まえがき
二人称(?)です。以前書いた〈 だれかと 〉と似た形式です。『手紙形式の二人称の小説』というものもあるらしいのですが、これは全く違います。
催眠術っぽいですが、お遊びです。
不快に思う方もいるかもしれません。『受けつけない』と感じたら、すぐに読むのをやめて、戻るか閉じてください。
主人公の『あなた』は、男性っぽいですが、女性でもかまいません。『彼女』はアニマルボーイ(男の娘?)でも良いです。男女以外の性別もありです。好きなように設定してください。
推奨環境(守る必要は無いです)
五感に文章以外の情報が入らないようにします。
・ 静かな場所
・ 快適な室温
・ 締め付けるもの(ベルト等)が無い服装
・ 全画面表示
・ 文字は大きめ(ブラウザで拡大)
・ スマホは横倒しが良いかもです。
・ 脚注は、読んでも読まなくても良いです。
あなたは、想像の世界へ向かいます。
自分の想像力を信じてください。
上手くいけば、あなたの大好きなフレンズに会えるかもしれませんよ?
リラックスしましょう。
体の力を抜いて、楽にしてください。
あなたは体を起こして、ぺたんと座りました。
地面は、土で汚れたコンクリートです。ゆるい凸凹があります。
顔を上げると、目の前に、あなたの身長の倍以上ある、頑丈そうな金属の柵があります。
振り向くと、岩山のような、コンクリートの壁があります。壁にある唯一の扉には、牢獄のような格子がはまっています。
檻の中には、人工の木と、大きいお風呂のような池があります。
檻の外は草が茂っていて、その先は、暗くて深い森です。
あなたが、何十年も、ひょっとしたら何百年も見続けてきた景色です。
自分の体を見てください。あなたは服を着ていますが、ボロボロの布が、最低限のところを隠しているだけです。
檻の外に、かわいらしい女の子たちがやってきました。かつてアニマルガールと呼ばれていた、けものが少女の姿になった存在、フレンズです。あなたを興味深そうに見つめてきます。
みんな、とってもやさしくて、いい子ばかりです。
彼女たちは、檻の隙間からジャパリまんや果物を入れてくれます。それはきっと、おなかが空くのをがまんして、あなたにくれたものですよ。ちょっと傷んでいても、全部食べましょう。
草や枯葉のお布団をくれる子もいます。この暖かい葉っぱは、その子が巣を作るためにがんばって集めたものですから、大切に使いましょう。虫が混ざっていたとしても。
あなたが、「鉛筆がほしい」と言ってもフレンズは理解できませんが、「木の枝がほしい」と言えば持ってきてくれます。それで遊び道具を作れば、みんな喜びますよ。
「見て見て!」
「おーーい! こっちだよ!」
あなたのファンたちが、檻の外から声をかけてくれましたよ。手を振ってあげましょう。
あなたが手を振ると、彼女たちは、キャーっと声をあげて喜んでくれました。
あなたは、生きているだけで、フレンズを笑顔にできます。
何かを食べるだけで……
「あたしがあげたの、食べてくれたわぁ!」
「かわいいねー」
夏に、池で水浴びをしていたら……
「ほんとに毛がないんだね。へんなの」
「へんなのとか言っちゃだめですよ。この子も、けものなんですから」
横になって、のんびりしていると……
「これがヒトか。案外ふつうのけものだな」
寝返りをうったら……
「あ! 動いた!」
運動不足解消のために、腹筋と背筋を……
「あははは! なーにしてるのー!」
「変わった習性があるのですねぇ」
彼女たちに悪意はありません。絶滅寸前の、おもしろかわいい珍獣がいるから、見物しに来るだけなのです。あなたを見ると幸せになれる、なんて噂もありますよ。
「閉じ込められてかわいそう」と言って、あなたを助け出そうとする子もいます。でも、クマの爪で引っ掻いても、げっ歯類の前歯でかじっても、ワニのしっぽで叩いても、檻を壊すことはできません。金網があるので、空からの侵入も不可能です。
この頑丈すぎる檻は、貴重なアニマルガールを保護するために、あなたが作ったのですから、フレンズには壊せないのです。
夜になると、壁の扉が開きます。 *1
あなたは、夜になると、小型ロボットの飼育員たち*2 に強制的に部屋へ収容されます。
この先にある、『本当の出口』も頑丈で、鍵がかかっています。
扉の向こうには、子供部屋ほどの大きさの部屋がいくつかあります。その中の一つが、あなたの部屋です。コンクリートむき出しの壁、黒っぽく汚れた床。でも決して牢獄ではありません。ベッドがあります。ボロボロですが毛布もあります。フレンズがくれた、草のお布団もあります。わき水が引かれていて、蛇口から水が出ます。床にある四角い穴はトイレです。*3 この部屋は、小型ロボットの飼育員たちがお掃除してくれます。 *4
お風呂は無いので、体を洗いたければ、部屋で水を浴びるか、外の池で水浴びをするしかありません。*5 裸を見られるのには慣れてしまいましたね。でも、体臭を気にして毎日体を洗う必要はありませんよ。嗅覚の優れた彼女たちは、ヒトはどんなにおいなのか、興味津々なはずですから。 *6
部屋にも外にも、ライブカメラがあります。見る者は少なくなりましたが、あなたの生活の全てを、24時間365日、世界中から見ることができます。
飼育員のロボットたちも、あなたに食べ物をくれます。でも、あなたが太ることはありません。
毎日、毎週、毎月、健康診断があり、あなたの健康状態は管理されています。あなたは、ロボットたちに、痛い注射を打たれたり、薬を飲まされて気持ち悪くなったり、おしりの穴に体温計を突っ込まれたりします。*7
もう当たり前の日常ですね。
あなたは、朝になると、小型ロボットの飼育員たちに強制的に外へ出され、『展示』されます。
外の世界がどうなっているのか、あなたは、旅をするフレンズから聞きました。
この檻の外は深い森。*8 ヒトが裸で歩いたら、切り傷と虫刺されだらけになって、最悪、毒や感染症で死んでしまいます。森には、怖い肉食動物もいます。森の向こうの雪山でも、遠くにある砂漠でも、あなたは生きていけません。
でも、この檻の中にいれば安全です。食べものがもらえて、長生きできます。
あなたが、外でお昼寝して、半分寝て半分起きていると、嫌でも思い出します。
あなたが大好きだったフレンズ。彼女と檻の中で過ごした日々のことを。
昔々、あなたが、ここに閉じ込められて、しばらく経った頃。
あなたのことを、毎日のように見に来るフレンズがいました。
その子は、好奇心たっぷりな様子で、あなたを見つめていました。
彼女は何を考えていたのでしょう?
ある日、彼女があなたに問いました。
あなたは、彼女がとっても輝いて見えて、くらくらっときて、頭の中が白くなって……
隠していた気持ちを、もらしてしまいました。
彼女はあわてふためき、あなたの予想以上の反応をしてくれました。
その数日後。
あなたがいちばん好きなあの子が、壁の出口から檻に入ってきました。小型ロボットの飼育員たちに連れられて。
ロボットたちは、オスとメスを同じ檻に入れておけば、つがいになり、交尾して、子供ができるだろう、と考えたようです。ヒトの絶滅を防ぐために必死だったのでしょう。*9
彼女は、あなたに捧げられた生け贄でした。あなたが彼女を選んでしまったから、檻の中に連れてこられたのです。
初めは、お互い戸惑っていて、あなたは彼女に威嚇されました。
あなたは、じっくりと時間をかけて、彼女との距離を縮めていきました。
やさしく声をかけて、おしゃべりして、恐る恐る触れて、頭をなでて、ぎゅっと手をつないで……彼女はそれに応えて、あなたに抱きつき、胸に顔をうずめました。
でも、彼女は、「ごめんなさい」と謝ったあと、暗い声で言いました。
あなたと彼女は『 恋人以上のともだち 』 になりました。*10
ふたりで食べものを分け合って、暑い日は、一緒に裸で水浴びをして、寒い日は、葉っぱの布団にもぐり、抱き合って眠って、指をからめて、ふざけてキスをして……。
あれは、じゃれあうだけの遊びでしたよね?
あなたと彼女の生活を、みんなが微笑ましく眺めていました。
あなたは、見せ物にされていると知っていても、彼女しか見えなくて……楽しくて楽しくて、涙が出て苦しくなるほど、楽しかったですよね。
彼女は、どんな遊びが好きでしたか?
ぽこぽこと、泡のように浮かんでくるのは、幻です。
本当にあった出来事は、あなたの心の中にありますよね。
楽しくて悲しかった、ぐるぐる回る狩りごっこ。
葉っぱと木の実をすり潰して、お絵描きしました。絵は今も残っています。
抱き合って高くジャンプしたら、金網に頭をぶつけてしまいました。
熱いコンクリートの上では、日向ぼっこが我慢大会になりました。
あなたが怪談話をしても、彼女は理解できませんでした。
岩壁を登る遊び。でもあなたは、階段があることを知っていました。
池は、泳ぐには狭すぎましたが、潜水ごっこができました。
ロボットの飼育員が、甘い恋愛の映画を見せてくれました。
この映画には、男女が愛し合うシーンがあって、ふたりは気まずくなってしまいました。
あなたは、ヒトの世界を知らない彼女から、質問攻めにあいました。 *11
狭い檻の中でしたが、楽しいことは、たくさんありましたよね。
ふたりの生活が始まって、1年ほど経った日の朝。
あなたが目覚めると、彼女がぐったりとして、熱を出して苦しんでしました。
彼女は担架に乗せられて、ロボットたちにどこかへ連れ去られて行きました。
あなたと彼女は、強引に引き離されてしまいました。 *12
彼女は、弱々しくあなたの名前を呼び、目を閉じました。本当は叫びたかったのでしょう。
虹色の光が見えて、あなたは目をそらしてしまいました。
あなたが、細菌かウイルスを持っていて、彼女には、それに対する免疫が無かったのです。
檻の外で、数人のフレンズが、楽しそうにおしゃべりしています。
あなたのことをチラチラ見ています。話題は、もちろんあなたのことです。
彼女は、はっと驚いて、両手で檻をつかんで、あなたを見つめ、疑問を口にしました。
彼女は、あなたのことを知らないようです。
彼女が、好奇心たっぷりな様子で、檻の隙間から手をのばしてきました。
彼女の頬を一滴の涙が流れましたが、本人は気付いていません。
なぜ彼女は、あなたと “ つがい ” になるのを拒否したのでしょう?
この映画は、ロボットの飼育員が、ふたりを教育するために見せたのです。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
『テキストによるVR』を狙って書きました。
あなたが、いちばん好きなフレンズの手のやわらかさや体温を感じられたら成功です。
……って、無理でしょ!
やはり難しいですね、この書き方。
主人公≒読者なら、主人公の気持ちや考えは読者のものであり、筆者には書けないのです。『~ですよね』という不自然な言い方で読者を誘導しようとしましたが、失敗している気がします。
加えて『彼女』を、読者が自由に想像できるようにしたかったため、そちらも描写に制限が出ました。『彼女』の口調や性格は読者が決めるので、筆者にはセリフが書けないんです。
実はこの『彼女』、当初は、レッサーパンダちゃんにするつもりでした。でも、好きな子は人それぞれなので、自由にしたくなったのです。
そっちのバージョン(レッパン版?)も投稿するかもしれません。
このおはなし、以前書いた〈 おり 〉をベースにしていますが、別物です。
これを書いてみて、ジャパリパークは『理想の動物園』であることを再認識しました。
私は、動物園や、絶滅危惧種を保護する活動を非難するつもりはありません。このおはなしは、
「もしも、あなたが動物園の動物の立場だったら?」
というのを書いただけです。
ひどいものを書いてしまって、ごめんなさい。
動物園は、このおはなしのような、暗くて理不尽な施設ではありません。(ブラックな施設もあるようですが)動物園の飼育員さんは、みんな動物好きで、毎日大変な思いをして、動物たちのお世話をしています。動物たちもそれに応えてくれます。飼育員さんのことが大好きな子も多いです。動物の種類によっては、お客さんに見られるのは刺激になって良い効果がある、という話もあります。
【挿絵表示】
↑〈 るっかとゆぅ 〉の舞台の檻の設定画です。
「大体こんな感じ」という図で、物の比率などはいい加減です。部屋数と建物内の間取りは、この通りではないかもしれません。
この檻の上、4~5mの高さには頑丈な網があり、上からの脱出や侵入も困難です。
檻の材質は不明ですが、非常に頑丈で、フレンズには破壊できません。
蛇足説明
『 るっかとゆぅ 』は、 “ Look at you ” です。
直訳すると『あなたを見なさい』という変な言葉になりますが、いろんな意味にとれる、翻訳が難しいスラングらしいです。
「素敵ね」「いい恰好だね!」「見違えたわ!」「上手ね!」など、褒める時に使うようです。「自分を見て! あなたはすごいのよ!」という感じでしょうか。逆の、悪い意味で使うこともあるようです。「あなた、なんてひどい恰好してるの!」みたいな。場面や言い方で意味が変わるのでしょうね。
『るかちゅぅ』の方が近いのかな? と思いましたが、もう投稿してしまったので、このままにします。
[ 初投稿日時 2021/02/12 21:02 ]