ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 また今さら感が強いですが、2期第6話です。 暗いです。



〈 よだれ 〉

 

 かばんの研究所(おうち)

 

 ジャパリバス型セルリアンとの戦いが終わり、キュルルが戻り、3人が再び眠りについたあと。

 

 かばん(大人)が、自室*1 で机に向かっていた。机には本やファイルが積み重なっていた。かばんは、ファイルを開き、雑多に閉じられた資料*2 を見ていた。

 

 突然、ドタッ、と音がした。それはこの部屋の外から聞こえた。

 かばんは少し驚いて、ファイルを閉じ、立ち上がった。

 

 

 3人が眠る寝室*3 のドアが、ゆっくりと、音もなく開いた。

 かばんが、寝室に入った。

 カラカルがベッドから落ちていて、ヒトではありえない、ねじれて曲がった、不可解な恰好で眠っていた。*4

 かばんはカラカルを抱き上げようとした。だが体が妙にぐにゃぐにゃして、うまく持ち上げられなかった。

 かばんはカラカルに毛布をかけた。

 

 かばんはサーバルの寝顔を眺めた。その表情はやさしく、悲しみや寂しさは見えなかった。

サーバル 「……はぁ……みゃー……はぁ……みゃー……」*5

 サーバルは独特な寝息を立てていて、熟睡しているようだった。彼女はよだれをたらしていて、布団にしみが付いていた。

 

 かばんが、サーバルの頬をぷにっと押した。よだれが、とろり、と、こぼれた。

 かばんは人差し指で、サーバルの口元のよだれをやさしくすくい取った。

 

 かばんは人差し指の先を見つめた。そして少し驚き、驚いた顔のまま見とれた。

 

 暗い部屋の中、指からたれ下がったしずくが、月明かりで透明な宝石のように光っていた。その中心部には、砂粒よりも小さなサンドスターの粒子が数え切れないほどあり、キラキラと虹色に光りながら、ゆっくりと渦を巻くように動いていた。

 

 かばんは、濡れた指を口元へ持っていった。しずくが落ちないように指を回しながら。

 そして、口を開け、指をくわえようとした。

 

 

サーバル 「んぅ……」

 

 サーバルが薄く目を開けた。

 

 かばんが、口を開けたまま動きを止めた。

 

 サーバルとかばんの目が合った。

 

 

 少しの間。

 

 

サーバル 「……たべな……で……」

 

 

 かばんの舌先に、しずくが落ちた。

 

かばん  「ひぅっ!」

 かばんは、ビクッとして一瞬目を見開き、声をもらした。

 悪いことをしている所を見つかったようだった。

 

 サーバルが目を閉じて、やさしく微笑んだ。

 

かばん  「たべっ……」

 かばんは、出かかった言葉を飲み込んで、両手で口をおさえた。表情が崩れた。

かばん  「……ぅ……ぅく……」

 そして、ふらつきながらも、苦し気に声をおさえて、ドアを開け部屋から出て行った。

 

 サーバルは再び眠りについた。

 

 部屋から出たかばんは、音を立てないように、そっとドアを閉じた。

 そして、崩れ落ちた。

かばん  「うう……ぅ……サ……ちゃ……」

 かばんはうずくまって、声をおさえた。目を閉じると、涙がこぼれた。

かばん  「くっ……ぅぅ……」

 そのまま、人差し指をくわえて、しばらく震えていた。

 

 廊下の先からはかせと助手が、音もなく、少し慌てた様子で現れ、小声でかばんに声をかけた。

はかせ  「無理におさえると苦しいのです」

助手   「むこうへ」

 

 かばんが立ち上がり、ふらふらと歩き出した。

かばん  「おなじ、同じ味がした……むかしとおなじ……」

 かばんは、かすれた声で、絞り出すように言った。

 

 

サーバル 「……はぁ……みゃー……はぁ……みゃー……へへ……」

 サーバルは寝息を立てつつ、目を閉じたまま少し笑った。

 

 

 かばんの自室。

 

 かばんがテーブルに突っ伏して、肩をふるわせていた。

かばん  「……うう……サーバルちゃん……ぐす……ずるい……それはずるいよぅ……う……ごめん、ごめんね……たべたかったよっ! けほ、サーバルちゃ、たべたかったよぅ……ひぅ……ううぅ……ぐしゅ……」

 

 泣きじゃくるかばんのわきに、開かれたファイルがあった。そのページには、元の姿のサーバルの、ラフなスケッチがあった。ページは茶色く変色しており、新しい水滴で濡れていた。

 

 はかせと助手が、部屋の外で立ち話をしていた。

助手   「はかせの仮説、証明されましたね」

はかせ  「やはり、このふたりは引き合うのです。どれだけ離れても、何度でも」

助手   「別に、サーバルを起こしてもよかったのでは?」

はかせ  「今はそっとしておいてあげるのです。……ふたりとも」

助手   「感動の再会……にはならないでしょうね……」

 助手はため息をつくように言った。

 

 

 翌朝。ダイニング。

 

 6人が朝食を食べていた。

 

サーバル 「なんか目が赤いよ?」

 サーバルが、かばんの目を見て言った。

かばん  「あー……ちょっと夜ふかししちゃったから、かな……」

 かばんは、少し驚いたあと、気まずそうに言った。

サーバル 「ちゃんと寝なきゃ。ヒトは夜行性じゃないんだから」

 サーバルは明るく穏やかに言った。注意する感じではなかった。

かばん  「そうだね……」

 かばんは、少し寂しそうに微笑んだ。

 

カラカル 「ヒトって夜行性じゃないの?」        

キュルル 「いや、ぼくといっしょにいたら分かるでしょ」*6

 

助手   「サーバル、かばんに……」

はかせ  「追い打ちをかけちゃだめなのです……ふわぁー」

 はかせがあくびをした。

 

カラカル 「じゃあきのう起きてたのは何だったのよ?」 

キュルル 「それはへんな夢を見て……」        

 

サーバル 「おいうち?」

 サーバルが不思議そうな顔をした。

 そして、少し視線を動かした。

 

 サーバルの視線の先には、かばんの右手があった。黒い手袋をはめていた。

 

 

サーバル 「わたしは、すっごくたのしい夢を見てた気がする……」

 

 

 黒い人差し指に、小さな噛み痕がついていた。

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 アニメには登場しなかった部屋です。でもかばんの部屋はあると思います。

*2
 手書きの文章、テキストベタ打ちの文章、Eメールのコピー、写真、スケッチ、化学式や数式が書かれたメモなどが、挟まったり貼り付けられたりしています。紙の多くは茶色く変色しています。詰め込みすぎてファイルが膨らんでいます。

*3
 この部屋はゲストルームのようです。かばんは、やはり自室で寝ているんだと思います

*4
 「フレンズの体はヒトと同じ」なので、ここまで柔らかくないかもしれません。でも多少誇張しても構わないと思います。

*5
 この寝息好きです。「すー……みゃ……」かと思っていたんですが、アニメを見返したら「みゃー」で吸っているようです。あれをテキストで再現するのは難しいです。

*6
 この後、第10話で徹夜しているんですよねキュルル。子供は夜寝なきゃだめです。大人も夜寝なきゃだめです。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 2期サーかばのいちゃいちゃが書きたかったのに、どうしてこんなことに……。

 このおはなし、第6話の流れや、第12話のあのシーン(かばんと、はかせ&助手との会話)などと矛盾しています。あと、かばんさんはこんなに泣かないと思います。

 2期第6話は、妙にドライな感じでした。私は、“もっと泣かせる話にできるのに、なんでやらないんだろう?”と疑問に思いました。そして、“2期はこういう抑えた感じで行くんだなー”、と思いました。“ありがちな泣かせ演出は避ける”、という考えなのか、とも思いました。
 ところがその後、ものすごく感情的な第9話が来て、驚き困惑しました。
 第6話がドライな感じだったのは、第12話のあのシーンのためだったのでしょう。泣かせる演出は最後までとっておいたわけです。
 私が作り手だったら、第6話でかばんさんが泣くシーンを絶対に入れたくなるのに、監督や脚本家はよく我慢したなーと思うんです。いやこれは完全に私の好みの問題ですが。
 かばんさんはクールな大人だから、泣くシーンを入れちゃうと不自然でしょう。
 でも、ちょっと涙をぬぐうカットくらいあっても良かったと思うんですけど……。

 1期のかばんちゃんと、2期のかばんさんは“完全に同一”のキャラクターなのか? という疑問もあります。“別物だけどつながりもある”、というのが、けものフレンズの作品群ですから。
 サーバルとは違う形で、かばんも世代交代しているんだと思います。

 かばんさんが、2期のサーバルが、かつてかばんと一緒にいたサーバルと同じ子である(いや違うのか?)、と気づいたのは、第6話のラストでカラカルのセリフを聞いた時かもしれません。そうすると私が書いたものとは矛盾します。
 かばんさんは、表向きは平静だけど、「同じ子であってほしい」と、「別の子であってほしい」、そして「気にしてはいけない」という気持ちが入り混じって、複雑だったのかもしれません。
 でも第6話のラストでは、とっても嬉しそうでしたね。
 あのシーン、かばんさんの芝居(“キャラは役者”というメタ的な考え方)も良かったんですが、サーバルがジャンプして、くるんって回る(「おうち、おうちー!」)のが好きです。


 [ 初投稿日時 2019/12/12 12:12 ]
 
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