ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 遠いようで近い未来、あるいは遠い遠い過去のおはなしです。
 暗いです。ラッキーさんがひどい目に遭いまくります。

 


〈 深く静かに 〉

 

 [ 定時連絡0800 来園者(ゲスト)1名 宿泊者(ステイ)0名 予約0名 出勤職員1名 ]

 

 

 

 朝のサバンナ。

 

 ラッキービーストが、関節が壊れてキコキコと鳴る右足を引きずり、少し不自然に揺れながら歩いていた。そのラッキービーストはかごを耳の部分で持っており、かごには10個ほどのジャパリまんが入っていた。

 

 

 

 [ / 第444回全域測量 レポート497 / による地形データ更新 28530412497288点*1 ]

 

 [ 中継所(フォージ) こちらサバンナ16 追跡不能 ターゲット発見できず ]

 

 

 

 午前、遊園地。

 

 錆びてボロボロになったローラーコースターのレールを、色あせた車両が、ガタガタとひどく振動しながら走っていった。

 車両の向かう先のレールのつなぎ目が、30cmほど縦にずれていた。

 車両がレールのずれた部分に激しく衝突し、レールが折れ、車両が落下した。

 レールが、それを支える錆びた支柱もろとも崩壊した。

 車両はコンクリートに叩きつけられ、ぐしゃぐしゃにつぶれ、部品が飛び散った。その上に、崩壊したレールの破片が降り注いだ。

 つぶれた車両の中に、半分つぶれたラッキービーストが乗っていた。その足は前後に動いていた。

 つぶれたラッキービーストの上に、大きな鉄骨が降ってきた。

 

 観覧車のゴンドラが、一つ落下した。

 

 

 

 [ 追跡不能 ターゲット発見できず ]

 [ 追跡不能 ターゲット発見できず ]

 [ 追跡不能 ターゲット発見デキズ ]

 [ 追跡不能 ターゲット発見デキズ ]

 [ 追跡不………………………。

 

 

 

 温暖湿潤気候の草原。

 

 ラッキービーストが、ブーンといううなりとシャリシャリという音をたてて、草を刈っていた。

 そのラッキービーストは、高さが自分の背丈の3倍以上ある草やぶに突っ込んでいった。

 ラッキービーストが草に隠れ、音が変わった。うなりは、くぐもった音になり、ブーウン、ブーウン、と、苦し気に途切れ途切れになった。草はあまりにも多く、硬かった。

 草刈りの音が止まった。小鳥の声が聞こえた。ラッキービーストの姿は見えなかった。

 

 

 ………………………見デキズ ]

 [ 追跡不能 ターゲット発見デキズ ]

 [ 追跡不能 ターゲット発見デキズ ]

 [ --------------** ]

 [ 森林東4区 給餌作業終了 完了2 失敗74 ]

 

 

 

 昼、岩石砂漠。

 

 砂漠仕様のラッキービースト*2 が、かごを耳の部分で持って歩いていた。

 突然、ラッキービーストのバックパックが爆発し、火を噴いた。大量の灰色の煙があがった。

 ラッキービーストが固まって、前のめりに、ゴン、と倒れた。

 落ちたかごから、たくさんの、金属、プラスチック、ゴムなどの部品が転がり出した。

 部品の中には、ラッキービーストのフレームの破片、外皮の一部、耳の内部の部品、しっぽの一部、足の部品、ベルトの切れ端などが混じっていた。

 

 

 

 [ 第17保管庫 ジャパリまん 廃棄6282 残数2801 追加製造12 ]

 

 

 

 平原。

 

 色あせて一部が割れたボールプールに、黒っぽい灰色の砂が入っていた。その砂の中には、少し白っぽい灰色の、割れたボールがたくさん入っていた。

 ボールプールのそばに、かごを持ったラッキービーストがやってきた。

 ラッキービーストは、かごに入っていたボールをプールに注ぎこんだ。

 だが、新しいはずのボールも灰色で、注ぎ込まれた瞬間、シャボン玉のように壊れて消えた。

 

 

 

 [ 緊急事態 緊急ジタイ ヴァリー45にて深刻な浸水発生 排水ポンプ破裂 予備ポンプ起動不能 -- 地下2階放棄 -- AWA AWAWAWA AWA WA AWA AWAWAWAWAWAW ---- 通信途絶 ]

 

 

 

 午後、サバンナ。

 

 右足が壊れたラッキービーストが、幅50cmほどの溝を飛びこえようとした。

 だが右足が壊れた状態ではジャンプ力が足りず、溝に引っかかって転んだ。

 そして、溝に落ちて、少し落ちた所で溝に挟まった。

 いくつかのジャパリまんが溝に落ちていったが、ラッキービーストは、しっぽを使ってかごを死守した。ジャパリまんは二つだけ残った。

 ラッキービーストの左足が、偶然段差に引っかかった。

 ラッキービーストは足の関節を限界以上にのばして、強引に溝を脱出した。バキッと音がした。

 

 

 

 [ …………答なし 通信不能 応答なし 通信不能 応答ナシ 通信不能 応答ナシ 通信不能 応答ナシ 通信………… ]

 

 

 

 雪山。

 

 崖に大きな扉があった。扉の下の方は雪に埋もれていたが、除雪の痕もあった。*3

 ガガガガコン! とロックを解除する音がして、プシュー、と空気音がした。

 大きな扉が、雪を押し退けながらゆっくりと外側に開いた。

 開いた出入り口は、大型トラックが通ってもかなり余裕がある大きさだった。扉は分厚い一枚扉で、金庫か核シェルターのようだった。

 

 出入り口から、大型のクローラー(キャタピラ)を付けた、寒冷地仕様のジャパリバス、改め、ジャパリトラック*4 が出てきた。ジャパリトラックは、やわらかい雪を蹴散らし、雪に埋もれそうになりながら走り出した。

 運転席には、寒冷地仕様のラッキービースト*5がいた。

 客席を大きく改修した荷台には、たくさんの円筒形の物があった。それらは、行儀よく積み上げられていた。

 円筒形の物の大きさは様々で、ドラム缶ほどのものから、ジャム瓶ほどのものまであった。大型のものは金属製で、それ以外は白い陶器製だった。それらはしっかりと蓋が閉まっていた。

 円筒形の物の側面には、灰色のジャパリパークのシンボルマークがあり、そのわきに、動物の名前が、和名、英名、学名で書かれていた。日付らしき数字や、バーコードもあった。

 そして蓋には、“生物災害(バイオハザード)の記号”があった。

 

 

 

 [ / 崩壊危険度5/ の建造物 328か所 解体決定 -- / 解体困難 / 111か所 整備を続行 ]

 

 

 

 雪深い森の中の広場に、寒冷地仕様のジャパリトラックが止まった。

 そこでは、別のラッキービーストが、大きな機械を使って雪の下の地面を深く掘っていた。

 周囲は丸くて深い穴だらけで、そのそばには盛り土があった。

 

 

 [ サクジツの機能停止・行方不明17体 本日は25体の予定 修理完了4体 新造機2体 -- 残存個体………… ]

 

 

 

 夕方、研究所のそばの林。

 

 そこは背の高い草が茂り放題だった。その中に、草が刈り取られている部分が少しあった。

 そこには、半分コケに覆われた、ヒトの頭ほどの大きさの四角い石が、仲良く二つ並んでいた。

 それぞれの石の前に、黒っぽい茶色になって形が崩れたジャパリまんが、一つずつあった。

 そこへ、ラッキービーストがやってきた。

 ラッキービーストは、ジャパリまんが二つ入ったかごを持っていた。右足が失われており、壊れた左足としっぽを使って、カックンカックンと揺れながら歩いていた。体は土で汚れ、外皮の隙間から煙が漏れ出していた。

 ラッキービーストは、茶色に変色したジャパリまんを拾い上げて、新しいジャパリまんをそれぞれの石のそばに置いた。

 

 

 [ LB-1E型 登録番号8101 メイン思考モジュール中枢神経細胞(ニューロン)チップ/ MIRAI-V5-M256 /

診断結果:過熱による破損 ]

 

 

 ラッキービーストは身動きせず、二つの石を見つめた。

 しばらくの間、見つめていた。

 ラッキービーストは、石に背を向けて、またカックンカックンと揺れながら去っていった。

 

 

 [ LB-1C型 登録番号2235 メイン思考モジュール中枢神経細胞チップ/ MIRAI-V2-M120 /

診断結果:診断不能 物理衝撃ニヨル破損と推定 ]

 

 

 二つの石の近くには、大きな木があった。

 その木のそばへ、ジャパリまんを交換したラッキービーストが、力なく歩いてきた。

 ラッキービーストは、その木の根元にぽてっと倒れ込んで、動かなくなった。

 体から出ていた煙が収まり、目と、胴に付いているレンズ部分の光が消えた。

 近くには、半分草に埋もれてコケに覆われたラッキービーストの残骸が数体転がっていた。

 

 

 

 [ LB-1C型 No.1138 思考module中枢神経細胞チップ/ MIRAIsan-V2-X100 /

診断結果:診ダ断unable 経年劣化劣化ニヨヨヨル破損EEE推定定 ///^,-,^///? ]

 

 

 

 夜のサバンナ。

 

 月明かりの中、光る目が動いていた。それは、空のかごを持ったラッキービーストだった。

 

 

 

 [ 定時連絡2000 来園者0名 宿泊者0名 予約0名 夜勤職員0名

 アニマルガール生息数 推定1名 ]

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 三次元測定の測定点の数です。

*2
 砂漠仕様は、外皮が紫外線に強く断熱性のある素材になっています。強力な冷却システムを持っており、バックパックのラジエーターから放熱しています。ここには予備のバッテリーも入っています。

*3
 除雪したあとに再び雪が積もったようです。

*4
 このトラックは、アニメ1期に登場したような小型のクローラーではなく、雪上車のような大型のクローラーを持っています。荷台もバスより大きいです。

*5
 寒冷地仕様では、低温に耐えられる外皮の内側に、断熱素材が張られています。保温・冷却システムなどが通常型と異なります。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 このおはなしは、1970年代の、とあるSF映画をヒントにしています。地味な映画ですが、名作だと思うんです。後の作品に影響を与えていますし。 ヴァリー45。
 いや、あの映画とこのおはなしでは、内容が全然違うんですが。
 このおはなし、あの映画の他にも影響を受けた作品があります。 444。

 「フレンズがいなくなったパーク」を書きたかったんです。でも書きたかったものとズレてしまいました。もうちょっと、なんとか……こんな風にできたら……っていうのがあったんです。

 「定時連絡」でカウントされているのは誰でしょう?

 

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