青い札をつけた人物のそばには、モニターと、ノートパソコンと、ダイヤルやスイッチがたくさんついた機器が数台あった。

 

赤い札の人物「第二段階、開始」

 赤い札の人物(以下、上司)は、女の声だった。

青い札の人物「了解」

 青い札の人物(以下、研究者)は男の声だった。研究者が機器のスイッチを入れた。

サーバル 「うぎ、ああああ!!! 痛い痛い!! いたいいっ!!」

 サーバルの体が、ビクンビクンとはねた。手足が小刻みに震えた。

上 司  「右腕」

研究者  「はい」

 研究者が、ノートパソコンを操作した。

 サーバルの右手に、手袋が現れ始めた。※2

緑の札の人物(以下、緑札)「おお!」

 緑札は、男の声だった。

サーバル 「いやああああ!!! やめてえええ!!」

上 司  「右足」

研究者  「はい……」

サーバル 「うああああ!!! あああああ!!!」

 サーバルは涙を流し、ガクガクと震えながら激しい叫び声をあげ続けた。

 サーバルの右足に、靴下が現れ始めた。

研究者  「止めましょう。ショック死しますよ」

上 司  「このくらいでは死なないわ。あと20秒」

 

サーバル 「う゛あ゛あっ!!!」

 サーバルの、布に隠されている下半身から、ビチャっと赤黒いものが飛び散った。※3

 研究者が、機器のスイッチを切った。

上 司  「何やってるの! コントロールできてたのに!」

 

サーバル 「はあ、はあ、はあ……。やだぁ……。また、おもらししちゃった……」

 サーバルは、泣きだしそうな、かすれた声だった。サーバルの下半身にかけられた布には、血がにじんでいて、サンドスターがキラキラと光っていた。サーバルがそれを見た。

サーバル 「はずかしいよ。ちゃんときれいにしてね?」

 上司が、研究者をにらみつけた。

上 司  「あとはあなたたちでやりなさい」

研究者  「くっ……」

 研究者は、うつむいて顔をしかめた。

上 司  「つらいなら、辞めてもいいのよ?」

 上司の声は冷たかった。

 

 上司が実験室から出ていった。

黄色の札の人物(以下、黄札)「文字通りの、尻拭いか……」

 黄札は、男の声で、ため息をつくように言った。

 

 

 1時間ほどあと。

 

 実験室に、全裸で手術台に横になったサーバルと、手術台のわきに立った研究者の、ふたりだけがいた。研究者はサーバルの体を布でふいていた。研究者は、サーバルの体をふき終わると、マスクと帽子をとった。暗い表情だった。白衣には血が付着していた。

 

サーバル 「あなた、あたらしい飼育係さん? うみゃー。これは、さすがにわたしでも

      はずかしいよ」

研究者  「…………」

サーバル「わたし、きれいなからだでしょ? サバンナのスーパーモデルって呼ばれてたんだよ」

研究者  「自分で言うな」

サーバル 「傷だらけになっちゃったけど……」

 サーバルの体は縫い痕だらけだった。その一部は紫色になっていた。

研究者  「…………」

サーバル 「ねえ、あなたのなまえ、なんていうのかな?」

研究者  「……悪いが、教えられない」

 

 

 二日後。実験室とは別の“飼育室”。

 

 ベッドにサーバルが横になっていて、そばには研究者が立っていた。

サーバル 「わたし、すっごいつめがあったんだよ。見せたかったな」

 サーバルは自分の手を見つめていた。指の先端が無くなっていて、指が短くなっていた。※4

手首には、がっちりした手錠が付けられていて、その鎖は、部屋の壁につながっていた。

 

サーバル 「こんなことしなくてもいいのに。わたし、あばれたりしないよ。痛いことされる

      のも、みんなのためなら、病気の子とか治せるなら、かまわないよ」

 サーバルの声は明るかった。

 

研究者  「なんで、おまえらは、そうなんだ……」

 研究者は、憐れむような表情になった。

 

サーバル 「それがフレンズなんだよ。カラカルも、おなじこと言ったでしょ? すっごく

      怒ってたけど」

 研究者は、眉をひそめた。

研究者  「聞こえてたのか」

サーバル 「カラカル、近くにいるんだよね? 会わせてよ」※5

研究者  「だめだ」

サーバル 「どうして?」

研究者  「衛生上の問題があってな。……見せられない」

 「見せられない」は小声だった。

サーバル 「見せられない?」

 サーバルは研究者を、すがるような目でじっと見つめた。

サーバル 「おねがい。おねがいだから、カラカルにはひどいことしないで。わたしだけに

      してよ……」

研究者  「…………」

 研究者は、サーバルから目をそらした。

 

 

 2週間ほどあと。実験室。

 

 手術台にサーバルが横になっていて、周囲には、研究者・上司・緑札・黄札がいた。手術台のわきの台には、メスやナイフ、ノコギリなどの道具が並べられていた。長さが1mほどの、細長い金属製の箱もあった。

上 司  「止血帯を。このあたりよ」

 上司が、ペンでサーバルの右の二の腕に線を引いた。

 緑札が、黒いバンドを、サーバルの二の腕、線を引いたあたりに巻き付けた。

サーバル 「なにするの? 怖いよ……」

 サーバルはおびえた表情で、声が震えていた。

 研究者が、白衣に隠し持っていた注射器を取り出し、素早く針のキャップを取った。そして、サーバルの右腕へ打とうとした。

上 司  「なに勝手なことしてるの! やめなさい!」

 上司が、注射を止めようと手をのばしたが、緑札が、片腕で制止した。

緑 札  「ただの麻酔です」

上 司  「結果に影響が出るわ!」

 研究者が、サーバルの右腕に荒っぽく注射をした。

サーバル 「いたっ」

 そして、サーバルの耳元でささやいた。

研究者  「右腕は見るな」

サーバル 「え? え?」

上 司  「仕方ないわ。始めましょう」

 黄札が、メス……ではなくナイフを手に取った。

サーバル 「ひうっ!」

 

 サーバルは、自分の右腕から顔をそらした。サーバルが見ていない所で、作業は行われた。

 

黄 札  「だめだ、表皮しか切れない」※6

緑 札  「想像以上ですね」

上 司  「腹よりこっちの方が強いのね」

 

サーバル 「なにしてるの……」

 

黄 札  「出血が!」

研究者  「サンドスターが漏れてる! 止血帯を締めろ!」

 

サーバル 「怖いよ……怖いよう……」

 

緑 札  「筋肉が、半分も切れてません」

上 司  「3番のノコを」

 

サーバル 「いたっ!! やめて!! 痛い痛い痛いっ!! うああああ!!!」

 

研究者  「そこは切るな! 麻酔が効いていない!」

 

黄 札  「かたい。なんだこりゃ……」

上 司  「頭蓋骨よりはもろいはずよ?」

緑 札  「4番の丸ノコで」

 

 歯医者のようなモーター音と、チュイーン、という何かを切る音がした。※7

 

サーバル 「痛い痛いっ!! やめてよっ!! なにして!!」

研究者  「見ちゃだめだ!」

 

 何かを切る音が止まった。

 

黄 札  「やっと切れたな」

 

 サーバルが、視線を動かした。そして、目を見開いた。

 

 黄札が、切断されたサーバルの右腕をつかんで持ち上げていた。彼は、サーバルの腕の手首をつかんでいて、腕はぷらぷらと揺れていた。切り口から血が流れだしていて、その血はサンドスターに変わり、キラキラと光っていた。

 

サーバル 「あ……ああ……わたしの、うで……」

 サーバルの声は細く、震えていた。

 研究者が小声で言った。

研究者  「ちきしょう……。見るなと言っただろ……」

上 司  「保存容器へ」

 緑札が、台の上に置かれた細長い箱、保存容器を開けた。

サーバル 「かえして!! わたしのうで、かえしてよっ!!」

 切断されたサーバルの右腕が、強く光り始めた。

黄 札  「うおっ!」

 黄札が、サーバルの腕を保存容器の中に落とした。腕は丸い光のかたまりになった。

 光のかたまりの形が、細長いものに変わった。

 光がおさまると、それは、大きなほっそりとした猫の腕になっていた。※8

緑 札  「なるほど。こうなるんですね」

研究者  「予想通り、です……」

上 司  「すぐに閉じて。 貴重なサンプルよ」

 緑札が、保存容器を閉じてロックをかけた。

サーバル 「…………」

 サーバルは、保存容器を見つめたまましばらく放心して、目を強く閉じた。涙がこぼれた。

 

 

 翌日。飼育室。

 

 サーバルの右腕の切断部分に、包帯が巻かれていた。

研究者  「痛み止め、効いたか?」

サーバル 「だめだよ! すっごく痛いよっ! 腕だけじゃないよっ! あたまも、おなかも……

      こころも……。痛いよ、怖いよ、苦しいよ……。わたし、みんなのためなら

      がんばるけど……。どうしてこんなことするの?」

研究者  「……腕の再生……元に戻るかっていう実験をするんだ」

サーバル 「ほんとに!? わたしのうで、戻るの!?」

 サーバルは嬉しそうだった。

研究者  「うまくいけば、ひどい怪我をしたフレンズも治せるはずだ」

サーバル 「すっごーい!! じゃあ、わたしがんばるよ!」

 

 

 

 後編へつづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 この電極は、頭蓋骨に穴を開けて脳の深くまで突き刺さっています。外からは一本に見える電極は、実は長さの違う数本の針が束ねられたものです。これは、電気刺激により思考や体の動きをコントロールするためのものです。センサーも兼ねています。後頭部のケーブルも同じようなものです。飼育室にいるときも電極は刺さったままですが、ケーブルが外されています。

 

※2 けものプラズムをコントロールし、強制的に“服”を発生させています。フレンズが、「毛皮がある」「服を着ている」と強く思えば、服が発生すると思われるので、こんなことをしなくても服は発生するでしょう。これは、「外部からの刺激で、特定の部位だけを発生させる」という実験です。

 

※3 臓器、消化器系が損傷しています。

 

※4 『爪抜き手術』です。現在でも一部の動物病院では行われているようです。(2019/01/28)

 

※5 カラカルは、サーバルちゃんのいる飼育室の、廊下を挟んで向かい側の部屋にいました。ですが、この後、離れた部屋に移動させられました。

 

※6 サーバルちゃんは、アニメで崖から落ちても平気だったので、かなり頑丈な体でしょう。

 

※7 歯科医が使うような回転工具(?)に小さな丸ノコを付けたものです。

 

※8 これは筆者の勝手な想像です。フレンズの腕を切り落としたらどうなるか? なんていう恐ろしい設定は、公式には無いでしょう。

 




 あとがき

 長いので前後編に分割しました。


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