ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

69 / 100
 
 まえがき

 このおはなし、「設定などはアニメ版に限定する」というルールを破っているかもです。
 百合っぽくてえっちです。
 


〈 おふろおばけ 〉

 

 唐突に、キタキツネが言った。

 

キタキツネ  「ぼく、死んだ子が見えるんだ」  *1

 ギンギツネと話す時にだけ見せる、ほのかに甘えるような声と表情だった。

 

ギンギツネ  「えぇ? まさか、そんなわけないでしょう?」

 ギンギツネは驚いたが、またいつものね……という、慣れた感じで、冷静だった。

 

 夜の温泉宿。キタキツネとギンギツネが温泉に浸かっていた。他のフレンズの姿は無かった。

 

キタキツネ  「うしろにだれかいる気がして……ふり返ると……」

 キタキツネは、真面目な顔で、低めの声で言った。

キタキツネ  「もわっとした、なにかが、一瞬見えて……消えちゃう」

ギンギツネ  「こわっ!」

キタキツネ  「こわくないよ。死んだ子、いっぱいいるけど……」

ギンギツネ  「いっぱい!?」

 ギンギツネは、さすがに動揺した。

 

キタキツネ  「ほら……ギンギツネのうしろにも……」

 キタキツネが、ギンギツネの背後の、『何か』を指差した。

 

ギンギツネ  「え……」

 ギンギツネが青ざめて振り返った。

 そこには、薄暗い石畳の風呂場と、目隠しの壁と、星空と、真っ暗な景色があった。

*2

 フレンズ……けものは何もいなかった。

 

 ギンギツネは、すぐにキタキツネの方に向き直った。

ギンギツネ  「やめなさいそういうの!」

 

 ごく小さな音がした。ギンギツネの、頭の上の耳が、ぴくっと動いた。

キタキツネ  「いま、カサカサっ、て、聞こえたね」

ギンギツネ  「風の音よ!」

 ギンギツネは、無理やり笑顔を作った。

 

キタキツネ  「草むらに、ふたりいるよ……なかよしっぽい、するどい目の子たちが……」

 

ギンギツネ  「やめて……」

 ギンギツネは頭を抱えた。

 

キタキツネ  「ギンギツネのこと……」

 

ギンギツネ  「……あぅぅ……」

 ギンギツネが、震えはじめた。

 

キタキツネ  「じーーっと、見てるよ……」

 

ギンギツネ  「……そんなの、いるわけ……」

 ギンギツネの声は震えていた。彼女は手の指の隙間から、おそるおそる暗闇を見た。

 

 ほんの一瞬、光の点が、横並びに四つ見えた。

 

ギンギツネ  「いやあぁー!!」

 ギンギツネは、ざばぁっ!! っと湯を波打たせて立ち上がり、脱衣所へ逃げていった。

 *3

 

 翌日。

 

 温泉宿のアーケードゲームの画面に、はかせと助手が、粗い動画で映っていた。 *4

 

はかせ    「かんちがい、思いこみ、記憶ちがい……」

 はかせの声は、ひどいノイズが混じっていて、割れていた。

 ゲーム機は、背面のパネルが外されており、内部に8枚の大きな基板が重なっていた。そこから4本のケーブルが飛び出し、外にある二つの黒い箱につながっていた。 *5

 

  キタキツネとギンギツネが、画面を見ていた。

キタキツネ  「ちがうよ。そんなのじゃないよ……たぶん」

ギンギツネ  「何回もたくさん見てる、って言ってるのよ。まあ、この子の言うことだから、よくわからないけど」

はかせ    「……幻覚の可能性もあるです」

助 手    「へんなもの食べませんでしか? 『ゆりっぽい草の根っこ』とか、『すっぱいぶどう』とか、『ナス科のアサガオ』とか、『ヤバキノコ』とか」 *6

キタキツネ  「おいしくないよ、そんなの。……強くなるキノコは食べたいけどね」 *7

ギンギツネ  「『 ゆりっぽい草の根っこ 』って、なんだかおいしそうね」 *8

 ギンギツネが、キタキツネを見て微笑んだ。

キタキツネ  「ぴっ!?」

 キタキツネが、ビクっとなった。

はかせ    「食べるとあぶないのです」

助 手    「キタキツネは、とっても『感じやすい』のです」

 

 

 

 数日後の夜。温泉。

 

キタキツネ  「きょうは、ちがうの見ちゃった……じゃなくて、感じちゃった」

 

ギンギツネ  「ちがうの?」

 キタキツネとギンギツネが温泉に浸かっていた。

キタキツネ  「あっちの……」

 キタキツネが、暗闇を指差した。

キタキツネ  「森のふかいとこの、こわれたおうち、知ってるでしょ?」

ギンギツネ  「なによそれ? 見たことないわよ、そんなの」

 

キタキツネ  「ギンギツネは運がわるいんだね」

 キタキツネは、ちょっとあきれたように、ぼそっと言った。

ギンギツネ  「どういうことよ?」

 

キタキツネ  「あのおうち、ないときもあるから……」

 

ギンギツネ  「ほんとに、わけがわからないんだけど……」

 ギンギツネは若干おびえて、引いていた。

キタキツネ  「ガンマ線がちくちくってしたから、おうちに入ったら……」 *9

 

 その日の昼ごろ、キタキツネは、山の中の、朽ちかけた木の小屋に入った。

 表札らしき板に『キタキ…ネの……(一部判読不能)』とあった。 *10

 

ギンギツネ  「……入ったら?」

 ギンギツネが青ざめていった。

 

 

 間があった。

 

 

キタキツネ  「なにもなかった」

 

 小屋の中には、壊れたベッドのようなものがあっただけだった。屋根や壁に穴が開き、床の一部が腐っていた。

 

 

ギンギツネ  「…………」

キタキツネ  「なにもなかったけど、じゅわわーって、ぼくの中に入ってきたよ。だれか……」

ギンギツネ  「だれか?」

 

キタキツネ  「こんな毛の……フレンズかも」

 キタキツネは、自分の髪の左側をつかんで、サイドテールのようにして見せた。

 

キタキツネ  「ゆめ見たよ。ぼく、その子といっしょに、おふとんで寝てるの。ぬくぬく」

 

ギンギツネ  「だれよその子!」

 ギンギツネが、ざばぁっ!! っと立ち上がった。

キタキツネ  「ぅわぁ、なんで怒るの?」

ギンギツネ  「……つきまとわれてる、とかじゃないわよね?」

 ギンギツネは再び湯に浸かった。

キタキツネ  「ちがうよ。ふしぎなかんじ……ふわって残って……ちょっと、さみしい」

 キタキツネが、少し困ったような顔になって、胸に手をあてた。

ギンギツネ  「……気にしなくていいわ」

 ギンギツネは明るく言った。

ギンギツネ  「わたしもあるのよ。たまーにだけど、ふしぎなかんじ……かたいモノをいじってる、手の感触、それだけ残ってるの」

 ギンギツネは、自分の右手のひらを見つめた。

キタキツネ  「なんか、えっちだね」

ギンギツネ  「なんでよ!?」

 

キタキツネ  「ん?」

 キタキツネが、ギンギツネの背後、その先の『何か』を見た。

 

キタキツネ  「わぁ……」

 キタキツネは、ぱあっと明るい顔になり、目を輝かせた。

 心が浮き上がるみたいに、うれしくて……。

 

ギンギツネ  「え?」

 ギンギツネがつられて後ろを見た。

 

キタキツネ  「あぅう……」

 キタキツネが、ふらっと倒れ、湯に沈みそうになった。

 

ギンギツネ  「キタキツネ!!」

 湯が波打って、しぶきが飛んだ。

 ギンギツネが半ば潜るようにして、キタキツネを抱きとめた。

 

 

 

 1時間ほどあと。畳敷きの部屋。

 

キタキツネ  「あうぅ……だるだるーい……」

 布団に、浴衣を着たキタキツネがあおむけに横になっていた。 *11

 

 ギンギツネが、キタキツネのおでこに手をあてた。こちらも浴衣姿だった。

ギンギツネ  「お熱、冷めないわね……なんで黙ってたのよぅ……」

 ギンギツネの表情は暗かった。

 

キタキツネ  「……あの子、ギンギツネみたいだから……」

 

ギンギツネ  「……ずるい……勝てないじゃない……」

 ギンギツネは、くやしそうにつぶやいた。

 それを、キタキツネがぼんやりと見つめた。

 

 

 しばしの沈黙。

 

 

キタキツネ  「いっしょに寝よ? ギンギツネ」

 

 キタキツネは、いつもより少しだけ甘い……甘える声だった。

 

ギンギツネ  「ええ!?」

 

 

キタキツネ  「おねがいだからー」

 キタキツネは、頬を赤くして、熱っぽい目でギンギツネを見た。

ギンギツネ  「く……」

 ギンギツネは一瞬ひるんだが、平静を取り戻した。

ギンギツネ  「だーめ。かぜがうつっちゃうわ」

キタキツネ  「いーじゃなーい!」

 キタキツネは、駄々っ子のようだった。

ギンギツネ  「だめだってば。わたしまで倒れたら困るでしょ?」

 

キタキツネ  「 ぼく……『 ゆりっぽい草の根っこ 』 だよ? 」

 

 キタキツネは、不自然なほどかわいい顔になって、うるうるの目でギンギツネを見つめた。 *12

 

ギンギツネ  「ぁう……また、わけの、わからなぃ……」

 ギンギツネは、ギリギリのところで耐えていた。 *13

 

キタキツネ 「おいしいよ? ……ギンギツネの好きなように、おりょうりして……いいよ……」

 

 キタキツネは、恥ずかしそうにぼそぼそっと言って、体ごと横を向いて顔をそらした。

 ボフッと大きなしっぽが動き、浴衣がはだけて、右の肩が出た。ほんのりピンクの肌色だった。浴衣の前も大きくズレて、元々ゆるかった浴衣の帯は、意味を失った。 *14

 

 

 間があった。

 

 

 ギンギツネは、不自然なほど美しい顔になって、色っぽい目でキタキツネを見つめた。

ギンギツネ  「……お熱でへんになっちゃったのね……かわいそうに……」  *15

 ギンギツネは、キタキツネの赤い頬を、下から上へ、手指を滑らせていき、キタキツネの髪をかき上げるように、やさしくなでた。同時に、キタキツネに顔を近づけていった。

キタキツネ  「ん……」

 キタキツネが、きゅっと目を閉じた。

 

ギンギツネ  「あなたが感じているのは、まぼろしよ。わたしはおばけなの」

 ギンギツネが、ちょっといたずらっぽく微笑んだ。

 

ギンギツネ  「……だからこれは、なかったこと」

 

 かすかに衣擦れの音がした。

 ギンギツネの浴衣が、はらりと滑り落ちて、ほっそりした肩がむき出しになった。  *16

 キタキツネは、ぱっちりと目を開けて、ギンギツネを見た。

 

キタキツネ  「あつあつのうちに食べてね、おばけさん」    *17

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

*1
 そんな映画がありましたね(複数)。

*2
 アニメ1期に登場した温泉は露天風呂であり、屋根がありますが、目隠しの壁は最低限しかないようです(岩山などで隠れるため)。パークが正常に機能していた頃は、風呂場が男女に分かれていて、仕切りの壁があったはずですが、アニメ1期の世界に男湯は不要(?)なので、壁は撤去したかもしれません。

*3
 ギンギツネは全裸ですが、見えちゃいけないところは、カメラアングルでごまかしつつ、湯気で隠しています。

あと、『じーーっと見てる、鋭い目のふたり』って、どこかで見たような……。

*4
 図書館と温泉宿のビデオ通話です。

*5
 ギンギツネがアーケードゲームの台を修理しようとして失敗し、その残骸をキタキツネが魔改造した結果、ゲーム機兼通信端末になりました。これとは別に、温泉宿の宿泊管理用端末もあるのですが、あえて使っていません。

*6
 『ナス科のアサガオ(ダチュラ)』は、本当にやばいです。

*7
 食べると一回り大きくなって、スーパーキタキツネになれます。でもそんなキタキツネは嫌です。

*8
 『ユリ根』は食用になりますが、『ゆりっぽい』という曖昧な表現はあぶないです。

*9
 ガンマ線はあぶないですが、キタキツネが感じたのは、ごく微量だったようです。

*10
 アニメ1期のキタキツネが文字を読めるのかは不明です。ゲームで遊べるのだから、ある程度は読めるのかもしれません。

*11
 ホテルや旅館にあるような浴衣です。裸の上に直に浴衣を着ています。ギンギツネが無理やり着せたもので、きれいに着付けできずに乱れています。『着たキタキツネ』って、へんなかんじ、かも……。あと、フレンズが帯を結べるのか、という問題も……。

*12
 ギンギツネには、キタキツネのかわいさが増幅されて見えたようです。

*13
 ギンギツネの、細くて強い理性の糸に、キタキツネがぶら下がっています。

*14
 見えちゃいけないところはギリギリ隠れています。ギンギツネは、キタキツネの裸なんて見慣れている(ついさっき見た)ので、このくらいでは動じません……たぶん。帯は浴衣をとめる意味を失いましたが、ふたりの気分を盛り上げる『デコレーション』の意味があるかもしれません。

*15
 へんになっちゃったのは、キタキツネか、ギンギツネか、筆者か、あるいは……。

*16
 おばけという割には、生々しい姿です。(なま)ギンギツネです。

*17
このあと滅茶苦茶

濃……接触した。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 『あの子』は幽霊じゃないです。たぶん、キタキツネにしか知覚できない『何か』です。でも、『周囲にあるものを知覚している』のではなく、『自分の奥底からにじみ出ている』可能性もあります。どちらなのかは、誰にも分かりません。

 筆者は、“ フレンズって、(広義の)おばけなのでは? ”と思ったり思わなかったりします。幽霊とは違って生きていますが、絶滅種がいるとか……。おばけもののけものフレンズ……。

 初めは百合っぽくするつもりではなかったのですが、書いているうちにふたりが勝手にいちゃいちゃし始めて、話が長くなり、キャラ崩壊が進行し……という、いつものパターンになりました。



 この翌日の朝、何かにひかれて温泉宿にやってきたマーゲイが、あつあつになって寝ているふたりを発見しました。
 ふたりは、一つの布団で、掛け布団をかぶって、なかよく寝ていました。浴衣2着と2本の帯が、布団のわきに落ちており、1着はしわくちゃで、もう1着はきれいに丸めてありました。




 ―― 細かいうえに今さらなこと ――

 『はかせ』は今までひらがなで書いていましたが、カタカナの『ハカセ』に変えようかな、と思っています。カタカナ表記の方が広く使われている気がするので。でも、個人的にはひらがな表記が好きです。今まで書いたものを全部修正するのも面倒ですし……迷っています。

 『助手』は漢字、『われわれ』はひらがなで書きます。


 [ 初投稿日時 2020/09/09 19:29 ]
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。