ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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〈 うそ 〉

 

 砂漠の地下迷宮の内部。

 

スナネコ 「これはなんでしょう?」

ツチノコ 「これは! でかしたぞスナネコ!!」

 ツチノコが、スナネコから銀色の回転式拳銃 ※1 を受け取った。

スナネコ 「なにに使うものなのですか?」

ツチノコ 「武器だ。たぶん護身用だろうな。セルリアンとの戦いに使えるかもしれん」

スナネコ 「なんかおもしろそうですね」

ツチノコ 「こうやって構えて……」

 ツチノコが、両手で壁に向けて拳銃を構えた。※2

ツチノコ 「弾丸が発射されて、敵を倒すんだ」

スナネコ 「どんな感じですか? 見てみたいです」

ツチノコ 「ダメだ。あぶないからな。それに、弾は貴重だ」

スナネコ 「持ってみたいです」

ツチノコ 「案外似合うかもしれんな……」

 ツチノコが、スナネコに拳銃を渡した。

 スナネコが、右手で銃を握った。

 

 パァン!! と大きな音がして、スナネコの手から拳銃が飛んだ。拳銃はスナネコの背後の壁に当たって落ちた。※3

 

スナネコ 「わー。すっごい音ですねー」

ツチノコ 「ううう……なにしてんだオマエェ……」

 ツチノコは、フードの上から両耳をおさえていた。そしてすぐに、左手で左胸の下をおさえた。

スナネコ 「ごめんなさい。うるさかったですね」

ツチノコ 「……スナネコ、手、大丈夫か?」

スナネコ 「ちょっと痛いけど、だいじょうぶです」

 スナネコが自分の手を見た。手袋の人差し指に、トリガーの跡が残っていた。

 ツチノコは、ふらふらと歩いて、右手で拳銃を拾った。

 そしてスナネコに歩み寄り、拳銃をスナネコに見せつけた。

ツチノコ 「こいつはあぶないから、似たものを見つけても絶対に触るなよ!!」

スナネコ 「っ!」

 スナネコがビクッとなった。ツチノコは、いつになく真剣で強い口調だった。

ツチノコ 「絶対にだぞ!」

スナネコ 「わかりました」

ツチノコ 「あと、このことは誰にも言うな!」

スナネコ 「どうしてですか?」

ツチノコ 「聞くなっ!」

スナネコ 「ツチノコ、どうしたのですか? なんかへんですよ」

ツチノコ 「だいじょうぶだ」

 ツチノコの口調が、やさしいものに変わった。ツチノコは、右手でスナネコの頭をぽんぽんと叩いた。

スナネコ 「あ……」

ツチノコ 「ちょっと出かけてくる。ついてくるなよ」

 ツチノコは、スナネコを残して去っていった。左手で左胸の下をおさえたまま歩いて行った。

スナネコ 「やっぱり、へんです……」

 

 

 数日後。図書館。

 

はかせ  「たしかに血液は本人のものなのです。でも傷の場所や入射角が……」※4

助手   「不自然ですが、本人がそう言っていたなら、そうなのでしょう」

 テーブルの上に、瓶入りの薬品類やサンドスター、注射器、たくさんの本などが置かれていた。本は、医学書と、銃器に関するものが多かった。

助手   「どうしますか、これ」

 はかせと助手が、テーブルを覗き込んだ。そこには銀色の回転式拳銃があった。

はかせ  「地下で保管するです。弾は別の場所に置くのです」

 

 

 数週間後。ライオンの城。

 

スナネコ 「ツチノコがどこにいったか知りませんか? こっちに来たらしいのです」

ライオン 「……あー、聞いたことないなー」

 ライオンはとぼけるように言った。

スナネコ 「みんな知らないって言うのです。ちょっと心配なのです」

ライオン 「あんまり調べなくていいと思うよ。ひとりになりたい時もあるだろうからさ」

スナネコ 「でもやっぱり気になります。帰ってこないなんて今までなかったです。それに……」

ライオン 「……はかせなら、なにか知ってるかもね」

 

 

 図書館。

 

助手   「どうしてこんなところまで来たのですか?」

スナネコ 「ライオンに聞きました。はかせならツチノコがどこにいったか知ってるかもって」

助手   (……ライオンのやつ、こっちに丸投げですか)

 助手が、はかせに小声で言った。

はかせ  (事が事だけにしかたないのです)

 はかせが小声で返した。

スナネコ 「ことがこと? 知っているのですか?」

はかせ  「知っているといえば知っている……のです」

 はかせは言葉を濁した。

スナネコ 「おしえてください! ツチノコはどこに!」

はかせ  「その前に、おまえに質問なのです」

助手   「ツチノコに、思いつめた様子や、悩んでいる様子はなかったですか? あとは、あなたとけんかしたとか……」

スナネコ 「そんなことなかったですよ。……どうしてそんなことを聞くのですか?」

はかせ  「……おまえには理解できないのです」

スナネコ 「どういうことですか? なんでおしえてくれないのですか?」

助手   「それは……」

はかせ  「これ以上は話せないのです」

スナネコ 「どうして! おしえてください!」

 スナネコは、いつになく強い口調だった。

スナネコ 「あのとき! あのとき血のにおいがしました! ツチノコ、けがしたかもしれないのです!」

 

助手   (血のにおいって、いつでしょう?)

 助手が、はかせにとても小さな声で言った。

はかせ  (おそらく、さいごの別れなのです)

 はかせが、助手にとても小さな声で返した。

 

助手   「われわれにも、理解できない事態なのです」

はかせ  「わからないことは、教えられないのです」

 

 スナネコは、落胆した様子ではかせ達のもとを去って行った。

 

 

助手   「ちゃんと伝えるべきだったのでは?」

はかせ  「言えないのです……」

助手   「言えないですよね……」

 助手はため息をついた。

はかせ  「あの子を残して、なぜあんなことを……」

助手   「もともと、神経質なところがありましたから」

はかせ  「でも、ツチノコもフレンズなのです。けものなのです。自ら命を絶つなんてありえないのです」

助手   「ヒトに近づく、というのは……」

はかせ  「このようなリスクもあるのです」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 S&W M686の4インチモデルです。あるいはコルトパイソンでもいいです。筆者は銃に詳しくないので、そのあたりのリボルバー、という曖昧な設定です。

 

※2 ツチノコにここまでの知識があるのかは疑問です。でも結構博識っぽいので、知っている可能性もあると思います。

 

※3 こんな簡単には暴発しないと思います。

 

※4 銃口付近に血が付着していました。銃創は左胸の下の方に一つありました。弾丸は心臓のそばを通って、周囲の臓器を大きく損傷させ、背中で骨に当たって止まり、体内に残りました。

 自分でここを撃つのは、角度的に少し無理があります。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 このおはなしは、有名な画家のエピソードをベースにしています。自殺説が一般的ですが。
 精神的・肉体的苦痛から逃れるために自殺することは、けものには理解できないんじゃないかと思います。でも、ヒトとけものの両方であるフレンズの場合はどうなんでしょう? 筆者は、フレンズが自殺するなんてありえないと思っています。

 このおはなしは、元々はジャガーとコツメカワウソの話でした。(ツチノコの役がジャガーで、スナネコの役がコツメカワウソ)。カワ“ウソ”だから……。ではありません。いまいちしっくりこなかったため、ツチノコとスナネコに変更しました。


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