まえがき
サーバルちゃんとかばんちゃんは、べったりなかよし。みんな知ってる。
むかしむかし、ひろーいパークのはしっこで……。
サーバルちゃんと、ほわんっと抱き合った。
ちょっと、よくないかんじかも……。
サーバルちゃん、いつも明るくてたのしそうだけど、ちがう気分のときもある。サーバルちゃんは、こういうの隠しちゃう子だけど、ぼくにはわかる。
ちょっと腕に力が入っているのに、抱きしめてくる力が弱い。こんなときは、サーバルちゃん、ちょっといやな気分。サーバルちゃんがごきげん斜めなんて信じられないけど、誰だってそういうときがあるよね。
どうしよう? こういうときは、強めに行ったほうがいいかな?
サーバルちゃんのうなじに手をあてて、頭を軽くおさえて……顔を近づけて……。
……あれ?
サーバルちゃんに、ほんの一瞬だけど、目をそらしたり、首を引いたりするかんじがあった。キスをするとき、体がかたいとか、へんなかんじがしたら、ちょっといやがってるんだ。サーバルちゃん、どんなときでも受け入れてくれるけど、むりは良くないね。こういうときは、どうすればいいんだろう? 離れちゃうと、傷つけるかもしれないし……。
サーバル 「かばんちゃん、なんかへんなこと考えてない?」
とつぜん、まっすぐな目で言われた。
かばん 「ぅええ! べつになにも……」
うまく答えられなくて、少し顔を離した。近すぎるから伝わっちゃうんだよ。
サーバル 「わかってないねー」
すっごく近い、サーバルちゃんのふしぎなほほえみ。この顔は、たぶんぼくしか知らない。
目と目を合わせて……
かるくくちびるを合わせて……
サーバル 「ちゅ、ちゅっ……」
すぐに離して……また合わせて……離して……。
サーバル 「ちゅ、ちゅっ、ちゅっ……んぅ……」
ふたり、息ぴったりで、おんなじように動いた。つぎは……わかってるじゃない。
……くちびるがぴったりくっついて、ふたりが、にゅるにゅるっと甘くこすれ合った。
……あれ? まただ。
なにかがいつもとちがう。舌のちから? つばの味? くちびるの……ふるえかた?
まあいいや。いつもどおり、むねがクーってして、つばがあふれて、きもちいいし。
おたがいをたっぷりと味わってから、くちびるが離れた。
サーバル 「はぁ……」
この、とろーんとした顔、すっごくいいよね。こんなに近くで見られるのは、ぼくだけだよ。
ぼくのあごに、よだれが流れるのがわかった。ぼくも、だらしない顔しちゃってるかも……。
サーバル 「んみゃ……えっとね……かばんちゃん……」
サーバルちゃんは、もじもじしていた。やっぱりへんだね。どうしたんだろう?
かばん 「なに?」
サーバルちゃんが、ほっぺたを赤くして、ちょっとうつむきながら、目線をこちらに向けた。
ドキッとするくらいかわいい、上目づかいだった。
サーバル 「かばんちゃん……」
サーバルちゃんは、ささやくような、くすっぐったい声だった。
少し間があった。
サーバルちゃんが、意を決したように顔を上げた。
サーバル 「たべちゃいたいくらい、愛してるっ!!」
強いけど、せつなげな声だった。ちょっと目がうるんでいた。
かばん 「…………」
ココロのナカ、わからなくなった。
かばん 「もうたべてるじゃない。ぼくのこころ」
ぼくは笑顔で返した。さわやかに。
かばん 「……すきなだけ、たべてよ……」
顔が熱くなって、そっぽを向いた。
かばん 「ぼくも……」
…………って!!
わあああ!! なにこれなにこれぇ!?
サーバル 「だめだよかばんちゃん! ここは、かっこよく『知ってる』って答えるんだよ!」
なんかサーバルちゃんがあわててるけど、それどころじゃなかった。
サーバルちゃん、毎日30回くらい『だいすき』って言ってくれるけど、 *1 『愛してる』は、はじめてだよ!!
ぼくもへんなこと言ったかもだけど、なにもおぼえてないよ。おぼえてない。
サーバル 「えっと、もういっかい……」
かばん 「やめて! やぁ、やめないでぇ!」
だめだ、こころがもたない……。
かばん 「かばんちゃん……」
サーバルちゃんが、ずーんとうつむいた。なんか顔が暗いね……。
少し間があった。
サーバルちゃんが、ゆっくりと顔を上げた。
サーバル 「切りきざみんみたいくらい……愛してる……」 *2
サーバルちゃんは、重くて低い声だった。
がんばって怖い顔してるみたいだけど……引きつったへんな顔になってるよ……。
これは……はかせだね……サーバルちゃんにへんなこと教えないでください……。
サーバル 「あれれ? 『きざまないでー!』とか言うんじゃないの?」
サーバルちゃんが、いつものサーバルちゃんに戻った。
かばん 「そうかなあ? 怖くてなにも言えなくなって、しりもちをついちゃう……とかじゃない?」
サーバル 「そうだね! さすがかばんちゃんだよ!」
ぼくが考えちゃだめじゃないかな……。
かばん 「なんでこんなことするの? サーバルちゃん……」
サーバル 「あいしてるからっ!」
かばん 「ふぇ?」
サーバル 「かばんちゃん! あいしてる! あいしてる! 愛してるよーー!!」
かばん 「ふあああ!」
ぞくぞくってなった……。サーバルちゃん、すっごくたのしそう……。
かばん 「うれしいけど、はずかしいよサーバルちゃん!」
サーバル 「だってわたし、かばんちゃんのこと愛してるんだよ? すきより、もーーっと、だいすきっ! うーみゃみゃみゃみゃーー!! かばんちゃん、愛してるっ!!」
気に入っちゃったみたいだね……。ちょっと冷静になろう、ぼく。
サーバル 「あいらーびゅー!」 *3
サーバルちゃんは、まぶしい笑顔だった。
かばん 「ぅええ! なんで!?」
冷静になれないよ!
かばん 「みー とぅー」
なに答えてるのぼく!
サーバル 「だから、だめだってば! 『あい のう』って答えるんだよ!」
かばん 「なんでそこにこだわってるのサーバルちゃん……」
うーん……
かばん 「…………」
……言わなきゃ……。
サーバル 「どうしたの? かばんちゃん」
かばん 「愛してるよ、サーバル」
……あれ? ……ぼく……いま…なんて…………。
サーバル 「……み……ぁ……」
サーバルちゃん、ぽけーっとして、かたまっちゃった……。
サーバル 「……う……うぅ……うみゃぁぁ……」
サーバルちゃんは、ちょっとうつむいて、顔を両手でおおった。
かばん 「え?」
サーバル 「……んみ……みぃぃ……」
肩がふるえはじめた。
かばん 「うええ! なんで泣いてるの!?」
サーバルちゃんは、ぐーの両手で目をこすった。
かばん 「サーバルちゃんごめん! 『ちゃん』って付けなくて!」
これは、だめなことばだね。なんで泣いちゃったか、わかってるのに……。
サーバル 「ぐす……もっと、言ってぇ……」
わわ! えっと……ここは、とぼけて……。
かばん 「ちゃん付けなくてごめん!」
サーバル 「ちがうよぅ!」
おちついてきたかな?
かばん 「あいらーびゅ」
サーバル 「うみゃ! ちがうってば!」
いじわるだったね。
かばん 「愛してるよ、サーバル……ちゃん」
しばらく見つめ合った。キラキラの目が、すっごくはずかしい。 *6
そんなに泣かないでよ。
ゆーっくりと顔を近づけて……
目をとじて……
……………。
サーバル 「むちゅぅっ!!」
かばん 「んむう!!」
……わっ! ……はげしっ!
サーバル 「ちゅううう……んんんんーーー!!」
……吸わないで!! ……いきができない!!
サーバル 「じゅぷっ! んんー、ちゅぷっ! むぐう……」
かばん 「むー! んむー! こほっ!」
……舌がねじれちゃうぅ!! ………………
サーバル 「……くちゅ!……くちゅ………ちゅっ……」
かばん 「……んくっ……んふ……んん……」
……………………………長いよ! …………
サーバル 「……こく……こくん……んくっ……」
かばん 「………こほ………く…………く…………」
……………………いしきが………シロい……
サーバル 「ぷはぁっ!!」
ふたりのくちびるが離れた。
かばん 「けほっ! はぁ、はぁ……はぁぁ…………」
死んじゃうかとおもった……ふわふわして、しあわせだけど……。*7
サーバル 「……ぅ……みゃぅー……」
サーバルちゃんは、涙とよだれでぬれた顔のまま、困ったような、残念そうな顔をした。
サーバル 「……『あいしてる』より『だいすき』のほうが、おいしいかも……」
かばん 「たしかに、ね……」
にがわらい。
おわり
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
また泣いちゃった……。
書いていたら、突然サーバルちゃんが泣きだしたんです。私のせいじゃないです。甘いものが書きたかったのですが、例によって変な方向に行ってしまいました。
英語の“ I love you ”は、「愛してる」とは意味(使い方)が違うらしいですね。使う場面や言い方によっても意味が変わるのでしょう。
『あい のう』は、 ”I know”(知っている)ではなく、過去形の ”I knew”(知っていた)の方が合っているのですが、『あい にゅー』だといまいちなので、こっちにしました。
こちらも、使う場面や言い方によっても意味が変わるようで……
I know. → 「知っている」「そうだよね」
I know! → 「わかる!」「わかってるよ!(キレ気味?)」
I knew. → 「知ってたよ」「やっぱりね」
漢字とひらがなとカタカナの使い分けに気をつけたつもりです。毎回これで悩みます。
おまけ
以下は、かばんちゃんのコメントです。
「うみゃ」にもいろいろあります。サーバルちゃんは、声と、表情やからだの動きが合わさっていろいろな気持ちを表現していますが、じつは、「うみゃ」だけでもだいたいの気持ちがわかるんです。ふつうの「うみゃー」怒ったときの「うみゃ!」、がっかりしたときの、「うみゃー……」は、わかりやすいですね。「うみゃあ」より「うみゃぁー」のほうが甘えています。聞き分けにくいですけど「うみゃー」と「うみゃー」と「うみゃー」は、ちがうんですよ。
ジャンプして着地するとき、いつもより腕を大きく広げるのは、こころが疲れているときかもです。着地で、ふらふらっとするのは、すっごく疲れているときなので、休ませてあげましょう。
ふっと目をそらすのは……かるくなら、ちょっと困ったとき。強めなら、少し勇気を出そうとがんばっているとき。はにかんだかんじになるのは、ちょっと照れてますね。こういうときは、ぼくは、なにも言いません。だって……すっごくかわいいんですよ……。
ふるえた腕で強く抱きしめてくるのは、さみしかった時なんです。そういうとき、ぼくは、強く抱きしめ返してあげます。ちからが弱くなったら、頭をなでてあげて……すりすり甘えてきたら……き……き、きかないでください!
サーバルちゃんの笑顔にもいろいろありますね。ぱあって明るいのは、急にうれしいことがあったとき。おめめぱっちりで、口がやわらかい感じなのは、好きなものを見つめているとき。ふにゃっとしてるのは、ちょっときもちいいとき。サーバルちゃんに笑顔で見つめられて、ふしぎなかんじがするのは…………よくわからないです……。
[ 初投稿日時 2020/06/06 06:06 ]