まえがき
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森の中のひらけた場所。アライさんとふたり並んで、木の太い根っこに座っていた。
アライさんが、わたしに寄りかかってきた。近い。ちょっとドキドキする。
アライグマ 「フェネックとひとつになりたいのだ」
突然なに言いだすのアライさん。だれかアライさんに変なこと教えたね? うれしいけど……。
フェネック「いやだよアライさん。ひとつになったら、アライさんの顔が見えなくなっちゃうよ」
ひとつになりたいっていう気持ちは、痛いほどわかるけどね。
アライグマ 「それは困るのだ。やっぱり、ふたりはふたりがいいのだ」
アライさんが寄りかかるのをやめた。
フェネック 「ふたりはふたり。ずっとずっとついていくよアライさん」
アライグマ 「死んじゃっても、天国でも、生まれ変わっても、その先も……アライさんとフェネックは、ずっと、ずーっといっしょなのだ」
うわあ、うわーどうしよう。
フェネック 「言うねーアライさん」
生まれ変わる、か……。考えたくないけど、いつかそういう日も来るんだよね。でも今は……。
フェネック 「ここが天国なのかもねー」
アライグマ 「しあわせすぎて、死んじゃったのだ」
アライさんが無邪気な笑顔でこちらを見た。やめてよアライさん。ほんとうに死んじゃうから。
フェネック 「天国では、アライさんの心とからだは、ぜーんぶわたしのものだよー」
うわあ! なに言ってるのわたし! 欲望がもれてるよ!
フェネック 「もちろん、わたしの心とからだも、わたしのものだよー」
開き直ってみた。いや、ぜんぶあげてもいいんだけどね。アライさんになら。
アライグマ 「ずるいのだ。よくばりなのだ」
アライさんは、怒らずに、やわらかい表情で穏やかに言った。
アライグマ 「でも、フェネックがほしいって言うなら、アライさんのぜんぶをあげるのだ」
え? ……聞きまちがいじゃないよね? ぜんぶくれるって、意味わかってて言ってるの?
きょうはどうしたんだろう。ふたり、近づきすぎだよ。これ以上はあぶないよ。
フェネック 「ぜんぶわたしのものなら、アライさんを、好きにしていいよね?」
またわたしの欲望がもれてるよ!
アライグマ 「たのしいことなら、好きにしていいのだ!」
言ったね。本当にいいんだね?
どうしようかなー?
これは、わたしの欲望丸出しだね……。あぶない選択肢もあるから、欲望にまかせて選んじゃだめだね。冷静になろう。
頭をなでるのはしょっちゅうやってるけど、なでることだけを目的としてやるのは初めてかも。
フェネック 「アラーイさーん」
やさしく名前を呼んで、アライさんの頭に、ぽんっと手を置いた。てっぺんよりちょっと前あたりだ。
アライグマ 「ほ?」
アライさんが、視線を上に向けた。ぽんぽんとやさしく頭をたたいてみた。
アライグマ 「へへ……」
アライさんがちょっと笑顔になった。かわいくてドキッとした。
アライさんの前髪、途中でくっきりと色が変わってるのがいいんだよね。わたしは、たぶんちょっと色が変わってるだけ。*1 アライさんがちょっぴりうらやましい。
こんどは、ちょっと大胆に、頭をくしゃくしゃとなでてみた。さらさらの毛だね。なでなでー。
アライグマ 「えへへー」
アライさんが、気持ちよさそうに、無邪気な子供みたいな笑顔になった。うわー、すっごい胸がいっぱいになるよ……。涙が出そうなくらい。
頭をなでるのをやめて手を離すと、アライさんの髪の毛が、きれいにもとの形に戻った。乱れが全くない。どうなってるんだろうこれ? ぼさぼさになったアライさんを見てみたかったんだけど……。*2
つぎは、左右のけもの耳の間に手を入れて、頭を、こりこりと、かくようになでた。
アライグマ 「ふみゃーああー……」
また、アライさんがしあわせそうに笑った。ぽわわんと、しあわせな時間だった。
えろくないよ。えろくない。
どっちにしようか?
アライさんのけもの耳は、ちょっと小ぶりの、丸みがある三角耳。すっごくかわいい。
フェネック 「アライさん、頭をこっちに向けて、じっとしててね」
アライグマ 「これでいいのか?」
アライさんが首をかしげて、耳をこちらに向けた。
わたしは、ぱくっとアライさんの耳をあまがみした。
アライグマ 「ぴゃあ!」
いい反応だね。アライさんは、ビクッと反応したが、逃れようとはしなかった。
舌を動かしながらちゅうちゅうと吸うと、ふわふわした毛が口の中で濡れていった。まわりの毛が鼻先をくすぐった。アライさんの耳は、ぴくぴく動いていた。
アライグマ 「ん……あ……」
濡れた毛の芯には、こりこりした耳そのものがあった。耳を口にふくむのをやめて、ぺろぺろと耳をなめてみた。
アライグマ 「ふああ……んああ……」
フェネック 「ぴちゃぴちゃ……」
わざと音をたてて舐めた。アライさんもけっこう耳がいいから、その音は大きく聞こえるはず。
アライグマ 「ぅああっ…………」
舌を耳の中に差し込んでみた。ここはちょっと長めのふわふわした毛が、耳をふさぐようにはえている。その毛を手でどけて、中をゆっくりとなめてみた。ぴちゃぴちゃっていう音は、もっと大きく聞こえるはず。
アライグマ 「そんなとこぉ……へね……くぅ……」
フェネック 「ぴちゃ……どうしたのー、アライさん」
耳をなめるのをやめて、耳のすぐ近くでやさしく言ってみた。
アライグマ 「フェネック!」
突然、アライさんが腰を上げ、私の前に立った。なにする気かな?
フェネック 「アライさ……」
アライグマ 「おかえしなのだー!」
アライさんは、笑顔で、わたしの両方のけもの耳を、ぎゅむっ、とつかんだ。
フェネック 「おふ」
へんな声出ちゃった。おかえしもいいね。ちょっと痛いけど。
アライグマ 「フェネックはどこがきもちいいのだ?」
フェネック 「みみの穴の中かなー?」
なに正直に答えてるんだわたし!
アライグマ 「ふははー! きもちよくさせてあげるのだー!」
アライさんが、ずぶっ、と両手の人差し指を、わたしの両耳の穴に突っ込んだ。
フェネック 「うふぁ」
またへんな声出ちゃった。たしかに、耳の穴に指を入れると気持ちいいんだよね。ぼこぼこ音がうるさいけど。アライさんは、指をぐりぐりと動かしながら深く突っ込んでいった。*3
フェネック 「ふぁ……あーあぁ」
なにこれ、自分でするより気持ちいい……。
アライグマ 「きもちいいのだ? もっとしてあげるのだ」
フェネック 「はへっ!」
またまたへんな声出ちゃった。というか、なに、この感覚……。アライさん、耳の奥で指を曲げて、こりこり、ぐりぐりってしてる……。
フェネック 「ふぁあ……ああん……んうぅ……」
やだなーへんな声出まくってるよ……。アライさん器用だね。気持ちいい……。指を動かして、いけないところ、ぐりぐり、ぐちゅぐちゅって……。ぐちゅぐちゅ? あれ? まだ入れるの?
フェネック 「ふああ……。そんな奥までいれちゃ……」
びりびり、ぞくぞくがきた。頭の中をかきまぜるような、甘い痛みと、鋭い快感。それが、両耳から頭の奥まで伝わってくる。
フェネック 「アライさ! それ、だめ……あうう……おふ……やめて……」
それ以上されると、やばいかも……なんか、くる……。きちゃうよー……。
アライグマ 「そんなこと言って、ほんとはほしいのだ!」
ほしいけど……わきあがってくる! ……?
フェネック 「んああーー!!」
頭を突き抜ける強烈な快感。目の前が真っ白になった。
フェネック 「あうっ、うううう……」
快感はしばらくつづき、からだがガクガクとふるえた。
アライグマ 「フェネック! フェネック! どうしたのだ!」
フェネック 「はあ……はあ……ふひゅー……」
ふるえはおさまってきたが、心地よい余韻がつづいていた。力が抜けて、ぼんやりした感じ。
アライグマ 「ごめんなさいなのだ! アライさんが入れすぎたから……」
アライさんは、わたしの耳から指を抜いたようだ。
フェネック 「だいじょーぶ。気持ちよすぎて、びっくりしちゃっただけだから……」
嘘は言ってない。でも、耳の穴いじられてこんなことになっちゃうなんて……。
アライグマ 「そんなによかったのか?」
アライさんは、ふしぎそうにこちらを見た。はずかしいよ……。顔が熱い……。
フェネック 「もう忘れてよアライさん……」
もう一回やってほしい気もするけど、なんかあぶない感じがするのでやめておこう。
アライさんのヒトの耳は、半分くらい毛に隠れていて見えないので、毛を手でよけて、耳全体を見てみた。ここはヒトと同じだ。結構複雑な形をしているね。
アライグマ 「フェネック?」
アライさんのヒトの耳に顔を近づけた。かるく、ぺろっとなめてみた。
アライグマ 「ひぅっ!」
かわいい。つぎは、もっとねっとりと。
フェネック 「ぴちゃ……じゅる……」
アライグマ 「ふああ!」
ちょっとしょっぱいね。ここは毛がないから、たぶん敏感なんだろう。それに、音にも敏感なはず。舌をたっぷりぬらして、くちびるも使って、わざと音をたててみよう。
フェネック 「ぴちゃ、ぴちゃ、じゅぷ、じゅるり、ちゅっ……じゅるじゅる……じゅぷ……」
アライグマ 「んん……ああ……フェネ! おみみ、へんなこと……うああ!」
いい反応。かわいい。これ、ほとんどキスだね……。
しばらく反応を楽しんだあと、口を離した。うわあ、アライさんの耳、びちゃびちゃになっちゃった……。
フェネック 「へんなの選んじゃったよアライさん」
アライグマ 「ふぇ?」
はだかの指で直接さわりたいね。わたしは、右手の上にかぶさっているうすいものを、シュルっと取った。*4
アライグマ 「なんでそれを取ったのだ? なんかいやな予感が……」
ちょっと口が開いたところを狙って、アライさんの口に素早く人差し指をつっこんだ。
アライグマ 「ふむぅ!」
半開きになった歯の間を過ぎて、舌に触れた。ぷにっとしてるけど、ちょっとざらざらした感触だね。
アライグマ 「なにすうのだ!」
しゃべると舌が暴れる。押さえつけてみよう。
アライグマ 「ふあ!」
フェネック 「おっきくあーんしててねー」
アライグマ 「ほあ?」
アライさんは、言われるままに口を開けた。素直だねー。舌をぐりぐりしてみた。
アライグマ 「りゃめ、やめうのら……」
フェネック 「いやならー、ガブってやっちゃっていいんだよー?」
アライグマ 「しないのあ……」
そうだよね。しないよねそんなこと。まあわたしは、アライさんになら指をかみちぎられても構わないんだけどね。
アライさんの舌をつまんで、引っ張ってみた。
アライグマ 「うえ、あええー……」
ん? あんまりのびないね。この長さだと自分の鼻はなめられないよ。ヒトとしては長い方なのかな? ……手をはなすと、舌が戻った。
アライグマ 「ふあ……へねっく、ひろいのら……」
アライさんは片手で口を覆った。
フェネック 「まだまだだよー。ほら、口をあけてー」
こんどは、両手の人差し指で、アライさんの口を左右に広げた。
アライグマ 「あががが……」
フェネック 「おー、のびるのびるー。ぐーが入りそうだねー」
アライグマ 「ほんらのいれりゃらめなのら!」
わたしが口を広げるのをやめても、アライさんは口を開いたままだった。やっぱり素直だねー。なんでこんなことされてるのか、わかってないだろうに。わたしもわからないけど。
こんどは、右手の人差し指で、ほっぺたの内側をぐりぐりと押した。
アライグマ 「あがが……りゃめ……おあ……」
やわらかい。もちもちした感触。ここもよくのびるね。
アライさんは、ほっぺたがふくらんでへんな顔になっていた。でもこれはこれでかわいい。
それにしてもきれいな歯だなー。人差し指で奥歯をなぞった。
アライグマ 「おえっ!」
フェネック 「おっと」
奥まで入れすぎた。
フェネック 「ごめんねー」
下の歯ぐきとくちびるの間に指を入れて、横になぞった。
アライグマ 「ふあああ!」
上の牙の先端に触れてみると、意外と丸みがあった。とはいっても、他の歯よりもとがっていて飛び出しているから、これで思い切りかまれたら穴が開くね。ちょっと、かまれてみたいかも。
今度は舌の裏側をくすぐった。
アライグマ 「ふへ、ふへへ……」
舌の裏側の、奥の方のぷにぷにしたところを触ってみた。舌といっしょにぷるぷる動く、ふしぎな感触。下はつばがたまってびちゃびちゃ。なんかここえろい……いやえろくないよ。
フェネック 「やー、口の中っておもしろいねー」
アライさんの口から、指を抜こうとした時だった。
アライグマ 「!」
突然、アライさんが、両手で、がしっ! とわたしの右腕をつかんだ。
アライグマ 「ちゅううう……」
アライさんが、わたしの指を吸ってる!
フェネック 「ちょ、ちょっとアライさん?」
アライさんは私の人差し指をくわえて、赤ちゃんみたいにしゃぶっていた。
アライグマ 「ちゅう、ちゅぷ、ちゅぷ……」
アライさんは、ちょっと眉をよせて、怒ったような表情だった。これは反撃だ。
アライグマ 「ちうちう、ちゅぷ、むぐむぐ……」
指先なめられてる! くすぐったいけど、気持ちいいかも……。
フェネック 「ごめんねー、ちょっとやりすぎたよー。怒らないでー」
アライグマ 「ぷは!」
アライさんが、わたしの指をしゃぶるのをやめた。指が空気にふれて冷えた。なんかさびしい。
アライグマ 「フェネック、もっとちゅーちゅーしてほしいのだ?」
アライさんが笑った。さびしいのが伝わっちゃったかな?
フェネック 「んー……してほしいかもー」
アライさんが再びわたしの指をくわえた。指があたたかさに包まれる。
アライグマ 「じゅる、ちゅぷ、んふ、ちゅぷ……」
アライさんは、くわえかたを変えながら指をしゃぶり、舌をからませてくる。
フェネック 「アライさ……んあ……」
ぬるぬるしたやわらかい舌が、わたしの指を絶妙な力加減でなめまわしてくる。
なんだこれ気持ちいい……。アライさん、手先だけじゃなくて、舌も器用なんだね。
アライグマ 「は……」
アライさんが指をしゃぶるのをやめた。アライさんの口と、わたしの指の間に糸ができて、すぐに消えた。えろくない、えろくないはずなのに……。なんでドキドキしてるんだろう、わたし。
アライグマ 「ふふふ……、もっとほしいのだ?」
アライさんが、いたずらっぽく笑った。くやしいけど……。
フェネック 「ほしいよー……アライさん……」
顔を近づけるって、あれだよね? するしかないよね?
アライさんの目をじっと見て、顔を近づけていった。息がかかる距離で、止まった。
アライグマ 「フェーネックぅ……」
アライさんが、熱っぽい目で、切なげな声で、わたしの名前を呼んだ。
ぷちんって音がして、なにかが切れた。
がまん? なにそれ知らない。
アライさんの頭を両手でやさしくおさえて、顔を近づけていった。アライさんの目しか見えなくなった。アライさんが目を閉じた。わたしも目を閉じた。
これまでにも、“遊び”とか、“いたずら”でキスしたことはあった。でも、今回は違う。
最初は、「ちゅっ」と軽いキス。「ちゅっ、ちゅっ」、と何回もしてみる。はずかしさとうれしさで、胸がきゅっとして、顔が熱くなる。わたしの顔や耳は真っ赤になっているはず。くちびるがふるえて止まらない。
ふるえるくちびるをおさえるように、くちびるを強く合わせた。
舌をたっぷりぬらして、アライさんの口の中へ差し込んだ。アライさんの歯は半開きだった。強くくちびるを押し当てて、歯と歯をぶつけないように気をつけながら、舌を深く入れた。
もっと舌が長ければいいのに。元の姿のときは、もっと長かったんだけど……。
つんつんと、舌の先を舌の先にあてて、あいさつした。アライさんは、一瞬ぴくっと舌を引っ込めたけど、すぐに差し出してきて、わたしの舌にやさしく触れた。受け入れてくれたんだ。
ふたりの舌がからみ合う。ぬるぬるの中に、ちょっとざらざらとした部分がある。ぷにぷにとしたやわらかい感じと、舌先に力を入れた時の、ちょっとかたい感触。舌をくるくると回すようにからめ合ったり、押し付けるようにこすり合わせたり、舌の裏側をくすぐったり、口の中をなめあったり……。
ぬるぬるになったくちびるが気持ちいい。やわらかくて、あったかくて、ぷにぷにした感触が、押し当てられたり、こすれたり、離れたり。くちびるを合わせる角度を変えてみたり、、はむはむと口を動かして、くちびるをこすり合わせたり、くちびるをなめたり、くちびるを食べるようにあまがみしたり……。
アライさんは、なにかするたびに、ぴくっと反応するね。かわいい。
アライさんは、こちらがなにかすると、一生懸命に応えてくれる。お互いに、どうすれば気持ちいいのか、どうすればうれしいのか探り合った。
わたしの考えが、舌を通してアライさんに伝わっている。アライさんのやさしさが、くちびるから伝わってくる。そんなことありえないけど、たしかにつながっているんだ。
アライさんは、舌を丸めてわたしの舌を包み込むようにしたり、舌先を細かく動かして刺激してきたりする。器用だね。気分が乗ってきたみたい。リードされてしまいそうだよ。いや、リードされてる? どうでもいいや、そんなこと。
あんまり鼻息が出ちゃうのは恥ずかしいから、くちびるが離れたときに息つぎをするんだけど、ちょっと苦しい。それに、「んん……ぷは」とか、「ちゅ」「ぷちゅ」とか音が出ちゃって、はずかし……いや、興奮する。アライさんのあったかい鼻息が当たるのを感じる。「んん……んー……むぅー」とか、ずっと言ってるのはどっちだろう? わからなくなっちゃった。くちびるを合わせて、「ちゅっ、ちゅっ」ってわざと音を立ててみると、アライさんが少しふるえた。はずかしいのは向こうも同じみたい。
「ちゅっ……んぅ……ちゅぷ、んはぁ……ちゅ、はぷ……む、むぅぅ、ぷちゅ……んんっ……じゅる……」
キスって、こんなにえっちなものだったっけ?
なんでこんなに冷静でいられるんだろう、わたし。理性が飛んじゃったわたしと、それを冷静に見ているわたしがいる。
ちょっと舌が疲れてきたけど、ずっとこうしていたいよ……。ねえアライさん、知ってる? フェネックのキスは、すっごく長いんだよ。覚悟してね。
口の中につばがたまってきた。アライさん、つば出すぎじゃない? でもこの味は好き。わたしのつばとは違う、アライさんの味。薄味で、はっきりとはわからないけど、ちょっとだけ甘い気がする。びちゃびちゃでぬるぬるなのが気持ちいいけど、あふれちゃうよ。
あごをしずくが流れていくのがわかった。あふれてる……。
口を少しすぼめて、くちびるを密着させた。そして、一気に吸った。
アライさんがビクッと反応した。ちゅるっと音がして、口のなかにつばが入ってきた。わたしは、口の中にたまったそれを、味わってから、飲み込もうとした。
次の瞬間、じゅるっという音とともに、口の中のつばが吸い取られた。
やられた。アライさんの喉が、こくんと鳴った。飲んじゃった……。アライさんのつばと、わたしのつばが混ざったものを、アライさんが飲んじゃった……。
これをうれしいって感じるのはどうなんだろう? わたしおかしくなっちゃったかも。……いや、とっくにおかしくなっていた。アライさんのせいだよ。
また舌をからませ合った。あとは、あんまり考えなくていい。流れに身をまかせた。舌の感覚に集中していたせいで気付かなかったけど、心臓が壊れそうなくらい速く動いていた。胸がきゅーってする謎の感覚もつづいている。痛い。うれしい。
へんだよね、わたしとアライさんの関係。わたしたちは違う動物。わたしはイヌ科で、アライさんはアライグマ科。離れすぎだよ。*5 それに、わたしたちはメス同士。*6 このふたりが“つがい”になるなんて、いきものの掟が許さない。*7
わたしがアライさんに近づきすぎると、においで拒否反応が出てしまう。*8 “その子とは距離をとれ”って、本能が言ってくる。これはたぶん、アライさんも同じだろう。でもアライさんのにおいは好き。安心する。なんだこれ、真逆だよ。矛盾してるよ。
理性でもわかってる。アライさんとくっつくのは悪いことだって。不自然なことだって。
本能も理性も、全力で、“アライさんと距離をとれ”って言ってるのに、なんでくっついちゃうんだろう?
これは、わたしがアライさんを大好きだから、としか言えない。本能をはねのけて、理屈や常識を壊してしまうくらい好き。
なんでこんなに好きなんだろう? フレンズ化したから? アライさんがかわいすぎるから? 危なっかしくてほっとけないから? わたしにはない行動力にひかれるから? それじゃ説明がつかないよ。それに、どうしてアライさんは拒否しないんだろう? なんでわたしを受け入れて、求めてくるんだろう。
考えてもわからない。ただ、今はとってもしあわせ。
少し目を開けた。アライさん、なんだか苦しそうだね。わたしもちょっと苦しいかも。ちょっと休もうか。
くちびるを離した。ふたりのくちびるの間に糸ができて、すぐに消えた。
アライグマ 「は……はあ、はあ……」
濡れたくちびるが空気にふれて冷えた。切ない。もっとくっついていたいのに。
フェネック 「ふー」
おいしかったよ、アライさん。
アライグマ 「ふへー」
アライさんは、顔を赤くして放心していた。その顔もかわいい。
アライグマ 「フェネック? なんで泣いてるのだ?」
アライさんは、ふしぎそうな顔でこちらを見た。
え? わたし泣いてる? ほんとだ、こぼれてる。わたしは、指で涙をぬぐった。
フェネック 「……なんでだろうねえ」
わたし、わかっちゃった。うれしいから、しあわせだから泣いた、っていうのもあるけど……。
フェネック 「ごめんね、アライさん。わたし、こわしちゃった。アライさんと、ともだちじゃ、なくなっちゃったよ……」
ふたりの、いちばん大切なもの、こわしちゃった……。自分のことばが自分に返ってきて、心にグサッて刺さった。痛い……痛いよ……。
アライグマ 「なにを言ってるのだ? フェネックはともだちなのだ。こわれてないのだ」
フェネック 「え?」
アライさんこそ、なにを言ってるの?
アライグマ 「フェネックとは、なにがあっても、ずっと、ずーっといっしょなのだ!」
フェネック 「でも、こんなことしちゃったら、もう、ともだちじゃないよ?」
アライさんは目を丸くした。
アライグマ 「こいびとになったのか?」
フェネック 「え? あー、そうだねぇ……」
まっすぐに言うねアライさん……。アライさんから目をそらしてしまった。はずかしいよ……。それにまた涙が……。
アライグマ 「じゃあじゃあ、ともだちで恋人なのだ! 両方なのだ! ふたりはもーっとなかよしになったのだ!」
わたしは驚いて、アライさんの顔を見た。
アライさんは、まぶしいくらいの笑顔だった。ぼやけて見えるのがもったいないくらいの。
すごいね……。わたし、アライさんのそういうところ、まねできないよ……。
わたしは、アライさんの、そういうところが……。
フェネック 「よくばりだねー」
だいすき。
フェネック 「アライさ…ぅ………っ……」
笑おうとしたけど、失敗しちゃった。
わたしは、アライさんから顔をそらして、うつむいた。鼻の奥がツンってする。
こまったな……涙が止まらないよ……。涙をぬぐっても、ぬぐっても、あふれてくる……。
アライグマ 「どうしたのだフェネック! なんで泣いてるのだ!」
もう一回キスを。いや、一回じゃ終わらないね……。
フレンズのけもの耳には、耳介(外に見えている部分)しか存在しないのか、四次元ポケット的なものなのか、脳に食い込んでいるのか……謎です。加えて、けもの耳の内耳と、ヒトの耳の内耳の関係はとうなっているのか? つながっているのか? という疑問もあります。
本物のネコやイヌの場合は、耳が後頭部寄りについており、大脳が小さめで、耳道が大脳の下に回り込むようにL字に曲がっています。
筆者は、このあたりの理由から、けもの耳があるキャラのデザインで、耳が後頭部寄りに付いているのが好きなんです。耳と後頭部がスムーズにつながっているとさらに良いです。それなので、2期のサーバルの後頭部が好きです(後頭部フェチ)。あとフェネックみたいに横に広がる耳も好きです。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
「ジャパリ・フラグメンツ」とは別で投稿した「ふたつのホテル」で、選択肢(リンクタグ)を使ってみて面白かったので、選択肢で遊んでみました。選べない選択肢に深い意味はありません。全部書くと結構なボリュームになるので、「ジャパリ・フラグメンツ」じゃなくて、単品で投稿しないといけなくなります。
一人称にした理由は、選択肢とキスのためです。でもフェネックが別人になっています。
“どこかで見たような”、“今さらこんなものを?” という内容ですが、思いついてしまったので書きました。思いついたものを片っ端から書いていくのが「ジャパリ・フラグメンツ」です。あと、“今だからこそ”という気持ちもあります。
ふたりが恥ずかしいくらいべったりで、最後に泣いちゃうのは完全に私の好みです。似たようなものをいくつも書いています。
“アラフェネは原作の距離感がいいんだよ!”って思われる方も多いと思います。私もそう思いますごめんなさい。
〈 おねつ 〉や〈 せっきん 〉は、私が寝る前、布団の中でぼんやりしていた時に思いついたものです。そういう時って、変なものが浮かびやすいんです。他のおはなしも、寝る前に思いついたものが多いです。頭の中でキャラが勝手に会話を始めることもあります(病的)。ただ、さすがにそのままでは作品にならないので、かなり練って、膨らませて書いています。
このおはなしでは、「ジャパリ・フラグメンツ」では初めて、脚注タグを使いました。「とどけこえ」で使ってみて、便利だったためです。
私の作品は異常に脚注(注釈)が多いです。脚注タグなしだと、読者が本文と脚注を行ったり来たりして読む必要がありました。書く時にも、脚注を追加した際、脚注の番号を手作業で変更するとか、番号に間違いがないか確認したりするのが結構面倒でした。脚注タグを使えばこれらの問題が解決できます。
ただ難点もあります。
・ 今まで私は、“メモ帳で打って投稿欄にコピペ”(手元にはテキストファイルを残す)というやり方をしていました。ここで脚注タグを使うと、プレーンテキストとしては見づらく、書きづらくなります。それなので、タグはあんまり使いたくなかったんです。書いて投稿する手順を根本的に変えるべきかもしれません。
・ 脚注が長いと、マウスオーバーさせて表示させた時に読みにくくなります。
・ 脚注に画像を張ると、マウスオーバーで表示させた時に見づらいです(そもそも脚注に挿絵を貼るのが間違い)。
・ 脚注(本文の後に表示されるもの)のフォントサイズが小さめで、ちょっと読みづらいです。ただ、これはブラウザの拡大機能を使えば済む話なので、私の好みの問題です。
文字拡大タグを使えば大きくできますが、あんまり複雑にしたくないんです。
そもそも、こんなに脚注(注釈)に力を入れているのがおかしいのですが、「ジャパリ・フラグメンツ」ってそういう作品なんです。
おまけ
カットした部分です。
かるいキスだった。
アライグマ 「ううう……」
あれ?
フェネック 「どうしたのアライさん」
アライグマ 「フェネッ!」
フェネック 「お?」
ドンっと押し倒された。
フェネック 「おお?」
なんか切れちゃった? わたしのせい?
アライグマ 「フェネックううう……」
怖い顔してるつもりかもしれないけど、かわいくしか見えないよ。
アライグマ 「うっ!」
アライさんがわたしの服に手をかけ、乱暴に脱がしてきた。これは……本気っぽい。服がやぶれちゃうよ。まあそれも悪くないね。
アライグマ 「うううう……」
なんかへんだね……。まさかビースト化!? いやだよそんなの! そうだ、試してみよう。
フェネック 「だいすきだよ、アライさん」
アライグマ 「知ってるのだぁ!」
よかった。理性は残ってるみたいだね。今のアライさんも、ある意味ビーストだけど。
いつの間にか、下着だけの姿にされてしまっていた。
フェネック 「いそいじゃだめだよアライさん。もっとゆっくり」
アライグマ 「むりなのだ! フェネックがフェネックだからフェネックがいけないのだ!」
わかるようなわからないような……。これは止めようがないね。とりあえず、されるがままでいよう。
アライさんが、わたしの下着を脱がしていく。
わたし、アライさんに、なにされちゃうんだろう。たのしみだなー。もちろん反撃しちゃうよ。負けないからね。
ここから先は見せられないよ。ふたりだけのひみつ。
[ 初投稿日時 2019/06/19 19:19 ]