アライグマ 「のだー」
夏の夕方。日本の地方都市。住宅地にある普通の民家。
2階の子供部屋で、かばんが机に向かい、何か書いていた。外ではセミの声が響いていた。
かばんが書いていたのは、絵日記だった。絵は描かれていなかった。「8月3日(木)」「はれ」「きょうは」と書いたが、そこで止まった。
かばんは机のわきにい置いてあった携帯電話(二つ折りのガラケー)を開き、電話帳を開いた。「サーバルちゃん」とあった。かばんは電話をかけた。コール音が鳴り続けた。
間。
かばんは携帯電話を閉じた。
誰もいない1階のリビング。そこへかばんが入ってきて、テレビをつけた。テレビではお笑い番組をやっていた。たらいが降ってきて、お笑い芸人の頭を直撃し、録音された笑い声が流れた。
かばんは無表情だった。テレビを消し、リビングを出ていった。
子供部屋で、かばんが再び机に向かい、絵日記を書いた。
「8月4日(金)」「はれときどきたらい」
翌日。
ベッドに寝ていたかばんが上体を起こした。かばんは窓を見た。薄いカーテン越しに見える外は、薄暗かった。かばんは、机の上の日付け付きデジタル時計を見て驚いた。時計は8月4日(金)7時77分を表示していた。
かばんは窓に駆け寄り、カーテンを開けた。
窓の外では、灰色の縞模様がある動物のしっぽが沢山降っていた。大粒の雨のようにボタボタと地面に落ちていた。かばんは目を見開き、ぽかーんと放心した。
街中にしっぽが降っていた。道路や建物の屋根にしっぽが積もっていった。
トラックがしっぽを踏んでスリップし、別の自動車に衝突、衝突された自動車が歩道に突っ込み、人を次々とはねた。しっぽが降っていたのはかばんがいる町だけではなかった。駅には人があふれていた。電光掲示板に「悪天候により全線運休」と表示されていた。
しっぽが降るのが止まって、空が晴れた。人々はしっぽを手で拾ったり、雪かき用の大きなスコップで集めたりして、除去していった。
1時間ほど経って、空がキラキラとかがやき、サンドスターが降ってきた。サンドスターが積もったしっぽに当たった。しっぽがもぞもぞと動き、しっぽの端から光のかたまりが膨らんで、アライグマのフレンズの姿になった。
アライグマ 「のだー」
発生したたくさんのアライグマは、鳴き声をあげながら、好き勝手な方向に歩いたり、走ったりし始めた。
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
道を埋め尽くすアライグマにパトカーが近づき、警官がスピーカーで警告した。
警官A 「君たちは通行の妨げになっています。道をあけなさい!」
何匹かのアライグマは逃げたが、逆にパトカーに近づいていくアライグマもいた。一匹がジャンプして、パトカーのボンネットに飛び乗った。一匹が乗ると、周りにいたアライグマが次々とパトカーのボンネット、屋根、トランクに飛び乗った。
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
パトカーのフロントガラスが割れた。
警官A 「うわあああ!」
パトカーがバックし、乗っていたアライグマを振り落とし、後ろにいたアライグマをはねた。
アライグマ 「のだっ」
応援のパトカーがやってきたが、それはすでに車体のあちこちがへこみ、ガラスにひびが入っていた。応援のパトカーから警官Bと警官Cが降りてきて、寄ってくるアライグマをかわしつつ、アライグマに襲われたパトカーのドアを開けた。
警官Aが座っていたはずの運転席には、アライグマが座っていた。
アライグマ 「のだー」
警官B 「だめだ!遅かった!」
警官C 「戻るぞ!」
警官Bは襲われたパトカーのドアを閉めた。警官Cは空に向けて拳銃を撃った。周りにいたアライグマたちが逃げた。警官Bと警官Cは乗ってきたパトカーへ戻ろうとしたが、乗ってきたパトカーのドアの前にアライグマがいた。警官Cがドアの前にいるアライグマの足元に向け、銃を撃った。アライグマは驚いてその場にへたり込んだ。警官Cはへたり込んだアライグマに銃を向けたが、撃たなかった。
警官B 「後ろ!」
警官Cの後ろから別のアライグマが近づいてきた。アライグマが警官Cに触れると、警官Cがアライグマに変わった。
警官Cだったアライグマが、警官Bに近づいてきた。警官Bは銃を抜き、空に向けて撃ったが、アライグマは逃げず、警官Bに近づいてきた。
警官B 「許せ」
警官Bは警官Cだったアライグマを撃った。弾丸がアライグマの胸に当たった。直後、アライグマの胸から弾丸が飛び出し、警官Bに当たった。警官Bもアライグマに変わった。
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
異変は日本中で起きていた。アライグマに触れられた人は、アライグマに変わった。逃げ惑う人々。増えていくアライグマ。
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
そしてまた、しっぽが降りはじめた。
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
そしてまた、サンドスターが降ってきた。
公園。女性が泣いている子供に声をかけた。
女性 「どうしたの?」
子供 「おかあさんが、アライに、なっちゃった、のだー」
人々は、しっぽが降ることを「アライが降る」と呼び、アライグマに変わることを「アライになる」と呼ぶようになった。
アライグマ 「のだー」
----中略----
アライグマ 「のだー」
異変は、伝染病のように世界中に広がっていった。
攻撃ヘリが、アライグマの群れに機関砲を撃った。弾丸が戻り、コックピットを直撃し、パイロットがアライになった。攻撃ヘリはふらつきながらしばらく飛行して、高層ビルに衝突し、炎上した。高層ビルの中にいた人全てがアライになった。
兵士達が榴弾砲をアライグマの群れに撃った。砲弾が着弾して炸裂したが、爆煙と爆炎が逆再生したように戻り、砲弾が射点へ戻り、射点で再び炸裂した。その付近にいた兵士が全てアライになった。近くに停めてあった装甲車の車内にいた兵士も、全てアライになった。
ミサイルを打ち込んでも、逆再生したように戻り、発射した所で爆発して、撃った側の兵士や、近くにいた民間人が全てアライになった。
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
----中略----
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
世界中にアライが降り、世界中の人間が、アライになっていった。のだ。アライグマの鳴き声が、世界中に響いたのだ。
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
----中略なのだ----
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
子供部屋でかばんがうずくまり、耳をふさいでいたのだ。
机の上の日付け付きデジタル時計は8月1日(T)88時88分を表示していたのだ。
かばん 「どうして、どうしてこんなことに……」
アライグマ 「かばんさんは、地球に残った唯一のヒトになったのだ。ヒトのフレンズ、という特殊な存在だったから、ヒトのすがたを保てたのだ」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「ちゅうりゃくなのだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「のだー」
アライグマ 「おわらないのだ」
あとがきなのだ
読んでくれてありがとうなのだ。
「はれときどきぶた」のパロディのはずだったのに暴走して、ゾンビ映画みたいになってしまったのだ。ほんとはもっとたくさん「のだー」て書きたかったのだ。でも嫌がらせのような長さになってしまうから中略にしたのだ。
[ 投稿日時 2018/03/29 01:37 ]
※ 一回消して、もう一回投稿したから、はじめの投稿はこれよりも前なのだ。正確な日時はわからないのだ。