ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 2021年最初の投稿です。ですが、暗いですごめんなさい。
 脚注には、ネタバレっぽい解説が書いてあります(マウスオーバー又はタップで表示。スマホだと表示が崩れるかも)。
 


〈 おもいでの 〉

 

 薄暗いジャングルの中。

 

カラカル 「あんた……誰なの?」

 

 いびつで大きな木の下で、カラカルが、ラッキービーストの残骸に話しかけた。戸惑った様子だった。

 

誰かの声 「ぼくは…………」

 

 ラッキービーストのおなかの、丸いレンズが微かに光って、不明瞭な割れた音で『誰か』の声を発した。『誰か』は子供っぽい声だったが、音質が悪く、性別までは分からなかった。

 

カラカル 「そこから出てきなさい!」

誰かの声 「ごめ……出られない……」

 

 そのラッキービーストは、木にめり込むようにもたれかかっていて、木と一体化していた。半分土とコケに埋もれ、劣化して灰色になった外皮が割れて崩れ、内部が見えていた。

 

カラカル 「じゃあ、証拠をみせなさい」

誰かの声 「証拠って言われても……」

 

 カラカルが、ふっと、やさしく慈しむような顔になった。

カラカル 「ふたりの……はじめての、ちゅー、いつだった?」

 

 間があった。

 

カラカル 「黙ってないで、正直に答えなさい!」

誰かの声 「……2回目の旅……夜のさばくで、カラカルが寝てたとき……ついうっかり」  *1

 カラカルがハッとして、けもの耳をピンっと立てた。

カラカル 「ほんものだわ!」

誰かの声 「うわー……あれおぼえてたの?」

 『誰か』は、ばつが悪そうだった。

カラカル 「あたりまえよ! すっごく………かったんだから」

 カラカルは、頬を赤くしてそっぽを向いた。

 

誰かの声 「ぼくは、ほんものじゃないよ?」

 

カラカル 「でも、おぼえてるわ! おもいでがあるじゃない!」

 カラカルは、努めて明るく言った。

誰かの声 「……ぼくは、だれかが、ぼくの心をなぞったもの……その名残りだと思う」

カラカル 「なによそれ。わけわかんないわ」

誰かの声 「うーん……分身、ではないね。わかりやすく言うなら……影みたいなもの、かな?」   *2

カラカル 「影?」

 

誰かの声 「ほんもののぼくが、どうなったのか、わからないけど……

      たぶん、もう、この世界にはいないよ」

 『誰か』の声は、素っ気なかった。

 

カラカル 「なに言ってるのよ!? ここにいるじゃない!!」

 

誰かの声 「カラカル、出会ってから、どのくらい経ったかおぼえてる?」

カラカル 「……えっと……5……ほんの300年くらい?」

 カラカルは、とぼけて、ぎこちなく笑った。

誰かの声 「そんなものじゃないよね? もっとでしょ?」

 『誰か』は、言い聞かせるように言った。

カラカル 「……うぅ……」

 カラカルのけもの耳が、へにゃっと倒れた。

誰かの声 「ヒトは、そんなに生きられないよね?」

カラカル 「カラカルだって、そんなに生きられないわよ……」

誰かの声 「……カラカルは、『止まってる』から」   *3

カラカル 「っ!! やめてっ!!」

 カラカルが頭を抱えた。

 

誰かの声 「これで5回目かな……出会ったの……」  *4

カラカル 「わかんない……ぐちゃぐちゃで、あたま痛くなる……」

 

誰かの声 「ぼくたち、雪だるまみたいだね……。

      ごろごろ転がって、おもいでが、おっきくなっていくんだ。

      ……でも、そのうち……入れものに入らなくなる」  *5

 

カラカル 「入らなくなったら……おもいでは、どこへいくのよ?」

 

誰かの声 「とけて、消えちゃう」

 

カラカル 「だめぇっ!! 消えないで!! ……おねがい、おねがいだからぁ……」

 カラカルは、ラッキービーストの残骸……その先の『誰か』に懇願した。

誰かの声 「消えるのは、ただのおもいでだよ。ぼくじゃないよ」  *6

 

カラカル 「ちがう!! 違う違う違うっ!! あんたはここにいるっ!!」

 カラカルは、ラッキービーストの残骸を抱きしめようとした。

誰かの声 「やめて!」

 

 ラッキービーストの表皮が、ボロボロと崩れた。

カラカル 「ひぅっ!」

 カラカルは、引きつったような声を出し、手を引っ込めた。

 

誰かの声 「もうちょっと、おはなししたいから……

      ぼくの声が出なくなるまで、ラッキーさんには、さわらないで」

 

カラカル 「……長生きなんて、するもんじゃないわ……」  *7

 カラカルは、うなだれて、苦い顔でつぶやいた。

 

誰かの声 「おもいでが消えれば、楽になるよ。ふたりとも」

カラカル 「そうだけど……あんたは、もう次の入れ物がないじゃない……」  *8

誰かの声 「これ以上いらないよ。今までが長すぎたんだ」

カラカル 「あたしもちょっとずつ寿命を削ってるわ。元の姿に戻ったら、おばあちゃんね」

 カラカルが顔を上げて、微笑んだ。

カラカル 「永遠に生きられるけものなんて、いないのよ」

誰かの声 「ひとりだけいるよ? えーっと……フシチョウさん、だっけ?」  *9

カラカル 「あー……あのひとは、けもの離れしてるわ」

 カラカルは苦笑いした。

誰かの声 「あんなフレンズに会っちゃうなんて……」

カラカル 「運がよかったのか悪かったのか……」

 ふたりは、ため息をつくように言った。          *10

 

 少し間があって、ザーっというノイズが入った。

 

誰かの声 「…………ごめん……もうおしまいみたい……」

 

カラカル 「……そう……」

 カラカルは、ラッキービーストの残骸を見つめた。素っ気ない感じで。

 

 ぐっと拳に力がこもった。

カラカル 「これで……」

 彼女は、強引に笑顔を作った。

カラカル 「ようやくお別れできるわっ!」

 声がふるえた。

 

誰かの声 「カラカルを抱きしめられないのは、しょうがないけど……

      見えないのがざんねんだなー。  *11

      ……うまくいかないね……。

      泣いちゃうの恥ずかしくて、泣きたくないときは……こぼれちゃうのに……

      ほんとに泣きたいときは、泣けないなんて……」

 

カラカル 「あたしが、あんたの分まで泣いてあげるわ」

 カラカルは、やさしく、努めて明るく言った。

 

 そして、目を閉じてうつむいた。

カラカル 「……いくらでも泣けるんだから!」

 

 

 息を止めたような沈黙があった。

 

 

 

カラカル 「ぐ……」

 カラカルが、歯を食いしばって顔をしかめた。

 

カラカル 「どうして!? どうして涙が出ないの!?」

 カラカルは目をこすったが、涙は流れなかった。

 

 

誰かの声 「……カラカルは、動物のカラカルは泣かないから……かなあ?」

カラカル 「……そんなはずない……今まで、何度も、何度も、何度も……

      あんたに泣かされたわ……」   *12

 カラカルは、長年の恨みを噛みしめるように言った。

誰かの声 「うえぇ! そんな泣かせたかなあ?」

カラカル 「ばかっ!」

 カラカルが、かすかに笑った。

 

カラカル 「……まって……もうちょっと……もうちょっとで泣けるから……ん……」

 カラカルは、目をぐりぐりこすった。

 

 

カラカル 「……ぐ、んうぅー……」

 目を、ぎゅーっとつぶって、涙を絞り出そうとした。

 

誰かの声 「もういいよカラカル! がんばることじゃないよ!」

 

 

 

カラカル 「……はぁ……うう……ん、くぅううぅーー………………ぐ……」

 

 

 

 耐えきれなくなったように、カラカルが叫んだ。

カラカル 「 もう!! あたしの ばかぁーーっ!!! 」

 

 

誰かの声 「えぇ!」

 

 

カラカル 「 なんであんたの名前、思い出せないのよっ!!! 」

 

 

 カラカルは、赤くなった目でラッキービーストをにらんだ。

 

カラカル 「泣けないじゃない!!」

     「………おもいでが消えちゃったらっ、泣けないじゃないのぉ……ううぅ……」

 カラカルは、顔を覆って、かすれた声を出した。精一杯のうそ泣きだった。

 

 

誰かの声 「……ありがと……キミの声、かわいぃ…そうで……すき……」

 誰かの声が、途切れ途切れになった。

カラカル 「う……いじわるぅ……」

 

誰かの声 「……つぎは……ほかの だれかと……」

 声に、ザーっとノイズが乗った。

誰かの声 「……たのしい、おもいでを、つくっ………………」

 声が、ぷつっと途切れ、ラッキービーストの光が消えた。

 

 

 鳥の鳴き声が響いた。

 

 

 カラカルが、ラッキービーストをなでた。ボロボロ崩壊して、ポフっと、金属とプラスチックの粉になって広がり、コケの上に降り積もっていった。

 

 

 カラカルは、しばらくそれを見つめた。ぼんやりした無表情で。

 

 

 

 

 カラカルが、自分の手のひらを見て、いぶかしげな顔をした。

カラカル 「なによ、これ」

 彼女は、ちょっと不機嫌そうな、冷めた感じだった。

 

 人差し指に、キラキラ光る、サンドスター混じりの水滴が付いていた。      *13

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 これが本当に『2回目の旅』の出来事なのかは不明です。あと、『ついうっかり』やっちゃだめです。

*2
 この声の主は『影の痕跡』程度のものです。『誰か』の記憶を、別の何者かが裏返しにトレースして型取りする途中で生じた副産物が、ネットワーク経由でラッキービーストの記憶装置に混入して……って、筆者もよく分かりません。要は、『誰かの記憶のかたまり』です。

 このラッキーさんの電源は、劣化した太陽電池と充電池です。得られる電力はごくわずかです。

*3
 厳密には止まっていません。フレンズの姿はほぼ固定されていますが、元の姿での時間は、じりじりと流れています。

*4
 このふたりは、出会いと別れを繰り返しています。ですが、流れた時間のわりには、回数は少ないです。間隔が開いています。

*5
 記憶が消えずに生き続けると、記憶がつぎ足されて膨らんでいきます。いずれは、脳や記憶装置の容量を超えてしまいます。これは、状況は違いますが、カラカルと『誰か』に共通することです。ふたりとも、数百年分(?)の記憶を持っており、不安定な状態です。記憶が部分的に消失したり、前後が入れ代わったりしています。記憶が巨大なため、自分で整理するのも難しいです。

*6
 ここでは否定していますが、『記憶≒自我』と考えるなら、記憶を電子データ化して、入れものを移し替えていけば、理論上は永遠に生きられることになります。ですがこれはSFの世界であり、人間の記憶を、(再生可能な)電子データにするのは、ほぼ不可能らしいです。仮に可能だったとしても、それは生きていると言えるのか? という問題があります。いくらでもコピーができてしまうのも問題です。

*7
 カラカルは、『長生き』しているのではなく、本来は世代交代で消えてしまうはずの記憶が、強い未練か何かの理由で、分解と復元を繰り返しているのです。『肉体のある幽霊』のようなものです。

*8
 適度に『忘れる』ことができれば、脳や記憶装置の容量を超えずに済みますが、ハードウェアが壊れてしまったら終わりです。

*9
 『フウチョウ』ではありません。あの鳥は、不死鳥(フェニックス)とは微妙に違うのですが……。

*10
 このふたりが無駄に長い時間を過ごすことになったのは、フシチョウさん(?)の影響かもしれません。

*11
 ラッキーさんの『目』は完全に壊れています。

*12
 泣かされた理由は様々です。

*13
 この『水滴』は、誰がこぼしたものでしょう?




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 このおはなし、実は最初はアラフェネでした。筆者は、なぜか途中で配役を変更し、アライさんをカラカルに、フェネックを『誰か』に代えてしまったのです。アラフェネの方が良かった気もしますが、あえてこのふたりで書きました。
 このおはなし、『役者は誰でもいい』どころか、けものフレンズである必要もない気がします。でも、『このふたりならでは』の要素も盛り込んだつもりです。



 [ 初投稿日時 2021/01/12 20:21 ]
 
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