「ぐらぁぁぁ離せぇ!」
「落ち着いてください上流さん、どうしたんですかそんなに荒ぶって」
「うるせぇぇぇぇぇ!」
魔理華は黒い手の奴と戦わせろと暴れる上流を押さえ込んでなだめていた。修哉はオールマイトの傷を修復し、それが終わると早歩きで上流に近づき頭をきつく殴ってさっきまでうるさかったのを気絶させて黙らせた。そんな無理矢理なやり方に魔理華と緑谷は顔を引きつらせていた。
そんな少しの時間で死柄木は首を皮膚が剥がれる勢いで掻いて苛立っていた。
「おいおい全回復スキル持ちで高レベルモンスターかよ、雑魚しても強すぎだろ」
死柄木の掻く勢いが早くなるが、何か思いついたのか掻くの止めた。
「けど所詮身体能力だけでのごり押しだな。どんなに回復スキルを持っていても、戦闘慣れしても純粋なパワーで攻めれば終わりだ。脳無、あいつを殺せ。影人、お前は黒霧を取り戻せ」
脳無は半身が氷で覆われ凍らされているのにかかわらず体を元の体勢に戻ろうとした。元の体勢に戻るが凍らされて脆くなった右腕と右脚が折れてまともに歩けなくなった。折れた部分から肉の塊が盛り上がってくるとそれが折れた腕と脚の形になり、表面に皮膚が張られて完全な腕と脚になった。
「個性は『ショック吸収』だけじゃなかったのか!?」
「それだけと言ってないって、これは超再生かな。脳無はオールマイトのために作った高性能サンドバッグ人間だ」
「ショック吸収......超再生......作った............っ!!!」
修哉はオールマイトと死柄木の言葉を聞き取り、脳無の正体の可能性を見出した。それは知らなければならない敵連合を支える指導者の存在。そのことに修哉は動揺を隠せずにいた、それを見た魔理華は今まで見たことがない動揺に心配をしていた。
死柄木の命令に従う脳無は指差した先の相手に向かっていった。
修哉はそのことに気づき、近くにいる魔理華を棍で自分の周りから押し出した。脳無が修哉の真後ろに現れると修哉に目掛けて拳を叩きつけた。
それはたった数秒ほどの速さで動いていた。そんな動きに対して修哉は拳を棍で防いで対応していた。
影人と呼ばれる男は爆豪に近づいていき首元に手を伸ばした。爆豪はそれを爆破で吹き飛ばそうとした。するともう片方の黒い手がボコボコと泡立つように膨れ上がり、その手で爆発ごと爆豪を握りしめた。
「爆豪少年を離すんだ!」
オールマイトは爆豪を助けるべく影人の黒い手を叩いた。黒い手は開かなかった。次にオールマイトは力を入れて大きな指をこじ開けようとした。黒い手は開かない。最後の手段にオールマイトは力いっぱい殴りつけた。それでも黒い手は開かない。どんなに殴られても影人は防ぐことなく爆豪を握りしめたまま動かなかった。影人はゆっくりとオールマイトに向けて見ると口が開いた。
「オールマイト、それで本当に殴ってるのか?」
ゼンマイ式のブリキのおもちゃのように口元が動き、歪み笑うとオールマイトから離れて力強く爆豪でオールマイトを叩きつけ、黒霧を死柄木のところに連れていった。
「おいあいつ、あの化け物と同じ『個性』を持っているのか!?」
轟の言った言葉に緑谷はこの状況を危惧した。
オールマイトに不利な『個性』を持つ人が二人、一人はオールマイトに匹敵するパワーを持ち、もう一人は未知数、緑谷は何か打開策がないか考える。
魔理華は修哉と脳無の攻防戦に目が離せなかった。脳無の力は強い、それはその巨体と殴る勢いと速さで分かっている。そんな攻撃を修哉はことごとく防いでいる。殴るスピードが上がるも、拳が修哉の棍に吸い寄せられるかのように当たり、殴る勢いが上がるも、パンチが効いている感じがしなかった。
完璧な防御を維持していると急に修哉の体勢が崩れて始め尻餅をついてしまった。修哉は何が起きたか足元を見ると黒い靄が右足を飲み込んでいた。死柄木がいる方を見ると黒霧から自分のと思われる足が出ていた。足を抜こうとしても死柄木と影人が力強く掴んでいて抜けなかった。黒い靄が少なくなっているのを見て、この後どうなるか予想ができた。
それは魔理華も同じであった。この状況で片足が使えなくなれば確実に脳無に殴り殺される。魔理華の心が今までに感じたことのない恐怖で埋め尽くされそうになった。魔理華は全速力で走り出して、自分を呼び止めようとするみんなの声を無視していた。今ここで自分の恩人であり憧れの人が殺されようとしていた。それが一番、自分が恐れる恐怖であったからだ。
「修哉さんを、離せえええぇぇぇぇぇ!!!」
魔理華が足を掴む影人に向かって拳を握り締め、物理的攻撃が効かないことを忘れ、数メートルで届こうとした時、黒い靄が目の前に現れ、中から手が出てきた。その手は死柄木のものであり、その手がどれだけ危険なものか知らない魔理華に触れようとしていた。
「その二人から離れるんだ!!」
魔理華に触れる前にオールマイトがやってきて、魔理華を後ろに下げた。死柄木らはその場から離れて、修哉の足を離し、修哉は足が自由になると脳無から一旦距離を取ろうと後ろに下がった。脳無も前に進もうするがオールマイトがそれを遮った。
「お前の相手はこの私だ!!」
そこからはオールマイトと脳無の殴り合いであった。目に見えるのがやっとの速さでパンチが行き交う中、徐々にオールマイトが押していった。オールマイトのパンチの全ての一つ一つに全力以上の力を込めて殴っており、それがわかる人いればわからない人もいた。そこからはもはや人間同士の闘いと言ってもわからないほどになっていた。殴り合いの余波で飛ばされそうになり、宙に浮いた状態での殴り合い、森があるエリアまでに吹き飛ばし、相手を地面に叩きつけて割るなどと魔理華たちは漫画の世界にいると錯覚してしまいそうであった。
「!修哉さん逃げてください!!」
オールマイトが投げ飛ばした脳無が修哉に迫っていた。修哉はそれに対して避けようとせずまさかの棍を野球バットのように構えて、それで脳無を受け止めた。それでも修哉は後ろに押された程度で止まった。オールマイトの全力の投げを棒一本で受け止めて後ろに下がった程度なのはおかしい、誰もがそう思った。
「今までのパンチ、全部返すからな......!反射棍棒!!!」
修哉の棍が振りかぶると爆発したかの様な打撃音が鳴り響き、どんなショックにも耐えられた脳無はその効果がなく一直線に吹っ飛んでいった。その先にはいつの間に地上に立っているオールマイトがパンチを構えていた。
「敵よ、こんな言葉を知っているか。更に向こうへ......plus ultra!!!」
オールマイトのパンチが一発、脳無の腹に直撃した。脳無とオールマイトが動かなくなったと思うと修哉の時とは一回り上の凄まじい轟音が鳴り、大地が砕け、脳無はUSJの屋根を突き破り、空高くに飛んでいった。
その後は辺りが静まり、オールマイトが動き出して一言呟いた。
「やはり衰えた、全盛期なら5発も打てば済んだのに、300発以上も打ってしまった」
これがNo1ヒーローの力、これが平和の象徴、魔理華や緑谷はその姿を見て痛感した。魔理華はオールマイトだけではなく、修哉に自分には知らなかった強さを見せつけられた。前から自分は弱いと嘆いていた人が持っていた隠されていた強さ、魔理華は憧れの人がどれだけ遠い場所にいるのか、自分の力で通用できるのか、そのことで頭の中でグルグルと駆け巡っていた。
「さてと敵、お互い早めに決着をつけようか」
オールマイトを倒す脳無がいなくなり、敵連合は追い詰められた。死柄木は首を掻いて苛立ち始め、ブツブツと呟いていた。この状況が変わることがないと判断した切島たちはその場から離れようした。魔理華はこの安心と思える状況で一つの不安を持っていた。もし、オールマイトが戦える状態じゃないとしたら、そんなことが頭の中をよぎった。
「さぁ、来ないならこっちから来るぞ!」
オールマイトが時間を稼ぐために相手に話しかけていると、修哉が自分の隣に近づいてき、オールマイトは修哉にしか聞こえない小さな声で話しかけた。
「直崎くん、もし敵が向かってきたら、もう一度力を貸してくれ......」
修哉もオールマイトにしか聞こえないように小さな声で話し返した。
「無理です、それ以上使うとオールマイトさんの活動限界に響きます......」
「頼む、もう一度だけだ......」
そんな話をしている時、影人が死柄木の肩に手を乗せて落ち着かせようとした。
「兄貴ここはみんなで一気に襲いかかりましょう。俺たちの連携でこいつらを潰せることができます。それにオールマイトもさきの闘いで弱っているようですし、まだ戦える奴もいます。増援が来る前にカタをつけるなら今しかありません。だから落ち着いてください」
「......そうだな、そうだよ、そうだ、目の前にラスボスがいるんだ」
死柄木はその言葉で落ち着いたのか掻いていた手を止めて、オールマイトを倒すことを決めた。魔理華たちの周りの敵が目を覚まして動き出し、切島たちはそいつらを倒そうと体勢を整えた。オールマイトの今の状態を理解している緑谷とこの状況で不安を持つ魔理華は周りの敵に目もくれず、オールマイトと修哉の方ばかりを見ていた。
「それに、脳無の仇だ!」
死柄木は黒霧と影人を連れてオールマイトに向かってきた。修哉は何か覚悟し、オールマイトに触れて何かをしようとした。そして緑谷はこのピンチを止めようと瞬間的にスピードを出し、魔理華もそこから遅れて呪文を唱えて走り出した。
それでも緑谷のようにはいかなかった。魔理華は自分の無力さを知った、助けたいものに手が届かず、近づこうとしても足の速さでは遅い、自分は何ができるの?
そんなことを考えているとバンッと大きな音が響き、それで魔理華は我に返った。前を見ると緑谷が倒れてその前に黒い靄から出る手、その手は穴が空いて血だらけになっていた。おそらく銃に撃たれて、さっきの音は銃声だったんだと理解できた。オールマイトが撃ってきたであろう方向を見ると増援の教師たちが入り口に立っていた。先生たちは下に降りると爆発が起きるほどに暴れまわっていた。魔理華がそんなのを見ていると立っている感覚がなくなり、修哉に担がれているのに気がついた。
「ちょ、修哉さん離してください、恥ずかしいです!」
「お前がこの場にいると厄介なんだよ」
修哉はある程度離れたところで魔理華を下ろして、魔理華の頭をポンポン叩いて、あることを言った。
「助けようとしてくれて、ありがとな」
修哉はそれだけ伝えると遊びに混ざる子供のように教師たちが戦っているところに向かっていった。魔理華はそのまま動かずにいてると自然に涙が出て急いで服で拭っていた。拭っても拭っても涙が出てくる。それが何もできなかった悔しさか、憧れにお礼を言われて嬉しかったのか、それは誰にも分からないものである。