ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 作品が迷走しているような……。それは最初からですね……。

 〈 とある飼育員の恋 〉の主人公だった『飼育員くん』が登場します。でも別人っぽいです。
 


〈 たそがれ 〉

 

 秋の日。

 

 日が傾き、天空の濃い青から水平線の白へのグラデーションと、影のある立体的な雲が、端からオレンジ色に変わり始めていた。

 

 古びたビジネスホテルの、屋外避難階段。13階ほどの場所。 *1

 

 コン、コン、コン……と、金属板を踏む靴音がした。

飼育員くん 「……はあ、はあ、はあ……くっ、はぁ……」

 ほんのり気弱そうな少年、『飼育員くん』が、息を切らせながら避難階段を登ってきた。

 彼は、所々錆びた、檻のような柵を握って、街を見下ろした。*2

 高層マンションやオフィスビル、民家の屋根、緑や茶色の公園……。

 

飼育員くん ――― もう、無理なのかな………… ―――

 

 

? ? ? ――― あきらめるのですか? ―――

 

 唐突に、飼育員くんの脳内に、女性の声が響いた。やさしくも力強い声だった。

 オレンジ色の太陽と重なるように、赤い炎が、ぼわっと鳥のように広がった。

 

飼育員くん 「うわあっ!」

 

 炎は、ヒトの頭ほどの大きさの半透明のかたまりになり、ゆらぎながら、飼育員くんの前に近づいてきた。

 

【 炎 】 ――― そっと触れて……やけどしないように気を付けなさい ―――

 

 飼育員くんは、恐る恐る、指先で炎に触れた。

 炎の一部が、触れた部分から血管に流れ込んだ。

飼育員くん 「んぅ!」

 飼育員くんは、目をぎゅっと閉じて、ビクッと反応した。

 その魂に、炎の触手が絡みついた。

 

 飼育員くんが、ぱちっと目を開けた。

飼育員くん 「…………意外と、あっさりしてますね……」

 彼は、拍子抜けした様子だった。

【 炎 】 「ふっ……そんなものです」

 飼育員くんと、【炎】は、炎の触手で接続した部分……ではなく、声で対話を始めた。 *3

 

飼育員くん 「あなたは……幽霊? それとも妖怪? 

       …………ひょっとして……フレンズ、ですか?」

【 炎 】 「いずれも正しいです。今のわたしに名前は無く、この姿は仮のもの。

       『あなたにはそう見えている』だけでしょう」

飼育員くん 「……なんとなく、わかります」

 

 雲が、太陽を半分ほど隠した。暗くなった分、炎が鮮やかに見えた。

 

飼育員くん 「あなたみたいなのが現れるなんて、末期ですね……」

 飼育員くんが苦笑いして、再び街を見つめた。

 

 

 しばしの間があった。

 

 

【 炎 】 「あなた、『 ヒトは特別な生き物 』……って思っていないかしら?」

 

飼育員くん 「え?」

 

【 炎 】 「あなたたちヒトが『環境破壊』と呼ぶもの、それは本当に破壊なのかしら?」

飼育員くん 「なにを言っているの? めちゃくちゃに壊してしてきたでしょ?」

【 炎 】 「ヒトも自然の一部。ヒトが作ったもの……建物も、乗り物も、本も、料理も……

       みな自然のものです」

飼育員くん 「自然物と人工物の境界線なんてない、ってこと?」

【 炎 】 「境界線はあります。ヒトが作ったものと、それ以外のもの。

       でも、両方とも自然物です」

飼育員くん 「確かに、材料は自然からもらいましたけど……

       ヒトは、道具を作るとか、火をおこすとかできますよ?」

【 炎 】 「ヒトは、火をおこして使うことはできるけれど、

       ものが燃える現象そのものを作ったわけではないでしょう?」

飼育員くん 「よくわからない……」

【 炎 】 「では、これを」

飼育員くん 「!」

 飼育員くんが驚いて手を見ると、そこには一枚の羽があった。羽は、複雑で美しい色をしていた。海のような、夕焼けのような、虹のような……見る角度を変えると変化するグラデーション。

【 炎 】 「羽を放しなさい。外へ向かって」

 【炎】の声はやさしかった。

飼育員くん 「もったいないな……」

【 炎 】 「それは、すぐに消えてしまうものです」

 

飼育員くん 「…………」

 飼育員くんは、羽を柵の外へ出して手を放した。

 羽が、ひらひらと落ちていった。

【 炎 】 「手を放せば、ものは落ちる。重力と空気に従って……」

 羽は風に乗って街へ落ちていき、見えなくなった。

 

 太陽が再び顔を出し、少し明るくなった。

 

【 炎 】 「この法則は、あなたが作ったものではない。ただ、手を放しただけ」

 

 街も、オレンジ色に染まり始めた。

 

飼育員くん 「……それが作れるのは、神様かなにかですよ」

 飼育員くんは、少し不服そうだった。

【 炎 】 「かみさま? ヒトらしい答えですね」

 【炎】に顔は無かったが、笑ったようだった。

飼育員くん 「あなたがそれを言うんですか……」

 

【 炎 】 「ヒトは、自然の材料や法則をもとに、自然に生まれのだから、

       あなたがしたこと……ヒトの『ふるまい』も、自然のものなのです」

飼育員くん 「ふるまい?」

【 炎 】 「鳥が羽ばたくのも、ヒトが飛行機を作るのも、生き物のふるまい」

飼育員くん 「それは……」

 

【 炎 】 「あなた知ってる? この星に生まれた生き物の、ほとんどが絶滅したことを」

飼育員くん 「……確か……生物の99パーセント以上は絶滅した、って……」 *4

【 炎 】 「大きな気候変動も、大量絶滅も、ありふれた、自然なことなのです。

       ヒトは、その原因の一つに過ぎない」 *5

飼育員くん 「それは……確かにそうだけどさ……」

 

【 炎 】 「ですから、ヒトが、この星の土と空と水に干渉しすぎたのも、

       たくさんの生き物を絶滅させたのも、自然の流れです」

 

飼育員くん 「なんだか屁理屈のような気がする……」

 

【 炎 】 「……そして、ヒトが絶滅へと向かうのも、自然に生じた流れなのです」

 

飼育員くん 「自業自得ですね……」

 

【 炎 】 「あなたたちは、不器用に、()()をなぞっただけ。破壊も創造もしていないのです」

飼育員くん 「そんなことないよ! たくさん、たくさん作ってきたのに……」

 飼育員くんは泣き出しそうな顔をして、街を見つめた。

 

 先ほどよりオレンジ色が濃くなっていた。

 街にヒトの姿は無く、汚れて傷んだ建物が並んでいた。

 

【 炎 】 「それは、とらえ方の違いです」

 

 落書きだらけの閉じたシャッター、割れたレストランの看板、火災の跡、乗り捨てられた何台もの自動車、作りかけの広大な墓地……。

 

【 炎 】 「ヒトの可能性は無限であり、見方を変えれば、どうしようもなく無力……」

 

 街の色が、オレンジから赤に変わっていった。

 

 街路樹は葉が散っていた。舗装の割れ目から枯れ草が伸びていた。公園や運動場は、草原や林に変わりつつあった。

 

飼育員くん 「僕の好きだったひとたちは、みんないなくなっちゃいましたけど……」

 

 民家の庭で、ひとりの老人が、腐りかけた縁側に座り、眼鏡で仮想現実の映像を見ていた。

 

飼育員くん 「90億人も居たのだから、絶滅までには時間がありますよね……」 *6

 

 簡素な屋台が道に並んでいた。市場と祭りを混ぜたような場所だった。そこだけは、ヒトやフレンズがまばらにいて、品物を吟味し、楽しげに食べ歩きをしていた。

 

飼育員くん 「……あと100年くらいですか?」 *7

【 炎 】 「未来のことは分かりません」

 

飼育員くん 「あなたにも、分からないことがあるんですね!」

 飼育員くんは、どこか嬉しそうだった。

【 炎 】 「…………」

 【炎】が赤みを増して丸くなり、黙り込んだ。 *8

飼育員くん 「……あれ……怒っちゃいました?」

 

 短い間があった。

 

【 炎 】 「谷底へ転がり落ちてゆく、巨大な岩。

       それにしがみついているアリ達が、岩を止められるかしら?」

 

飼育員くん 「止めてみせる…………なんて、かっこいいこと、僕には言えません」

 

飼育員くん 「……でも、岩から飛び降りて、逃げることはできるかも」

 飼育員くんは空を見上げた。

 

 空は、赤から紫へのグラデーションになっていた。

 

飼育員くん 「……十中八九、死にますけどね」

 飼育員くんが、【炎】に笑顔を向け、その顔を、揺らぐ炎が照らした。

 

 そして、飼育員くんは考え込んだ。

飼育員くん 「……みんなで岩を削って……頑丈な乗り物を…………無理か……」

      「いっそのこと、岩ごと谷底へ落ちて、生き残った者だけで巣を……」

飼育員くん 「んー……どう考えても生き残れないね……」

 飼育員くんは苦笑いをした。

 

【 炎 】 「その発想ができるなら、なぜ…………」

 【炎】の声が暗く弱くなった。炎がゆらゆらっと震えた。静かに憤るように。

 

飼育員くん 「ん?」

 飼育員くんが首をかしげた。

飼育員くん 「僕ひとりでは、どうにもならないですよ」

 飼育員くんの声は、おだやかで明るかった。

 

 再び間があった。

 雲間から星が見え始めた。

 

【 炎 】 「意志の強い変わり者たちが、遠く南西の島へ向かっています」 *9

 

飼育員くん 「え?」

 飼育員くんは、驚いて放心した。

 

 

【 炎 】 「あきらめるのか、あがくのか……選べるのは幸運なことです。

       たとえ、宇宙の始まりから決まっていたことだとしても。

       よく考えて、お決めなさい……」

 

 ぼっ、と【炎】が広がって、消えた。火の粉が舞ったが、それもすぐに消えた。

 あたりが薄暗くなり、飼育員くんの表情が見えなくなった。

 

 

 

飼育員くん 「勝手だなー……言いたいことだけ言って、消えちゃうなんて……」

 

 

 

 

 つづかない

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 このホテルは管理がいい加減なので、屋外にある避難階段には簡単に登れます。『非常階段』と呼ぶことが多い気がしますが、法律では『避難階段』と呼ぶようです。

 この建物は半ば廃墟ですが、違法に住んでいる者がいるようです。

*2
 今話の飼育員くんは、プライベートなので私服です。いつもの作業服ではありせん。でも地味です。

 エレベーターが信用できない(恐らく故障している)ため、飼育員くんは、階段だけで13階付近まで登りました。もう少し上の階がありますが、階段が柵で仕切られいて、飼育員くんは侵入できませんでした。なぜこんな所に登ったのかは謎で、本人にも分からないようです。

*3
 声で会話ができるので、『接続』する必要は無いのですが、ふたりが気分的にそうしたかったのです。こうすると、お互いの考えていることが伝わりやすくなります。ですが、【炎】は、飼育員くんの記憶を1滴もらう程度で、心の奥までは侵しません(心の中は最もプライベートな部分なので)。なお、【炎】がその気になれば、飼育員くんの魂を燃やして灰にできます。

*4
 この説には疑問もあります。生命の歴史は分からないことだらけですし、『絶滅とは何か?』を定義するのも難しいです。広い目で見れば親戚が生き残っているのだから、絶滅してないじゃないか、っていう……。

*5
 地球の生き物は、何度も危機的状況になりましたが、生き長らえています。

*6
 2050年頃には、世界人口は90億人になる……という試算があります。でも、未来のことは分かりませんね。

*7
 一瞬にもならない時間です。

*8
 顔が無いのが残念です。かわいい所もあるんですよ、このお方。

*9
 宇宙にいちばん近い場所を目指して。そんな都市伝説のような噂がありました。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 これ、当たり前のことを言っているだけですね。しかもこの会話、なんだかデジャブが……。

 飼育員くんは、キャラが固まっておらず、違和感がひどいです。本当はこんなキャラではないはずなのですが……。
 飼育員くんの設定は、以前書いた〈 とある飼育員の恋 〉のあとがきに書いてあります。


 こんなものより先に投稿したかったおはなしが複数あります。ですが、オチが無かったり、結末しかなかったり、R‐18になっちゃったりで、投稿できないのです。





 以下は、本編とは関係ありません。たぶん。

 火の鳥とユニコのフレンズがいるのなら、他にもフレンズ化できそうな子はいないかな……と、妄想しています。
 ジャングル大帝のキャラは、既存のフレンズと被るので難しいですね。
 ブリンク(青いブリンク)のフレンズ化が良さそう……。でもマイナーすぎるかな……。
 青いブリンクは、(こじつければ)けものフレンズとの共通点があるので、ネタになるかも。



 [ 初投稿日時 2021/04/14 21:34 ]
 
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