ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 アニメ2期 第1話のIFのおはなしです。

 流血と、痛い話があります。

 


〈 危険極まり 〉

 

 サバンナの『 危険極まりない溝 』。

 

カラカル 「下ばっかり見ないで顔を上げなさい」

キュルル 「あ……」

サーバル 「キュルルちゃん、前向いて、おもいっきり跳べばだいじょうぶだよ」

カラカル 「あたしたちがついてるし」

 

 

―――― 『根拠のある自信』も、時として命取りになる。 ――――

 

 

キュルル 「……うん!」

 キュルルが少し下がって、助走した。

 

 

―――― 難易度を見極めるのは難しい。 ――――

 

 

 溝は思いのほか幅が広かったが、子供のジャンプ力でも超えられるものに見えた。*1

 ……フレンズの身体能力が基準ならば。

 

 

―――― どうしようもない力の差、苦手なことは、当たり前にある。 ――――

 

 

サーバル 「え……」

カラカル 「ああ!」

 サーバルとカラカルは驚いた。キュルルの助走で何かを察して。

 

 

―――― 大多数の者が簡単にできることでも、できない者が必ずいる。 ――――

 

 

キュルル 「えいっ!」

 

 

―――― 不注意による失敗は、頻繁に起きる。 ――――

 

 

 キュルルのつま先が、溝の手前のわずかな段差に引っかかった。

 

 

―――― 突然の不運な出来事も珍しくない。 ――――

 

 

 ジャンプ時に踏ん張るはずだった地面が、少し崩れた。

キュルル 「わ……」

 キュルルは大きく体勢を崩した。やや前のめりになり、横にも傾いて、足から溝に吸い込まれるように落ちていった。

 

 サーバルとカラカルが、キュルルに向けて手をのばした。

サーバル 「キュルルちゃん!」

カラカル 「キュルル!」

 

 

―――― 助けは間に合わないことも多い。 ――――

 

 

 キュルルは、ふたりの手をすり抜けて、溝に落ちていった。

 

キュルル 「うあっ!!」

 キュルルは、溝の内面の壁にある突起に左腕をぶつけ、肩をこすった。

キュルル 「く……ううっ……」

 そして壁にへばり着くように手足をついたが、こすれただけで、落下は止まらなかった。

 

 

―――― 不運と同じくらい、幸運もある。 ――――

 

 

キュルル 「ぐっ!」

 キュルルの足が溝の壁の大きめの段差に乗った。*2 その直後、キュルルは壁の凹凸につかまった。

 落下が止まった。

 

 溝の中は暗かったが、上から斜めに差し込む光で、うっすらと見えた。*3

 

 

―――― ヒトの皮膚は薄く、敏感で傷つきやすい。 ――――

 

 

 キュルルの服の左袖が破れており、肩や腕から血がにじみ始めていた。弱い光の中で見えた傷は、それだけだった。

 

 3人が溝を覗き込んだ。

カラカル 「キュルルー!! のぼれる!?」

 

 キュルルは、少しの突起に右手をかけた。

 

 

―――― ヒトの身体能力は低い。 ――――

 

 

キュルル 「んっ……ううう……」

 キュルルは壁を登ろうとしたが、体を持ち上げるには力が足りず、登れなかった。

キュルル 「これ以上は、むり……」

サーバル 「がんばって!」

カルガモ 「むりにのぼると落ちますよ!」

 

 

―――― 良かれと思ってやったことが、裏目に出ることもある。 ――――

 

 

サーバル 「いま行くよ! うみゃ!」

 サーバルが、溝の中へ飛び下りようとした。

 

 

―――― 強い者も、時には無力である。 ――――

 

 

カラカル 「だめよサーバル! あんたじゃ絶対落ちるわ!」

 カラカルがサーバルの腕をつかんで止めた。

サーバル 「なんでー! 行かなきゃ!」

カラカル 「あたしが行く!」

 

カルガモ 「わたしがいきます!」

サーバル&カラカル 「カルガモ!」

 

 カルガモが飛んで、溝の中へ下りていった。

 

カルガモ 「見えない……キュルルさん!」

 溝の中は暗く、キュルルの頭や肩がうっすらと見えるだけだった。

キュルル 「カルガモさん!!」

 カルガモは、キュルルの腰をつかもうとした。

キュルル 「うああっ!!」

 キュルルの足が段差から離れ、落下しそうになった。

カルガモ 「キュルルさん!!」

 

 

―――― 救助は成功することも多い。 ――――

 

 

 カルガモは、かろうじてキュルルの左腕をつかんだ。

 

 

―――― 成功の副産物として、新たな問題が生まれることも多い。 ――――

 

 

 壁を離れた次の瞬間、キュルルの左腕がねじれ、無理な方向に曲がった。

キュルル 「ーーー!!!」

 キュルルは声にならない叫び声をあげ、左腕で宙吊りになった。

 

 カルガモは、そのままキュルルを引き上げていった。

 

 

 カルガモが溝から出て、キュルルをふたりのそばへ下ろした。

 

キュルル 「いたた……」

 キュルルは地面に座り込んだ。

サーバル 「血が! ひどい……」

 キュルルは、服の袖がやぶれた左肩や、二の腕、ひじ、両手などから出血していた。肩の傷がひどく、血が腕を伝って地面に流れた。

カルガモ 「だいじょうぶ。ちょっと待ってね」

 カルガモは、エプロンを引き裂いて、それを包帯にしてキュルルの傷に巻いていった。*4

キュルル 「うぅ……いたっ!」

カラカル 「もう、何やってんのよぅ……」

 カラカルは泣きそうだった。

サーバル 「ごめん、こんなことになるなんて……」

キュルル 「……くうぅ、痛い痛い…うあっ!!」

 カルガモが肩の包帯を締めた瞬間、キュルルが、ビクッと震えた。

 

 

―――― ヒトの体は、とても頑丈で、ひどくもろくて、繊細にできている。 ――――

 

 

 カルガモが顔をしかめた。

カルガモ 「……キュルルさん、肩は動く?」

キュルル 「えと」

 キュルルは、左腕を上げようとした。

キュルル 「ぐっ」

 だがキュルルは、すぐに左肩を押さえ……

キュルル 「ぅああっ!!」

 ……苦痛に顔を歪めた。

カルガモ 「肩がはずれてる……助けを……」*5

 

サーバル 「キュルルちゃん……」

 サーバルが何かを決心したように立ち上がり、しゃがんでキュルルに向かい合った。

 そして、右手でキュルルの左腕をやさしくつかんだ。

カルガモ 「だめです!」

キュルル 「ぅえ?」

 左手はキュルルの左肩にそえた。

カラカル 「やめなさい!!」

 

 

―――― 治療は、リスクと表裏一体である。 ――――

 

 

サーバル 「ごめんっ!」

 サーバルはキュルルの左腕を強くひねった。音はせず、コクッと肩の関節が動いた。

 

キュルル 「うああああーーー!!!」

 

カラカル 「うぅ……やめなさいって……」

 カラカルは苦い顔をして、キュルルから顔をそらした。

 

 

 少し経って。

 

キュルル 「ううう、えぐっ、ぐす……」

 キュルルが涙をぬぐうと、顔が血で汚れた。

 キュルルの左腕は、包帯でぐるぐる巻きになっていた。

サーバル 「治すのが得意なフレンズを探さなきゃだね」

カルガモ 「ごめんなさい。わたし乱暴に……」

キュルル 「…………」

カラカル 「キュルル?」

サーバル 「ああするしかなかったんだよ。助かって良かったじゃない」

 

 

―――― 事故の責任の所在は、不明瞭になりやすい。 ――――

 

 

キュルル 「みんなひどいよ……こんな、痛い……ぼくにできないことさせるから……」

サーバル 「それは……わからなかったんだよ……」

カラカル 「できないこと?」

 カラカルが眉をひそめた。

キュルル 「みんなで、跳べ跳べって……」

 

カラカル 「あんたねぇ! 命を助けてもらって、それはないんじゃない!?」

 

キュルル 「……カラカルは何もしてないじゃないか!」

 

カラカル 「!」

 カラカルがハッとした。

 

カラカル 「こ、このぐらい普通跳べるでしょ!」

 カラカルは少し勢いを失った。

 

キュルル 「足が引っかかったんだよ!」

 

カラカル 「そんなの!」

 カラカルが、溝の向こう側を見て驚いた。

 

 

―――― 前向きは好ましいが、下を見るべき時もある。 ――――

 

 

 キュルルが最後に蹴った場所が崩れていた。付近にはわずかな段差、突起があった。

 

カラカル 「…………」

キュルル 「カラカルが『下を見るな』って言うから!」

 カラカルがキュルルから顔をそらして、うつむいた。

カラカル 「……それは……うぅ……」

 カラカルは暗い顔をしていた。耳がやや前に倒れていた。

キュルル 「『あたしたちがついてる』とか言って……」

 

 

―――― 被害者に過失を責められるのは、ナイフを刺されるよりも痛い。 ――――

 

 

カルガモ 「キュルルさん、それ以上は……」

サーバル 「カラカルは悪くないよ!」

 

 キュルルがカラカルを見た。

キュルル 「はっ」

 そして我に返った。

 

 カラカルが、泣いているように見えた。

 

キュルル 「カラカル……」

 キュルルも、暗い顔になってうつむいた。

キュルル 「みんな、ごめん。ぼくのせいだよ……力なくて、下手くそで……」

 

サーバル 「これは誰のせいでもない。たまたま悪いことが重なったんだよ!」

 サーバルは明るく言った。

 

カラカル 「重なりすぎよ!」

 カラカルが顔を上げ、サーバルを見た。けもの耳がピン、と立った。

サーバル 「いいこともあったでしょ! キュルルちゃんは下まで落ちなかったし、生きて帰ってこれたんだから」

 

キュルル 「どのぐらい深かったんだろう?」

 

 

―――― 振り返れば、過ぎた事の恐ろしさに気づく。 ――――

 

 

 4人がしゃがんで、溝を覗き込んだ。

 溝の底は真っ暗で、底が全く見えなかった。

 

キュルル 「落ちてたら今ごろ……」

 キュルルの声は震えていた。

サーバル 「ぐっちゃりだね!」

 サーバルは明るく無邪気に言った。

キュルル 「かべに何回もぶつかったら、バラバラに……」

 

カラカル 「やめてっ!!」

 

 カラカルの声は、怒声のようでも悲鳴のようでもあった。

 

 

―――― 気が強いふりをする者は、繊細で感受性豊かである。 ――――

 

 

キュルル 「…………」

 キュルルは驚いて放心した。

サーバル 「カラカル……ごめん……」

 

カラカル 「あんな暗いところで、ひとり……」

 カラカルは、ひどく落ち込んだ様子だった。けもの耳が、ふにゃっと曲がった。

 

 

 しばしの沈黙。

 

 

カルガモ 「ほら、ここはあなたが」

 カルガモがキュルルに声をかけた。

キュルル 「え、えと……」

 キュルルは、カラカルの後ろに立った。

キュルル 「いててっ……足も……」*6

 そして少しかがんだ。

 キュルルは、右手でカラカルの肩に触れようとしたが、途中でやめた。

キュルル 「カラカル?」

カラカル 「なによ」

 カラカルは不機嫌そうだった。けもの耳がピン、と立った。

キュルル 「えっと……」

 

 カルガモが、キュルルの耳元でささやいた。

カルガモ 「『ぼくはここにいるよ』って」

キュルル 「……ぼくは、ここにいるから……」

カラカル 「言わされてるだけじゃない」

キュルル 「う……」

サーバル 「キュルルちゃん、思ってることを言えばいいんだよ!」

 

 

―――― 気まずい場面で、適切な言葉を言うのは難しい。 ――――

 

 

キュルル 「…………」

 

カラカル 「あんたって、ほんとうにダメね……」

 カラカルは、あきれたように、ため息をつくように言った。

 

 

―――― だが、不適切でもかまわない。 ――――

 

 

キュルル 「言うよ! カラカルは、かわいくて、かっこよくて、きれいで!」

 

カラカル 「は?」

 カラカルは、気の抜けたような感じで、少し驚いた。

 

キュルル 「それにやさし……って……ちがうちがうそうじゃなくて! えと、えっと……」

 

 

―――― 不器用でもかまわない。 ――――

 

 

キュルル 「……カラカルッ!」

 キュルルが両手を少し上げた。カラカルに触れようと。あるいは抱きしめようと。

キュルル 「いたっ!」

 そしてすぐに顔をしかめて、左肩をおさえた。

キュルル 「つ、うう……」

 

 

―――― 全て伝わる必要はない。 ――――

 

 

カラカル 「ふっ、何やってんのよ……うでは動かしちゃだめよ」

 カラカルが振り返って、キュルルを見て微笑んだ。

キュルル 「あうぅ……」

 キュルルは顔を赤くしてうつむいた。

 

 

―――― やさしくないフレンズは、いない。 ――――

 

 

 サーバルとカルガモが、顔を見合わせて笑った。

カラカル 「あたしじゃなくて、カルガモに言うことがあるんじゃないの?」

 カラカルはやさしく、子供に教えるように言った。

キュルル 「えと、カルガモさん、ありがとう、助けてくれて。それにこの包帯も……」

カルガモ 「見た目悪いのはがまんしてね」

 カルガモが微笑んだ。

キュルル 「そんな! ここまでしてくれて……」

 キュルルは、左腕の包帯(元はカルガモのエプロン)*7 を見て涙ぐんだ。

カルガモ 「ちゃんと治すなら……けがを治せるフレンズ、ね……うーん……」

 カルガモは、少し考え込んだ。

 

 

 

 4人がサバンナを歩いていた。

 先頭から、カルガモ、サーバル、キュルル、カラカルの順だった。

 

キュルル 「足が痛い……」

 キュルルは右足をかばうように歩いていた。

 

 

―――― 物理的なカタチがあるやさしさは、心地よくて、はずかしい。 ――――

 

 

 負傷した左腕は、“オレンジ色の包帯”で、動かないように首から吊っていた。

 カルガモが振り返った。

カルガモ 「おんぶしてあげましょうか?」

キュルル 「ええ! いいよ!」

サーバル 「じゃあわたしが!」

キュルル 「いいってば!」

サーバル 「あー! やっぱカラカルがいいんだね!」

 サーバルが、キュルルを見て笑った。

キュルル 「ぅえぇ!」

カラカル 「ん、うでがやられてたら、つかまれないわよ」

 カラカルは、動揺を隠してそっけなく言った。彼女のボウタイが無くなっていた。

 サーバルが、カラカルの横に立って、その顔を覗き込んだ。

サーバル 「けがした子にはやさしくしないと」

カラカル 「……しかたないわねぇ……どうしてもって言うなら、だっこしてあげるわ」*8

 キュルルは、カラカルの、普段は見えない首をチラッと見て、顔を赤くした。*9

キュルル 「自分で歩くよ!」

 

 

―――― 遠回りでも、前には進める。 ――――

 

 

カルガモ 「一列に! じゃなくてもいいかな……」

 カルガモが後ろを見て、やさしい顔をした。

 3人は横並びで歩いていた。*10

 キュルルが真ん中で、カラカルが右から肩を組んで、キュルルを支えて歩いていた。

キュルル 「くっつきすぎ……」*11

 キュルルはうつむき加減で、カラカルから顔をそらして、小声で言った。

カラカル 「旅の目的が変わっちゃったわねー」

 カラカルは聞こえないふりをした。

サーバル 「キュルルちゃんのけがが治ったら、おうちを探そうよ!」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 アニメ2期の溝よりもかなり大きいです。

*2
 「乗った」というよりは「引っかかった」感じです。

*3
 あの黒いふたりが登場しそうな場所です。ですが登場するにはまだ早すぎます。

*4
 このおはなしでは、カルガモは怪我の応急処置ができるという設定です。“怪我をしたふり”ができるなら、怪我に関する知識もあるのではないかと。

*5
 このあたりは医学的に間違っているかもしれません。

*6
 キュルルは足をくじいており、足にもすり傷があります。

*7
 エプロンは、けものプラズムとか何とかなので、本体(フレンズ)から離れると消えてしまう可能性もあります。でもアニメでは服を脱いだり着たりしているので、しばらくはそのままだと思います。

*8
 チーターとプロングホーンみたいにお姫様抱っこで。でも片腕でつかまるのは無理かも……。

*9
 こういうのって、ドキッとすると思うんです。カラカルのボウタイというかリボンのようなものは、マフラーみたいに太くて、首があまり見えません。「普段は隠れている肌が見えてしまう」というのがエロい……じゃなくて、良いんです。そうなったのが、「自分のため」だったら尚更。

*10
 アニメのオープニングと同じ並びです。

*11
 この状態だと、カラカルの“むき出しの”首に右腕をまわすことになります。やさしくされたうえに、カラカルの体温や体のやわらかさが感じられて、はねた髪が顔をくすぐって、そのにおいまで……。落ちます。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 超マイナス思考 + 心配性 + 意地悪……。最後はがんばってプラス思考に持っていきました。

 もしも、キュルルがあの溝に落ちたら……というのを、真面目に書きました。
 別にキュルルをいじめたかったわけではなく、「思いついたから書いた」だけです。
 このおはなしに出てくる溝は、アニメに登場する溝よりもかなり幅が広いです。迂回するのは面倒な長さがあります。深さは“底無し”と言えるほど深いです。溝の中の壁面は凹凸があります。そこに体をぶつけただけで重傷を負います。
 さすがに、アニメに登場する溝では、落ちて大怪我するなんてまずありえないでしょう。万が一落ちたとしても、サーバル&カラカルが助けるはずです。

 「こんな悪いことが起きるかも」というのを先読みしすぎて、それを気にしていたら、何もできなくなります。過剰な心配は不要です。でも、ごくごく稀に不幸な出来事が起きるのも事実です。
 人の命にかかわる物事では、想定の外の外まで想定する必要があります。でもそれって、とっても難しいです。事故は、減らせるけど絶対に無くならないんです。



 「危険極まりない溝」って、私が第1話を始めて見た時には、「何かの隠喩なのではないか?」と思いました。でも第12話を見るに、隠喩ではなくて、単に“超えるべき障害”程度のものだったようです。
 この溝をメタ的に解釈するなら、制作者の間の……って危険極まりないのでやめておきます。



 怪我について

 私は、「フレンズは頑丈だから(あまり)怪我をしない」のならば、「普通のヒトであるキュルルは、普通に怪我をする」んじゃないか? と、考えて、このおはなしを書きました。

 ものすごく今さらな話なのですが。

 けものフレンズは、怪我や傷の描写が少ないです。
 アニメ1期は、怪我や傷の描写が皆無です(描写が無いだけで、軽い怪我はしているのかも)。
 〈 黒い楽屋 〉でも書きましたが、2期第9話のイエイヌがボロボロになっているのは、監督や脚本家の意図以上に汚しすぎてしまったんじゃないかと私は思っています。傷っぽい線が体中に入っていますが、あんな風に傷が入るのはかなり不自然です(傷の入り方には、どのように攻撃されたかなどの理由が必要)。雑にテクスチャー貼っただけのような……。加えて、血の描写が無いので“ただの汚れ”とも解釈できます。第10話では何事もなかったかのようにきれいになっていましたし。
 血の描写は、“規制”の問題もありますが……(最近また厳しくなっている?)。

 けものフレンズに怪我や傷の描写が少ないのは、意図的に避けているためと思われます。やさしい世界や雰囲気、ゆるいノリを守るためには、あってはいけないのでしょう。
 ただ私は、初めてけものフレンズを見た時に、ここに違和感を感じました。結構危険なことをたくさんやっているのに、なんで無傷なんだ、と。
 これは、フレンズは頑丈だから、あるいは“ギャグ漫画体質”だから、と説明できます。単に運が良かったから、かもしれません。
 アニメ1期第6話で、ライオンが「そろそろけが人が出そうでいやだなあ……」と言っているので、フレンズも怪我をするようです。私はこのセリフを聞いて、今まで怪我人が出ていなかったの? それはさすがに不自然なんじゃ……と違和感を感じました。遊びとはいえ、強大な力を持つフレンズ同士がムキになって51回も戦っているのに。武器を持っているのに。かばんが紙風船を使うアイデアを提案するまで、どうやって相手を倒していたのか……(降参したら負け、とか?)。
 キュルルが海に落ちた時も、リアルに描くなら無事では済まないと思います。

 けものフレンズに、そういう生々しさ、殺伐さはいらない、あってはならない、って分かってはいるんですけど、やっぱり私は違和感が残ってしまいます。自然界は残酷で、いつも怪我や病気や死と隣り合わせです。ヒトの世も、時には自然界以上に残酷です。
 だからこそ殺伐さはいらないし、だからこそ生々しく描かないんじゃないか……でも甘いものばかり食べていたらダメだ……だが原作は甘いだけではないぞ……と、ぐるぐる回る思考……。
 このあたりも、私が書くものが、原作から外れた変な方向に行ってしまう原因です。

 

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