ダークブリングマスターの憂鬱  【完結】   作:闘牙王

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第三十三話 「違和感」

エクスペリメントから少し離れた小さな町。その大通りを行ったり来たりしている怪しい人影があった。既に大通りを往復している回数は数えきれない。流石にローブを被った怪しい人物がずっとうろうろしている光景に周囲の住民も訝しみ、声を掛けようとするもぶつぶつと独り言を言っている姿にドン引きして去って行ってしまう。

 

 

「いや……でも……だし……」

 

 

怪しい人物ことアキは自分がそんな奇異の目で見られていることなど全く気付くことなく自分の世界に入り込み、独り言をつぶやき続けている。まるで悩み事があるかのように。同じところを回り続けている犬そのもの。

 

 

(うーん……どうすっかな……ここは強気に……いや、もしかしたら裏切りがばれてるかもしんねえんだからここは土下座か……いやいやいや何で俺が石相手にそんなこと……!)

 

 

アキはそんな支離滅裂なことを考えながらも頭を抱えていた。言うまでもなくそれは先日のマザーとのいざこざ。全く余裕がなかったことと珍しくシリアス、熱血モードに入っていたためアキは半ば強引にマザーをその場からアジトに送り返してしまっていた。そしてそのまま疲労のまま爆睡し、一日以上放ったらかしにしたまま。そのことに気づいたアキはすぐにアジトに戻ろうとしたのだが色々な事情からすぐにそれを実行することもできずエクスペリメントから離れたこの街で油を売っている、もというじうじしているところ。

 

 

(なんならここに呼び出しても……い、いや……流石にそれはマズイか……? 一応俺の方に非はあるわけだし……あいつからすれば何で俺が怒ってるのかさっぱりだったろうし……やっぱ俺が出向くのが筋ってもんか……でもなんだろう……下手に出たら負けな気がする。いろんな意味で……)

 

 

アキは自問自答を繰り返しながらもやはり自分が出向くしかないのだとあきらめる。だがまだ納得がいかないのか、それともマザーの対応が恐ろしいのか踏ん切りがつかずうろうろと右往左往を続けている。そんな自らの主の姿に他のDBたちも溜息を吐くしかない。DBたちからすればどっちにも肩入れできない状況。とりあえずは仲直りをしてくれるのが一番だというのが共通認識。そして今のアキの姿。まるで彼女と喧嘩して仲直りしようとするもプライドが邪魔して動けない彼氏そのもの。もっともそんなことは本人の前では口が裂けても言えないのだがイリュージョンとハイドはどこか楽しげに、デカログスとワープロードは静かに見守っている。

 

 

「仕方ねえ……行くとすっか……」

 

 

DBたちからの生温かい視線を受けていることなど知る由もないアキは一度大きな深呼吸をした後、覚悟を決めたかのように宣言する。とにもかくにもこのままずっと放置しっぱなしでは状況がさらに悪化しかねない。もう既に次の展開がハル達やDCにみられるはずなのだから。どんな結果になるにせよDBマスターとして避けることはできない道。できれば丸くおさまってくれと心の中で願いながらもアキはその手にあるワープロードに力を込める。瞬間、アキたちは街から姿を消した―――――

 

 

 

「ち、チィーッス……」

 

 

そんなよくわからない挨拶をしながらもアキはアジトへと帰還する。声がどこか上ずっているのはお約束といったところ。だがすぐにアキは違和感に気づく。部屋の様子。それがどこかおかしい。具体的には全体的に暗い。まるで部屋を閉め切ってしまっているかのように。マザーは確かにDB、石だがある程度は自分で動く(飛ぶ)こともできるのに何故こんなことになっているのかアキは首をかしげながらもマザーの気配がある部屋に向かって歩いて行く。知らず忍び足になりながら。すると

 

 

『……! ……。……』

 

 

部屋の中から何か音が聞こえてくる。まるで声のようなものが。アキはそっとドアの隙間から中の様子を覗きこんでみる。そこには

 

 

『だ、だが我は何も間違ったことは……それに元々はあやつが悪い! なのに有無を言わさず送りおって……し、しかしもう一日以上か……や、やはりそんなに怒らせてしまったのか……? ど、どうすれば……』

 

 

薄暗い部屋で怪しく点滅しながらぶつぶつと独り言をつぶやいている魔石の姿があった。それはまさに先程までのアキと同じもの。主従揃って情けなさの極み。もっとも似た者同士と言えるのかもしれない。

 

 

「お前……何やってんだ……?」

『っ!? ア、アキか……!? い、いつ戻ってきたのだ……!?』

 

 

目の前の光景に呆れながらもアキはぽつりと言葉を漏らす。自分が決死の覚悟でやってきたというのにどこか拍子抜けのマザーの状況にアキは一気に気が抜けた気分だった。だがマザーはいきなり声をかけられたことで飛び跳ね、しどろもどろになりながらもアキに対面する。もし実体化していればその場に転んでいるであろう姿が目に浮かぶほどの動揺っぷり。

 

 

「い、いつってついさっきだけど……」

『そ、そうか……』

 

 

アキはどこか呆気にとられながらもとりあえずはそれに答えることにする。瞬間、マザーは安堵するかのような声を漏らしながらもそのまま黙りこんでしまう。アキもそんなマザーにつられるがまま。

 

 

「…………」

『…………』

 

 

そのまましばらく無言の時間が続く。じっとにらめっこをするような状況。同時にどこか気まずい、妙な雰囲気が部屋を支配する。その空気にDBたちは固唾を飲んで自らの母と主の様子を見守る、観戦していた。

 

 

(な、何だ……この空気? と、とにかくいつまでもこうしてるわけには……)

 

 

「あ、あのさ……」

 

 

アキが自分を取り巻く空気が妙なことになっていることに気づき、とにかくこの場を何とかしようと口を開きかけた時

 

 

『悪かった……』

「え?」

 

 

そんな耳を疑いたくなるような言葉がマザーの口から飛び出してきた。

 

 

『だ、だから勝手に動いて悪かったと言っておるのだ! たわけめ……』

 

 

マザーはどこか無理をしているような雰囲気を纏いながらも告げる。それは先の勝手に動いてしまったことに対する謝罪。だがアキが驚いているのは謝罪の内容ではない。マザーが自分に向かって謝罪してきた。その一点。唯我独尊、どんな暴挙や無理難題を押し付けてきても、文句を言っても今まで一度も謝ったことのないマザーの謝罪。明日には天変地異が、大破壊オーバードライブが起こってもおかしくない程の異常事態。

 

 

『……何をしておる?』

「いや……熱でもあるんじゃねえかと思って……」

 

 

アキはそのままマザーを手に取りながらも異常がないか触り続ける。もしかしたら以前のように熱がこもっておかしくなっているのかもしれない。そんな危惧。だがその瞬間、凄まじい頭痛がアキに襲いかかる。マザーのお仕置きと言う名の頭痛が。アキはその痛みに悶絶しながらその場に蹲るしかない。ある意味いつも通りの光景。

 

 

「……て、てめえ……他人が心配してやってるってのに……」

『ふん、好き勝手に触りおって……気安く触るでない』

 

 

息も絶え絶えに抗議の声を上げるアキに向かってマザーはいつもと変わらない態度で答える。どうやらやっと調子が戻ってきたらしいことに安堵しながらもアキは溜息を吐くしかない。せっかく心配してやっているというのにこの仕打ち。しかも人に聞かれれば誤解を招きかねない言葉。そうなればレイナの言う通り特殊な趣味を本当に持っていると誤解されかねない。

 

 

「……まあとにかく、一体どういう風の吹き回しだよ。お前が謝るなんて……」

『う、うむ……我もあの後、ずっと考えていたのだ……何故お主が怒っていたのか……』

 

 

マザーはごほんっと一度咳ばらいをした後、語り始める。それはアキに送り返されてから一日以上ずっとマザーが考えていたこと。何故あんなにアキが怒っていたのか。マザーは必死にそれを考え続けていた。いかにマザーといえども人間と交流を始めたのは十数年。元々生まれてから会話と呼べるものをほとんどしたことがなかったマザーにはまだ人間の思考を完全に理解することはできない。その中でもマザーは辿り着いた。恐らくはアキがあんなに起こったであろう理由。それは

 

 

『エリーのことで怒っていたのだろう? 確かにあれは我が軽率であった……振られたとはいえ惚れた相手……そういうことなのだろう?』

 

 

エリーを危機に陥らせてしまったこと。それがマザーが導き出した答え。アキが惚れている女。そして二年間一緒に暮らしてきた人物。彼女を傷つけ、命の危機に巻き込んでしまったことでアキが怒ったのだとマザーは判断した。直前にジークからエリーを守ろうとしていたことからもそれはあきらか。個人的に思う所はあるもののマザーはそう納得していた。

 

 

「え? あー……うん、それは、その……」

 

 

アキはそんなマザーの言葉にそんな言葉にならない反応を示すしかない。まさかマザーがそんなことを考えているなど思いもしなかったアキは呆気にとられるしかない。どうやら自分が思っていたよりもずっと人間の思考を理解することができているらしい。もっともどこかズレているのは変わらないが。そしてもう一つ。マザーがまだ自分がエリーに惚れていると思っていること。いい加減ネタばらしをしてもいいのだがそう思ってくれているなら都合が良いことには違いない。エリーを守るという名目ならある程度行動できる余地があるということ。だがアキとしては振られたというのはどうにかしてほしいところ。振られてもなおあきらめきれていない情けない男と思われているのだから。

 

 

『確かに魔導精霊力エーテリオンを持っているとはいえエリーはエリーであった……なんなら全てが終わった後、エリーを共に現行世界に連れて行ってやってもいい……何でも一つ願いを叶えてやる契約だからな』

 

 

そんなアキの胸中など知る由もなくマザーはそう言葉を続ける。魔導精霊力エーテリオンを持っていたとしてもエリーに手を出すことは無いと。それはそれを分かった上でエリーをアキが取り込もうとしているとしているとマザーは考えているため。確かに危険はあるがエリーは自分達に敵対しているわけではない。何故わざわざレイヴマスターの元に置いているのか、奪い返さないのかは理解できないがそれは人間のよく分からない心理なのだとマザーは納得する。一度振られているのに関係しているのだろうと。もっともマザーにとってはエリーがいなければアキを独占できるのが一番の理由なのは言うまでもない。

 

そしてもう一つが全てが終わった後の話。この並行世界を消滅させ、現行世界へと帰還した後のこと。その際にアキを連れて行くものの流石に一人だけというのは忍びない。男一人ではどうしようもない。仕方ないがその際には女性としてエリーを連れて行ってもいいとマザーは告げる。だがそれを聞いたアキはどこか呆然とした姿を見せたまま。開いた口がふさがらないと言った風。

 

 

「契約……?」

『……? 何を言っておる? 最初にお主と契約した時に交わしたであろう?』

 

 

アキはその言葉にようやく思い出す。初めてマザーと出会った時のこと。その時にそんな契約を交わしたことに。まさかそれが本当で、マザーがそれを覚えているなどアキにとっては驚きを通り越して感心してしまうほど。だが瞬間、アキはあることに気づく。気づいてしまう。それは――――

 

 

(あれ……? 俺、そういえばどうして元の世界に帰ろうとしてないんだ……?)

 

 

そんな当たり前な疑問。アキは薄れてきている記憶の中で思い出す。自分は最初、元の世界に戻りたいと、そう思っていたはず。なのに何で今までそんな大事なことを忘れてしまっていたのか。それだけではない。

 

ルシアの身体。憑依という信じられないような事態。

 

子供とはいえ全くの別人の身体になってしまったのにも関わらず大した抵抗もなくそれを受け入れた自分。

 

DBという人智を超えた存在を受け入れてしまっている自分。

 

何かがおかしい。今までおかしいことに気づかなかった、気付けなかった。一体何故―――――

 

 

『……どうした? 急に黙り込みおって……ま、まだ怒っておるのか……?』

「い、いや……なんでもねえ……それに俺もちょっと言いすぎちまったからな、お互い様だ」

 

 

アキはマザーの言葉によってふと我に返る。既に先程まで自分が何に気づいていたのかアキは覚えていない。まるで何か見えない力が働いたかのように。だがマザーはそんなアキの様子に気づくことなく続ける。絶対に譲ることができない一線。

 

 

『ふん……言っておくがレイヴマスターについては謝るつもりは無いぞ。例えハルであったとしてもレイヴマスターは我らの敵だ。それを決して忘れるな』

「わ、分かってるさ……だけど勝手に動くのはナシだ。それでいいな?」

『よかろう…………我ももう同じようなことは御免だ……』

 

 

マザーは最後の部分を消え入りそうな声で呟きながらもアキはそれを聞きとることができない。だがアキはひとまず安堵していた。とりあえずは元通り。和解? することができたのだから。だがアキにはゆっくりとしていられる時間はなかった。

 

 

「とにかく出かけるぞ……準備はいいな?」

 

 

アキはローブを纏いながらも準備を整える。デカログス以外のDBを持ちながらマザーに声を掛ける。デカログスは持つと目立つためいつもはアジトに置き、ワープロードによって呼び出すのがアキのスタイル。もっともそのローブの下にはいつものマザーの趣味による黒い甲冑とマント。どうやらこれだけは譲れないらしい。

 

 

『それは構わぬが……今度はどこに行く気だ?』

「ルカ大陸だ。そこにあるジンの塔ってところで毎年エンクレイムが行われてる。その調査だ」

『エンクレイム……ああ、我らを通さずにDBを生み出す儀式のことか。だが何故そんなことをする? 何かDBが欲しいなら生み出してやるぞ?』

「そ、それはともかく……そこにキングが、DC最高司令官がやってくるらしい。それを確認したいんだ」

『ほう……あの男か。ようやくDCを乗っ取る気になったということか?』

「ま、まあな……だけど直接会ったり戦闘する気はないぞ。どうやらハル達……レイヴマスターたちもそこに向かうらしい」

『なるほど……漁夫の利を狙うということか。実にお主らしい策だ。だが今のお主なら直接戦っても遅れは取らぬと思うが……』

「一応この体はキングの息子だしな……何か起こっても困る。それだけだ」

『ふむ……まあよい。好きにするがいい。我はせいぜい楽しませてもらう』

 

 

くくく、といつも通りの笑いを見せているマザーにげんなりとしながらもアキはこれからのことを考える。

 

エンクレイム、ジンの塔における戦い。歴史が変わった日と呼ばれる第一部の最終決戦。それがまさに目の前にまで迫っている。恐らくこの日だけは間違いなく戦いが起こる。九月九日という歴史の、世界の力が働く日なのだから。

 

キングとハルの父、ゲイル・グローリーが争い、そして互いに命を落とした日。

 

だがアキはそれに介入する気は無い。それはもう何年も前から決めていたこと。DBマスターとしてアキはどちらにも直接加担することはできない。キングに加担すればハル達が全滅し、ハル達に加担することはマザーがいることによって不可能。エリーのためといえば多少は可能かもしれないがハルやゲイルに力を貸すことにはいかにマザーといえども譲らない。キングを倒してもそのままアキ対ハル&ゲイルになりかねない。

 

だがアキもその決断の意味を知っている。それはキングとゲイルを見殺しにするということ。できるなら助けたいものの様々な理由からそれもできない。この戦いの意味はそれほどに大きい。故に不用意に手を出すことはできない。アキは罪悪感にさいなまれながらも自分でそれを決断する。そしてアキの役目。それはイレギュラーや予想外の事態に対処すること。先の魔導精霊力エーテリオンでアキはそれを嫌というほど味わった。自分という異物のせいで起こるかもしれない不測の事態に備えること。それが今回のアキの役目。

 

 

「よし……行くぞ!」

 

 

アキは決意を新たにしながらワープロードに力を込める。行先はルカ大陸にある街。ジンの塔からある程度距離がある場所。そこに潜伏し、戦いが始まった際にはイリュージョンとハイドを使いながら戦況の推移を見守るため。アキはそのままワープロードの力に包まれ街へと瞬間移動する…………はずだった。

 

 

「…………え?」

 

 

アキは呆然としながら声を漏らすしかない。それは二つの驚き。

 

一つは瞬間移動の際に覚えた違和感。その刹那にアキはいつもとは違う力の流れを感じ取った。まるで何か別の力の流れに巻き込まれるような、混線するような感覚。同時にそれがDBなのだと悟る。だがその力が問題だった。間違いなくそれはワープロードのもの。だが微妙にアキが持っている物とは異なる力の波長。アキは悟る。自分と同じDBを今、この瞬間に使っている者がいるのだと。それが何を意味しているのか気づくよりも早くアキは飛んでしまった。その場所に。

 

アキはその光景に言葉を失う。目の前には見たこともないような大きな階段がある。まるでそこかの城の中のような光景。アキが飛ぼうとしていた場所とは似ても似つかぬ場所。なによりもその隣には自分以外にもう一人男がいた。それこそがアキが驚愕しているもう一つの、そして最大の理由。

 

 

アキよりも頭一つ以上離れた身長。黒い甲冑にマント。何よりも目を引くのはその金髪。それはこの世界において呪われている血の証。レアグローブの血の継承者。アキはその威風と王者の貫録にあてられながらもゆっくりと隣に目を向ける。

 

 

「貴様……アキか……?」

 

 

DC最高司令官、DC最強の男『キング』がそこにはいた。

 

 

どうしよう……これ……

 

 

自分の胸元で大笑いしているマザーの声を聞きながらもアキはあまりにも想定外の事態に絶望するしかなかった―――――

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