ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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〈 うめる 〉

 

 温泉宿のそばの雪原。

 

  ギンギツネが、しゃがんで雪を掘っていた。そこへキタキツネがやってきた。

キタキツネ  「なにしてるのギンギツネ」

 ギンギツネ 「うわああっ!」

  ギンギツネはビクッと驚いて体をおこした。

キタキツネ  「なんであわてるの? ……ん?」

 ギンギツネが掘っていた穴は、雪の下の土まで掘られていた。穴の中には、袋入りのジャパリまんが3個入っていた。

キタキツネ  「なんでジャパリまんがこんなところに」

  キタキツネがしゃがんで、穴の中を見つめた。

 ギンギツネ 「え、えと、お客さんからもらったの、たくさん余っちゃったから!」

キタキツネ  「あまったならぼくにもちょうだい」

  キタキツネがジャパリまんを一つ取り上げた。

 ギンギツネ 「だめ。食べすぎたら体によくないわ。あなた動いてないんだし」

キタキツネ  「ちょっとくらいいいでしょー………。ん、かたいねこれ」

  キタキツネは、ジャパリまんをぎゅっと握った。

 ギンギツネ 「ちょっとじゃないのよ……」

  ギンギツネは、小声でため息をつくように言った。

キタキツネ  「ほかにもあるんだね」

 ギンギツネ 「え? それは……」

  キタキツネが、ギンギツネから速足で離れて行った。

 ギンギツネ 「ちょっとキタキツネ!」

  ギンギツネが後を追った。

 

キタキツネ  「あった!」

  キタキツネがしゃがんで、木の根元を掘り始めた。

キタキツネ  「出た!」

  キタキツネが、木の根の間から、袋入りのジャパリまんを取り出した。

 ギンギツネ 「掘りだしちゃだめよ! というかなんでわかったの?」

キタキツネ  「まだあるね」

  キタキツネが立ち上がり、木から速足で離れて行った。

 ギンギツネ 「え? ええ?」

 

  ……………………………………………………  

 

  キタキツネは、低い崖のようになっている場所の、下の部分を掘り始めた。

 ギンギツネ 「だめだってば!」

キタキツネ  「ギンギツネずるいよ。ジャパリまん隠すなんて」

 ギンギツネ 「隠してないわよ! とっておいただけよ!」

キタキツネ  「ふたつしかないね」

  キタキツネが、掘った穴から袋入りのジャパリまんを二つ取り出した。

 ギンギツネ 「ああ……」

  ギンギツネが顔に手を当てうつむいた。

キタキツネ  「あとはどこにあるの?」

 

  ……………………………………………………  

 

 キタキツネが、何もない場所の雪を掘り始めた。ギンギツネがキタキツネを追って歩いてきた。

 ギンギツネ 「そんなところにはうめてないわよ……」

キタキツネ  「あったよ」

  キタキツネが、土の中から袋入りのジャパリまんを取り出した。

 ギンギツネ 「え? なんで?」

 

  ……………………………………………………  

 

キタキツネ  「うわあ、虫がいっぱいだね」※1

  ギンギツネは、それを見てぎょっとした。

  キタキツネが掘り出したジャパリまんには、モザイクがかかっていて、モザイクの裏でいろいろな何かが動いていた。

 ギンギツネ 「だめ! それは掘り出さないで! うめ戻してっ!」

  ギンギツネは、ジャパリまんから顔をそらして、両手で遠ざけるジェスチャーをした。※2

キタキツネ  「なんで?」

 ギンギツネ 「もう食べられないわ……」

キタキツネ  「たべられるよ。虫がいっぱいついてておいしいよ」

 ギンギツネ 「フレンズになったら虫は食べちゃだめなの!」※3

キタキツネ  「好き嫌いしちゃだめだよ。ちょっとにがいけどおいしいよ?」

  キタキツネは、モザイクがかかったジャパリまんをギンギツネに向けた。

 ギンギツネ 「やめてぇ! 近づけないで!」

 

  ……………………………………………………  

 

 ギンギツネ 「なにこれ……」

キタキツネ  「コントローラーだよ」

  キタキツネが、掘った穴の中から、透明な袋に入ったゲームパッド ※4 を取り出した。

 ギンギツネ 「こんとろーら? あなたがうめたの? 食べ物じゃないわよね? なにに使うの? ゲーム? そんなにボタン必要なの? なんでこんなものが? うめる意味があるの? それ余ってたの? 余るものなの? その袋はなに? ジャパリまんうめたはずなのになんでないの? 掘りだしたの? 食べたの? ジャパリまんうめてるのさっき知ったのよね? なんで場所がわかったの? なにが起きたの?」

  キタキツネは、混乱しているギンギツネから顔をそらして、ニヤリとした。

 

  ……………………………………………………  

 

 

キタキツネ  「こんなに隠してたの?」

  雪の上に、30個ほどのジャパリまんが置かれていた。

 ギンギツネ 「だから隠してたんじゃないわよ……」

キタキツネ  「みんなかたいよ。かちかちだよ」

  キタキツネが、二つのジャパリまんをコンコンとぶつけて見せた。

 ギンギツネ 「……温泉に入れれば、もとに戻るわよ」

 

  ……………………………………………………  

 

 温泉宿。

 

キタキツネ  「やわらかい」

 温泉に沈んでいたジャパリまんを、キタキツネがつかみ上げた。

 

  ……………………………………………………  

 

キタキツネ  「べちゃっとなったね」

 皿の上に移された三つのジャパリまんには、指の跡が残っていた。

キタキツネ  「これはどろどろ」

  キタキツネがつかみ上げたジャパリまんは、皮が溶けたようになっていた。

 ギンギツネ 「た、食べるぶんには問題ないわよ!」

キタキツネ  「たべてみる?」

  キタキツネはギンギツネに、半分溶けたジャパリまんを渡した。

  ギンギツネは、恐る恐るジャパリまんをかじった。

 ギンギツネ 「けほっ、おえぇ……」

  ギンギツネが顔をしかめて、片手で口元をおさえた。

 ギンギツネ 「にがいっ……」

キタキツネ  「だいじょうぶ? ギンギツネ」

 ギンギツネ 「むぐむぐ……ごくん……」

  ギンギツネは険しい顔のまま、ジャパリまんの皮を飲み込んだ。

 ギンギツネ 「はむ、もぐもぐ……」

  ギンギツネは、二口、三口と食べ進めていった。

キタキツネ  「むりに食べなくても……」

  ギンギツネが驚いた顔になった。

 ギンギツネ 「……まんなかの部分、おいしいかも……」

 

 掘りだされ、温泉で解凍されたジャパリまんは、土中で冷凍、熟成され、温泉の成分により味が変化していた。

 独特の皮の食感と苦み、温泉の香り、うま味を増した餡がくせになる味わい。

 温泉宿の新名物「温泉ジャパリまん」が誕生した。

 

  ……………………………………………………  

 

キタキツネ  「ん……おいしい」

  キタキツネとギンギツネが、温泉ジャパリまんを食べていた。

 ギンギツネ 「はむっ、はむっ、もぐもぐ……」

キタキツネ  「虫のトッピングがほしいね」

 ギンギツネ 「とっぴんぐ?」

  キタキツネが、どこからともなく、モザイクのかかった小さな黒いものを取り出した。それはカサカサと動いていた。

 ギンギツネ 「うわああっ!! だめよ!! やめなさいっ!!」

キタキツネ  「逃げちゃった」

 ギンギツネ 「うそ!」

  走り回る黒いモザイク。

 ギンギツネ 「わああ!! 来ないでえ!!」

  それがブーンと飛んで、ギンギツネのしっぽに着地した。

 ギンギツネ 「いやあーーーー!!!」

  黒いモザイクが、ギンギツネのしっぽに潜りこみ見えなくなった。

 ギンギツネ 「うわああ!! 入っちゃった!! しっぽに入っちゃったあ!!」

  ギンギツネは、しっぽをぶんぶんと振り回した。

 ギンギツネ 「取って!! 取ってよキタキツネ!!」

キタキツネ  「うるさいよギンギツネ」

  キタキツネが、ギンギツネのしっぽにずぶっと手を突っ込んだ。

 ギンギツネ 「はぅあっ!」

キタキツネ  「もふもふー」

  キタキツネは、ギンギツネのしっぽの毛の中でもぞもぞと手を動かした。

 ギンギツネ 「あああ動いてる!! くすぐったい!」

キタキツネ  「もふもふー……あ」

  キタキツネの手が止まった。

 ギンギツネ 「なに? どうしたの?」

キタキツネ  「ぶちゅってなった」

 

  ……………………………………………………  

 

キタキツネ  「たべすぎだよギンギツネ」

 ギンギツネ 「はまったかも……はむっ、もぐもぐ……」

キタキツネ  「そろそろあぶないかも……」

  キタキツネが、ボソッとつぶやいた。ギンギツネの動きが止まった。

 ギンギツネ 「……え?」

キタキツネ  「たぶん気のせい」

 ギンギツネ 「そう。……はむっ、はむっ、もぐもぐ……もぐ…………うっ……」

 

 なお、「温泉ジャパリまん」は、体質的に合わないフレンズが食べると、腹痛や体のしびれなどを引き起こすことがあるので、食べすぎには注意が必要である。※5

 

 ギンギツネ 「ううー……さきに言ってよー……」

  ギンギツネは苦しそうだった。畳に横になって、背中を丸めて、手でおなかを押さえていた。

キタキツネ  「かたりのひととしゃべっちゃだめだよ」

 ギンギツネ 「また、わけのわからないことを……うう……おなかいたい……」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 雪の下の土に埋めてあった半分凍った食べ物が、虫だらけになるのは考えにくいです。

 

※2 アカギツネは昆虫やミミズなんかも食べます。もともと食べていたんだから、フレンズ化しても嫌悪することはないんじゃないか、とも思います。

 

※3 フレンズ化したら、元の動物の時に食べていたものが食べられなくなることがあるのでしょうか? 人体に害の無い虫なら、食べようと思えば食べられると思います。

 

※4 ゲームパッドは、レトロなデザインのものです。ただ、ボタンがやたら多いです。透明な袋は、食品保存用の密封できるものです。

 

※5 1日ほどで回復します。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 アカギツネには、余った食べ物を埋める習性があるそうです。ギンギツネはアカギツネの亜種(毛色違い?)なので、多分同じ習性があると思います。キタキツネも同じでしょう。

 当たり前ですが、中華まんや温泉饅頭を雪に埋めて温泉で解凍しても、こんなことにはならないです。多分。

 〈 フリーフェネック 〉のあとがきで、投稿を打ち切るとか言っていましたが、結局書いてしまっています。
 ネタのストックがまだあるんですが、ほとんどがアイデアだけの状態です。(1編だけ、8割ほど書きあがっているものがあります)アイデアが出たら書かないともったいないですし、もうちょっと続けることになりそうです。何をいつ書いていつ投稿するかは、私にも分かりません。

 やっぱり……。

 私は、書きたい時に、書きたいものを、書きたいように書きます。
 『SS』は、『好きなものを、好きなように』の略ですから(違います)。

 どこかで同じ事を書きましたね。

 〈 こくはく 〉でカラカルの絵を描いているキュルルは、けものフレンズの二次創作物を書いている私なんです。恋 、というより病気ですね……。


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