まえがき
また謎のヒトが主人公です。
長めのおはなしなので、『単品』で投稿しようかとも思いましたが、結局、前後編に分割して、『ジャパリ・フラグメンツ』に投稿しました。
狭いワンルームアパートが、わたしたちの巣。
ルームメイトはコツメカワウソ。キューキュー鳴いて*1 わたしの後をついてくる かわいい子。
秋の夜、わたしは、コツメとお風呂で遊んでいた。潜って、バシャバシャして……この子は水浴びか大好きで……毎日のルーティーンだった。 *2
突然、ざばあっ!! って、お湯が爆発……じゃなくて、激しくしぶきが飛んだ。
わたし 「うおぁぁ!!」
そして湯気の中から、謎の女の子が現れた!!
わたしは瞬時に理解した。
……なんだ……コツメがアニマルガールになっただけか……。
よかった……ヒトの姿になった以外、変わってないみたい。 毛皮イコール服は、明暗に色分けされたグレーで、ワンピース水着風味。腰のフリフリと首のふわふわがメタかわいい。*3
コツメは、驚いた顔で一瞬固まり、自分の体を見回していた。もちろん顔も悶絶キュートだ。
水道水にサンドスターが入ってたの? そんなわけないよね。
やっぱり、うちの子がいちばんかわいい!! (親バカ)
……変になっちゃったのは、わたしの方だね……混乱して思考が錯綜してる……。
彼女はこちらを見て笑顔になった。子供のような純真無垢で屈託のない顔だった。かわいかったけど、なぜか、チクッとした。
コツメ 「わぁー! なーんかおっきくなっちゃったぞー! かーちゃん!」
わたし 「かーちゃん!?」
これは完全に想定外だ。
わたし 「わたしはお母さんじゃないよ!」
コツメ 「んぅ?」
いや、そんなかわいく首をかしげられても……。
コツメ 「ほんとのおかあさんじゃないけど、かーちゃんだよ!」
楽しい気分が急落して、締め付けられるような感じがした。
わたし 「どうして……」
この子の本当のお母さん、どうなったんだろう……。
お風呂上り。
わたし 「ねぇ、お話、聞かせてくれる?」
務めて明るく、やさしく言った。
わたし 「このおうちに来るまでのこと」
聞きたくないけれど、わたしは“かーちゃん”だから。
コツメ 「もわもわっとしかおぼえてないよ?」
わたし 「覚えてることだけでいいから」
コツメは、無邪気に話してくれた。
コツメ 「まっくらな、かたい四角に入れられて、ごーごー揺れて、ヒマすぎたなー……」
やっぱり……これは飛行機だね……。
コツメ 「……それで、かーちゃんに出会ったの!」
わたし 「ほかの子たちは? なにか覚えてない?」
コツメ 「んー…わかんない。みんな、どうしてるかなーって思うんだ」
頭の芯に、灰色の泥のような感覚が生まれた。
コツメ 「きっと、わたしとおんなじで、たのしーところに行ったんだよ!」
わたしは最低だ。
日本には生息せず、動物園や水族館にしかいないはずの動物が、なぜここにいるのか。『劣悪な飼育環境から救出された』なんて大嘘だ。わたしは、気付いてたのに考えないようにしていた。
あんな人達にお金を寄付するなんて、手を貸したのと同じじゃないか。動物好きのやさしい人だと思って、騙されていた……。まあ、動物好きなのは本当かもね。ヒトは矛盾だらけの生き物だ。 世の中 “いいひと” ばっかりだ。誰を信じたら良いんだろう……。
“ 毛皮を剥がれなくて良かった ” …… わたしはそう考え …………
…… おぞましい映像 が頭をよぎって、
……気を確かに。うつむいちゃだめだよ、わたし。
コツメ 「みてみて!」
重い泥を吹き飛ばすような、明るい声がした。
わたしが顔を上げると、コツメが、なぜかジャガイモでお手玉をしていた。
右手と左手を行ったり来たり。元の姿でもボールで遊んでいたね。 *4
でも……
わたし 「どこにあったのそれ……」
最後にジャガイモを買ったのはいつだったかな?
あれ? ジャガイモが二つに増えた?
コツメ 「こーんなこともできるよー!」
ぽいぽいっと空中で交差させる、ジャグリングっぽい技。
いつの間にかジャガイモが三つに増えていた。イリュージョン?
わたし 「すごいすごい! 大道芸の才能あるね!」
技の難易度が上がっていく。うちの子天才だよー! (親バカ)
ポコンポコン! っと天井にジャガイモが当たって落ち、それをコツメが受け止めた。
二つのジャガイモには、大きな芽が生えていた。
今度は一つ減ったよ? 作画ミスかな?
手を止めた彼女は、わたしの顔を覗き込んだ。
コツメ 「えっと……げんき出た?」
……元気と涙が出た。
コツメの頭をなでながら、思う。
こんな狭い部屋じゃかわいそうだよ。お風呂じゃなくて、広ーい森の中の大きな川で泳ぎたいよね。本来は群れで暮らす生き物だし……。でも、もう野生には戻れないだろう。
自分の浅はかさを痛感した。
“かわいいから飼う” “おもしろいから飼う” “癒されるから飼う” …………
……それは、ヒトの都合だよ。
…………引き取ってもらう? ジャパリパーク……理想の動物園に。
そしたら、お別れだね……たまに会いに行くくらいできるけど……。
この子にとって何が幸せなんだろう?
もうちょっと時間がほしい。
わたし 「泳ぎに行く?」
明日は休みだ。いつもなら、だらだら過ごすところだけど……。
コツメ 「およぐ? どこへ?」
近くに温水プールがあるのを思い出した。ここから歩いて20分くらいかな。
わたし 「プール……おっきな水たまり」
コツメ 「行く行く!」
とっても喜んでくれた。
最近はアニマルガールも珍しくなくなったから、しっぽが付いた女の子が街を歩いても、好奇の目にさらされることはないだろう。でも、この水着はまずいよね。もうちょっと、おしゃれさせてあげたいな。
クローゼットや衣装ケースの中には、ろくな服が無かった。わたしは服にお金はかけない。そんなお金があるなら、この子の ごはん とか、おもちゃ とか……
……って思ってたのに、服が必要になるなんて……なんという皮肉だろう。
試着ごっこは、とっても楽しかった。
コツメ 「あはは! くすぐったいよ!」
水着は脱がさずに、上から洋服を着せてあげた。
わたし 「こらこら、あばれないの。そでが通せないでしょ」
コツメ 「わぁー! へーんな毛皮ー!!」
元の毛色を意識した、明るい色のシャツとグレーの上着。下は、だぼっとしたダークグレーのキュロット。これはちょっと加工した。後ろを切り裂いて、周りを補強して……。
コツメ 「すごいすごーい! しっぽが出るよ!」
コツメは、キュロットの穴からしっぽを出して、くねらせた。
この子小柄だから、全体的にサイズが大きいね……。
地味でセンスの無いコーディネイトだけど、中身がかわいいから、悪くない仕上がりになった。
わたし 「アクセントがほしいね……」
わたしは、コツメが遊んでいたおもちゃを分解して……ヘアゴムを……。
コツメ 「なになに? どうするの? うわー! とれたぁーー!!」
コツメに妨害されつつ、小さな赤い花の髪飾りを作った。
コツメ 「あたまにつけるの? おもしろーい!!」
元の髪形を崩さずに、片側にちょこんと付けた。
わたし 「うわぁオニめんこい!!」
コツメ 「おにめんこい?」
……首傾げてきょとんってしないで……鼻血が出ちゃう……。
コツメ 「ぷーる、ぷーる! あしたはぷーるー!!」
もう日付けが変わっちゃったけどね。
翌日。
芽が出たジャガイモは、ベランダのプランターに埋めた。どうなるかは知らない。*5 プールの帰りに、ジャグリング用のおもちゃを買ってあげよう。
帰りの下着とタオルを、大きめのバッグに突っ込んだ。困ったことにプールバッグがない。帰りに水着を入れるもの……適当なポリ袋を数枚突っ込んだ。……これ、水漏れしないよね……。
コツメに合うサイズの靴が無かったから、大きめのサンダルを履かせた。
まぶしい秋晴れの中へ、元気に走り出すコツメ。
コツメ 「わーい!! お外だーー!!」
楽しそうで良かった。でもちょっと複雑な気分。わたしは、この子を閉じ込めていたんだ。
コツメ 「かーちゃん! はやくはやくっ!!」
顔を上げて、前を向いた。
コツメは、選んであげた服を脱ぎ、髪飾りも外して、産まれたままの姿になった…………
…………って、水着着てるよ! ある意味全裸だけど!
おまけというかついでというか、わたしも久々に水着を着た。
……ちょっときついかも……。
コツメ 「かーちゃんは、ぷにっとかわいい マフィンちゃん だねー!」
無邪気に刺された。
自分のおなかのお肉をつまんだ。確かに、ぷにぷにだけど……
わたし 「まだ マフィントップ じゃないもん……」 *6
そんな
シンプルな、25メートルの屋内温水プール。*7 懐かしいな、この感じ。
コツメ 「うわーい!! ごぼごほ……」
はやっ! ぐるんぐるん回ってる……しっぽすごい……というか息切れしないの?
この子は本来の能力を抑え込んでいたんだ。さすがに海獣の子には負けるけど、うちの子は水陸両用だよ! 走るのも速いんだからね! (親バカ)
コツメ 「あははは!!」
あんなにバシャバシャ暴れたら迷惑……と思ったけれど、心配無用だった。他の子には衝突しないで、器用に間をすり抜けていく……。この子の遊びに巻き込まれるのは、楽しいだけで、迷惑じゃないよね。 (親バカ)
コツメ 「かーちゃーん!! こんなのあったよー!!」
ありゃー……見つけてしまった……ボールのおもちゃを……。 *8
コツメ 「いっしょにあそぼーー!!」
まあいいや。
コツメ 「たーのしーー!!」
わたし 「たーのしぃーー!!」
ヤケになったんじゃないよ?
コツメ 「ねえねえ! あなたもいっしょに遊ぼうよ!」
プールのすみっこに、コツメに似たアニマルガールが浸かっていた。うちの子と違うのは、毛……服が茶色いこと。じっと、コツメを見つめていた。
さっきまで誰もいなかったような……。
その子の目に違和感があった。輝きがない死んだ目は、絶滅種の証だ。
カワウソ「…………」
茶色いカワウソの子は、細くて小さな声で、キューキューとかキーキーとか言うばかりだった。ヒトの言葉を持たない、珍しいパターンだ。 胸の奥に、泡のような くすぐったさ が生まれた。
カワウソ「………………」
コツメ 「この子、ニホンカワウソっていうんだって!」
わたし 「言葉が分かるの?」
コツメ 「かーちゃんは、わからないの?」
わたし 「そんな、分かるのが当たり前みたいに言われても……」
ニホンカワウソ「…………」 *9
コツメ 「それなら、かーちゃんに!」
ニホンカワウソ「………」
コツメ 「ぎゃーぎゃー、きゅーんだよ!」
カワウソ語と日本語のミックス? 何の話してるんだろう? やっぱり方言とかあるのかな?
ニホンカワウソ「 …… ………… 」
コツメが、とっても嬉しそうにこちらを見た。
コツメ 「 この子もいっしょに住みたいってさー!! 」
わたし 「ぅえへっ!?」
変な声出ちゃった。
あの狭い部屋が、さらに狭くなってしまう……。
後編へつづく
あと、お菓子が好きな鳥の子とは関係ありません。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
トータルで8000字くらいの時は前後編にしています。切らない方が読みやすいのかな……。
[ 初投稿日時 2021/09/21 09:21 ]