ダークブリングマスターの憂鬱  【完結】   作:闘牙王

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第七十九話 「魔導士」

 

「……さて、残りの二つのシンクレアも渡してもらうとしようか。レイヴの騎士たちよ」

 

 

その手を朱に染め、未来のレイヴを手にしながら老人はただ淡々とハル達に向かって告げる。そこには全く油断も容赦もない。たった一人でレイヴ側の勢力を前にしているにも関わらず。何故なら老人は自らの強さに絶対の自信を持っているからこそ。

 

『無限のハジャ』

 

六祈将軍オラシオンセイス最強の男であり大魔道の称号を持つ魔導士が今、ハル達の前に立ち塞がっていた。

 

 

「だ、大丈夫、ダルメシアン!? しっかりして!」

「し、師匠!? 酷いポヨ! 後ろから攻撃するなんて卑怯ポヨ!」

『プーン……』

 

 

突然の事態に一瞬、我を忘れかけるもすぐさまエリー達は倒れ伏したダルメシアンに駆けよって行く。だがその背中にはまるで刀によって貫かれてしまったかのような深い傷がある。それはハジャの手刀によるもの。重傷を負ってしまったダルメシアンは蹲りながら声を上げることすら叶わない。そんなエリー達に加わりたいのを必死に抑えながらハル達は臨戦態勢に入りながら目の前のハジャに対峙する。もしそれを無視しながらダルメシアンの元に向かえばその瞬間に敗北する。そう悟るに十分すぎるほどの重圧がハジャにはある。

 

 

「……っ! お前、一体何なんだ!? 何でこんなことを……!?」

「ハル! 不用意に近づくでない! こやつの気配……只者ではない……!」

「ちっ! どうやらオレ達のことは御存じみたいだぜ……」

 

 

激昂し突撃しかねない程に興奮しているハルを何とかレットは抑えんとする。ハルはそれによって我を取り戻すものの表情は怒りに染まったまま。レットとムジカも平静を装ってはいるが心中は同じ。

 

 

「フム……そういえば主らに会うのはこれが初めてであったな。我が名はハジャ。DCの副官であり六祈将軍オラシオンセイスのリーダーだ」

「やはりDCか……副官ということはお主がDCのナンバー2ということか」

「六祈将軍オラシオンセイスのリーダーってことは……随分な大物が出てきたわけだ。そんなお偉いさんが一体オレ達に何の用だ?」

「簡単なことよ。先程言った通り主らが持つレイヴとシンクレアを手に入れるため。星の記憶を手に入れるのは我一人。他の者たちにその資格はない」

「星の記憶……!? お前も星の記憶を狙ってるのか!? 何のためにそんなことを……」

「残念だがこれ以上主らと戯れてやる気はない……時間が迫っているのでな。残る二つのシンクレアもすぐに渡してもらうことにしよう……」

 

 

これ以上の問答は無用とばかりにハジャがゆっくりとその手をかざす。だがそれはハル達に向けてのものではない。その見えない力は真っ直ぐにある物に向かって襲いかかる。それは

 

 

「えっ!? なにこれ……!?」

 

 

エリーが胸に掛けている二つのシンクレア。まるで見えない力に引っ張られるかのように二つのシンクレアはネックレスから外れ、そのままハジャの手に向かって引き寄せられていく。突然の事態にエリーは咄嗟に手を伸ばすも間に合わない。

 

 

「っ!? いかん!」

「っ! くそっ! これ以上好き勝手させてたまるかよ!」

 

 

一瞬反応が遅れるもののムジカはその手にある銀を操り、奪い取られんとしているシンクレアを奪い返さんとする。だが銀のムチは片方、ヴァンパイアを捉えることはできるもののもう一つのシンクレアであるラストフィジックスはそのままハジャの手に渡ってしまう。

 

 

「フム……小癪な。そのまま大人しく渡せばいいものを……もうよい、このまま全員消し去ってくれよう」

 

 

これ以上は時間の無駄だとばかりにハジャはその手に力を込める。瞬間、凄まじい魔力が辺りを支配する。まるで天変地異が起こる前触れ。それが魔法の発動の前触れであることを察知するもレットとムジカには為す術がない。咄嗟に距離を詰めることも防御することもできない規模の大魔法。その無慈悲な魔力が全てを飲みこまんとした時

 

 

「―――っ! みんな! オレの後ろから離れるな!!」

「ハルっ!?」

 

 

風のような速さでハルがその手にTCMを構えながらハジャに向かって突進していく。突然のハルの特攻にエリーが悲鳴を上げるも間に合わない。潜在的な魔導士であるエリーにはこれからハジャが放とうとしている魔法がどれほど恐ろしい物であるかが理解できる。恐らくはジークの魔法を超える威力。それに飛び込むという自殺行為。だがそんなハルの動きによって固まっていたレットとムジカもまた弾けるように動きだす。それはハルの狙いを察知したからこそ。

 

 

「はあああああっ!!」

 

 

それに応えるようにハルはその手にある剣を振り切る。何もない空間を切り裂くような剣閃はそのままハル達を覆い尽くさんとしていた魔力の波を消し去って行く。魔法が剣によって斬られてしまうあり得ないような光景。だがそれを為し得る力がTCMにはある。

 

『封印の剣ルーンセイブ』

 

いかなる魔法も切り裂く第三の剣。最強の闇魔法、魔導精霊力ですらその例外ではない。まさに魔導士に対する天敵とでも言える形態。それはハジャの大魔法ですら難なく無効化してしまう。

 

 

「―――!!」

 

 

その光景に初めてハジャの表情に変化が生じる。先程放った魔法は六祈将軍オラシオンセイスであっても一撃で葬れる規模の魔法。だがそれを剣の一振りで無効化されてしまった事実にハジャは己がハル達の力を見誤っていたことを悟る。

 

 

(成程……あれが十剣の一つ、封印剣の能力……)

 

 

ハジャは驚きながらも冷静さを失うことはない。何故なら封印剣の存在をハジャは知っていたのだから。それは先代キング暗殺のため。キングが持つデカログスもまたTCMと全く同じ能力を持つ剣でありそれと戦うためにハジャはその能力を把握する必要があった。そしてそれを確認できたのがエクスペリメントでのルシアとジークの戦い。その戦いをハジャは離れた場所から監視していた中で封印剣の能力も見て取っていた。だが直接それを目にするのとではやはり大きな差がある。

 

『剣を極めしも魔の前にひれ伏す』

 

剣聖と呼ばれる者でも魔法の力の前では立ち上がれない。剣では魔法には敵わない。それが道理。だがそれを覆す力がTCMとレイヴにはある。

 

 

「何ボサっとしてやがる! 隙だらけだぜ!!」

「はあっ!!」

 

 

自らの魔法がかき消された瞬間の隙を狙ってムジカは銀槍、レットは拳を以て間髪いれずに追撃を加えんと迫る。左右同時、逃げ場のない完璧なコンビネーション。それをフォローするようにハルもまた封印剣を構えながらハジャへと駆ける。

 

ハルが防御でレット、ムジカが攻撃。それがこの一瞬で三人が取り決めた役割分担であり戦略。ハルの封印剣であればハジャの魔法を封殺することが可能。その隙をレットとムジカが狙い仕留める。まさに矛盾の戦法。共に戦い続けてきたからこそできるレイヴの騎士達の以心伝心の連携。いかに魔導士といえども逃れられない包囲網。だがハル達は知らなかった。

 

 

「言ったはずだ……主らにあるのは絶望のみよ」

 

 

ハジャが大魔道と呼ばれる意味、無限の二つ名を持つ所以を。

 

 

「っ!?」

「なっ―――!?」

 

 

驚愕の声が辺りに木霊する。今まさに攻撃を加えんとしていたレットとムジカはいきなり目の前にいたハジャが消え去ってしまったことに混乱し辺りを見渡すもその姿はどこにもない。戦っている者だけではなくその場にいる全ての者がその光景に言葉を失う。そこには

 

 

「我に空間転移を使わせるとは……どうやら少しはできるようだな……だが我には通用せん」

 

 

自分たちよりもはるか上空。空の上という本来人間が立ち入ることができない領域に身を置いているハジャの姿があった。

 

 

「そ、空を飛んでおるじゃと……!?」

「さっきの瞬間移動といい……何でもありかよ!?」

「くそっ! 空じゃ剣が届かねえ……!!」

 

 

レイヴの騎士達は自分達を見下ろしているハジャを見据えながらも今の自分たちがいかに不利な状況であるかを瞬時に悟る。空間転移という回避手段。そして何よりも

 

 

「どうやら気づいたようだな……我にとっては主らなど地べたに這いずる虫同然。じわじわと嬲り殺しにしてくれよう」

 

 

空という絶対の領域に君臨している大魔道。それがいかに絶望的な状況であるかを。

 

 

瞬間、凄まじい光の雨がハジャが指を振るうとともに降り注いでくる。その一つ一つが魔力弾。もし直撃を受ければただでは済まないほどの魔力が込められている。その範囲の広さから回避することは不可能。できるのは防御することだけ。

 

 

「―――っ!! みんな、オレから離れるな!!」

 

 

咄嗟に剣を構え、叫びを上げながらハルは魔力弾を封印剣で切り払って行く。だがその数から全てを切り裂くことができず避けきれない魔力弾が着弾し、ハル達に襲いかかる。それすらもハジャの戦略。範囲が大きい範囲攻撃よりも小さい威力でありながらも弾雨のような魔力弾であれば剣である封印剣では切り払うのに限界があることを瞬時に見抜いた戦う者としての知略。しかも人間にとって絶対の視角である頭上からの魔法の一斉攻撃。それに晒されれば逃げ場はない。このままでは勝機はない。

 

 

「っ!! 真空の剣メル・フォース!!」

「炎竜旱天!!」

 

 

魔力弾に晒されることを覚悟しながらもハルとレットは己が持つ遠距離への攻撃をハジャに向かって放つも

 

 

「――――無駄なことを」

 

 

それはハジャの魔力の波動によって為すすべなく無効化されてしまう。その光景にハル達は言葉を失うしかない。確かにハル達は近接戦闘を得意としている。だがそれでも真空剣や炎竜早天は易々と防げるような攻撃ではない。それこそがハジャが大魔道の称号を持つ理由。大魔法である空間転移を難なく使用し、飛行魔法を行いながら大魔法を行使し、ハル達の攻撃を無造作に無効化できる。自分達の攻撃が届かず、通用しない事態にハル達が戦慄するもさらなる絶望が告げられる。それは

 

 

「我の魔力は無限。減ることはない。主らに勝ち目は全くない……大人しくシンクレアを渡すがいい……そうすれば苦しまずに一瞬で楽にしてやろう……」

 

 

ハジャの持つ魔力が文字通り『無限』であること。どんなに魔法を使おうともハジャの魔力は尽きることはない。ハジャがその身に宿す六十一式DBによって。それこそが『無限のハジャ』と呼ばれる所以。持久戦すらハジャには通用しない。レイヴの力にも限界がある。つまりこのまま戦い続けてもハル達には欠片も勝機はない。あるのは絶望だけ。

 

 

「そ、そんな……じゃあどんなに魔法を使ってもあいつは平気ってことですか!?」

「敵の言うことを真に受けるんじゃねえ! ハッタリに決まってる!」

「だがこのままでは勝ち目がないのは事実じゃ……ハル、何とかあやつに攻撃する手段はあるか?」

「悪い……真空剣以外には空の敵に攻撃する手段はねえ。何とか剣が届く距離まで近づければ……」

 

 

ハルは苦渋の表情で己の無力さを痛感するしかない。離れた敵への攻撃手段はTCMには数えるほどしかない。剣である以上逃れられない宿命。封印剣も魔法に対する絶対の力を持ってはいるがあくまで防御のための剣。レットもムジカもそれは同じ。空を飛ぶ魔導士に対して戦う術をハル達は持ち得ない。

 

 

「どうやら万策尽きたようだな……大人しく消え去るがいい」

 

 

無慈悲な宣告を告げながらハジャが逃れようのない死の弾雨を降らせんとしたその瞬間

 

 

「ここはワシが時間を稼ぐ……お主らは一刻も早くこの島から脱出するのじゃ……」

 

 

かすれるような声でなおも傷ついた巨体を引きずりながらダルメシアンがハル達の前へと姿を現す。まるでハル達を守ろうとするかのように。

 

 

「ダルメシアン!?」

「だ、ダメだよ! そんな体で動いちゃ……」

「構わぬ……どの道もうこの怪我では長くは保たん……だが主らをここから逃がす時間ぐらいは稼いでみせよう……」

 

 

ダルメシアンは決死の覚悟を以てハジャへと向かい合う。既に満身創痍。仮の姿である全盛期の力は残っていない。否、全盛期であったとしても大魔道であるハジャに敵うかどうかも分からないにもかかわらずダルメシアンは一切の恐れも迷いもない。誇り高き戦士の姿を前にしてハル達は言葉を発することはできない。

 

 

「済まぬな、二代目よ……レイヴを主に託すどころか敵の手に渡してしまうとは……今はとにかく生き延びることを考えよ……そして魔導士の力を借りるのじゃ……魔導士には魔導士でしか対抗できん……」

「ダルメシアン……」

「師匠……あきらめちゃダメポヨ……まだ教わりたいことがいっぱいあるポヨ……」

「案ずることはない……主は仲間たちと共に信じる道を進めばよい。さあ、早く行け! ワシの時間が残っておる内にここを去るのじゃ!!」

 

 

ダルメシアンの叫びによってハル達は走り出す。ただ生き延びるために。今の自分たちではハジャには敵わない。頭では分かっている覆しようがない事実。ダルメシアンに後を任せることしか生き残る選択肢はない。だがそれでもハル達は拳を握りしめながら振り返ることなくただ一直線に島の海岸に停泊している自分達の船に向かって走るだけ。それだけが命を賭けて自分達を救おうとしてくれているダルメシアンに応えることだと知っているからこそ。

 

 

「無駄なことを……どんなに足掻いたとしても主らに希望などありはせん。蒼天四戦士であったとしても過去の亡霊になり果てた主など足止めすらできんというのに何故そこまで……」

「ふっ……お前のような男には分かるまい。軍師としてみれば負けだと思える戦を何度もワシは経験してきた……だがあきらめたことは一度もない。それだけがワシの誇りじゃ。そしていつもそれに応えてくれる仲間がおった……」

 

 

その場に似つかわしくないパイプに火を灯しながらダルメシアンは想いを馳せる。五十年前の王国戦争。多くの命が奪われた戦い。その中にあってもダルメシアンは決してあきらめることはなかった。

 

クレアが、ディアが、アルパインが、シバが。自分と同じ信念を持った者たちが皆、命を賭けてただ平和を目指して共にいてくれたからこそ。そしてその魂は失われることなく受け継がれている。二代目レイヴマスターとその仲間たちへと。その礎となれるなら後悔などあるはずがない。

 

 

「来るがいい、無限の欲望よ。無限よりも確かな物があることを主も知る時がくるであろう」

 

 

予言にも近いダルメシアンの言葉と共にハジャと魔法が全てを飲みこんでいく。だがそれを同じ魔法によって対抗しながら蒼天四戦士は最後まで己の信念を貫きながらこの世を去っていった――――

 

 

 

 

「ちょ、ちょっとムジカさん!? 一体どうしたってんですか!? 何の説明もなく船を飛ばすなんて……」

「今は詳しく話してる暇はねえ!! とにかくこの島を離れるんだ!! グリフ! 最後のレイヴポイントはどっちの方角だ!?」

「こ、ここから東……イーマ大陸まではかなり距離があります! でもこの船なら急げばそれほど時間はかからないかと……」

「よし……ヘビ、このまま東に向かって全速力で向かえ! 燃料のことは気にしなくていい!」

 

 

ムジカは必死に冷静さを取り戻しながら部下であるヘビに指示を出す。今、ムジカ達は島に停泊させていたシルバーナイツ号に乗り込み、海へと出発していた。ヘビたちは突然のムジカ達の帰還と出発に戸惑うもそれ以上問いただすことはできない。とても問いただすことができるような状況ではなかった。

 

 

「うう……ぐみゅっ……し、ししょう……! ひっく……」

「ルビー……」

「ごめんな……ルビー……オレがもっと強ければ……」

「主だけではない……ワシら全員の力不足が原因じゃ。だがここで立ち止まるわけにはいかん。ダルメシアンに託された想いを無駄にせんためにも……」

「わ、分かってるポヨ……ボクも、もうこれ以上は泣かないポヨ……!」

 

 

自らの師匠でもあるダルメシアンを残してきたことによってルビーは涙を流し、嗚咽を漏らすもその胸中は皆同じ。自分達を逃がすために単身あの場に残ったダルメシアンがどうなるかなど口にするまでもない。それでもハル達には立ち止まる時間は許されない。一刻も早く島から離れること。そして五つ目のレイヴを手に入れなければDCに、シンクレアに対抗することはできないのだから。

 

 

「……エリー、残る一つのシンクレアは持っておるな?」

「う、うん! 一つは取られちゃったけどちゃんとこの子は持ってるよ! もう取られたりしないようにしっかり握っておく!」

「うむ、それだけは幸いじゃった……もしそれまで奪われておれば五つ全てのシンクレアがルシアの元に集まっておったかもしれん……」

 

 

レットはまるで宝物を隠すかのように両手でヴァンパイアを握りこんでいるエリーの姿を見ながらも安堵していた。もしあの場で二つのシンクレアを奪われていればその時点でDCの勝利が確定していた可能性があったのだから。しかし喜んでばかりもいられない。シンクレアだけでなく未来のレイヴも奪われてしまっている。それはすなわち少なくともハジャを倒さなければレイヴを五つ揃えることができないことを意味している。もし本部に持ち帰られ、ルシアの手に渡ればそれを奪取することは極めて困難になる。ルシアだけでなく四天魔王まで相手にしなければならない危険すらあるのだから。

 

 

「でもあのハジャって奴、何か変じゃなかったか……? 副官ってことはアキの部下なんだろ? なのに星の記憶は自分の物だって言ってたし……」

「あたしもそう思う! アキならあんな酷いことするはずないもん! それにアキ、あんな怖い人は苦手なはずだよ!」

「……主らの中のルシアがどんな存在なのかは分からぬがともかく今は逃げるしかない。ダルメシアンの言う通り、空を飛ぶ魔導士には同じ魔導士でしか対抗できん……」

「でもあたし達の中に魔導士なんてルビーしかいないよ? 誰か新しい仲間を探すしか……」

「いや、一人心当たりがある。あのハジャに対抗できるかは分からぬが……」

「っ! それってもしかして……」

 

 

ハルがようやくレットが言わんとしていることを悟り、その名を上げようとした瞬間、ハル達の頭上に大きな何かが現れる。その巨大さによってシルバーナイツ号は影に覆われてしまう。突然の事態にハル達は慌てながら甲板に出るも言葉を失う。そこには

 

 

「船……?」

 

 

シルバーナイツ号を優に超える巨大な船があった。だがハル達が驚愕しているのはそこではない。それは船の形。飛行船ではなく海を渡るはずの船が空に浮いている。信じられないような光景。ハル達は知らなかった。

 

 

それが『英雄たちの船アルゴ・ナウティカ』と呼ばれる宇宙魔法であることを。

 

 

「―――っ!! ヘビ、操縦を代われ!!」

「ムジカさんっ!?」

 

 

反射的にムジカは操縦桿をヘビから奪い取り船を旋回させる。躊躇いも容赦もない乱暴な進路変更によってシルバーナイツ号は大きく揺れ、乗組員たちはあわや振り落とされんばかりの揺れに襲われる。だがそんなことはムジカの頭にはなかった。今はただ頭上にある船から離れることが最優先。直感にも近い戦士の感覚。それは正しい。何故ならその刹那、英雄たちの船アルゴ・ナウティカから砲撃が落とされたのだから。それは光の砲弾。間一髪のところでシルバーナイツ号はそれを回避する。だが光の砲弾が海に着弾した瞬間

 

 

閃光が全てを支配した―――――

 

 

 

「きゃあああああ!?」

「うああああああ!?」

「こ、これは……!?」

 

 

まるで閃光弾が破裂したかのような光と爆風によってハル達は叫びを上げるしかない。その衝撃によって津波のような波が起こり、舞い散った水しぶきが雨のように船へと降り注ぐ。直撃を回避したにもかかわらず船は悲鳴を上げ、損傷を受けてしまう。何とか体勢を立て直しながらもハル達はそれを目にする。自分達の後方。目をこらさなければ見えないような小さな影。だが先程の英雄たちの船アルゴ・ナウティカを遥かに超えるほどの圧倒的な魔力を有する存在。

 

 

「あれを避けるとは……どうやら悪運だけは強いらしいな、レイヴの騎士たちよ」

 

 

無限のハジャ。傷一つ負っていない大魔道士が今、再びハル達を葬らんと迫ってきている。しかもその速度は明らかにシルバーナイツ号を超える物。まさに怪物と言ってもいいデタラメぶり。

 

 

「そ、そんな……」

「あいつがいるってことは……もうダルメシアンは……」

「…………」

 

 

エリーとハルがハジャがいることの意味を悟り言葉を失うもレットには掛ける言葉はない。あるのは同じ戦士としていかにハル達を生かすかだけ。だがどんなに思案してもレットにはその術がない。拳士であるレットでは空を飛ぶ魔導士と戦う術がない。加えて今、周りは海。逃げ場のない袋小路に等しい状況。

 

 

「くそっ……!! これ以上スピードは出ねえのかよ!?」

「む、無理っス!! これ以上出したら先に船の方が壊れちまうっスよ!?」

 

 

必死に操縦桿を握りながらハジャから逃げ切らんとするもシルバーナイツ号は既に最大速度。限界以上の速度を出せばその瞬間、船は壊れてしまう。そうなれば後は海に投げ出されるだけ。ハジャに襲われるまでもなく全滅してしまう。

 

 

「まだだ……!! オレはまだあきらめねえぞ……!!」

 

 

仲間たちが絶望に染まりながらも最後の希望であるハルはその手に封印剣を構えながら立ち上がる。その瞳に恐れはない。あるのはただ自分に託された想いに応えることだけ。自分達を逃がすために命を賭けてくれたダルメシアンに報いるために、仲間達を救うために、かつて姉としたアキと共にガラージュ島に帰るという約束を守るために。

 

 

「あきらめよ……我こそが時の支配者……その生贄となるがいい……」

 

 

だがそんな希望すらも許さないとばかりにハジャが最後の魔法を唱える。同時に無数の光がシルバーナイツ号を取り囲んでいく。一切の逃げ場のない包囲網。まるで夜空に輝く星のように数えきれないほどの魔力の光が全てを飲みこんでいく。例え封印剣であったとしても防ぎきれない規模の大魔法。自分だけならまだしも仲間を、船全体を守ることは今のハルには叶わない。

 

 

「星夜ファイナメイナ」

 

 

大魔法である宇宙魔法。詠唱と共に星の輝きが全てを破壊せんと無数の爆発を起こす。破壊の渦に為すすべなくハル達が飲み込まれんとしたその時、彼らは確かに聞いた。

 

 

 

「五重魔法陣 御神楽みかぐら」

 

 

 

ハジャではない魔導士の詠唱を。

 

 

瞬間、五つの巨大な魔法陣がシルバーナイツ号を取り囲んでいく。その数に呼応するように五本の杖が舞い、魔法陣を描きながらその力によってハジャの星夜ファイナメイナを一つ残らず無効化していく。魔導士ではないハル達にもそれがそれだけ常軌を逸したものであるかは理解できた。だがあるのは誰が自分達の危機を救ってくれたのかという単純な疑問だけ。だがそれに応える者はいない。あるのは

 

 

「…………」

 

 

無言のままハル達を守るかのように甲板に降り立った一人の男だけ。その姿は依然と全く変わっていない。

 

 

顔を迷彩柄のマスクと布覆い隠し、その体は包帯で巻かれマントによって覆われている。背中には複数の杖を背負っている一度目にすれば忘れることなどあり得ない風貌。

 

 

『覆面の男』

 

 

かつてシンフォニアでハル達を救った男が再び舞台に上がる。

 

 

今、時を賭けた二人の魔導士の戦いの狼煙が上がる時が来た――――

 

 

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