ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 あなたはまだ、トキの歌の本当の恐ろしさを知らない……。

 また『あなた』が主人公の二人称(?)です。

 


〈 トキが刻む唄 〉

 

 あなたは、緑の田園地帯、そのあぜ道に立っています。 *1

 

 あなたのすぐ隣に、ひとりの女の子……鳥のアニマルガールが立っています。

 

 白と赤、そして、オレンジ色とピンクが混ざったような美しい色。

 凛とした……それでいて 柔和な横顔。輝きが消えた目。

 

 

 

 ……入り込むと危険なので、できるだけ、その子を意識しないで 読んでくださいね。

 

 

 

 

 

 あなたは、広ーい緑の田んぼ、その中を突っ切る道に立っています。

 

ト キ 「こういう場所って、歌いたくなるわね」

 すぐ隣にいるフレンズ…… トキ が、あなたに顔を近づけてきました。頬にキスされそうで、ドキドキしちゃいます。

 

 あなたの耳に、吐息がかかりました。

ト キ 「さいごに……聞いてくれるかしら? わたしの歌」

 耳元で、ぼそぼそと色っぽい声でささやかれるのは、くすぐったくて気持ちいいですよね。 *2

 

 

 

 今日は、放鳥……トキの旅立ちの日。

 

 

 あなたとトキは、長い時間一緒に過ごしてきました。希少な鳥を保護する施設で。 *3

 かわいいヒナから、美しく、おだやかでやさしい子に成長したトキ……。あなたは『この子は自分の娘みたいなもの』と、自分に言い聞かせて、何かを必死に隠して、トキとなかよく過ごしてきました。

 

 とっても寂しいけれど、ここに来ればいつでも会えるから、大丈夫ですよ。

 

 

 

ト キ 「むふ……」

 トキが満足げな顔をして、さっと顔を離しました。

 

ト キ 「すぅーー……」

 彼女が大きく息を吸いました。

 

 『危険!! いつもと違う!!』と、あなたは瞬時に察しました。 *4

 

ト キ 「っ! なぜなのーーかぁしーーらー~~~♪」

 

 トキが歌い始めました。普段は おだやかな彼女ですが、歌になると豹変し、激情を見せます。

 かつて『超絶音痴』『怪音波』などと言われたトキ……。努力を重ねて、今では、皆を魅了する美しい声になり、破壊力も抜群に豊かになりました。

 

ト キ 「あなーたがー~~~♪」

 

 いつもと変わらない美声ですが、あなたの不吉な予感は強まっていきます。

 

ト キ 「 ほーしいいぃ~~いぃの~~~ーーー♪」

 

 トキの『特別な歌』は、細くて長ーい注射針です。あなたの耳に侵入し、ぶつっ! と、鼓膜を貫通します。そして、お豆腐みたいな脳にスーッと刺さり……奥深くの、けものの本能にまで達します。

 

 『トキの歌に犯される』という底なしの恐怖は、甘い期待感へと変わっていきます。

 

 注射針からあふれ出す美声……超絶気持ちいい おクスリが、じゅわーっとあなたの脳全体に広がっていきます。……安心してください。ほんのちょっと脳がとけるだけですよ。

 トキの歌は、音の速さでびりびりと背骨の芯を走って、体中の神経を侵していきます。ぞくぞく気持ちいいでしょう?

 

ト キ 「す…あーあーーだーいすきでー~♪」

 

 シンプルかつストレートで恥ずかしい歌詞が続きます。

 

 あなたは、「やめて!」って言いました。…………言ったはずでした。

 でも、あなたの口から出たのは、「もっと!!」。

 あなたはもう、自分の脳をコントロールできないのです。

 

ト キ 「 ありがとうっていいぃーーたーくてー~♪」

 

 あなたの全身の筋肉が、歌のアップダウンに合わせて、緊張と弛緩を繰り返しています。呼吸と心拍がちょっぴり痛いですが、めまいが楽しくて、すっごーく気持ちいいですよね。

 

 あなたは、「……ぁ゛っ……ぁ゛っ……」と、言葉にならない声をあげ続けています。でも、自分では聞こえません。あなたには、もう、トキの歌しか聞こえないのです。

 

ト キ 「 こんなにーっ♪ あついのにーっ♪ … あ・な・た・は・しらんぷーりぃ~ー♪」

 

 いえ、ひょっとしたら、存在しない伴奏が聞こえるかもしれませんね。ピアノで全身の皮膚をタップされ、ヴァイオリンで気持ちいいトコロをなぞられ……そして、トキの声とのハーモニーで、内臓をやさしくマッサージされるような……。

 

ト キ 「ーっほんとはわたしわるいこなのよおとなしいふりしてるだーけっ♪」 *5

 

 トキがあなたに抱きつき、ぎゅーっと強く抱きしめて、足まで密着させてきました。

 あったかくて、強くてしなやかで、ふわふわで、ぷにぷになカラダです。

 

ト キ 「す…しーってるわよねっ♪」

 

 音は振動。トキの歌は、彼女の喉や肺から全身の骨へと伝わります。それは、彼女の腕や胸を通して、あなたにも届きます。あなたは、耳だけではなく、肌や骨でもトキの歌を感じられるのです。うれしくて、たのしくて、たまらないでしょう?

 

ト キ 「たまごのから、つきやぶぅーって♪」

 

 ドッドッドッドッ……歌より速い、彼女の心臓のビートを感じます。

 

ト キ 「っ…ほんきの、ほんきー♪ -っ…みせてげ-ーー-ぇぇぇぇぇぇ~~ーーーーー

ーーーーーー~ー~ー~ー~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~ー~ー~~~~-~-ーーー-…ぇぇぇぇるぅーわぁーー~ー~~~♪ ……こほっ…」 *6

 

 あなたの耳の穴から、出てはいけない熱いものが、ブシャッ!! と噴き出しました。

 

 

 ………………………………………………………………

 

 

 …………まだ意識があるなら……ごほうびがもらえますよ。

 

 

 

 ぼやけた視界に、トキの顔が近づいてきます。

 

 

ト キ 「……すぅーーーっ!………………っっ……んっ♡」

 

 あなたの唇に、熱くてぷるぷるのゼリーが密着し……

 

 

 一瞬、止まり……

 

 

ト キ 「んむぅーぅーー~~~っ♪」

 

 あなたは、激しくやさしい『 本気の歌 』を、口から直接注入されてしまいました。

 

 

 

ト キ 「………~!…~~…~~~♡!!…~~…~っ♡♡!!!…………」

 

 音が無い、とろとろで甘酸っぱい歌が響いています。脳が炎上するほど恥ずかしい歌詞です。

 

 

 

 あなたの理性は頼りない糸のようです。カラダもココロも、全く言うことを聞きません。

 

 あなたは涙をだらだら流して(よろこ)んでいます。唾液が泉のようにあふれてきました。ふたり分のとろとろで溺れてしまいますよ?

 

 

 

 ………… あなたの意識が、明かりを消したように、ぷつっと……切れ…………

 

 

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 ………………………………………………………………

 

 

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ト キ 「……ぷはっ…………」

 

 唇が離れました。あなたは助かったのです。……でも……もう、何もわからないですね。

 

 

ト キ 「…ぁ…あいしてぅ!」

 

 トキは、酸欠の肺で、今にも泣きだしそうな、切なげな声をしぼり出しました。 *7

 羽毛で殴るような、とどめの一撃です。

 

 

 ………………………………………………………………

 

 

 ………………………………………………………………

 

 

ト キ 「  ………」

 

 かすかなブレス。歌が終わります。

 

 

 

ト キ 「…んっふふ~♪ んふ~~♪ ~ふぅーー~ー~ーーーー-ぅーーぅ♪ --…はぁ……」

 

 

 

 最後は静かに、おだやかに、あとを濁さず。

 

 

 

ト キ 「…………-- ……… …… …-- …- … …  …-- -  --  - - -   -    」

 

 

 

 彼女の表情がわからないのが残念ですね。

 

 

 

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 ………………………………………………………………

 

 

 

 火照った体と濡れた頬を冷やす、心地よい風。

 

 あなたの意識が、すーーっと、戻って来ます。

 

 すっきりした、とってもいい気分です。胸につかえていたものが流れたような……。

 

 

 あなたのすぐ目の前で、輝きの無い目が まばたきしました。

 彼女も晴れやかな……すっきりした様子です。

 

 涙で視界がぼやけていますが、はるか下に、緑の田園風景がっています。少し遠くに海も見えます。あなたは、いつの間にか、トキと抱き合って飛んでいたのです。

 

 

 トキの『 本気の歌 』が、あなたの口に残っています。ふるえる唇と、舌がとけ合う感覚、無音の歌……あれは、幻覚か何かだったのでしょうか?

 

 

 

 

 トキが、ちょっと恥ずかしそうに微笑んで、あなたに訊ねました。

 

 

 

ト キ 「どうだったかしら? わたしの……あいのうた」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

*1
 ここは厳密には『あぜ道』ではなく、田んぼの間を走る舗装された道路です。

 日本の田舎の風景……といっても、都会から少し離れれば、こういう場所はたくさんあります。

*2
 トキは、かわいい中に大人っぽい色気があるのが良いのです。筆者の中では『トキはものすごい美人』ということになっています。

*3
 例によって、設定が謎な『フレンズ×ヒト主人公(あなた)』のおはなしです。

 放鳥なのに他の関係者がいない理由は、『人手不足』『他のスタッフが気を利かせた』『他のスタッフが逃げた』の3つからお選びください。

*4
 経験と本能で、あなたは危険を察知したのです。あなたは、トキの歌には慣れていますよね。ずっと歌の上達を見守ってきたのですから。

*5
 肺活量がないと窒息するやつです。

*6
 また肺活量がないと窒息する……失神するやつです。しかもかなりの高音です。

*7
 本当は、激しくシャウトするつもりだったのですが……。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 このおはなし、最初に思いついた時はR-18でした。『あなた』が、トキさんと(物理的に)つながって、いろんな個所で気持ちいい愛の歌を感じ合う おはなしだったのです。いろいろいじくったら、奇怪な仕上がりになりました。

 歌のセリフでは、筆者が脳内再生した音声を、テキストに変換しようと試行錯誤しました。ですが、これでは読者がシラケるし、読みづらいですね。ブレス(息継ぎ)や休符を入れるとか、上手くいけばおもしろくなりそうなのですが……。メロディーは文章では再現不能ですね。筆者は作曲ができないですし。
 この歌、本当はもっと長いらしいですよ(トキによると)。文章では歌詞を省略しています。筆者は作詞のセンスも無いので、ろくなものが書けないのです。


 鳥類の呼吸器は、哺乳類のそれとは大きく違います。鳥は、気嚢で肺に空気を流し、高い呼吸効率を得ています。従って、鳥のフレンズは息切れしにくく、歌うのも得意なのでは? と、筆者は思います。でも、ここで、『フレンズの体はヒトと同じ』という矛盾が立ちはだかります。ヒトの体に気嚢は無いでしょ……っていう……。
 鳥のフレンズは『肺活量が尋常じゃない』とか、『サンドスターの作用により、肺のガス交換の効率が良い』などと設定すれば良いかもしれません。





 おまけ

 ↓ トキは、本当はこんな感じで叫びたかったのです。

ト キ 「あいしてうぅぅ~~~ーぅうぅぅぅ~~~ーーーーー-ぅぅ~~ーー- …--- - - 」

 長鳴鶏っぽいシャウトです。




 [ 初投稿日時 2021/07/17 17:17 ]
 
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