ダークブリングマスターの憂鬱  【完結】   作:闘牙王

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第二十話 「旅立ちの時」 後編

長かった一日が終わり、日が暮れ始めようとしている中、一人の少年がソファに座り込んだまま何かをずっと考え込んでいた。その手の中には小さな石がある。十字架の形をした石。レイヴと呼ばれる聖石。この世界で唯一DBに対抗できる、レイヴマスターだけが扱える力だった。

 

 

(親父……)

 

 

座りこんでいる少年、ハルはその手にあるレイヴを見つめながら思いを馳せていた。自らの父、ゲイル・グローリー。自分が物心つく前に島を出て行ってしまった人。ハルはその姿を写真でしか思い出せない。小さい頃は父親がいないことに寂しさが、不満があった。他の島民がみんな家族で暮らしているのに何で自分の家には父親がいないのかと。だがそれをすぐにハルは心の奥底にしまい込んでいた。それは自らの姉、カトレアのため。父親がいない自分のために、自分の我儘のために姉を危険な目に会わせてしまったことがハルにそうさせていた。自分に父親はいらない。姉が、カトレアがいればいいと。それでも心のどこかでは父親への思いが残っていた。そしてそれが今、かつてないほどに大きくなりつつあった。

 

それはゲンマから先程聞かされた話。

 

ハルは海岸でのシュダとの戦いの後、やってきたゲンマ達によって家まで運ばれた。戦闘によって疲労し、気絶してしまっていたためだ。怪我自体は大したことはなく、火傷も後遺症も残らないとのこと。むしろ大きな怪我をしたのはシバの方。たたでさえ大怪我をしていたにもかかわらずDCの兵士たち、そしてシュダまで相手にしていたのだから。今は二階のハルの部屋に寝かされている。意識は戻っているが絶対安静。プルーの力もあるので命に別条はないようだ。そしてようやく落ち着いた後、ハルはゲンマによってある話を聞かされる。

 

それは父、ゲイルが島を出て行った本当の理由。レイヴを探しに行くこと。それがその理由であったこと。決してゲイルは家族を捨ててこの島から出て行ったわけではないこと。ハルにとっては少なくない衝撃を受ける内容。だが今なら納得できる理由だった。

 

ハルは思い出す。それは四年前。DCによって破壊されてしまった街。傷ついた人々。それがDCによって世界中に起きている。DBという力によって。だがそれに対抗できるのはレイヴだけ。だからこそ父はレイヴを探しに旅立ってしまったのだろう。DCによって、DBによって苦しめられている人々を救うために。その気持ちが今のハルには分かる。

 

そしてもう一つ。それは姉、カトレアのこと。何故あんなにレイヴという言葉を聞いただけで怒っていたのか。どうして父が出て行った理由を今まで自分に教えてくれなかったのか。きっとそれを聞けば自分が島を出て行ってしまう、そして父同様帰ってこないのではないかとカトレアは心配していたに違いない。

 

ハルは一度大きな息を吐いた後、窓から外へ目を向ける。もう日が沈み、夜になろうとしているのにカトレアは出かけるといったきり帰ってこない。ゲンマが父のことを話し終えた後、カトレアはまるでハルを避けるかのように出て行ってしまったまま。ゲンマの既に街へ戻って行った。そしてハルはずっと考え続けていた。いや、それは違う。もう心は決まっていた。後はその覚悟を形に、口にするだけ。

 

 

「……シバ、入っていいか?」

「! うむ、かまわんぞ」

 

 

ハルは階段を登り部屋をノックした後、ゆっくりと部屋へと入って行く。そこにはベッドの上で体だけを起こした老人、シバの姿があった。その膝の上にはプルーの姿がある。どうやら思ったよりも状態がいいらしいことにハルは安堵しながらもシバへと近づいて行く。

 

 

「体は大丈夫なのか、シバ?」

「はむ、見ての通りじゃ。まだ動くのは難しいがしゃべるのは問題ない。お主とプルーのおかげじゃよ」

「そっか……」

 

 

ハルはそのまま近くにある椅子に腰かけながらシバと対面する。だがハルはそのまま口を閉じ、黙りこんでしまう。まるで何かを口にしようとしながらもそのタイミングが計れないかのように。

 

シバはそんなハルの姿に、おおよその事情を悟った上で静かに待ち続ける。ハルが自らの口でそれを話し始めるのを。どこか見守るかのような優しさを感じさせる表情を見せながら。プルーもそんな雰囲気を察したのか二人を交互に見ながらもじっと待ち続けていた。そして長い沈黙の後

 

 

「シバ……オレ、二代目レイヴマスターになる」

 

 

ハルは宣言する。己の意志で。誰に強制されたわけでもなく、レイヴに選ばれたからでもなく、ただ自分の心に従って。その言葉には静かだが確かな覚悟があった。シバはそんなハルの言葉と姿にもはや何も言うことはないとばかりに静かに、深く目を閉じた後、それを手に取る。

 

それはTCM。シバにとって魂にも等しい剣。かつて友が自分のために打ってくれた世界でただ一つの剣。だがその姿は大きく変わり果ててしまっている。刀身は既になく柄と鍔が残っているだけ。それは先のハルとシュダの戦いにおける代償。五十年の永きに渡り戦い続けてきた代償だった。奇しくもそれは今のシバの姿と似通っている。主と剣。互いに限界を超えて戦い続けた姿。だがそれをシバはハルに向かって差し出す。いつかと同じように。その瞳に、手に失うことなき意志を宿しながら。

 

 

「ハル・グローリーよ、ワシに代わり、二代目レイヴマスターとして戦ってくれるか?」

 

 

それはあまりにも重い言葉だった。シバの五十年間、人生の全てを込めた言葉。ハルへの期待、そしてハルの全てを託すしかない自らのふがいなさ。様々な意味を持った言葉。だがハルはそれを真っ直ぐに受け止める。以前は圧倒されるだけだった。思わず後ずさりしてしまうほどに。だが今は違う。世界のために。正直にいえばまだ実感が湧かない。いやそんなことできるわけがない。昨日今日でそんな覚悟が持てるなんてあり得ない。だがそれでもハルは得た。苦しんでいる人々を救いたいという願いを。そして自分自身の戦う理由を。

 

 

「ああ、任せてくれ、シバ!」

 

 

ハルは満面の笑みを見せながらその剣を、魂を受け継ぐ。世界の剣。その重みを実感しながら。

 

 

「よし……行くぞ、プルー!」

『プーン!』

 

 

ハルは身支度を整えプルーと共に部屋を出て行こうとする。海を渡るため食料やら何やらで大きな風呂敷を背負ったまま。島を出るということに少なからず憧れがあったハルはどこか興奮した姿を見せていた。そんなハルの姿を微笑ましく見つめながらも釘をさす意味でシバはもう一度伝える。まずハルが向かうべき場所。そしてするべきこと。

 

 

「よいかハル……まずはパンクストリートにいるムジカという鍛冶屋に会うのじゃ。あやつならその壊れたTCMを直すことができるはずじゃ」

「分かってる! TCMが直らないとDCとも戦えないからな!」

 

 

ハルは自分に言い聞かせるように復唱する。TCMの生みの親である鍛冶屋ブラックスミスムジカに会い、それを直すこと。それがハルの第一目標。そしてそれからは世界中に散らばってしまっているレイヴを集めること。全てのレイヴの力がなければ母なる闇の使者マザーダークブリングを倒すことができないからだ。ハルは全ての準備を整えいざ出発せんとする。だが何かを思い出したかのようにその動きを止めてしまう。

 

 

「……? どうしたんじゃハル、忘れ物か?」

「いや……そういえばオレ、シバに聞いときたいことがあったんだ……」

 

 

ハルは改めてシバに向かい合いながら視線を向ける。それは疑問。そして何度も感じてきたもの。

 

 

「どうしてシバはレイヴマスターになったんだ……?」

 

 

そんな今更聞くこともできないような当たり前の問い。だがハルはそれを尋ねる。それは何度も目にしたから。どんな状況でも、大怪我を、命を危険に晒しても決してシバはあきらめなかった。どうしてそこまでできるのか。五十年と言う長い間。一度も折れることなく。

 

シバはそんなハルの言葉に一瞬驚くような表情を見せながらもすぐに笑みを浮かべながら答える。自分の戦うべき理由。その原点。

 

 

「……約束なんじゃよ」

「……約束?」

「五十年以上前にある少女と約束したんじゃ……レイヴを手にしながら。その娘の願いを叶えると……」

 

 

シバはどこか遠くを見るような顔で想いを馳せている。誰からも愛され、そして踊ることが大好きだった少女。

 

それを捨ててまで、命を賭けてまで願いを、平和への意志を遺した少女。

 

その少女との約束がシバの原点。還るべき場所。

 

 

「そっか……うん、ありがとう! オレもシバに負けない理由を見つけてみせる!」

「うむ、お主ならきっとできる。気をつけてな」

 

 

シバの言葉に何か感じ入るものがあったのかハルはそれまで以上に元気を見せながらシバに別れを告げ家を後にする。シバはそんな慌ただしくも頼もしい少年の旅路を見送る。

 

ハルに待ち受けるであろう試練、困難。その重さを知りながらもきっとハルなら乗り越えられると信じながら―――――

 

 

 

 

日も沈み、月と星だけが灯りとなってしまった海岸。その一角に一人の少女の姿があった。それはカトレア・グローリー。カトレアは地面に腰を下ろしたままただじっと目の前にあるものを見つめ続けている。それは墓石。大切な家族。そして失ってしまった愛する人。

 

『サクラ・グローリー』

 

いつも自分達を優しく見守ってくれていた母の墓。何かあった時にここにやってくることがカトレアの習慣だった。だがその姿はいつもとは違う。どこか悲しげな、辛そうな表情を見せながらカトレアはただそれを見つめ続ける。決して答えなど帰ってこないと分かっていながらも。

 

一際大きな潮風が吹き荒れる。その冷たい風が身体の体温を奪って行く。いつも常夏の厚さのガラージュ島であってもこの時間になると肌寒くなる。何も羽織っていないカトレアはその寒さを直接肌にうけるもそこから動こうとはしない。まるでその寒さが今の自分には必要なのだといわんばかりに。そして一体どのくらいの時間が経ったの分からなくなりかけた時

 

 

「……そんなところでじっとしてたら風邪ひくぞ、姉ちゃん」

 

 

カトレアのすぐ後ろからいつも聞きなれた少年の声が響く。だがカトレアは驚くことなく、振り返ることもない。まるで最初からハルがここにやってくることを分かっていたかのように。

 

 

「やっぱここに来てたんだな……姉ちゃん怒るといつもここだもんな」

 

 

カトレアが返事をしないことを気にするそぶりを見せないままハルはしゃべり続ける。まるで独り言のように。何でもないことを。他愛のないことを。

 

カトレアはそれに応えることなく背中を向け座りこんだまま。

 

ハルはそんな姉の背中を見ながらも動こうとはしない。届きそうで届かない、そんな距離感。だがそれを感じさせない温かさがあった。カトレアは気づく。いつの間にか感じていた寒さが無くなってしまっていることに。

 

ぷつりと、ハルの言葉が途切れる。まるで独白が終わったかのように。静かな時間が二人の間に流れる。時間が止まってしまったかのような、そんな感覚。そして

 

 

「姉ちゃん……オレ、島を出るよ」

 

 

ハルは告げる。自らの選択を。

 

 

「レイヴマスターとして、DCを倒しに行ってくる」

 

 

ハルははっきりと、力を込めて宣言する。もう迷いはないと。何を言われても自分は選択を変えないと。

 

カトレアは身動き一つしないまま。言葉を発することもない。その表情をハルは伺うことはできない。カトレアが今どんな顔をして、どんなことを想っているのか。ハルにはそれが分かる。

 

怒ると怖いけれど、いつも優しく自分を見守ってくれた。自分にとっては姉であると同時に母でもある存在。そんな姉を今自分は裏切ろうとしている。その願いを、自分の身を案じている姉の想いを振り切って。でもそれが自分の選択。それに後悔はない。

 

 

「でも、それだけじゃない……オレ、探してくる。親父とアキを……」

 

 

自分が戦う理由。島を出る理由を得たのだから。レイヴマスターとしてではない、もう一つの自分の願い、望み。

 

 

「レイヴを追って行けば……きっと二人に会えると思う。そんな気がするんだ……」

 

 

それはシバに比べれば取るに足らない理由かもしれない。もしかしたらこの先、その理由も変わって来るかもしれない。でも今の自分にあるのはそれだけ。

 

 

「だから約束する。親父とアキ、二人を連れて必ず帰ってくる。」

 

 

親父とアキ。今はいない二人の家族を見つけて、そして帰ってくる。

 

それがハル・グローリーの誓いだった。

 

ハルはそのまま踵を返し、立ち去って行く。カトレアの顔を見ることなく、対面することなく。自らの決意と誓いを立てたまま。そんな中

 

 

「……行ってらっしゃい、ハル」

 

 

海の波の音によって聞き取ることができないような小さな声が、それでも確かな姉の声がハルの耳に届く。ハルの足が止まる。引きとめられるかのように。後ろに振り向きたい。走って行きたい衝動がハルを支配する。それでもハルは歯を食いしばり、涙をこらえながら

 

 

「……行ってきます、姉ちゃん」

 

 

ハルは旅立って行く。その胸に姉の言葉を焼きつけながら。必ず帰って来ると、そう心に誓いながら。

 

 

それがハル・グローリーの旅立ちだった――――

 

 

 

 

そしてハルは島を出るためにイカダを出そうとした瞬間にふと気づいた。

 

そういえばナカジマに別れの挨拶をしていなかったと。

 

何だかんだでやっぱり自分とアキは似た者同士だと思いながらも今更戻ることもできずハルはそのままプルーと共に旅立って行く。

 

空気を読んで気配を遮断していたアキが号泣しながら自分を見送っているなど露知らぬまま――――

 

 

 

 

ハードコア山脈にあるDC本部。その巨大な城の廊下をカツカツと音を立てながら歩いているコートを羽織っている男の姿がある。それはシュダ。シュダはどこか上機嫌に歩みを進めて行く。その瞳には確かな喜びが、興奮があった。今にも祭りが始まりそうな、そしてそれが待ちきれないかのような雰囲気。そしてそのままシュダが本部から出ようとした瞬間、

 

 

「久しぶりね、シュダ。元気そうでよかったわ」

 

 

そんな女性の声が後ろから掛けられる。シュダは無視するべきかどうか一瞬思案するもすぐに振り返る。いつもなら無視して付き纏われる方が面倒だからなのだが今回は事情が違っていた。

 

 

「てめえもな、レイナ。こんなところで油を売ってるとはよっぽど暇らしいな」

 

 

シュダはその姿を捉える。長い髪に煌びやかなドレス。自分と同じ六祈将軍オラシオンセイスの一人、レイナがそこにはいた。

 

 

「よ、余計なお世話よ! 私はキングの側近、切り札なのよ。あんたみたいにほいほい前線にいけるほど暇じゃないの」

「そうかい、で一体何の用だ」

「全く……一応お祝いを言っとこうと思っただけよ。もう六星DBをもらったんでしょ?」

 

 

レイナは不機嫌そうにしながらもシュダの胸元に視線を向ける。そこにはネックレスのように付けられたDBがある。だがそれはただのDBではない。自然の力を操る六星DB。六祈将軍オラシオンセイスのみが持つことが許される特別なDBだった。それこそがシュダがこのDC本部に訪れた理由。壊れてしまったDBの代わり、そして正式な六祈将軍オラシオンセイスの任命の意味を兼ねたものだった。

 

 

「ふん……嘘ならもっと上手くつくんだな。そんなことこれっぽちも思っちゃいねえだろうに」

 

 

シュダはつまらなげに吐き捨てる。シュダは既に見抜いていた。レイナが自分の昇進を祝う気など全くないことに。その証拠にその言葉には全く信憑性がない。まるでからかっているかのようなニュアンスが含まれていた。

 

 

「いちいち気に障る男ね……いいわ、じゃあ本音でいかせてもらうわ。どうしてあんた、六星DBをもらえたの? 二代目レイヴマスターってガキンチョを殺し損ねたんでしょ?」

 

 

レイナが訝しんでいるのはその一点。既に噂でシュダが任務に失敗しレイヴマスターを殺し損ねたことは知っている。それはすなわち任務に失敗したということ。それなのに何故キングから罰を受けることもなく、それどころか六星DBを与えられているのか。

 

 

「フン……てめえには関係ない話だ。始末はオレがつける」

 

 

シュダはレイナの挑発にのることなく、それどころかむしろ楽しげに笑い続けている。レイナはそんな予想外のシュダの反応に呆気にとられるしかない。レイナはプライドが高いシュダがこんな態度を見せるなどとは思っていなかった。

 

 

「ふーん……よっぽどその二代目君が気に入ったってわけ? もしかしてそんな趣味があるの?」

「そういうてめえはどうなんだ? アキなんて年下の奴に随分入れ込んでるみたいじゃねえか」

「う、うるさいわね! 余計なお世話よ!」

 

 

レイナはまさかそんな形で冗談を返されるとは思っていたため狼狽するしかない。もちろんそんな気はないのだが年下趣味などと噂でも広められたら面倒なことになる。それとは別にしてレイナ個人としてはアキをかなり買っていた。でなければ六祈将軍オラシオンセイスに推薦などするわけがない。それが上手く行かなかった原因であるシュダにレイナは良い感情を持っていなかった。もっともアキのことを抜きにしても気に入らない相手であることは変わらないのだが。

 

 

「まあいいわ。とにかく六祈将軍オラシオンセイスの名に泥を塗るようなことはしないでちょうだいね。こっちまで迷惑するんだから」

 

 

レイナはそう言い残した後、その場を去っていこうとする。このまま言い合っても不毛なことになるのは目に見えている。だが

 

 

「そういえばレイナ、てめえに一つ、面白いことを教えておいてやる」

「……? 面白いこと? 悪いけどデートならお断りよ。あんたは私のタイプじゃないし」

 

 

それはシュダによって止められる。だがレイナはまさかシュダから引きとめられるとは思ってもいなかったため困惑するしかない。だがそれは

 

 

「売人のアキ……あいつは金髪の悪魔だ」

 

 

シュダの言葉によって驚愕と戦慄に染まる。瞬間、レイナの表情が凍りつく。

 

 

「金髪の悪魔って……あの……?」

 

 

レイナは冷酷な表情、六祈将軍オラシオンセイスとしても顔を見せながらも確信していた。それはシュダの姿。それは真剣そのもの。嘘を言っている様子も見られない。何よりもそんなことをする意味も理由もない。そんなことをする男でないことはレイナも理解している。だからこそレイナが抱いている疑問はたった一つだけ。

 

 

「……それを私に教えてどうする気? 何が目的なの?」

 

 

何故それを自分に教えたのか。確かに自分はアキを買っている。だがそれはあくまでDCの一員として。ましてや恋愛感情など無い。そんな自分にそれを伝えて何をさせるつもりなのか。もしその真偽を知りたいならキングかハジャにでも報告すればいい。どうやらシュダの様子からみるに報告は挙げていないのだろう。もっとも本当にアキが金髪の悪魔であるなら面倒なことになるのは避けられないだろうが。金髪の悪魔がDCに潜り込んでいる理由、その力、挙げればきりがないほどの危険因子。

 

 

「大したことじゃない。オレが二代目レイヴマスターと戦うまで他の六祈将軍オラシオンセイスに手出しをさせないようにしてほしいだけだ」

 

 

シュダは告げる。己の目的を。自分が見つけた獲物を誰かに奪われるのを避けるため。そのために協力しろとシュダはレイナに提案する。キングの側近であるレイナならそれは容易い。キングに向かってレイヴマスターの始末をシュダに任せてはどうかと口添えするだけ。恐らくはキングも承諾するだろう。新しく六祈将軍オラシオンセイスになったシュダの腕試し、そして先の失敗のリベンジにもなるのだから。

 

 

「なるほどね……でもそれは私には何のメリットもないわ。協力する価値もないわね」

 

 

レイナは話にすらならないと切り捨てる。取引とは互いに利益があってこそ成り立つもの。確かにアキが金髪の悪魔だと知ることができたのは助かったがそれとは割が合わない。レイナにはそこまでしてアキを庇う義務もないのだから。だが

 

 

「お前の探し物……それを探すのに奴を脅して利用すればいい。幸いアキはお前には気を許してるみたいだしな」

「…………」

 

 

探し物という言葉にレイナの瞳に確かな炎が宿る。それはレイナにとっては最も重要なこと。DCに入った理由の一つでもある。だがまだ手掛かり一つ掴めていない。だが確かにアキならば力になるかもしれない。世界中を何らかの方法で移動しており行動には自由がきく。DBを入手してくる以上何らかの強い情報網も持っているはず。加えて本当に金髪の悪魔だとすればその実力も凄まじいだろう。もしかしたら自分達を超える力を持っているかもしれない。デメリットもあるが協力が得られればレイナ個人としてもDCとしても得るものは大きい。もしDCを裏切るようなら

 

 

「もしDCを裏切るようならキングに報告して処刑すればいい。奴の首には莫大な賞金が掛けられている。それだけでも意味はある。違うか?」

 

 

レイナの思考を先読みするかのようにシュダの言葉が告げられる。レイナは自分の認識を改める。戦うことにしか能がないと思っていたがどうやらシュダはそうではないらしい。もっともシュダの話を全て鵜呑みにするほどレイナは甘くはない。まずは本当にアキが金髪の悪魔なのかどうか。それを確かめる必要がある。

 

 

「……いいわ、その話乗ってあげる。せいぜい二代目に足元をすくわれないようにするのね」

「ふん……口が減らない女だ」

 

 

捨て台詞を残しながらシュダは本部を後にする。慣れない知略を巡らしてでもハルとの再戦を果たすために。レイナはそんなシュダの姿を見送った後、キングの元へと向かって行く。己の目的のために。

 

 

本人は知らないまま、ダークブリングマスターの憂鬱はまだまだ続くことになるのだった――――

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