ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 猫の日なのに、わんこの話です。

 


〈 いだいなわんこ 〉

 

 第2222回(推定) わんこ会議

 

 場所 : ごしゅじんのおうち

 

 出席者: イエイヌ(柴犬)『シバ』

      イエイヌ(シベリアンハスキー)『ハスキー』または『ハス』

      イエイヌ(雑種)『ざっしゅ』または『ざゅ』

 

 議題 : 尊敬する犬

 

 

シバ 「ふたりの『そんけいするイヌ』は、だれですか?」

 シバは、しっぽをぴこぴこ振りながら言った。やわらかい表情で、興味津々な感じだった。

 

 3匹のわんこフレンズが雑談していた。

 シバとざっしゅは床にぺたんと座り、ハスキーはソファーに寝そべっていた。

 

ハス 「突然なにを……」

 オオカミのような目をしたハスキーは、ちょっとあきれた様子だった。

シバ 「『けいさつけん』の採用面接では、よく聞かれるらしいですよ?」

ハス 「面接受ける気なの? 『けいさつけん』って、泣いちゃうくらいきびしいよ?」 *1

 

ざゅ 「そんけいするイヌですか……いっぱいいて、むつかしいですぅ」

 ざっしゅが、ふにゃっと笑った。

 

ハス 「有名なイヌって言ったら……

    あの、お花みたいなのから、ごしゅじんの声を聞いてる……

    ん……名前が出てこない……」

ざゅ 「つめ切りみたいな名前じゃなかったですか?」 *2

シバ 「つめ切り?」

 シバが首をかしげた。蓄音機に耳を傾けるように。

 

 

ハス 「シバは、だれをそんけいしてる?」

 

シバ 「タローさんです!」

 シバは、元気よく答えた。

 

 間があった。

 

ハス 「……だれ?」

 

シバ 「いしおか駅のタローさんですぅ!」 *3

ざゅ 「なんきょくじゃないんですか?」

ハス 「それは『タロ』さん」

ざゅ 「では、しぶやの……」

ハス 「それは『ハチ』さん……って、有名どころ外したな……まにあっくだよ」

シバ 「タローさんは、ハチさんと同じで、毎日駅に行って、何年もごしゅじんを

    待ちましたが、会えずに死んじゃって……

    さいごまで、だれを待っていたのか、わからなかったそうです」

ざゅ 「…………」

 ざっしゅの表情が消えた。

シバ 「タローさんが死んでから何十年もたって、ごしゅじんらしきヒトが現れました。 *4 

    タローさんのほんとの名前は…………さん。

    駅で離れ離れになって、まいごになってしまったみたいで……」 *5

ざゅ 「……おそすぎ、です……」

 ざっしゅの声は暗く、表情が見えなかった。

シバ 「もちろん、ごしゅじんさんも、必死で探したんですよ。

    でも、時間がたちすぎて……もう会えないんだな……って……」

ハス 「せつないなぁ……」

 ハスキーは、ほんのり色っぽいイケメンになった。 *6

シバ 「でも、がっこうで暮らして、ヒトの子供たちとなかよしだったとか」

シバ 「それに、ほどうきょう? の使いかたを知っている、かしこいイヌだったそうです!」

 

ざゅ 「……似たような話なら、たくさん、たくさんありますよ」

 ざっしゅが顔を上げて、ぎこちなく、さびしそうに笑った。

 

ハス 「あるよねぇ……病院の前で、ごしゅじんの病気が治るのを待っていた、とか、

    ごしゅじんのお墓を守り続けたとか……」

 

ざゅ 「ちょっと長い、おるすばんとか……」

 ざっしゅが、ぽつりとつぶやき、ふっと目をそらした。

 ほんの少しはにかむような、繊細な横顔だった。

 

シバ 「突然ですが!! キャベツは好きですかー!!」

 シバが立ち上がり、元気よく手を上げた。

 

ざゅ 「わたしは、たまに食べたくなります!」

 ざっしゅの表情が明るいものに戻った。

ハス 「あ……いや、キャベツ? なにそれおいしいの?」

 

シバ 「わたしは、ばりばり食べちゃいますよ!」

 シバが、くるんと巻いたしっぽの中から、一玉まるごとのキャベツを取り出した。 *7

 

ハス 「なんでそんなところに!」

ざゅ 「においがしませんでしたよ。ふしぎですねぇ」

 シバは、後ろ手にリードを隠していた。端のフックに、キャベツの破片が付いていた。

シバ 「くせになっちゃいますよ。ほら」

 シバがハスキーにキャベツの葉を一枚差し出した。

 ハスキーはそれを受け取り、怪訝そうな顔をした。

ハス 「……これ、葉っぱだよ?」

シバ 「いいから、食べてみて!」

ハス 「……ぱりぱり……んく、ちょっと甘いけど、いまいち……」

 

ざゅ 「これ付けるとおいしいですよ!」

 ざっしゅが、スカートの中から、マヨネーズのボトルを取り出した。 *8

 

ハス 「な!」

 ハスキーが引いて固まった。

ざゅ 「これ、シバさんの親戚の、ニホンオオカミさんからもらったんですぅ!」 *9

 ざっしゅはにっこりと笑った。

シバ 「……マヨは、れいぞうこにあったはずでは…………さっき、おしりのにおいかいだのに、どうやって……」

 シバがうつむいて、何やらぶつぶつ言っていた。

ハス 「……ツッコむべきか、スルーすべきか……」

ざゅ 「どうぞ! ものはためしです!」

 ざっしゅがキャベツの葉にマヨネーズを少し付けて、ハスキーに渡した。

ハス 「……む……ぱりぱり……んぅ!」

 ハスキーはマヨ付きキャベツを食べて、目を見開いた。

ハス 「やっぱヒトのたべものすごいわ……」

 ハスキーはちょっと感動していた。

ざゅ 「ヒトのたべものなら、ケーキとお茶が……あむ……」

 ざっしゅも、キャベツをつまんだ。

シバ 「わたしは甘すぎるのはちょっと苦手で……ぱりぱり……」

 シバは、すでに食べていた。

ハス 「んく……へー意外だねー……ぱりぱり……」

ざゅ 「甘いものとお茶の組み合わせは、ヒトの、すてきな発明だと思うんです。

    ん、もぐもぐ……」

 

 

 話がそれて、キャベツを食べながら、食べ物の話で盛り上がる3匹。

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 キャベツが一玉無くなった。

 

 

ハス 「……あのイヌは、ほんとの名前がわからないんだけど……」

ハス 「『ライカ』っていうのが有名かな」

シバ 「ライカさん?」

ハス 「またの名を……『クドリャフカ』」

シバ 「あぁ! 思いだしました! 宇宙へ行った、最初のけもの……」 *10

ハス 「ほんとうに偉大なイヌだよねぇ……」

 ハスキーが遠い目をした。

シバ 「街で拾われた子が、訓練ではいちばん優秀だったとか!」

 

ざゅ 「えっと……お星さまになったわんこ?」

 

ハス 「そんなきれいなものじゃないよ。せまくて動けない所で、死ぬほど暑くて……

    怖くて怖くて……たぶん、お星さまになる前に、死んだんだよ……」 *11

 

ざゅ 「…………」

 ざっしゅは、放心したように黙りこんだ。

 

シバ 「ねえ……暗い話やめよ?」

 シバが、困ったような目でハスキーを見た。

 

ハス 「……ごめん……でも、なんか惹かれるんだよ……悲しすぎて……」

 

ざゅ 「ハスキーさんって、ロマンチストですよねぇ」

 

ハス 「や、そんなことない……」

 ハスキーは、クールな感じを崩して、少しあせった。

 

シバ 「わかります! この子、こんなの隠してますし!」

 シバが笑顔になって、ソファーの隙間から、モノクロ写真を素早く抜き出した。

 

ハス 「へ!?」

 ハスがビクッとして、目を丸くした。

 

シバ 「わー! ワイルドなのに紳士的!」

 シバが、写真を見て歓声をあげた。

 ざっしゅも写真をのぞき込んだ。

ざゅ 「ハスキーさんに似てますね。りりしい感じで……」

 写真には、イヌが写っていた。ハスキー以上にオオカミっぽい顔立ちで、鋭い目をしていた。

ハス 「わわ! かえして!」

 

ざゅ 「だれなんですかー? この(ひと)

シバ 「はくじょーするのです!」

 写真を見せながら、笑顔でハスキーに迫る、シバとざっしゅ。

ハス 「わうぅ……」

 ハスキーが頬を赤くした。

 

ハス 「トーゴーさん……犬ぞりのリーダーで、ヒトの病気を治す『けっせい』を運んで

    寒いさむい雪の中、長いなっがーい距離を走り抜いた……」 *12

シバ 「ふふふっ! ハスキーって、こういう渋いオスが好きなんだー?」

 シバが、ハスキーをからかうように言った。

ハス 「ちが! そんなんじゃ……」

 

シバ 「おかえしします!」

 シバが、ハスキーに写真を渡した。

 

ハス 「は! んやー……かーっこいぃー……」

 ハスキーが写真を見つめて、でれーんと、ゆるい顔になった。

ハス 「…………ぁう……くぅーんってなっちゃううぅ…………」

 そして、ソファーに伏せ、しっぽをぱたぱた振りながら、もじもじした。

 

シバ 「ヒトのいのちを救ったイヌって、かーっこいいですよね!」

 

ざゅ 「それなら、セントバーナードのバリーさん! 雪山で、たくさんヒトを助けたんですよ」 *13

ハス 「そっちの方が渋いよ……」

 ハスキーは、平静を装いながら、トーゴーの写真をソファーの隙間に戻した。

シバ 「バリィさん?」 *14

 

ハス 「シバイヌにも、すっごいのがいたよ」

ハス 「なだれで埋もれたヒトを助けた……」

シバ 「タマさんですね! あこがれちゃうなー」

 

 

シバ 「ざっしゅちゃん、いちばんそんけいするイヌ、決まりましたか?」

 

 

ざゅ 「わたしは……やっぱり……ごしゅじんですね」

 

 

ハス 「わかるけど、イヌじゃないよごしゅじんは…………ごしゅじん?」

 ハスが、何かに気付いた。思い出した。

 

ざゅ 「イヌかヒトかは関係なくて、ごしゅじんがいちばんなのです!」

 

ハス 「ごしゅじーーん!! ……ごしゅっ! んむぅーーっ!!」

 ハスキーが豹変して、ソファーに置いてあったクッションにかみついた。

ハス 「がぶがぶがぶ……んむ! んむんむんむんむ!!」

 そして、クッションをぶんぶん振り回した。

 

シバ 「この子、さみしくなっちゃったみたい……」

 

 クッションが裂けて、ボフッ! と綿が飛び散った。

 

ざゅ 「ああ! また怒られますよ……」

 

 

シバ 「おなじ群れのともだちだから……ごしゅじんもイヌですね」

 

 

 

 3匹のけもの耳が、ぴくっと動いた。

ざゅ 「あ!」

 

 3匹が、パッと同じ方を見た。視線の先は玄関だった。

 

 

 

 とんとんと歩く、誰かの足。

 

 

 

 たたたっ! と駆けだす3匹。

 

 

 

 

 

 ガチャッと音がして、玄関のドアが開いた。

 

 

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 フレンズの警察犬……いいかも。K-9とか……。

*2
 昔は、プラモデルのパーツをランナーから切り離す時に、爪切りを使う人がいたのです。非常に切りにくい気がしますが……。 筆者は、プラモデル用の薄刃タイプを、爪の端や、さかむけを切るのに使っています(まねしないでください)。

*3
 この犬の話、筆者は石岡駅で案内板を見て知りました。

 石岡駅は、飛行機関係で何回も行きました。駅舎が大きく変わりましたね。鹿島鉄道線に乗れば良かったとか、地震でホームに段差ができ、バスターミナルの床がぐちゃぐちゃになったとか、石岡あんぱんとか……筆者には思い出深い駅です。

*4
 この方が、タローの本当のごしゅじんだったのかは不明です。『その可能性がかなり高い』ということらしいです。

*5
 『駅で離れ離れになって、まいごに……』というのは少し違います。事情があったようです。

*6
 いや女の子ですけど。

*7
 物理的に無理です。四次元しっぽでしょうか。

*8
 ミニスカートなので、サイズ的に無理です。四次元スカート?

*9
 親戚と言うには遠いのですが、柴犬は、遺伝的にオオカミに近いらしいので。

*10
 厳密には、『地球周回軌道に乗った最初の動物』ということになるようです。弾道飛行であれば、ライカ以前にもいました。

*11
 ライカは、打ち上げから数時間後(?)にストレスと過熱で死んだ(大気圏再突入時はすでに死んでいた)、という説がありますが、本当のところは不明なようです。スプートニク2号は、人工衛星を改造した程度のもので、生き物を乗せる宇宙船としては不完全でした。

*12
 血清の運搬はリレー方式だったため、トーゴーだけの功績ではありません。アンカーチームのリーダーの『バルト』ではなく、最も過酷な区間を走った『トーゴー』なのが、ちょっと渋いです。名前の由来は東郷平八郎らしいです。2匹とも映画になっていますが、史実とは多少異なるようです。

*13
 伝説の犬です。

*14
 バリィさんは鳥です。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 3匹の口調や性格は、筆者が書きやすいように設定しました。もちろん原作を守りたかったのですが、筆者がキャラをよく分かっていないため、こうなってしまいました。(いつものことです)
 ハスキーだけ『ですます』じゃないのは、3匹とも『ですます』だと書きにくいためです。
 わんこ同士だし、もっとくだけたしゃべり方になる気もしますが。

 イエイヌは、品種によって姿や性格が大きく変わる(『変身動物(シェイプシフター)』って、かっこいいかも。チワワとダルメシアンが同種という不思議……)ので、ひとりのフレンズとしてデザインするのは難しそうです。
 筆者がざっしゅちゃんを初めて見た時は、イエイヌだと分からなかったです。


 性格は……

 シバ  :元気で明るい(が、割と考えて行動している)
 ハスキー:ちょっとクール(なふりをしている)
 ざっしゅ:まじめで純真な感じ

 です。

 ざっしゅちゃんは、柴犬とシベリアンハスキーのミックスっぽいので、
 『ふたりの間にできた子』っていう設定にするのも良いですね。


 [ 初投稿日時 2021/02/22 22:22 ]
 
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