ダークブリングマスターの憂鬱  【完結】   作:闘牙王

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第五十七話 「下準備」

「はあ……」

 

 

静かな室内に大きな溜息の音だけが響き渡る。溜息の主、ルシアはそのままげんなりとしながらもただ自分のテーブルの上に置かれた紙の束を面倒くさそうに見つめることしかできない。それは新生DC最高司令官としての仕事。いわゆる事務処理と呼ばれるもの。もっともほとんどの仕事は側近であるレディがこなしておりその事後承諾をするだけのことなのだがそれだけでもルシアの顔が見えなくなるだけの書類の山。ルシアでなくても目を背けたくなる光景。特にBGを壊滅させてからは忙しさが増すばかり。

 

 

(まあ忙しいのはいつものこととして……ついにこの時がやってきたのか……)

 

 

ルシアは書類の束の中からに二枚の報告書を手にし、改めてその内容を確認する。二つともルシアはレディに優先事項として調査させていたもの。

 

一つはドリュー幽撃団と鬼神の動向について。BGが壊滅したことで予想外の事態が起こることを警戒してのこと。そしてその報告書の内容はルシアにとってはある意味予定調和に近いもの、ドリューとオウガが連合を組んだという内容だった。諜報部からの情報であり、ドリューとオウガが行動を共にしている証言からもほぼ間違いないもの。原作と比べれば早い時期になってしまったがルシアとしては逆に安心していい結果。同盟を組まずに好き勝手に動かれる方が厄介だったのだから。故にルシアが気を張っている、気にしているのはもう一つの報告。

 

ハル達がシンフォニアへ向かって移動しているという報告だった。

 

 

(はあ……分かってはいたものの……やっぱ気が重いわ……)

 

 

ルシアはがっくりと肩を落としながらもこれからのことを考える。ハル達がシンフォニアへと向かっていること。それはすなわちシンフォニアにあるリーシャの墓を訪れ、残りの二つのレイヴの位置を知るための重要なイベント。ひとまずはハル達が無事に旅をしていることに安堵するべきだろう。BGの残党に襲われるようなこともなかったようだ。もっともタイミングとしては本当にギリギリ。後一歩でも遅ければBGの全戦力がハル達を襲っていたのだから。ルシアとしては本当に背筋が凍るような出来事。何にせよルシアは大きな山場を一つ乗り越えた。だが本当の山場、正念場はこれから。何故なら

 

 

(やっぱハル達に会いに行くしかねえよな……ここを逃したら他にいいタイミングもなさそうだし……)

 

 

ハル達との再会、そしてダークブリングマスターとして敵対する意志をハル達に示す必要があるのだから。

 

それは原作でも初めてルシアがハル達に出会ったイベントであり物語の転換点とも言える重要な要素。ダークブリングマスター、シンクレア、星の記憶、六祈将軍オラシオンセイスの生存などあげればきりがないほどの因縁を含んだもの。避けて通ることができない試練といっても過言ではなかった。

 

 

(できるなら避けたいんだが……いや、やっぱ無理だな……今のままじゃ俺、ハルやエリーに敵だって認識されてないだろうし……ムジカやレットのこともあるし……)

 

 

ぶつぶつと独り言をつぶやきながら何とかハル達と再会しないですむ方法は無いかと頭を働かせるも結局はどうしようもないのだという結論に至るだけ。

 

まずはハルとエリーについて。ルシアは二人がほぼ間違いなく自分に対して敵対心を抱いていないことを理解していた。ハルとは六年、エリーとは二年共に生活してきたのだから。もっともそれだけならまだよかったのだが半年前のエクスペリメントで再会してしまったのが問題だった。エリーを守るためのジークとの戦闘、そしてハルとの共闘。はっきりいいって味方だと思われてもおかしくないような行動のオンパレード(本当はそのとおりなのだが)いくらDBを使っているからといって自分を敵だと思ってもらうには無理がある状況。加えてエリーはDBに対しては認識がずれているところがあるためなおさらだろう。エリーはともかくルシアはハルには対抗心を持ってもらう必要がある。エリーを守るためというのがハルの強さの根源なのだから。

 

次にムジカとレットについて。この二人についてはルシアは直接面識がないため何とも言えないが恐らくハルやエリーに比べれば自分への認識については気にする必要はないと考えていた。だがそれとは違う大きな問題がある。それはムジカはレイナ、レットはジェガンとの強い因縁があるということ。それを全て無視してしまえばこの先まずい展開になりかねない。

 

特にレットについてはそれが顕著。まだレットはこの段階では解竜の儀を終えておらず、原作ではジェガンとの戦いによってそれを行った。その機会を奪ってしまえば最悪レットが解竜の儀に失敗してしまう可能性もある。原作で成功したのはジュリアへの想いとジェガンへの恨みがあったからこそなのだから。

 

そしてムジカ、正確にはレイナについて。ある意味ルシアがもっとも頭を痛めているのがレイナ関係の問題についてだった。

 

 

(原作を考えるならここでムジカと接触しておく必要があるんだが……でもそうなるとな……)

 

 

ルシアは頭を掻きながらどうしたものかと途方に暮れてしまう。だがその表情は真剣そのもの。先程までのどこかやる気が見えなかった姿からは想像できない程。だがそれは当たり前のこと。何故なら今、ルシアは一人の命を左右しかねない問題に直面しているのだから。

 

『シルバーレイ』

 

それがムジカとレイナの間にある切っても切れない因縁。ムジカにとっては亡き師との約束でありレイナにとっては亡き父との思い出。その元凶である鬼神総長オウガとの戦い、その結末によってレイナは命を落としてしまう。原作通りに話を進めてしまえば避けては通れないであろう結末。だがそれを覆せる可能性を持つのがルシア。原作知識というあり得ないものを持つからこそできる芸当。

 

 

(とりあえず今回は原作通りにいくか……結局最後は俺がどう動くかで決まる訳だしな……)

 

 

原作通りムジカとレイナの絆を重視するならシルバーレイの破壊の瞬間にルシアがレイナを助け出すことが理想的。もっとも原作に近い展開になるだろう。だがそれはあまりにもリスクが大きい、綱渡りに近い賭け。何かの手違いによって全てが台無しになってしまいかねないもの。故にルシアは一つの方法を以前から考えていた。

 

 

それはルシアがオウガを倒し、シルバーレイも破壊すること。

 

 

つまりレイナを戦わせることなく全てをルシアが片付けるということ。これならばレイナが死ぬ心配もなく、シルバーレイが発動することも防ぐことができる。レイナの安全を考える上ではこれ以上ない策だった。もっとも問題も少なくない。

 

一つはムジカが銀槍シルバーレイを手に入れれなくなってしまうということ。ルシアがシルバーレイを破壊する以上仕方ないことだがそれによって間違いなくムジカは弱体化してしまう。ドリュー戦においても影響は出てしまうだろう。その際には最悪ルシアが割って入る必要もある。

 

もう一つがオウガのシンクレアであるラストフィジックスを手に入れてしまうということ。ルシアとしてはもっとも避けなければならない事態。だがそれでもレイナの命には代えられない。

 

そして最後の問題。それはルシアが何をしてもレイナが命を落としてしまう可能性。つまりレイナが死ぬことが初めから決まってしまっているかもしれないということ。これまでもキングやゲイルといった命を落とした人物は例外なく亡くなっている。しかしこれについてはルシアもどうしようもない。ジェガンについても同様。レイナに比べれば取れる選択肢が多いため問題はないといってもいいがジェガンもまた原作では命を落とした人物。二人を救うことがルシアの目的の一つである以上で自分ができるだけのことをするだけ。残る問題は

 

 

『またその話か……いい加減しつこいぞ。我もそのことは十分承知しておる』

『本当ですか……? あなたの様子を見ているととてもそうは見えませんが……』

『ぬ……それにそれは我がどうこうできるものではない! そんなことは貴様とて分かっておろう!』

 

 

主であるルシアを放ったまま変わらず言い争いをしている二つのシンクレア。この二人をどう説得するか。もっとも重要でもっとも頭が痛くなる問題だった。

 

 

「お前ら……いい加減もう少し静かにできねえのかよ。こっちは仕事してんだぞ……」

『アキ様!? これは失礼しました……少し熱くなってしまって……』

『ふん。何だ、ようやく仕事が終わったということか。相変わらず辛気臭い顔をしおって』

「て、てめえ……」

 

 

ルシアの言葉に驚きながら謝罪してくるアナスタシスとは対照的にマザーはやれやれといった風にジェスチャーを取りながら溜息を吐いている。とても同じシンクレアとは思えないような違い、まさに正反対の存在。そしてさも当然のように二人の姿はイリュージョンによって実体化している。もはや突っ込むことすらできないような有様だった。

 

 

『まったく……何なら我が遊び相手になってもよいぞ。一緒に遊ぶ相手もいない寂しい主様にはこれ以上ない褒美であろう。あの時の続きをしてやってもよいぞ?』

「やかましい! それに言っただろうが、リアルモーメントは封印だ! 絶対二度と使わねえからな!」

『むう……つまらん。そんな言い方をしてはリアルモーメントが可哀想ではないか』

「くっ……わ、悪いのはリアルモーメントじゃねえ! 好き勝手したお前らの方だろうが! 俺はもう疲労で気を失うなんて御免だからな!」

 

 

面白くないといわんばかりに不機嫌な態度を取りながらもマザーはルシアの言葉に従うしかない。それは先日でのリアルモーメントを使った遊びでの出来事。実体化したことで調子に乗ったマザーはまさに傍若無人の限りを尽くした。何よりも問題だったのはリアルモーメントの極みによるルシアの力も消費。本来なら一瞬しか不可能な実体化を維持し続けることはいかにルシアであっても困難を極める。いわば無から有を生み出すに等しいのだから。その消費はシンクレアの極みにも匹敵するもの。しかも途中からはアナスタシスも参加し消費は倍増。そしていつものように言い争いに発展、加えて互いに能力を使い合いマザーが部屋を破壊してはアナスタシスがそれを再生するという無限ループに突入。レディが騒ぎに気づき現場に駆けつけるとそこには気を失ったルシアだけがいたという大騒動。それによってルシアはマスター権限を行使しリアルモーメントの使用を禁止、封印することになったのだった。

 

 

『も、申し訳ありませんアキ様……マザーを止めようとしたのですが私もつい……』

『何だ、お前だけいい子ぶる気か!? お前も楽しんでおったろうが!?』

「とにかくもうこの話はなしだ! 異論はねえな!?」

『ふん……仕方あるまい。だが本当に疲れるのだけが理由なのか、我が主様よ?』

「あ、当たり前だろうが……他に何があるんだよ……」

『くくく……まあそういうことにしておいてやろう。サービスして欲しくなったらいつでも言うがよい』

 

 

全てお見通しだといわんばかりの笑みを浮かべるマザーの姿にルシアは口ごもるしかない。恐らくはマザーに自分が焦っている理由がバレていると悟ったから。もちろん体力的な問題があることは事実。だがそれ以上にマザーの行動自体が問題だった。それは今までのように幻ではなく実体を持ってしまったことによること。マザーはそのことに喜びルシアがいる前であろうことか自分の胸を揉みしだき、スカートを捲りあげ下着を露わにするという信じられない行動を取る。マザーとしては特に大きな意味はなく実体化した事実を確認するための行動だったのだがルシアにとってはそれどころではない。マザーだとはいえカトレアが目の前で同じ行動をしているように見えるのだから。ようやくルシアが狼狽している理由に気づいたマザーはそのまま肢体を見せびらかしながらルシアに迫って行ったのだがアナスタシスに妨害され有耶無耶となり、ルシアは救われた形。自分の中のDB観が崩壊しかねないことがリアルモーメントを封印した本当の理由だった。

 

 

「ご、ごほん! と、とりあえず近いうちにシンフォニアに行く予定だ」

『シンフォニアへ……? 何故ですか?』

「ああ……近いうちにハル……レイヴマスター達がシンフォニアへ到着する。そこで宣戦布告するためだ」

『レイヴマスター……確か今は二代目でしたか。ですが何故宣戦布告なのですか? その場で倒してしまえばいいのでは?』

「そ、それは……まだハ、レイヴマスターの連中は未熟だからな。弱い敵を倒しても面白くねえだろう?」

『なるほど……確かに一理ありますが……本当に宜しいのですか。差し出がましいようですがレイヴマスターを侮ってはいけません。お恥ずかしい話ですが……我らも同じ間違いで五十年前、初代レイヴマスターに後れをとったのです……』

「そ、そういえばそうだったな……」

 

 

アナスタシスのどこか苦渋に満ちた言葉にルシアは圧倒されるしかない。まるでトラウマに触れられてしまったかのようにアナスタシスからは負のオーラが滲み出ている。だが無理のない話。アナスタシスにとって、シンクレアにとってレイヴマスターは天敵と言っても過言ではない存在。五十年前に敗北した相手なのだから。原作のルシアと同じように弱いレイヴマスターとはまだ戦わないという理由で宣戦布告にとどめておこうと考えていただけにルシアはどうしたものかと思案する。そんな中

 

 

『ふん、なんだ情けない。我は一向に構わんぞ。今のレイヴマスターなど我とアキの相手にはならん。それではつまらんからな。例えかつてのシバであっても今の我らなら遅れは取らん』

 

 

自信満々の姿を見せながらアナスタシスに対抗するようにマザーが声を上げる。まるで待ってましたといわんばかりのタイミング。ルシアとしては助かる助け舟なのだが突っ込みたいところは山の用にある。半年前、有無を言わさずハルを殺そうとしたくせに一体何を言っているのかと思いながらもルシアはあえて触れることは無い。

 

 

『……私もアキ様が後れを取るなどとは思ってはいません。ですが主を守ることが私達の務め。今の内にレイヴマスターを始末しておくことも選択肢の一つだと言っているだけです』

『それが余計な心配だというのだ。我がいれば何の問題もない。なんならお前はここで留守番していてもいいぞ?』

『はあ……いいでしょう。あなたがそこまで言うのなら口は出しません。ですがあまり無理はしないことです……初代の話をする時に声が震えていましたよ』

『っ!? な、何を言っておる!? 我はそんなことは……』

「……前々から思ってたんだけど、マザー……お前やっぱシバが怖いのか……?」

『ぐ……そんなことはない! 確かにあの時は遅れはとったが同じ過ちは繰り返さん! そのために我らシンクレアは担い手を求めておるのだからな!』

『申し訳ありませんアキ様……マザーも強がってはいますがこの感情は私達シンクレアの共通したもの……どうか理解して下さると助かります』

「あ、ああ……」

 

 

もはやヤケクソ気味に強がっているマザーとは対照的にアナスタシスは恥じながらも本心を吐露する。五十年前の王国戦争での敗北と言う苦渋の記憶。それは全てのシンクレアが共有している感情なのだと。

 

 

「そういえば……お前ら五十年前までは一つだったんだろ? じゃあシンフォニアはお前達が生まれた場所ってことになるのか?」

『そうですね……考えたこともありませんでしたが確かにそういうことになりますね。もっとも生まれたというよりは五つに別れたと言った方が正しいですが……』

「そっか……でもよく別れるだけで済んだな。話じゃかなり追い詰められてたみてえだけど」

『レイヴが完全ではなかったのが大きな理由だったのでしょう。もし完全なレイヴであったならあの時に私達は消滅していたはずです』

『……ふん。我らもあの時は完全ではなかった。エンドレスはまだ眠っておったからな。それがなければ後れを取ることもなかった』

「エンドレス……そうか、その時はエンドレスとは一つになってなかったってことか」

 

 

思い出したようにルシアは声をあげる。それはエンドレスが五十年前にはまだ復活していなかったということ。原作通りなら今もまだ星跡の洞窟の下で眠っているはず。そしてその復活の時は近い。例えシンクレアを集めなくともそれとは関係なくエンドレスは世界を破壊せんと動き始める。否応なくタイムリミットが近づいていることに知らずルシアは息を飲む。

 

 

『ええ。ですが恐らくエンドレスが目覚めるのはそう遠い話ではありません。その時こそ完全なDBであるエンドレスが完成します。そうなればもはやアキ様には敵はいません。この世の全てを消し去れる力が手に入るはずです』

「そ、そうか……」

 

 

アナスタシスの言葉にルシアはただ相槌を打つことしかできない。自分がまさにラスボスだと再認識させられるような話の連続。それを食い止めるために動いているもののまだ先は果てしなく長く問題は山積み。穴があったら入りたい心境。

 

 

『…………先の話ばかりしていても仕方あるまい。とにかくレイヴマスターに会いにシンフォニアに行くのだろう?』

「ああ……文句はねえな?」

『うむ、文句は無いが……いいのか? 本当はレイヴマスターに会いに行くのではなくエリーを奪いに行くのではないのか?』

「っ!? な、なんでそうなるんだよ!?」

『くくく……何だ、てっきりそれが本当の理由だと思っておったのだが違うのか?』

 

 

安心したのも束の間、マザーからの予想外の突っ込みにルシアは吹き出し、焦ることしかできない。同時に思い出す。まだエリー関係の勘違いが続いていたことに。だがルシアは知らない。マザーだけでなくハルもまた勘違いしたままであることを。

 

 

『エリー……確か以前あなたが言っていたアキ様の想い人でしたか』

『うむ。正確には盛大に振られて今は距離を置いておる状態だ。わざわざ他の男のところに預けるのもよく分からんが……何でも寝取られとかいう趣味らしい』

「おい!? 何勝手に話を進めてやがる!?」

『喚くな、騒々しい……それに何をそんなに躊躇しておる。まだ振られたことを気にしておるのか、情けない』

「やかましい! 別に俺がエリーをどうしようが勝手だろうが! そもそもエリーがいなくなって一番喜んでたくせにどういう風の吹き回しだよ!?」

『っ!? そ、それはそうだが……うむ、我にも色々と事情が……』

 

 

そのままぶつぶつと独り言を言いながらマザーは黙りこんでしまう。そんな予想外のマザーの反応にルシアはどこか呆気にとられてしまう。ルシアからすればマザーはエリーがいなくなったことで好き放題できるようになった。にもかかわらず先程までの言いようではマザーはまるでエリーを奪い返すように捲し立てるよう。初めは魔導精霊力エーテリオンを持つエリーを狙うためかと思ったが既に契約でエリーには手を出さないことになっている。契約という決まり事に関しては絶対順守なため間違いない。なら何故そこまでエリーを奪い返すことに躍起になっているのか。それを問いただそうとするもそれはアナスタシスの言葉によって遮られる。

 

 

『ともかく……アキ様、近いうちにシンフォニアへ行くということで宜しいのですね』

「あ、ああ。それとレイナとジェガンも連れて行く。ワープロードで呼び出す形になるけどな」

『レイナとジェガン……確か六祈将軍オラシオンセイスの二人でしたか』

『何だ、六祈将軍オラシオンセイスなど連れて行かずとも主一人で十分であろう。逆に六祈将軍オラシオンセイスだけでも十分ではないのか?』

「い、いや……直に今のレイヴマスターの実力を見ておきたいしな……」

 

 

内心冷や汗を流しながらもルシアは強引に押し切る。だがマザーの言葉はルシア自身考えていたものではあった。今のハル達の強さは恐らく六祈将軍オラシオンセイスにも及ばないもの。ならわざわざルシアが相手をする必要はないのだが他のメンバーの誰に任せるかが一番の問題だった。

 

まずレイナとジェガンはムジカとレットの相手をしてもらう必要があるので除外。

 

ハジャは行動が読めず、本当にハル達を全滅させかねないため却下。同様の理由でベリアルも使えない。ユリウスについてもキレると見境がなくなるため問題がある。

 

残ったのはディープスノーのみ。彼ならルシアの命令にも従順であり適任……だとルシアは思ったのが寸でのところで思い留まる。それはディープスノーにとってハルはキングの仇であることを思い出したから。普段は冷静沈着なディープスノーだが精神的にはかなり幼いところがある。そしてルシアへの忠誠から命令違反をしかねないことも先のBG戦で証明している。

 

何だかんだでルシアは結局自分がハルの相手をすることを決断する。本当なら戦う必要もないかもしれないがムジカとレットに六祈将軍オラシオンセイスをけしかける以上ハルだけ動かないことなどあり得ない。ならレイナとジェガンがやりすぎないように見張る役も兼ねてハルの相手をする方が無駄がない。何よりも

 

 

(とにかく何があるか分からねえからな……石橋は叩いて渡るぐらいの気でいかねえと……)

 

 

自分の行動が裏目に出ることはルシア自身が嫌というほど思い知っている。ルシアは溜息を吐きながらもとにかく方針が決まったことで一安心し、これまで半年以上の間考えていたシンフォニアでのハルとの再会の脳内シミュレーションに入っていく。

 

 

だがルシアはまだ知らなかった。自分の予想を遥かに超えた事態が既に起こっていることを。そしてこれから起こらんとしていることを。

 

 

石橋を叩いて渡る程度はまだ甘い。石橋を壊して新しい橋をかけるぐらいの覚悟が必要であったことを。

 

 

様々思惑が錯綜しながらもダークブリングマスターとレイヴマスターの再会の時がすぐそこまで迫っていた――――

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