まえがき
2020年12月6日に間に合わせようと、急いで書きました。
12月5日。深夜の温泉宿。
キタキツネが、暗い脱衣所で機械をいじっていた。
キタキツネ 「ん?」
キタキツネが何かに気付き、顔を上げた。
ギンギツネ 「夜中になにやってるのよ?」
ギンギツネが部屋に入ってきた。
キタキツネ 「あしたのため……じゃないよ?」
キタキツネは、わかりやすく何かをごまかそうとした。
ギンギツネ 「あした?」
キタキツネがいじっていたのは、マッサージチェアだった。だが原形をとどめないほど改造されていて、メカメカしい感じになっていた。背もたれが大きく倒れていて、歯医者の椅子のようだった。
ギンギツネ 「これ、倉庫にあったいす? すごいことになってるけど」
キタキツネ 「ギンギツネがこわしたやつ、直してみた」 *1
ギンギツネ 「壊してないわよ! 古すぎて動かないの」
キタキツネ 「どうぞ」
キタキツネは、ギンギツネに、椅子に座るよう促した。
ギンギツネ 「どうぞって……」
キタキツネ 「あしたは、『あねの日』」 *2
壁に、ひびが入った掛け時計があり、その針が12時に向かっていた。
ギンギツネ 「姉の日?」
キタキツネ 「妹が、おねえちゃんに “ ごほーし ” する日だよ」
ギンギツネ 「……いろいろ間違ってる気がするわ……」 *3
キタキツネ 「怖くないよ……たぶん」
ギンギツネ 「……嫌な予感しかしないんだけど……」
ギンギツネは、不安を見せたが、結局椅子に座った。 *4
キタキツネが、操作パネルの黄色いボタンを押した。
カチャカチャっと機械が動いて、ギンギツネの手足を固定した。大きくてふさふさのしっぽも、ふとももの間で固定された。 *5
ギンギツネ 「ああ……予想通りね……」
キタキツネが、パチンっとトグルスイッチを倒した。
ギュイーンっとジェットエンジンのような始動音がした。
ギンギツネ 「この音おかしいでしょ!」
キタキツネ 「もうちょっと……」
キタキツネは、真剣に計器を見ていた。 *6
ギンギツネ 「なんか、あったかい……」
キタキツネ 「……やった!」
キタキツネが、計器を見て明るい顔をした。 *7
キタキツネ 「じっとしてて。へたに動かすと、700キロくらい出るよ」 *8
キタキツネは、ギンギツネを見て、ドヤ顔をした。
ギンギツネ 「……予想以上ね……」
キタキツネが、たくさんのダイヤルを、最大値まで回していった
キタキツネ 「だいじょうぶ。成層圏までは行かないから」 *9
ギンギツネ 「……わけのわか……りたくない…………」
ギンギツネが青ざめた。
壁掛け時計の針が、12時を指した。
キタキツネ 「ギンギツネ……いつも、ありがと……」
キタキツネは、ぼそっと小声で言った。
ギンギツネ 「え?」
キタキツネが、緑色のボタンを押した。
深夜の図書館。 *10
図書館の建物を貫く木の枝に、ハカセと助手が立っていた。
助 手 「おくりものでもくれるのですか? ハカセ」
ハカセ 「わたしがおねえちゃんなのです。助手」
助 手 「…………」
妙に気まずい間があった。
ハカセ 「ごほん……きょうは、『星が落ちた日』でもあるのです」
助 手 「『姉の日』から飛躍しましたね」
ハカセ 「この前、温泉旅行にきた、ウォンバットから聞いたです」
ハカセ 「南の大陸の伝説なのです」
ハカセと助手が星空を見上げた。
深夜、サバンナの木の上。
かばん 「たとえば、ジャパリまんを思いっきり投げて……」
かばんは、星空へジャパリまんを投げるまねをした。
かばん 「それは、ここからは砂粒にも見えない、遠くてちいさな星まで飛ぶ」
かばん 「何年もたってから、ジャパリまんは流れ星になって、この手に落ちてくる」
かばんが、ジャパリまんを高く掲げて、キャッチするまねをした。
かばん 「それには、『星の砂』がひっついてるんだ」
かばんは、サーバルにジャパリまんを渡した。
サーバル 「すっごーい!!」
「……って言いたいけど……はむ……」
サーバルが、ジャパリまんをかじった。
かすかにサンドスターがこぼれて、キラキラ光った。
サーバル 「……ん……さすがにそれはすごすぎじゃない?」
かばん 「そうだね。ぼくも、おとぎ話だって思う」
かばんが微笑んだ。
木の下。
フェネック 「いやー、ヒトなら、ほんとにやりかねないよー?」
アライグマ 「そのぐらい、かばんさんなら朝飯前なのだ!」
図書館。
ハカセ 「ヒトは、あの星のひとつから、『星の砂』を取ってこようとしたのです。
ラッキービーストのような……モノを使って」
ハカセは、星空をじっと見つめた。視界がズームレンズのように拡大され、光の点が増えたように見えた。
ハカセ 「いのちのもとは、宇宙から来た……その証拠が見つかるかもしれないと」
助 手 「ヒトというのは、どうしようもないロマンチストなのですね……」
助手も遠い目をした。
ハカセ 「ふしぎなことに、ヒトはそれを、猛禽の名で呼んでいたのです」
助 手 「……『
ハカセ 「知っていたですか、助手」
助 手 「『つばさ無きモノ』に、そんな名をつけるとは……」
ハカセ 「なんで『みみずく』にしなかったですか……」
ハカセは不満げだった。
助 手 「暗闇を音もなく飛び、一瞬で
『みみずく』の方が合っているのです」
ハカセ 「ただ……残念ながら、速さは比べものにならないのです……」 *12
深夜、南半球っぽい、砂漠の気候帯。
イエネコと、不愛想な男……ごしゅじんが、寄り添って座って星空を見ていた。
ふたりのもとにはランタンが置いてあったが、光は最小に絞られていた。
3メートルほど離れた所に三脚が立ててあり、デジタル一眼レフカメラも星空を見ていた。
イエネコ 「この時間はさすがに冷えるのね……」
イエネコが、ごしゅじんに寄りかかった。
イエネコはいつもの毛皮で、ごしゅじんは薄着だった。
ごしゅじん 「あの町だったら凍えてる。あったかいもんだ」 *13
ごしゅじんは、イエネコを抱き寄せた。
星が流れた。とても明るくて、長く光った。
イエネコの耳が、くるっと動いた。
イエネコ 「ん?」
イエネコがカメラを見た。
つられて、ごしゅじんもカメラを見た。
軽いモーター音とともに、三脚の雲台が勝手に動き、カメラアングルが変わった。 *14
真っ黒なふたりのシルエットと、キラキラの星空がフレームに収まった。
ごしゅじん 「カメラいじったか? イエネコ」
イエネコ 「なにもしてないわよあたし!」
ごしゅじん 「誰がやったかは察しがつくな……」
イエネコ 「……ま、いいや」
イエネコは、軽い感じだった。
イエネコ 「これ、あげる」
イエネコは、チョコレートの紙箱をごしゅじんに渡した。
ごしゅじんが薄明りの中、箱を開けた。
ごしゅじん 「暗くて見えない」
6個入りのチョコレートのうち、1個だけが無くなっていて、代わりに何かが入っていた。 *15
イエネコ 「食べちゃだめよ! 猛毒だから!」
ごしゅじん 「そのネタはやめろ」
ごしゅじんは、箱から何かをつまみ上げ……
ごしゅじん 「…………」
……固まった。
イエネコ 「どしたの?」
ごしゅじん 「イエネコ……先を越すな……」
イエネコ 「さき?」
イエネコが首をかしげた。
イエネコ 「『星が落ちたら、これをあげて。すっごーくよろこぶから』って……」
ごしゅじん 「ミキナさんが?」
イエネコ 「へ? ううん。ハツカネズミが言ったの」
ごしゅじんがつまみ上げたのは、指輪だった。暗くて、細かな形はわからなかった。 *16
イエネコ 「キーナさんは、『あとは、ごしゅじんにまかせなさい』って……」
ごしゅじん 「はぁ……」
ごしゅじんはため息をついた。
イエネコが、ごしゅじんの顔をのぞき込んだ。明るく、ほんの少し不安そうに。
イエネコ 「だめ、だった? (やった!! すっごいよろこんでる!!)」
ふたりは、互いに大喜びしているのを隠しつつ、目を合わせた。
ごしゅじん 「台無しだ。お互い」
ごしゅじんが、メモリーカードのケースをイエネコに見せて、パチンと開けた。
イエネコ 「あれ? ごしゅじんもくれるの?」
ごしゅじん 「砂は生きること。星は死ぬこと……」
ごしゅじんは、刺さるように真剣な目で、語り始めた。
イエネコ 「それ、逆じゃないの?」
イエネコは、素朴な疑問をぶつけた。
ごしゅじん 「どっちでもいい」
しばしの静寂。
ごしゅじん 「なに言うんだか忘れた!!」
ごしゅじん 「くそっ! サプライズなんて大嫌いだ……」 *17
ごしゅじんは落ち込んだ様子だった。
イエネコ 「なんだかわかんないけど、ごしゅじんかわいいわぁ」
イエネコが、メモリーカードのケースから指輪を取り出して、しげしげと見つめた。かすかに光の点が映っていた。
イエネコ 「なんのために渡すの? これ」
ごしゅじん 「確認だ。本気かどうかの」
イエネコ 「あたしは、いつでも本気よ?」
イエネコの声は明るかった。
ごしゅじん 「イエネコの本気なんて見たことない」
イエネコ 「そうねぇ……」
イエネコは、さらっと流した。
イエネコ 「ん……ちゅ……」
ふたりのシルエットがくっついた。
イエネコ 「……はぁ……」
イエネコ 「えっと、えっとね…………もっとだいじなこと、あるの……」
イエネコは、うつむいてもじもじした。
ごしゅじん 「……赤ちゃんができた?」
イエネコ 「ぅふにゃぇ!!」
不意を突かれたイエネコが、変な声を出した。
ごしゅじん 「……冗談だぞ?」
イエネコ 「ちがうちがう!! いや、近いけど!」
イエネコは、わたわたした。
イエネコ 「もう! 言いたかったこと超えるのやめなさい!」
ごしゅじん 「……イエネコなりの答えか?」
イエネコ 「そうよ。……でも、まだカタチがないの」
イエネコは、両手をおなかにあてた。
イエネコ 「手伝いなさい、ごしゅじん。いっしょに答えを作るのよ。
……あんたとなんて嫌だけど、他に頼めるひといないから」
ごしゅじん 「覚悟はできてるか?」
イエネコ 「もちろんよ!」
イエネコの顔は、暗くてぼんやりとしか見えなかったが、声が笑顔を感じさせた。
イエネコ 「あたしには、サンドスターがついてるんだから!」
明け方近い、温泉宿の脱衣所。
ギンギツネ 「……あぅう……ああ……ん、んんぅ……きもちー……んふふ……うぅん……」
ウインウインというモーターの和音と、ギンギツネの、色っぽい声が響いていた。
ジェットエンジンのような音はおさまっていた。
キタキツネが、露天風呂へ出るガラス戸を開けて、外を見た。
そして、キラキラの星空を見上げた。
キタキツネ 「すっごく、すっごくさびしかったんだね」
キタキツネは、空にいる誰かに語りかけた。
キタキツネ 「キミのおねえちゃんは、がんばりすぎて、お空にとけちゃったから……」
遠くの空が、オレンジ色になり始めた。
キタキツネ 「ん? おにいちゃん、かな?」 *18
キタキツネは首をかしげた。
ギンギツネは、とろけるような快感を楽しんでいた。
ギンギツネ 「……ふああ……もっと、んぉ、しっぽきもちいぃ……あっあっぁ、んぅぅ……」
ギンギツネの座ったマッサージチェアから、様々な形の短い棒が何本も生えていて、ギンギツネをやさしくマッサージしていた。特に、しっぽを念入りに。
椅子自体が浮き上がり、ふわふわと心地よい揺れを作り出していた。 *19
キタキツネ 「ここからじゃ、遠すぎて見えないけど……」
ちいさな星が流れた。
キタキツネ 「おかえりなさい」
おわり
筆者は、ギンギツネが『アカギツネの亜種』なのか、『毛色違い』なのかがわかりません。後者なら、ギンギツネとキタキツネは実の姉妹である可能性があります。けもフレのギンギツネは、『銀色のキタキツネ』とも考えられるので。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
時系列・場所・設定は気にしないで、浮かんだことをそのまま書きました。特に最後の温泉宿の場面は、いつの出来事なのか不明です。『今』とでも言いましょうか。
別作品『あまいかたち』から、イエネコとごしゅじんにゲスト出演してもらいました。番宣ではなく、準主役です。この場面も、いつの出来事なのか謎です。
ハカセをカタカナにしましたが、やっぱり違和感が……ひらがなの方が良いかも……。