ダークブリングマスターの憂鬱  【完結】   作:闘牙王

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第四十話 「開幕」

どこまでも果てしない青空と地平線の彼方まで続いているのではないか思えるような蒼い海。潮風と共にカモメの鳴き声がこだましている海岸。そこに二つの墓石があった。真新しい花が供えられていることからもその墓に眠る二人が家族に愛されていたことが分かる。

 

『ゲイル・グローリー』と『サクラ・グローリー』

 

互いに愛し合っていた夫婦。そしてそれと同じぐらい二人の子供を愛していた親達。二人の魂は故郷であるガラージュ島で安らかに眠りついていた―――――

 

 

 

 

「セミ! セミ!! セミ食べた――――い!!」

 

 

そんな訳の分からない声が辺りに響き渡る。それはガラージュ島にある一つの家から発せられている。そこにはナカジマと呼ばれる生物がいた。一言でいえばおっさんの顔をした花。それ以外の言葉でそれを表現する術は無い。だがその場から動けないのか家の壁に張り付いたまま。だがそれは拘束されているからではなくそこがナカジマに居場所だからこそ。もっともそこから動けないという意味では変わらないのだが。ナカジマは奇声を上げながらも手を何度も叩いて音を上げている。何も知らない人が見れば悲鳴をあげてしまうような光景。

 

 

「もう、うるさいわね。気持ち悪い言葉連呼しないでよ」

 

 

しかしそれに全く動じることなく一人の女性が不満げな顔をしながらナカジマの前へとやって来る。長い黒髪に見事なプロポーション。カトレア・グローリー。ハルの姉である彼女は溜息を吐きながらもナカジマに向かって注意する。ある意味いつも通りのこととはいえ放ったままにはできないような有様だったのだから。

 

 

「カ、カトレア様!? お墓参りはもうすまされたんですか!?」

「そうよ。とにかく大声出さないでくれる? ヘンな噂でもたてられて迷惑するのは私なんだから」

「失礼な。私はただ目の前を飛んでいたセミがあまりにおいしそうだったので……」

「それ以上言うなら前みたいに花弁をシバに取ってもらうわよ」

「っ!? な、何てハレンチな!? 私はカトレア様をそんな女性に育てた覚えはありませんよ!?」

 

 

んまー! という叫びを上げながらナカジマが必死に抗議するもカトレアは全く気にすることはない。むしろナカジマはカトレアの言葉によって冷や汗を流している。その脳裏にはかつて行われたトラウマになってしまっているようなお仕置きが蘇っていた。それが覆すことができないカトレアとナカジマのパワーバランス。ようするにナカジマは絶対にカトレアには敵わないということだった。

 

 

「そういえばシバは? 姿が見えないけど」

「シバさんなら少し前にゲンマさんのところに出かけて行きましたよ」

「ゲンマのところに? コーヒーでも飲みに行ったのかしら」

「きっとそうでしょう。最近は特によく通っているみたいですから」

「そうね。シバもすっかりこの島に馴染んだわね」

 

 

カトレアはどこか感心したように声を漏らす。シバはこの島にやってきてから家に居候になっている老人。言うならばハルと入れ違いになる形で増えた家族のようなもの。シバにとってはゲンマは親友の子供であり思う所があるのだろう。もっとも島に馴染んだというのは正しくない。正確には里帰り。五十年越しではあるがシバはこの島で生まれ育ったのだから。

 

 

「それはそうですよ。シバさんがこの島に来てからもう半年以上になりますから」

「そう……もう半年以上になるのね……」

 

 

半年。その言葉にカトレアはどこか遠くを見るような表情を見せながら黙りこんでしまう。長かったような、短かったような時間。ハルがこの島を旅立ってからの日々。そしてアキがいなくなってからは四年以上。それに思い至ったのかカトレアはそのまま物思いにふけってしまう。

 

 

「心配することはありませんよ。ハル坊ちゃんもアキ坊ちゃんも元気にしているにきまっています!」

 

 

そんな空気を何とかしようと思ったのかそれともただ単に思ったことを口にしたのかは定かではないがナカジマがんふー! という鼻息と共に告げる。だがその言葉にはどこか言いようのない刺のようなニュアンスが含まれていた。まるでそう言い張ることで何かを誤魔化すかのようなもの。

 

 

「ナカジマ……まだ二人に別れの挨拶を言ってもらえなかったのを気にしてるの?」

「なっ!? な、何をおっしゃるんですか!? そんなことはありません! それにあれは忘れられていたわけではなくそんなものが必要ないほど私と坊ちゃん達の間には深い絆が……」

 

 

あっさりと自らの心の内を見抜かれてたことによって狼狽しよく分からないことをぶつぶつと呟くナカジマの姿にカトレアは苦笑いするしかない。ナカジマが狼狽している理由。それはハルとアキが二人とも島を出て行く際に声をかけてくれなかったことを気にしているから。ある意味ナカジマにとってはトラウマになっているに等しい触れてはいけない禁忌。二人揃ってそれを忘れてしまうとはある意味似た者同士と言えなくもないのだがナカジマにとっては笑いごとではない切実な問題だった。

 

 

「はいはい、そういうことにしておいてあげる。でも元気なのは間違いないわね。シュダさんもそう言ってたし」

「だ、ダメですよカトレア様!? あんな怪しい奴の言うことを信じるなんて! あいつはこの島を襲った奴なんですよ!」

 

 

ナカジマはどこか鬼気迫った表情で声を荒げる。それはつい一カ月ほど前のこと。ある来訪者がこの島にやってきた。だがそれはおよそ想像できないような人物。

 

『爆炎のシュダ』

 

元DC最高幹部の一人。かつてこの島にあるレイヴとシバを狙ってやってきた危険人物。それが再びやってきたことで島はちょっとした騒動になった。もっともそれは丸く収まることになったのだが。

 

 

「それはそうだけど……そんなに悪い人じゃなかったじゃない。ちゃんと謝ってくれたしシバも許してたんだから」

 

 

カトレアは苦笑いしながらもナカジマを宥める。同時に思い返す。シュダがやってきた時のことを。結論からいえばシュダがやってきたのは島を襲うためではなかった。その謝罪とハル達の近況をカトレアとシバに伝えるため。

 

そして何よりも大きな理由。それはカトレアの父であるゲイル・グローリーが命を落としたことを伝えるためだった。その事実にカトレアは涙を流したもののハルとゲイルが出会えたことを聞き救われた気分だった。自分とは違い父の記憶を持たないハルにも短い時間ではあっても父と触れ合うことができたのだから。それによって今海岸には母であるサクラの墓と共に新しくゲイルの墓も造られている。亡骸はないもののその魂はきっとこの島に帰ってきてくれていると信じたいカトレアの願いを形にしたもの。

 

そしてもう一つ救いになる知らせがあった。それはハルとアキが健在であるということ。ハルはDCとの戦いを終え静養中。アキについては所在は不明だが健在であるだろうとのことだった。ハルが戻ってきてくれないことに残念さはあったがカトレアには何故ハルが帰ってこないかは既に分かっていたため受け入れることができた。例え離れていても弟であるハルのことなどカトレアにはお見通しだった。

 

 

「ま、まさかカトレア様……あの男のことを? ゆ、許しませんよそんなハレンチなこと!?」

 

 

そんなカトレアの心境など知る由もないナカジマは勝手にヒートアップしさらにカトレアを捲し立ててくる。自分を心配してくれているのは分かるもののカトレアとしてはもう少し大人しくしてくれないだろうかと思わずにはいられない。

 

 

「もう、うるさいわね。心配しなくてもそんな気はないから静かにしてくれる?」

「いいえ静かになどしてられません! もしカトレア様にヘンな虫が付きでもしたら私がハル坊ちゃんにボコボコにされてしまうじゃないですか!?」

 

 

バンバンと壁を両手で叩きながら錯乱したかのようにナカジマは暴れ続ける。それは切実な問題。もしハルが不在の内にカトレアに彼氏でもできようものならハルが帰ってきた時にどんな目にあわされるか分かったものではないという恐怖。普段温和なハルだがカトレアのことになると見境がなくなることをナカジマは知っていた。そして下手をすればアキにも制裁を食らわされかねない。むしろそっちの方が問題かもしれない。そんな己の生命の危機によってナカジマは錯乱するしかない。

 

 

「まったく……アキが戻って来るまでは待ってるつもりだからそんな心配しなくてもいいわよ」

 

 

ぽつりと、呟くようにカトレアは本音を漏らす。それはある意味アキとの約束。もっともアキがどう思っているかは分からないような一方的なもの。

 

小さい頃からずっと自分と結婚するのだと言い続けていたアキの姿。それが本気だったのかどうかは定かではないがカトレアはその約束をこの四年間ずっと守ってきている。

 

言うならば願かけのようなもの。それを守ることできっとアキが帰って来るだろうという願いを込めたもの。

 

 

「……? 何か仰いましたか、カトレア様?」

「何でもない。それよりももうすぐお昼だからシバを迎えに行くけどどうする? たまには一緒に行く?」

「も、もちろんです! すぐに支度をするので待ってください! 久しぶりにラーメンを食べたいと思っていたんですよ!」

「どうでもいいけどゲンマのところでラーメンは出ないわよ」

 

 

まるで定食屋に行くかのようなテンションのナカジマを嗜めながらもカトレアもまた出かける準備をする。その途中、窓際に置いている写真にふと目を奪われる。

 

自分と幼いハルとアキが一緒に映っている写真。きっとアキもハルと同じぐらいに大きくなっているに違いない。

 

 

(ハル、アキ……早く帰ってきてね……)

 

 

それを楽しみにしながらもカトレアはナカジマと共にゲンマの店へと向かう。そこでカトレアたちは昔話を聞くことになる。

 

 

初代レイヴマスターであるシバの過去、そしてレイヴの誕生とその名の意味を―――――

 

 

 

 

多くの人々でにぎわっている昼間の大通り。その中を二人の人物が並んで歩いていた。銀髪の少年と金髪の少女。金髪の少女はその腕に白い小さな生き物を抱いている。それはプルーと呼ばれるレイヴの使い。一応犬であるらしい存在。ハル・グローリーとエリー。二人は昼食を終え、あてもなく街を歩いている最中だった。

 

 

「よかったね、ハル! ムジカもあと少しで退院できることになって!」

「ああ。一時はどうなる事かと思ったけど……」

 

 

エリーの嬉しそうな声に応えながらもハルもまた安堵の表情を見せる。それは先程まで病院まで見舞いに行っていたムジカについてのもの。

 

今ハル達はルカ大陸中央部にある薬の町ボニタに滞在していた。言うまでもなくそれは先のジンの塔での戦いの傷を癒すため。その中でも一番の重傷を負っていたのがムジカだった。ハルも大けがを負っており入院していたもののムジカの怪我はその比ではない。もう少し遅ければ命に関わる程のもの。幸いにも大事はなかったもののしばらくは入院することになりハルたちもまたそれを待ちこの街に滞在していた。そして今日、一ヶ月後にはムジカが退院できることが決まり二人は喜びあっているところだった。

 

 

「でもムジカも相変わらずだったよねー。レミに手を出そうとしてたし……ソラシドにバレたら大変だよ」

「確かに……そうなったら退院が伸びちまうかもな……」

 

 

エリーの冗談とも取れない言葉にハルは顔を引きつらせるしかない。ムジカは病院でもたばこを吸う、看護師をナンパするなどやりたい放題。そして最近は見舞いにやってきたレミにまで手を出そうとする始末。もしそれが兄であるソラシドにバレればどうなるか。ムジカはそのまま聖なる十字架をぶち込まれかねない。冗談抜きで入院が長引かないことをハルは祈るしかない。

 

 

「でももうあれから半年になるんだね……」

「そうだな……もうそんなになるんだな……」

 

 

エリーの何気ない言葉によって気づかされながらもハルは思い返す。ジンの塔での戦い。それによるDCの崩壊。そして失ってしまった大切な家族。

 

 

「……ねえ、ハル。ほんとによかったの? ガラージュ島に一度も帰らなくて……」

 

 

そんなハルの空気を感じ取ったかのようにどこか気を遣いながらエリーが尋ねる。故郷に、ガラージュ島に戻らなくてもいいのかと。確かに全てが終わったわけではないが大きな区切りがついたことは間違いない。静養という今回の機会を利用して一度里帰りしてもいいのではないか。そんなハルのことを心配した問い。だが

 

 

「……ああ。DCはなくなったけどまだやることがたくさんあるからさ」

 

 

エリーの心遣いを知りながらもハルはきっぱりと告げる。まだガラージュ島に帰るつもりは無いと。その言葉通りまだハルにはレイヴマスターとしての使命が残っている。

 

一つはDBを倒すこと。確かにそれを使い悪事を働くDCは壊滅させることができた。だがそれでこの世からDBが消え去るわけではない。その大本である本体を叩かない限りDBは増え続ける。

 

『母なる闇の使者マザーダークブリングシンクレア』

 

レイヴ同様五つに分かれてしまっている五つのDB。それを壊さない限り世界に平和は訪れない。

 

そしてそのためにも残る二つのレイヴをハルは集めなければならない。全てのレイヴを揃えなければDBを倒すことができないのだから。

 

だがそれだけではない。レイヴをすべて集めることである場所に辿り着くことができるといわれている。『星の記憶』と呼ばれる聖地。父であるゲイルから伝えられた事実。そこに行けば全ての謎を解くこともできる。

 

エリーの記憶も、ムジカが探しているという船も。全ての答えがそこにある。そして何よりも

 

 

「それに決めてるんだ。島に帰るときはアキと一緒だって。姉ちゃんとの約束だから」

 

 

それがまだガラージュ島に帰らない、帰るわけにはいかない一番の理由。

 

『親父とアキを探して一緒に連れて帰る』

 

あの日、カトレアと交わしたハルの約束、誓い。だがその一つをハルは叶えることが、守ることができなかった。

 

だからこそハルは強く誓っていた。もう一つの約束。それだけは絶対に守ってみせると。

 

 

「約束は破っちゃだめだって姉ちゃんが言ってた! って奴だね♪」

「うっ……もうそれはやめてくれ……」

 

 

そんな自分の決意を台無しにするかのようなエリーの突っ込みにハルは顔を赤くするしかない。それは島を出た当初、出会ったばかりのころによく口にしていた口癖。姉やアキのことをしゃべってしまうもの。今はそれも収まりつつあるのだがエリーにからかわれるネタになってしまっているのがハルの最近の悩みの種だった。

 

 

「ごめんごめん! でもその時が楽しみだね。あたしもハルとアキの家に行ってみたいなー。ナカジマって人にも会ってみたい!」

「ごめん……人じゃないんだ……」

 

 

どこか沈んだ顔でハルは呟くしかない。今ハルの脳裏にはんふーという鼻息を漏らしながらドヤ顔を晒しているナカジマの姿が浮かんでいた。きっと今も変わらず訳が分からないことをしているに違いない。できれば紹介したくない家族だった。

 

 

「それにハルのお姉さんにも会ってみたいな。カトレアさんってすっごく綺麗な人だもんね」

「あ、当り前さ! 姉ちゃんは島で一番モテるんだからな!」

 

 

ちょうどよく話題が変わったことと自分の自慢の姉のことということでハルは気を取り直したように声を上げる。だが勢いに乗ったはいいもののふとハルは気づく。

 

 

「あれ……? オレってエリーに姉ちゃんの名前言ったことあったっけ?」

 

 

それはエリーの言葉とその態度。自分の姉の名前をさも当然のように口にし、そしてそれをまるで見たことがあるかのような雰囲気がそこにはあった。

 

 

「ううん、でもアキから聞いたことがあったの。それに姿も見たことあるんだから!」

「な、なんで姿まで分かるんだよ? アキ、写真でも持って行ってたのか?」

「違うよ。アキの持ってるDBのイーちゃんが幻で見せてくれたことがあるの。アキの理想の女性像なんだって」

「理想の女性像って……それ、勝手にバラされてたのか……?」

「……? うん、ママさんがその姿になってアキに振り向いてもらおうと頑張ってたんだから!」

 

 

エリーから聞かされるおよそ理解ができないような話の内容にハルは頭を混乱させるしかない。いつも聞かされているDBと一緒に生活していたというエリーの体験談。それを疑っているわけではないがやはりその内容にハルはついていくことができない。恐らくはアキが持っていたシンクレアがエリーの言う『ママさん』なのだろうがそのイメージが全く分からない。DBの頂点にある悪の根源。それがハルの認識なのだがエリーの中では何故かアキに求愛する女性(?)ということになっている。石に求愛されるなど意味が分からない。自分で言えばレイヴに求愛されるようなものだから。そして勝手に自分の理想の女性像を暴露されたであろうアキに同情せざるを得ない。

 

 

「そっか……そういえばアキの奴、よく姉ちゃんに結婚してくれって言ってたっけ……」

 

 

同時にハルは思い出す。アキが小さい頃からずっと姉であるカトレアに向かってそんなことを言っていたことに。ある意味それも求愛と言えるのかもしれない。今思えばよくそんなことを臆面もなく言えたものだと感心すらする。やはり子供だからできたのだろうか。

 

 

「へえー、アキ小さい頃からそうだったんだ。今でもアキ、カトレアさんのことが好きなのかな?」

「どうだろうな……でもアキは結構本気っぽかったような気がする。姉ちゃんはどうかよく分かんねえけど……」

 

 

どこか興味深々なエリーの言葉にハルはそう答えるしかない。何となくアキが本気だろうということは幼いながらもハルは感じ取っていた。それをネタにして義兄になるだのなんだの言っていたのだから。もっともカトレアについてはハルもよく分からない。アキに乗って大きくなったら考えてあげるとは言っていたもののそれが本気なのか冗談なのか結局島を出るまでハルはカトレアから聞かされることはなかった。

 

 

「ふーん……そっか……」

 

 

エリーはそう言いながら自分の髪をいじり始める。そんなエリーの姿にハルは思わず目を奪われてしまう。どこかその姿が姉であるカトレアにダブって見えたから。タイプで言えば全く違う性格なのだがその長い髪も相まってそんな風に見えてしまったらしい。同時にハルは思い至る。きっとエリーはアキのことを気にしてそんな質問をしてきたのだろうと。ハルは意を決して尋ねんとする。この静養期間中も何度か聞こうとしたものの結局できなかった今の自分にとっての重要問題。

 

 

「な、なあエリー……お前ってアキのこと」

「あ! 見てハル、新しいカジノができてる! 人が一杯だよ!」

 

 

そんなハルの声をかき消すように目を輝かせながらエリーがある店に向かって指を差す。そこには新たにオープンしたであろうカジノがある。その勢いによってハルの意を決した言葉は吹き飛んでしまう。まるでお約束のようなタイミングにハルは呆気にとられるしかない。

 

 

「ねえハルも一緒に遊んで行こうよ! せっかくだからあたしが軍資金を増やしちゃうよ!」

「い、いや……オレはいいや。ちょっと街をぶらついてくる……」

「そっか……じゃあ後で合流ね! 行くよ、プルー!」

 

 

おー! という掛け声と共に店内に入場していくエリーの姿にハルは言葉を失ってしまう。嬉々としてカジノに入店していく自分と近い年であろう女の子の姿にあきれ果てるしかない。そんなことを今更エリーに言っても無駄なことは分かり切っているのだが。

 

 

「はあ……」

 

 

大きな溜息と共にハルはこれからどうするか考える。エリーには街をぶらついてくると言ったものの既に半年近く滞在している町。加えて一人で回っても面白いところは特にない。かといってエリーと一緒にカジノをする気もない。どうせ負けるのは目に見えている(これまでの経験)

 

 

(そうだな……今日はちょっといつもより気合を入れて修行するか!)

 

 

ハルは気を取り直しながらもそう決断する。今まで病み上がりということで無理は控えてきたもののそろそろ本格的に動き出す必要がある。何よりも今自分は強くなる必要がある。アキを止めるために。話し合いで何とかできれば越したことはないがシンクレアもいる。どちらにせよ力はつけておくにこしたことはない。キングを倒せたのも父であるゲイルがいたおかげ。今はいなくなってしまっているが今の自分は恐らく六祈将軍オラシオンセイスにも及ばない。それと同じ力を持つジークが敵わなかったアキに対抗するためには今のままではいけない。

 

ハルはそのまま街のはずれにある修行場に足を向けんとする。アキを止めるためにでもあるがそれと同じぐらいハルはアキにある種の対抗意識を持っていた。コンプレックスと言い変えてもいいもの。そしてそのまま歩き始めようとした瞬間、

 

 

「よう……てめえがレイヴマスターだな……」

 

 

そんな聞いたことのない男の声がハルに向かって掛けられる。ハルは驚きながらも咄嗟に振り返る。既にその手にはTCMが握られている。何故ならある言葉をその男は口にしたから。

 

『レイヴマスター』

 

それは何かしらの事情を知ったものでしか知らないハルの称号。その名自体は世界に知られているもののハルがレイヴマスターだと知る者は限られている。ハルの数倍はあろうかという巨体。頭には一枚の葉が乗せられている大男。だが明らかに纏っている空気が異質だった。まさに戦う者のみが持つ空気。そしてその言葉遣い、態度。その全てが示していた。目の前の男が間違いなく自分にとって招かれざる客であることを。

 

 

「てめえの仲間のエリーって女が近くにいるんだろ? 大人しくそいつをこっちに渡しな」

 

 

空賊BG(ブルーガーディアンズ)最高幹部『六つの盾シックスガード』の一人

 

『シアン・ヴィヴェラン』

 

 

今、新たな争乱の始まりが告げられようとしていた―――――

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