ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 このおはなしは、TVアニメ1期のその後っぽいですが、厳密な設定はありません。

 投稿日時が【 2019/02/02 22:22 】ですが、猫の日とはあんまり関係ないおはなしです。
 セリフの改行位置を調整しました。一行全角44文字(ハーメルンのデフォルト?)とします。
 


〈 まえむき 〉

 

 夜のジャパリカフェ、改め、ジャパリバー。※1

 

 照明を抑えた店内。そこへ、サーバルとトキが入ってきた。

アルパカ・スリ(以下アルパカ)「いらっしゃーい ようこそおー」

 バーカウンターの奥に、アルパカがいた。

サーバル 「こんばんは!」

 サーバルは、明るく元気な様子だった。だが、それは店の雰囲気とは少しずれていた。

ト キ  「どうも」

 一方トキは、落ち着いた様子だった。

アルパカ 「めずらしい組み合わせだにぇ」

サーバル 「来るときいっしょになったから、運んでもらったんだよ」

ト キ  「夜に来るのはひさしぶりね」

 

 ふたりがカウンター席に座った。

サーバル 「わたし、マタタビ―ル!」

ト キ  「あたらしい飲み物が増えたってきいたわ。どんなのがあるかしら?」

アルパカ 「カクテルの種類がふえたゆぉ。まー、まぁだ勉強中なんだけどにぇ」

ト キ  「おすすめをもらうわ」

サーバル 「この前のあまいやつ、おいしかったよ!」

アルパカ 「あれは……マタタビ入れすぎて失敗だったにぇ……」※2

 アルパカは苦笑いした。

 

 

 1時間半ほどあと。

 

 サーバルの目はうつろで、顔が赤かった。

サーバル 「うみゃあぁ……。“ すっごーい!” って、つい、つい出ちゃうんだよ……。

      キャラ作ってるんじゃないんだよぅ……」

 そして半泣きだった。

ト キ  「だいじょうぶ?」

サーバル 「だいじょーぶだよー。なれてるからー」

 サーバルが、トキを見て笑った。

サーバル 「それより、かばんちゃんがひどいんだよー?」

 サーバルは眉をよせて、困ったような怒ったような顔になった。

ト キ  「だいじょうぶじゃないわね。……酔い覚ましに、ここで一曲!」

 トキが席を立った。

アルパカ 「あーその、ここではちょっと……」

ト キ  「またーたびーはー! ……ねーこねこにー!」

サーバル 「やめてやめて……あたまにひびくぅ……」

 サーバルは、頭を抱えて、けもの耳を倒してふさいだ。

ト キ  「……たのしーい、ゆーめ……ぇうっ……」

 トキが、横を向いてうつむき、手で口元をおさえた。

 そして、少しふらつきながら席に座った。

アルパカ 「ふたりともぉ、強くないんだし、そんのくらいにしておいたら?」

 

サーバル 「これでおしまいにするよ」

 サーバルが、物憂げな感じでグラスに口をつけ、こくっと一口飲んだ。

 サーバルがテーブルに置いたグラスには、オレンジ色のカクテルが半分ほど残っていた。

 

 トキの前のグラスは、氷だけが入っていた。

 トキがアルパカを見た。

ト キ  「サーバルって、いつもこんななの?」

アルパカ 「んー……。きょうはちょっと違うかもにぇ……」

 アルパカは、困ったような顔で、言葉を濁した。

 トキがサーバルを見て、ほんの少しだけ不思議そうな顔になった。

サーバル 「いいじゃない。たまには……」

 サーバルは、グラスを見つめたまま、物憂げな感じで笑った。

ト キ  「なにかあったの?」

 トキの声は優しかった。

サーバル 「だから、かばんちゃんがひどいんだよー」

 サーバルは、トキを見て、困った顔をした。

ト キ  「それは、うれしいことね」

 トキが微笑んだ。

サーバル 「そ、そんなことないよっ!」

 サーバルは、あせった様子で、さらに顔を赤くした。

ト キ  「ふふ。ほかに、なにかあったんじゃない?」

サーバル 「…………」

ト キ  「訊いちゃいけなかった?」

 サーバルは、トキから顔をそらして、物憂げな顔でグラスを見つめた。

サーバル 「なにもないよ。なーんにも……」

ト キ  「そう……」

 

 サーバルが、ゆっくりとした動作でグラスに口をつけ、こくっと飲んだ。残りはわずかだった。

 

サーバル 「トキって、好きなことに一生けんめいで、すごいよね……」

ト キ  「ありがとう。でも、わたしよく、夢見がちだとか、現実見てないとか言われるわよ」

 サーバルが少し驚いて、トキを見た。

サーバル 「そんなひどいこと言われるの?」

ト キ  「言われる……。いや、言われてないかもね」

サーバル 「いやなことから目をそらしちゃうのは、わたしもおなじかな」

ト キ  「ふふ。わたしたち、似てるとこもあるのね」

サーバル 「そうかも」

 サーバルが微笑んだ。そして少しの間をおいて、うつむいてグラスを見つめた。

 もう一呼吸の間があった。

サーバル 「……まえに、知り合いの子が、セルリアンに食べられちゃったことがあってね、

      近くにいたのに、助けられなくて……。なのに、わたしは……すぐに別のこと、

      たのしいことを見てた……」

ト キ  「きりかえたのね」

サーバル 「うん……」

ト キ  「サーバルはなにも悪くないわ。前向きでいられるのは、いいことよ」

 サーバルが顔を上げ、トキを見た。

サーバル 「いいこと? その子にまた会ったんだけど、元の姿で、わたしのこと、おぼえて

      なかったんだよ?」

 サーバルは、穏やかな、少し暗い口調だった。

ト キ  「生きてたなら、それでいいんじゃない? 本来の姿に戻っただけ。その子に

      とっては、それが幸せだったのかもしれないわよ?」

サーバル 「うみゃー! おなじこと考えてる! やっぱり似てるね、わたしたち!」

 サーバルは嬉しそうだった。

ト キ  「そういうとこ以外は、反対の性格じゃないかしら?」

 

 サーバルが、再びトキから顔をそらして、グラスを見つめた。

サーバル 「トキ」

ト キ  「なに?」

 

サーバル 「ずっと前向きでいるのって、つらいよね……」

 

 サーバルの口調は穏やかだった。だがなにかを抑えたようだった。

 

ト キ  「え?」

 トキは、一瞬目を見開いた。

ト キ  「らしくないわ。どうしたの?」

 トキは心配そうだった。

アルパカ 「いまのは、わたしもびっくりだにぇ……」

 アルパカはちょっと引いていた。

サーバル 「わたし、いつも、いいことがある、絶対うまくいくって思ってて、自分にも自信が

      あるんだ。でも、うまくいかないことの方が多いよね。それはわかってるよ。

      うまくいかなくても、つぎはきっとうまくいく、なんとかなるって思うんだよ。

      でも、何度やってもうまくいかない、どうしようもない、ってわかっちゃうと、

      すっごく悲しくて、落ち込むんだよ」

ト キ  「楽観的なぶん、落ち込みもはげしいってことね」

 サーバルが顔を上げ、トキを見た。

サーバル 「そう。それでね、落ち込んでも隠しちゃうんだ、わたし。それは……そのほうが、

      たのしくやれるから」

ト キ  「まわりに心配かけたくない、っていう気持ちも、あるわよね」

サーバル 「そうかなあ? 自分のためだって思うけど」

ト キ  「たしかに、つらいわね」

 

サーバル 「わたし、いいところばっかり見ちゃうんだよ。だれでも、なんでも……」

ト キ  「それは、いいことじゃないの?」

サーバル 「いいことだけど……。たとえば、誰かと誰かがけんかしてたら、わたしは、

      どっちも正しいって思っちゃう。どっちの味方もできないよ」

ト キ  「両方のいいところがわかるから?」

サーバル 「そうなんだよ。あきらかに片方が悪い、ってこともあるんだけどね」

ト キ  「あきらかに悪い相手でも、いいところを必死で探すのよね」

サーバル 「そうそう! そうなんだよ!」

ト キ  「で、いいところが見つからなかったら、すっごい落ち込む」

サーバル 「よくわかるね!」

ト キ  「わたしも同じだから。いえ、もっと極端だわ。自分の理想ばっかり追ってる。

      歌で誰かを救えるんじゃないか、とか……」

サーバル 「いいじゃない。すっごくすてきなことだよ」

ト キ  「ありがとう。……そうね、わたしがけんかを見たら……“ 仲直りさせてあげたい。

      歌で争いを止められるかも ”って思うわね」

サーバル 「たしかに夢見がちだね」

ト キ  「うふふ。ほら、言われちゃった」

サーバル 「わ! ごめーん!……そういうのも、できないってわかると、すっごく悲しいよね」

ト キ  「やればできるはずなのに……できない……。絶望だわ……」

 トキは、ものすごく暗い顔になった。

アルパカ 「ねえねえふたりともぉ、たまには、後ろ向きでもいいんじゃない?」

 トキが顔を上げ、アルパカを見た

ト キ  「でも、どっちが前で、どっちが後ろなのか、わからないこともあるわよ?」

サーバル 「あるよねー。……たのしいことを見てるのは前向きだけど、いやなことから目をそら

      してるのは、後ろ向きかもー、って思うよ。……いやなことを見て落ち込むのも、

      後ろ向きかもね」

アルパカ 「それは……ちょっと違うんじゃないかなぁ?」

ト キ  「落ち込むのは自然なことだわ。でも、たぶんサーバルは、自分が後ろ向きなってる、

      って思ったら、むりやりでも、前向きでいようとするのよ」

 

サーバル 「落ち込んでる自分からも目をそらしちゃうんだよ! そのほうがたのしいからね!」

 

 サーバルは、アルパカを見て、無理やり笑顔を作った。

 

アルパカ 「ほわぁ……」

 アルパカは驚いて、若干放心していた。

 

ト キ  「ふふ。つらいんじゃないの?」

 トキがサーバルを見て微笑んだ。

サーバル 「…………」

 サーバルは、笑顔のまま一瞬固まったあと、物憂げな顔に戻って、グラスを見つめた。

 そして、素早い動作でグラスに口をつけ、残りを一気に飲み干した。

サーバル 「うみゃあああぁ……ぁぅ……」

 サーバルは、ため息をつくように言いながら、テーブルに突っ伏した。※3

サーバル 「…………」

 サーバルはそのまま動かなくなった。

 トキは、サーバルの様子を見て、すぐに視線を氷だけのグラスに移した。無表情だった。

ト キ  「ふぅ……」

 そして顔を上げて、明るい表情でアルパカを見た。

ト キ  「おいしかったわ。もう一杯、もらおうかしら」

アルパカ 「うーん……。重症だねこりゃ……」※4

 アルパカは困惑しつつ、苦笑いした。

 

 

 

 カット。

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 「ジャパリバー」ってネーミングがいまいち……。

 あのカフェの営業時間ってどのくらいなんでしょう? 筆者は、日の出後しばらくしてオープン、日没後しばらくしてクローズかな、と勝手にに思っています。でもそうすると、夜行性のフレンズは利用しづらいです。でも長いとアルパカの休みが無くなってしまいます。定休日はあるんでしょうか? アルパカ不在で、他の店員だけで営業している時もあるのかも?

 そもそも、フレンズの時間や暦はどうなっているのか? という疑問も……。筆者は、フレンズの時間は、日の出と日没、太陽の位置が基準になっていて、季節(1年)は感覚で分かるではないか、と思っています。(体内時計や月の満ち欠けも基準になっているのかも?)そうすると、フレンズに24時間や曜日の概念は無いですね。

 

※2 このカクテルを飲んだネコ科のフレンズ(サーバルを含む)が、楽しくなりすぎて大変なことになりました。泣き上戸もいたようです。あと、服(毛皮)を脱いでしまい……。

 

※3 後頭部と丸まった背。“ごめん寝”っぽくてかわいいかも。筆者は猫の後頭部が好きです。

 

※4 前向きでいようとするのは、病気ではなく性格なので、重症と言うのは違います。考え方を変えて、落ち込んでいるところを少し持ち上げることはできますが、完全な治療は困難です。意図的に、人の性格を根本から変える、というのは、ほとんど不可能だからです。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 サーバルちゃんはこんなこと言わないと思います。たとえ酔った勢いであっても。

 前向きすぎるのは、楽観的すぎるのは、つらいんです。この感覚は、なかなか理解するのが難しいです。自分がつらくなっていることに、気づかないことすらあります。
 筆者は逆に悪いところばかり見てしまいます。なるべく前向きで、いいところを見よう、とは思っていますが……。
 トキは、“超ポジティブ”という感じではありませんが、酒を飲みながら語り合うようなシーンが似合いそうなので、出演させました。あと、トキはINFPだから(異論もありますが)……。


 このおはなしの下書きは、2019/02/11(アニメ2期第5話放送直前) に書きあがっていて、2期第5話以降の影響はあんまり受けていません(投稿までにかなり修正しましたが)。投稿を遅らせたのは、02/22日22時22分に何か投稿したかったためです。投稿できる形になっているものが他に無かったので。




 【 メモ 】

 あとがきや注釈での、サーバルちゃん、かばんちゃんの“ちゃん付け”をやめようかな、と思っています。



 アニメ1期で、“超ポジティブ”なキャラというと……。

アライグマ
 アライさんは、ああ見えて落ち込む時もあり、結構悩みもあるんじゃないかと思います。でも、嫌なことも素直に受け止めることができそうです。

ヘラジカ
 ヘラジカは、苦手なことにもまっすぐにぶつかっていきそうです。

コツメカワウソ
 コツメちゃんは、何も考えてな……たのしいことだけを考えていそうです。つらいことも、たのしいことに変えて、笑い飛ばしてしまいそうです。“真の意味で前向き”なのかもしれません。
 でも実は繊細で、秘めた悩みがあったり……。そんなおはなしを書いてみたいんですが、アイデアが出てこない……。酒に酔って、超ネガティブな性格になってしまう、なんて面白いかも。


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