ジャパリ・フラグメンツ   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 たまごとわたし。

 例によって変な独自設定が入っています。
 


〈 かしこいたまご 〉

 

 図書館。

 

かばん  「たまごりょうり、ですか?」

 

サーバル 「どこから持ってきたの? こんなにいっぱい」

 テーブルの上の丸い籐かごに、五つの卵があった。大きさ、形、色はバラバラだった。

 

ハカセ  「ちょっとしたもらい物なのです」

助 手  「ときどき、卵を産んでしまう子がいるのです」

 

イエイヌ(雑種) 「すんすん……」

 イエイヌが、卵のにおいを嗅いだ。

 

 ハカセ、助手、サーバル、かばん、イエイヌの5人が、テーブルのそばにいた。

 

かばん  「これ、赤ちゃんが産まれるのでは……」

助 手  「無精卵なので、ヒナは産まれません」

ハカセ  「だれの物かは教えられないのです。ぷらいばしーの問題があるので」

 

サーバル 「くんくん……」

 サーバルが、緑がかった色で茶色い点々がある卵のにおいを嗅いだ。

サーバル 「これはショウジョウトキのたまごだね。こっちは……アイガモかな?」

 今度は、白い楕円形の卵を突っついた。

イエイヌ 「それはカルガモさんのたまごですぅ」

ハカセ  「わかっても言ってはだめなのです」

 

イエイヌ 「あれ?」

 イエイヌが何かに気づき、ハカセをじっと見た。

イエイヌ 「くんくん……くん?」

 ハカセのにおいを嗅いで、首をかしげた。

 

ハカセ  「な……なんなのです?」

 

 イエイヌは、部屋の中を嗅ぎまわり始めた。

イエイヌ 「……ふんふんふん…………ん?……んん?」

 

かばん  「フレンズになっても卵が産めるって、ふしぎですね」

助 手  「さすがかばんさん」

ハカセ  「察しの通り、ヒトのからだは、卵を産むようにはできていないのです」

助 手  「鳥や爬虫類のフレンズは、産卵を疑似的に再現しているのです。

     おなかの中で卵を育てることで」

ハカセ  「赤ちゃんのかわりに」

 

かばん  「そう言われると、すごくお料理しにくいです……」

 

ハカセ  「気にしなくてよいのです。卵を産むフレンズが赤ちゃんを産むときは、

     卵ではなく、おなかで育てる……はずなので」

助 手  「そうしないと問題が起きるのです。……大きさや、体の構造的に」 *1

かばん  「卵を割って出られないかもですね」

サーバル 「じゃあなんで卵産んじゃうの?」

ハカセ  「もとの姿のなごり……ある種の生理現象なのです」

 

サーバル 「そういえばダチョウって、どうやって産んだんだろ? あんなおーっきい卵」

助 手  「考えてはいけないのです」 *2

 

イエイヌ 「こっちにもありましたよ!」

 イエイヌが駆け足で戻ってきた。 “ ボール取ってきたよ! ” という感じで。

 彼女が見せたのは、ニワトリの卵よりも小さい、白い楕円形の卵だった。

 

ハカセ  「あぁ! だめなのです!」

 

助 手  「は!」

 助手が目を丸くした。

助 手  「それは……」

 

 そして、急にうやうやしくなった。

助 手  「おめでとうございます。ハカセ」

 

かばん  「おめでとう?」

助 手  「はじめての卵は、めでたいのです」

 

サーバル 「おめでとー! ハカセ!」

 とりあえず祝福するサーバル。

 

イエイヌ 「これは、 “おせきはん” なのです!」

 無邪気に乗っかるイエイヌ。

 

サーバル 「なにそれ?」

かばん  「もち米とササゲを使った、赤いごはんですね」 *3

助 手  「お祝いごとのとき食べるりょうりなのです」

イエイヌ 「ちょっとごま塩をふると最高ですよ!」

サーバル 「よくわかんないけどおいしそー!」

 

 ハカセが頬を赤くしてうつむいた。

ハカセ  「やめるですぅ……」

 

 ハカセが、自分のおなかをさすった。

助 手  「まだおなかが張っているのですか? ハカセ」

ハカセ  「ふしぎに熱くて、残ってる感じがするです……」

 

 助手がハカセのおなかに触れて、目を細めた。

助 手  「なにかが、恋しくなりますよね……卵ができると」

 

 そして、こしょこしょと耳打ちした。

助 手  「卵をスルッと出すにはコツがあるのです。……あとで手伝ってあげますよ……」

 ハカセは再び顔を赤くした。

ハカセ  「て!! ……ななななにする気なのですじょしゅ!」

 

イエイヌ 「ニワトリさんは毎日食べてますよ、自分の卵」

かばん  「……それって、いいのかなぁ……」 *4

 

イエイヌ 「あの子の卵かけごはん、味が濃くて、すっごくおいしいんですよ!」

 

助 手  「無精卵は、けものではないのです。その一歩手前」

かばん  「……いのちになれなかった、いのちのもと……」

サーバル 「だから、おいしいんだね!」 *5

 

 

 ハカセは、自分が産んだ卵を両手で持って、じっと見つめていた。表情は無かった。

 

ハカセ  「…………」

 

 卵を持ったまま、頭の翼を音もなく羽ばたかせ、ふわりと浮いた。

 

助 手  「ハカセ?」

 

 ハカセは、崩れた壁の穴から外へ出て、飛び去って行った。

 

 

サーバル 「どうしたんだろ? 急に」

 

かばん  「……嫌だったのかな……こういうおはなし……」

 

イエイヌ 「あ! あぁ……ごめんなさい……」

サーバル 「わたし、わたし考えずにしゃべっちゃった!」

 

助 手  「お気になさらず。……わたしがケアします」

 

 

 

◇ ◎ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ハカセが、キャベツ畑のそばにしゃがんで、土をいじっていた。

 

ハカセ  「は!」

 ハカセが振り返った。

 助手が、ふわりと降り立った。

ハカセ  「……音を立てずに来るのはやめるです。助手」

 

 土を掘った小さなくぼみ。そのわきに置かれた、アフリカオオコノハズクの卵。

 ハカセの手は、土で汚れていた。

 

助 手  「 “返す” のですね。いのちの流れに」

ハカセ  「そんな大げさなものではないのです」

 

 ハカセが卵をつまみ上げて、しげしげと見つめた。

ハカセ  「急に冷めたのです。食べる気満々だったのに……」

 

助 手  「わかります。こころがころころ転がりますよね。卵みたいに」

 

 

 ハカセが、おなかに両手をあてて、目を閉じ、何かを思った。

 

ハカセ  「……こころが冷めたのに、おなかは熱く、てっ! …………く……」

 ハカセが苦痛で顔をゆがめた。

助 手  「ハカセ!」

 そして、そのまましゃがみこんだ。

ハカセ  「……うぅ……たすけっ……じょしゅ……」

 

助 手  「座ってください。力を抜いて」

 

 ハカセは、くたっと座り込み、体を丸めて震え始めた。

ハカセ  「……んう……ううう……」

 

 助手が、ハカセの服のボタンを外していった。

 

助 手  「そのまま、あおむけに」

 

 

ハカセ  「……はぁ……は……くっ、はぁ……うううぅ……」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◎ ◇ ◇ ◇ ♡ ◎ ◇ ◇

 

 

 

 

 助手は、ポケットからカレースプーンを取り出した。

助 手  「どうぞ」

 彼女は、それをハカセに渡した。

 ポケットをごそごそすると、もう一本スプーンが出てきた。

 

 

 ふたりは、畑のそばの柔らかい土を、スプーンでさくさく掘った。

 そして、出来た小さな穴に、アフリカオオコノハズクの卵を二つ入れた。

 

 

 ふたりは、しばらくそれを見つめた。

 

 

助 手  「元の姿なら温めたでしょうね。かえらない卵だと知らずに」

 

 ハカセは、土が付いたスプーンを見た。そこに歪んだ自分は映らなかった。

ハカセ  「われわれは、かしこくなり過ぎたのです」

 

 

 ふたりは、手袋を脱いだ手で、卵にふんわりと土をかぶせていった。

 

 

 『埋葬』を終えたハカセは、卵を埋めた土をぽんぽんっと整え……

 

ハカセ  「やれやれ……」

 

 ……立ち上がって、下を見つめたままつぶやいた。

 

ハカセ  「……こんな厄介な感情、けものには必要ないのです」

 

 

助 手  「…………」

 

 助手は、ハカセの横顔をじっと見つめていた。

 

 

 ハカセのあごを、汗とも涙ともつかない水滴が伝い落ちた。

 

 

ハカセ  「……?」

 ハカセが視線に気づき、助手を見た。

 

 

助 手  「美人になりましたね。ハカセ」

 

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
  “フレンズが産む卵の構造・大きさは元の動物と同じ” という設定です。公式には、フレンズが卵を産むという設定自体が無いと思います。

*2
 『産んだ』というより『生成した』と言う方が正しい気がします。ヒトの新生児の頭は、産道を通れる限界ギリギリの大きさで、柔軟性がある(それでもかなり無理をしている)のですが、ダチョウの卵はそれより大きいうえに硬いです。

 あと、ダチョウの卵はおいしくないらしいです。

*3
 小豆ではなくササゲを使うお赤飯、ちょっと歯ごたえがあって筆者は好きです。筆者は割と最近(2年ほど前)まで、『ササゲ』の漢字表記が『大角豆』なのを知りませんでした。Microsoft IMEでは、変換候補に出ない(2022年5月現在)ようです。Google日本語入力などでは出るかも?

 茨城県つくば市に『大角豆』と書いて『ささぎ』と読む地名(交差点名)があります。これも最初見た時は読みが分からなかったです。こちらはMicrosoft IMEの変換で出ます。

*4
 ニワトリは自分で産んだ卵を食べることがあります(割れてしまった場合)。クモなどでは、孵化したばかりの子が、周りにある卵(つまり兄弟)を食べることがあります。ヒトの感覚だと抵抗感が出る話ですが、ある意味合理的です。

*5
 “卵がおいしいのは、『いのちのもと』だから” 。という理屈は概ね正しい気がします。ヒトの味覚基準ではおいしくないものが大多数ですが。

 鮭の腹をさばいて、卵(腹子)が、ドロッと出てくる様はグロい……でも、すごくおいしい。

 メスの場合は卵で、オスの『いのちのもと』は……卵より拒否反応が出る話です。でも、おいしいですよね。魚の白子とか、ウニ(オスの方がおいしいらしい)とか。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 “1年以上前に書いたセリフのメモ” と、 “数週間前に温泉卵を食べて思いついたこと” を混ぜたらこうなりました。


 [ 初投稿日時 2022/05/15 15:15 ]
 
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