まえがき
ブラインドタッチができるフレンズなんて、いるのでしょうか……。
ノートパソコンのキーボード *1 を、薄黄色の手袋をはめた手指が、カタカタッと叩いた。
画面の3分の1くらい大きさのウィンドウに文字が打ち込まれて、タンっとエンターキーの音がした。
[ おもろいl ] *2
ツチノコ 「なんで使えるんだオマエェ!?」
ツチノコが驚きの声をあげた。
キーボードを叩いていたのは、スナネコだった。スナネコは、石の床にぺたんと座って、床に置かれたノートパソコンに向かっていた。その後ろにはツチノコがしゃがんでいて、画面をのぞき込んでいた。
ふたりがいたのは、地下迷宮のバックヤードだった。そばにには、パソコンの周辺機器らしきガラクタが山積みになっていた。
スナネコ 「思ったことを叩いただけなのです」
スナネコは、いつものおっとりした感じで答えて、タタタタタッとキーボードを叩いた。ブラインドタッチ……のように見えた。
[ おもっつたことたたたl ]
ツチノコ 「はやぁっ! ……おもっつ、た? まちがってないかー?」*3
ツチノコは、ちょっとからかうように言った。
ぱたっ、とスナネコのしっぽが動いた。再びタタタタッとキーボードの音がした。
[ つしのこすごい!l ]
スナネコ 「ボクはなんて出たかわからないです」
スナネコは、感心したように答えた。
ツチノコ 「読めないのになんで打てるんだよ!! あと『つしのこ』ってなんだよ!」 *4
[ わか乱l ]
ツチノコ 「わか、クソッ……読めねぇ……」
[ ぼくもよめねl ]
ツチノコ 「まねすんじゃねエェ!」
スナネコ 「?」
スナネコが首をかしげた。
ツチノコ 「おまえ、こっちは読めるのか?」
ツチノコが、キーボードを指差した。
スナネコ 「わかりません」
ツチノコ 「だからなんでそれで打てるんだよ!!」
スナネコ 「ぶらいんど……」
[ l [□] ]
ツチノコ 「むぅ?」
スナネコ 「……たっちですから」
[ <●> l [□] ]
ツチノコ 「意味がわからん!!」
[ <●> <●> < ●> < ●> <● > <● > l [□] ]
ツチノコ 「なんかこえーよぅ!」
ツチノコは若干おびえながら引いていた。
[ つちのこ おもしろかわいl ]
ツチノコ 「なーに言ってやがるっ!!」
スナネコ 「はい? なにも言ってませんよ?」
スナネコは、とぼけたのではなく、本当に分かっていない様子だった。
ツチノコ 「オマエ! オレのことおもしろかわいいとか……」
スナネコ 「すごいですね。ツチノコはボクのこころが読めるんですか?」
ツチノコ 「心の声がもれてる!?」
[ (笑)(笑)(笑) l ] *5
ツチノコ 「なんだかわからんが、イラっとするな……」
[ おんぷl ]
[ ♪からl ]
[ ♪~l ]
スナネコが立ち上がって、そばにあったガラクタをあさり始めた。
ツチノコ 「『あきた』ってことか……」
スナネコ 「おー、おいしくなさそうなネズミですね」
スナネコは、ボタンが一つ無くなったマウスをつまみ上げた。 *6
ツチノコ 「おまえ……わかっててやっただろ……」
スナネコ 「そんなことないですよ」
少し間があった。ツチノコは少し不機嫌な顔で、スナネコを見た。
ツチノコ 「よっ、と」
ツチノコが、スナネコのしっぽを、シュルっ! となでた。
スナネコ 「ゅわっ!」
少し間があった。
スナネコ 「なにするんですか……」
スナネコが少し困った顔をした。
ツチノコ 「ハァ……」
ツチノコは、スナネコから顔をそらし、ため息をついた。
スナネコ 「…………」
スナネコが再びパソコンの前に座り、キーボードを叩いた。
[ はーとl ]
[ ♡l ]
[ l ]
ハートマークが現れたが、すぐにバックスペースで消えた。
[ つしのこ l ]
スペースを打ったところで、スナネコの手が止まった。
スナネコ 「…………」
ツチノコが、スナネコの横顔を覗き込んだ。
その横顔は、いつもよりほんの少しだけ憂いをおびていた。どこか悲しげにも見えた。
ツチノコ 「なんだよ?」
スナネコは、ぽちぽちと文字を打ち込んでいった。
ツチノコは、画面をしかめっ面で見ていた。
ツチノコ 「はっ!」
ツチノコが驚いて、一瞬目を見開いた。
そして顔を思いっきり赤くした。
ツチノコ 「ヴォアアアア!!! なななナーニ言ってんだオマエエエ!!!」
おわり
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
スナネコは、狙ってやっているわけではなく、半分無意識でキーボードを叩いています。なぜか、思ったことが文字に変換されてしまうのです。
「3」を完全に無視して、どうしてこんなものを書いているのか……。いや、流行とか世間の流れから思いっきり外れたものを書くのが私らしいのかも。スマホゲームは苦手ですし。
おまけ
フレンズのタイピングスキルを妄想。
文字を覚えたと仮定します。
ツチノコ : 打てるが、ぎこちない感じで、やや遅い。
かばん : 最初は上手く打てないが、すぐにブラインドタッチができるようになる。
かばん(大人) : ブラインドタッチで速い。少し誤字脱字がある。
サーバル : 爪でキーボードを切り刻む。
アライグマ : ミスタイプが非常に多いが、漢字変換は速い。がんばって少しずつ上達する。
フェネック : タイプ速度はやや遅いが非常に正確。ミスが全く無い。
ラッキービースト: キーボードに触れなくても文字入力ができる。長文を一瞬で入力できる。
はかせ : 普通の速さで正確に打つが、漢字変換が苦手。
助 手 : 普通の速さで正確に打つが、漢字変換が苦手なふりをする。
プリンセス : タイピングは非常に苦手だが、努力を重ねて打てるようになる。
ペンギンは手袋に問題がある。
ト キ : タイピングは苦手だが、打つ言葉を声に出すと正確に打てる。
キタキツネ : 超高速で正確なタイピングができる。話すよりも打つ方が速い。
ギンギツネ : 平均的なタイプ速度。結構キーボードを見てしまう。
アルパカ・スリ : キーボードにお茶をこぼさないように気をつけている。
だが、キーの隙間に毛が落ちて、故障の原因になる。
ハシビロコウ: じー…………。
プレーリー&ビーバー: キーボードを打ちやすい机と椅子を作る。他のフレンズにも好評。
ビーバーはキーボードよりもマウスの操作が得意。プレーリーは、一本指で高速タイピング。
タイリクオオカミ: キーボードを見て打つのに、やたら速い。ややミスタイプが多い。
コツメカワウソ : キーボードのキーを(物理的に)外して遊ぶ。
チーター : 一本指でゆっくり打つ。自分で自分の遅さにイライラする。
カラカル : エンターキーが壊れてしまい困惑する。
キュルル : かな入力。打っている途中でパソコンが熱暴走して落ちる。
フウチョウコンビ: キーボードに触れなくても文字入力ができるが、
画面が真っ黒で何も見えない。
ドール : 隊長が打っているのを隣で応援する(やりづらい)。
余談です。
―――― 文末にwを打つ(草を生やす)ことについて ――――
本文でスナネコが書いた「(笑)」が省略・短縮されて、「w」になりました。 (全角?)
以下は、あくまでも私の個人的な感じ方です。気分を悪くされたらごめんなさい。
私は古いタイプのオタクなので、文末にwを付けるのが大嫌いです。生理的なレベルで嫌です。
でも、「不快感やいら立ちは我慢して、慣れるしかないな……」と思っています。
文末のwは「 嘲笑を表す、低俗なネットスラング 」。
「 バッカじゃねーのwww 」みたいな使い方をするもの。
たくさん打つ(草を生やす)のは「 下品な悪ノリ 」。
……という、昔のイメージ が、今も私の中に根深く残っています。
「やわらかい好意的な表現」として使われているのは、かなりの違和感があります。
「今は使い方が違うんだ」と理屈で分かっていても、自動的に不快感が生じます。
wではなく、「○○が△△ってて草(生える)」という書き方だと、皮肉・冷笑・嫌みなどの毒を少し含むようですが、私はいまいちニュアンスが分かりません。
「言葉や文章表現は、時代とともに変化していくものだ」とは分かっています。ですが、文末にwを付けるのは、「ら抜き」などとは違います。wを打ちまくるのは、悪い意味で使われていた(相手を小馬鹿にする)表現であり、不快に感じる人がいるんです。軽い表現ですし、普通はそこまで神経質になることではないのですが、私は拒否反応が出ます。
でも「大きな流れ」は止められないです。私がいくら「嫌だ! やめろ!」って言っても、言葉は多数派が正しいのですから、ただのわがままにしかなりません。
とあるサイトで、文末にwを付けることを推奨している記事があり、ちょっとショックでした。「使うのをやめましょう」という記事だろうと思って読んだら、真逆の「積極的に使いましょう」という記事だったんです。時代は変わったんだな……と思いました。
ですから、使っても良いとは思うのですが、私自身は使いたくないので、「使わないと、のけものにされる」という世の中にだけは、ならないで欲しいです。
「顔文字や絵文字が嫌い」な人もいます。
私は好きでも嫌いでもないですが、なんか恥ずかしいので滅多に使いません。
「日本語の文に疑問符(?)や感嘆符(!)を使うな」と言う人もいます。
でも私はこれらが無いと困ります。
こういうことは、同じことの繰り返しなんでしょうね。「最近の若者は……」のように。
[ 初投稿日時 2020/05/30 20:10 ]