ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 このおはなしは、半分くらい原作の設定から外れています。「いつ」という設定はありません。



〈 おり 〉

 

 たくさんの檻がある、普通の動物園。*1

 

 サーバルとかばんが、ジャパリまんを食べていた。かばんがジャパリまんに口をつけようとした時、サーバルがぽつりと言った。

サーバル 「なんかにがいねーこのジャパリまん……」

かばん  「わ! それ食べちゃだめ! はきだして!」

サーバル 「のんじゃった……」

かばん  「ぅええ!」

サーバル 「食べないともったいないよ。はむ……」

 サーバルはさらに食べ進めた。

かばん  「またこの前みたいになるよ!」

サーバル 「かばんちゃんもたべなよ! 毒じゃないんだし。……たぶん……」

かばん  「…………はむ……」

 かばんはちょっと悩んでから、ジャパリまんを食べた。

 

サーバル 「あ! このにおい!」

 サーバルが何かに気づいて駆けだした。嬉しそうだった。

かばん  「なに? どうしたの?」

 動物園の檻*2 に、サーバルとかばんが駆け寄った。

かばん  「あの子、もしかして……」

 檻の向こうから、黄色い、四つ足の動物が近づいて来た。

サーバル 「サーバルだよ! わたしとおなじ!」

 それは、元の動物のサーバルだった。ネコ科特有の曲線を持ったシルエットと、細長い四肢。

かばん  「きれいな動物だね……」

 フレンズのサーバルが、檻に右の手をのばした。檻には、格子の棒の間をふさぐように網が張られていた。

サーバル 「みゃあ」

 サーバル(単に「サーバル」と表記したものは「フレンズのサーバル」のことです)は、普段とは違う低めの声を出し、檻の網に手をあてた。

サーバル 「みゃあ、みゃああ」

 四つ足のサーバルが、フレンズのサーバルの手のにおいをかいだ。そして前足でサーバルの手に触れようとした。だがふたりの手の間には網があり、直接触れ合うことは出来なかった。

サーバル 「うみゃ!」

 サーバルは、何かに驚いて檻から手を離し、檻の向こうの同種を見つめた。

サーバル 「つめ出さないでよー」

 サーバルは困ったような顔をした。

かばん  「サーバルちゃん、だいじょうぶ?」

サーバル 「ちょっとあいさつしただけだよ」

 サーバルはかばんを見て明るく言ったが、すぐに視線を自分の手に移し、暗い表情になった。

サーバル 「……せめて、手をにぎってみたいのに……」

かばん  「サーバルちゃん……」

サーバル 「このくらいのあみあみ、その気になれば……」

 サーバルが、猫パンチの構えをとった。

かばん  「だめ!」

サーバル 「やぶれるよっ!」

 ヒュン! と、サーバルの爪が空を切った。引っかくまねだけだった。

 檻の向こうの、四つ足のサーバルが驚いて、少し檻から離れた。

かばん  「そういうことはしない約束でしょ?」

サーバル 「わかってるよ。冗談だよ」

 サーバルは、かばんに笑顔を向けた。四つ足のサーバルは、振り返って、フレンズのサーバルをじっと見つめていた。

サーバル 「この子、外に出たいんだよ。ひろーいサバンナで、おっきななわばりを作って、走り回って……」

かばん  「それは……飼育員(ラッキー)さんにお願いすれば、なんとかできるんじゃないかな? ぼくたちのいたサバンナに放してあげるとか……」

サーバル 「いいねーそれ! でも……」

かばん  「でも?」

サーバル 「ほかの子、食べちゃうかも……」

かばん  「それは……飼育員(ラッキー)さんが、食べものをあげてくれれば……」*3

サーバル 「そうだね。でもそれって、ほんとうのサバンナじゃないんだよ?」

かばん  「パークの外には出られないし、出られたとしても、ほんとうのサバンナなんて、どこにあるかわからないね……」

サーバル 「この子もあきらめちゃってるんだ。出られないって、分かってるから」

かばん  「かわいそうだね……」

サーバル 「でもね、恵まれてるんだよ、この子」

かばん  「恵まれてる?」

サーバル 「獲物がとれなくて死んじゃうこともないし、けがや病気をしたらボスが助けてくれる。ほんとうのサバンナは、そうはいかないよ。パークよりもずっと、ずーっときびしい場所なんだ。この子が行ったら、たぶん、すぐに死んじゃうね」

かばん  「ここに慣れちゃったら、もう戻れないんだね……」

サーバル 「わたしもジャパリまんもらって生きてるから、この子といっしょだけどね」

かばん  「それはぼくもおなじだよ」

サーバル 「わたしには、かばんちゃんにないものがあるよ」

かばん  「え?」

サーバル 「たまに、心の奥のほうからわいてくるんだよ。『狩りごっこでつかまえた子を食べたい』っていう気持ちが」

かばん  「なにかが、まだ残ってるんだね……」

サーバル 「やだなー、そんなのいらないよ。ここじゃ、役に立たないのに」

かばん  「ぼくのことも、食べたいって思った?」

 かばんは、明るい感じで言った。

サーバル 「お、思わないよそんなこと!」

 サーバルは、あせったような様子だった。

 四つ足のサーバルは、サーバルの声に少し驚いて、すたすたと歩いて檻から離れて行った。

かばん  「行っちゃった」

サーバル 「ん……あの子見てたら、たべたくなっちゃった……」

かばん  「えぇ!」

サーバル 「うみゃー、からだあつい……うみゃーぁ…………ほしいぃ!」

かばん  「たべっ!」

 サーバルが、かばんを押し倒して、のしかかった。

かばん  「なんで! どうしたのサーバルちゃん!」

サーバル 「かばんちゃん、ちょうだい……」

 サーバルは顔が赤く、とろんとした目をしていた。酔ったような様子だった。

かばん  「サーバルちゃん! あんなの食べるからだよ……」

サーバル 「うみゃーあ、うみゃー、うみゃみゃみゃーあ……」

 サーバルは、とても甘い声で鳴きながら、かばんに頬ずりした。

 そして自分のスカートのベルトに手をやった。少し腰回りをいじったところで、手を止めた。

サーバル 「あれ? 毛皮とるのどうやるんだっけ?」

かばん  「ふぇ?」

サーバル 「手伝ってよかばんちゃん!」*4

 サーバルは明るく言った。

かばん  「今はだめだよサーバルちゃん!」

サーバル 「どうして? かばんちゃんもドキドキして、へんな気分でしょ?」

かばん  「ぐ……飼育員(ラッキー)さんに怒られるよ!」

 サーバルは、頬が赤くなったかばんの顔を覗き込んだ。

サーバル 「そんなことないよ。よろこんでくれるんじゃない?」

かばん  「お部屋に戻ってからにしようね」

 かばんは、サーバルの顔を見て微笑んで、その頭をくしゃくしゃとなでた。

サーバル 「うみゃみゃ……ううー……ちょっとがまんするよ……」

 

 

 ふたりが、檻とは反対の方を見た。そこにはコンクリートの壁があった。壁にはドアがあり、そのドアは金属の格子になっていた。ふたりの周りは、金属の檻とコンクリートの壁で囲われていて、出口は壁にあるドアだけだった。

 

サーバル 「はやく、あけてくれないかなー」

 

 

 檻の外、先ほど四つ足のサーバルがいたあたりに、案内板があった。*5

 

 案内板には長めの文章が書かれていた。以下は、その一部である。

「特別展示:よみがえるヒト」

「……年7月7日に、保護されたヒトのフレンズ No.02 と、サーバルのフレンズ No.28 のペアリングに成功したよ。ヒトのフレンズとフレンズのペアリングは、いまのところ、これが世界で唯一の例だよ」

「いま2匹は同じ飼育舎で暮らしていて、ヒトの絶滅を防ぐための繁殖実験が行われているよ」*6

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

*1
 ジャパリパークのどこかにある、動物園のような場所です。動物園の中に動物園があるという謎設定です。研究施設だったのかもしれません。この「動物園」がパークのどこにあるのかも不明です。

*2
 檻の詳細はあとがきに書いてあります。

*3
 ラッキービーストは、非フレンズの動物には一切干渉しないという可能性もあります。でもジャパリパークは動物園なので、多少は世話をするのではないかと思います。

*4
 温泉ではひとりで脱いでいた気がしますが、野生に戻ったせいで分からなくなってしまったようです。あるいは、分からないふりをしているだけかもしれません。

*5
 当たり前ですが、四つ足のサーバルは文字が読めません。

*6
 どちらが母親になるのかは不確定です。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 またこんなものを書いてしまった……。
 「動物園って何のためにあるの?」という問いと、2期第8話の、「キュルルが檻に入れられて連れて行かれるシーン」と、トキについて調べたことが混ざった結果です。
 「動物園って何のためにあるの?」という問いについては、筆者の言いたいことが書けませんでした。別の期会に書きたいと思っていますが、別の期会なんてあるのかな……。
 今回もサーバルがおとなしめで、少し達観している別人になってしまいました。

 苦いジャパリまんは、ただ苦いだけで、おくすりは入っていません。通好みの味です。




 ―― 「家族」「親子」について ――

〈 おり 〉では、サーバルとかばんが親にさせられようとしています。私は、このふたりが親になるおはなしをいくつか書いていますが、これは「けものフレンズ」のコンセプトから外れていると思います。

 けものフレンズでは、「家族」や「親子」というものはほとんど登場せず、「友達」という関係が中心です。これは、アニメの1期と2期に共通しています。でも、サーバルにも親がいたはずです。キュルルにも家族がいたようです。かばんは特殊ですが……。

 2期では「家族」を「おうち」に置き換えて、間接的に「家族探し」を描いているとも言えます。でも、サーバルとカラカルはキュルルの親代わりではなく「友達」です。キュルルには、親や家族がいないどころか、その記憶すらないです。「家族」や「親」という単語すら出てきません。徹底しています。(ここにイエイヌが絡むのが、2期の重要なポイントでしょう)

 けものフレンズには、全ての生き物にとって重要な、「子孫を残すこと」が描かれていません。 パークには、フレンズ化していない動物がいるはずですから、元の姿での繁殖はできるでしょう。でもヒトはあまりにも少ないです。このままではヒトは絶滅するでしょう。(かばんとキュルルの他にもヒトがいる可能性はありますが)
 これは、キタシロサイなどが置かれた状況に似ています。動物を絶滅寸前に追い込んで、そのあと無理やり繁殖させるというのは、ヒトの勝手さだと思います。でも、生き物の絶滅を防ぐために必死の努力をされている方たちを悪くは言えない、とも思います。

 けものフレンズ(アニメ)では、「家族」や「親子」そして「子孫を残すこと」は間接的に描いたり、におわせたりするだけで、直接的には描いていません。意図的に避けているのでしょう。私は、これは「けものフレンズ」のコンセプトによるものだと思っています。
 私は、それを悪いこととは思っていません。そういったものを真正面から描くと、ありきたりなものになりそうですし、けものフレンズのコンセプトから外れます。ただ、動物がテーマの作品で「親子」や「子孫を残すこと」を描かないでいいのか、とも思うんです。
 そういった、原作では描かれなかったものを、二次創作で書くのも面白いのではないかと思っています。いや、私が書くとそういう変な方向に行ってしまうだけなんですが。




 ―― 檻の設定 ――

・ 太い金属の格子の檻に、細い線の網が張られている。
・ 檻の棒の間隔は100mmくらいあり、網が無ければヒトの手が通る。
・ 網は、網の線が斜めに交差するタイプで、網の目一つの大きさは15mmくらい。
・ 太い金属の格子は、強い素材(チタン合金?)で出来ている。サーバルには破壊できない。
・ 檻の網も、とんでもなく強い素材(非金属)で出来ている。サーバルの本気攻撃でも、破れるかは五分五分。
・ 「壁にあるドア」の向こう側はバックヤードで、二つの「飼育室」がある。現在(作中の時点)飼育室は一つしか使われていない。
・ 飼育室には監視カメラがある。


 [ 初投稿日時 2019/07/07 07:07 ]
 
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