ダークブリングマスターの憂鬱  【完結】   作:闘牙王

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第八十九話 「星跡」

東のイーマ大陸。その森の中をハル達一行は真っ直ぐに進んでいく。そこには一片の迷いもない。未開の地であるイーマ大陸である以上マッパーであるグリフのナビゲートも役には立たないはずにも関わらず。だが今のハル達には新しい道先案内人がいた。

 

 

「こっちだ……付いてこい……」

 

 

黒いコートを身にまとい、どこか近寄りがたい危険な空気を放っている男。元六祈将軍『爆炎のシュダ』

 

ハル達と六祈将軍の戦いに乱入し戦闘に決着がついた後、シュダの案内によってハル達はある洞窟に向かって連れられているのだった。

 

 

「ちっ……偉そうにしやがって……悪いがオレはまだてめえを信用したわけじゃねえからな」

「ダメだよ、ムジカ。せっかく助けてくれたのにそんな言い方しちゃ」

「っていうかあの怖そうな男は誰ポヨ!? みんな知ってるポヨか!?」

「後で教えますよ、ルビーさん」

 

 

先導進んでいくシュダに向かってムジカはどこか不機嫌そうに文句を口にするもエリーによって窘められそれ以上は口を紡ぐしかない。当のシュダも聞こえているはずにもかかわらず我関せずといった形。悪く言えば無視するような態度。そんな態度によってムジカはますます険悪な雰囲気を放つもあきらめるしかない。

 

 

「ありがとな、シュダ! おかげで助かった。流石に三対二じゃどうなってたか分からないし」

 

 

一行の中のリーダーでもあり、お人好しでもあるハルが既にシュダを信用しきってしまっているのだから。ムジカも本気で疑っているわけではないもののハルとのバランスを取るためにあえてそんな態度をとっている部分も大きい。だがハルにとっては死んだはずのシュダが生きていてくれたこと、自分達を救ってくれたことですっかり上機嫌になってしまっていた。

 

 

「……相変わらず甘い男だ。オレはオレのために動いている。それがたまたま今回は一致しただけだ」

「ははっ、何でもいいさ。生きててくれただけで十分だよ。でも一体どこにオレ達を連れて行く気なんだ? もしかして最後のレイヴの場所を知ってるのか?」

「いや、残念だがレイヴの場所はオレも知らん。だが間違いなくお前にとっては縁がある場所だ。あそこはゲイルの……」

「親父の……? 親父に関係がある場所なのか?」

「ああ……詳しくはそこで待っている奴に聞け。オレはそこにお前達を案内するように頼まれただけだ」

 

 

まるで新たな仲間ができたかのように話しかけてくるハルとあくまで自分のスタンスを変えることなく淡々と答えるシュダ。しかしふとハルは気づく。それはシュダの気配。既に戦闘は終わったはずにもかかわらずまだ戦闘態勢を解いてはいない。周りには自分たち以外誰もいない。ようやくエリー達もそのことに気づき、慌てながら辺りを見渡すも結果は同じ。

 

 

「シュダ……何をそんなに警戒してるんだ? まだ敵が残ってるのか?」

「え? でももうあの六祈将軍って人達はやっつけたんでしょ?」

「……おめでたい奴らだ。。無限のハジャ。奴がどこから現れるか分からん以上気を抜くわけにはいかん」

「っ!! そ、そっか……そうだよな……」

 

 

シュダの言葉によって緩みかけたハル達の空気が引き締まって行く。同時に先の戦いを思い出し、緊張を露わにする。

 

六祈将軍のリーダーであり最強の男。無限のハジャ。

 

自分達を後一歩のところまで追い詰め、シンクレアと未来のレイヴを奪われてしまった相手。空間転移や飛行が可能な魔導士である以上いつ追撃を仕掛けてきてもおかしくない危険な存在だった。

 

 

「なるほどな……それでさっきオレ達にエリクシルを渡して来たってわけか」

「そういうことだ。流石にハジャが相手では油断できん。魔導士を相手にするのは厄介だからな。それはもう貴様らも十分味わったはずだ」

「ああ……悔しいけど完敗だった。でもきっと大丈夫だ。覆面の男がきっと上手くやってくれてる! それにレットもあのジェガンって奴を倒して帰ってくるだろうし心配ないさ!」

 

 

ハルはどこか確信しながら覆面の男とレットの勝利を口にする。自分達を先に行かせるために足止めをしてくれた二人。既にそれから時間が経っているにも関わらずまだハジャやジェガンが迫ってきていないことからきっと二人が勝利したのだとハルは信じていた。

 

 

「フッ……楽観的な見通しだが一理あるか。だが警戒だけはしておけ。ハジャについてはジークハルトに何か考えがあるようだった。それに期待しておくんだな」

「ジークが? そういえばまだジークは来れないのか? エリーが持ってるあの水晶があるからすぐに来れるんだろ?」

「これのことでしょ? ちゃんと落とさずに持ってるよ! もうシンクレアみたいに盗られたりしないから安心して!」

「エリーさん、きっと敵が狙ってるのはシンクレアだけだと思いますが……」

 

 

ガッツポーズをしながら空間転移の水晶を誇示するエリーにグリフが突っ込むものの何のその。エリーはどこか楽しげにシンクレアと水晶を見比べてはプルーやルビーに見せびらかし騒いでいる。先程までの緊張感は既に消え去ってしまっている。ある意味いつも通りのハル一行の光景に溜息を吐きながらもシュダは続ける。

 

 

「そろそろ現れてもおかしくないはずだが奴のことだからな。時を守るとかいうよく分からん使命のせいで遅れているのかもしれん。あまり当てにし過ぎないことだ。自分の身は自分で守れ」

「てめえに言われるまでもねえさ。だが意外だったぜ。まさか六祈将軍を殺さずに生かしておくなんてな。てっきり皆殺しにする気かと思ってたぜ」

 

 

ムジカは心底意外だとばかりにシュダに問いかける。先の戦い。戦いの後、意味不明のことを叫びながらその場を去っていたユリウスはともかく、ベリアルやディープスノーをシュダは殺すことなく見逃した。ハルがいた手前ということもあるだろうがかつてのシュダからは想像できない行動だった。

 

 

「ふん……単なる気まぐれだ。戦意が無い奴を殺す趣味はねえ。ベリアルの奴は殺すよりもあのまま放っておいた方が悔しがるだろうからな。DBも奪っておいた。もう相手にはならん」

「っ! お前いつの間に……オレよりも盗賊に向いてんじゃねえか?」

「かもな。どうする? 欲しいならくれてやってもいいが」

「冗談じゃねえ。誰がDBなんて使うか。お前と一緒にするんじゃねえ」

「ムジカ、そこまでにしろって……でもあいつら置いてきてほんとによかったのか? 怪我させちまったし手当てしてやった方が良かったんじゃ……」

 

 

ハルは迷うような表情を見せながら後ろを振り返るも既に海岸は見えず。自らが倒した六祈将軍の一人であるディープスノーがどうなったかは分からない。命に別条はないものの大きなダメージを与えてしまったことは確か。同時にハルにとっては少なからず因縁があった相手。キングの仇というある意味で恨まれてもおかしくない事情があったため後ろめたさからハルは表情を曇らせるしかない。

 

 

「その心配はない。あの程度でくたばるほど六祈将軍は甘くはない。それに奴らはルシアがもつ瞬間移動のDBで本部に戻ることもできるはずだ。余計なことを気にする必要はない」

「アキの……? ほんとか?」

「ああ……先代キングも同じDBを持っていた。まず間違いない。そんなことよりもルシアの奴が今回の失敗で自ら動き出すことを心配した方がいい。まだお前達は一つシンクレアを持ってるんだからな……」

「…………そっか。やっぱりそうだよな……」

 

 

シュダの言葉によってハルは難しい顔を見せながら自らのTCMとレイヴに力を込める。今まで考えなかった、いや考えようとしなかった事実にハルはそのまま黙りこんでしまう。その手にある知識のレイヴがハルの頭に知識を与える。

 

先のディープスノーとの戦いによって得た感覚と確信。TCMの意味とその力。

 

かつてキングを救うことができなかった自分。約束を果たすことができず、ただ父親によって守られた自分。

 

 

(もう二度と失敗は許されない……絶対に姉ちゃんとの約束を守ってみせる……!)

 

 

ハルは固く誓う。ガラージュ島を出る際に姉と交わした二つの約束。父とアキを連れて帰る。レイヴマスターとしての使命ではないハル自身の旅立ちの理由。片方は既に永遠に叶うことはない。だがもうもう一つの約束はまだ守ることができる。

 

だがそのためには足りない物がある。強さ。ダークブリングマスターであり、シンクレアをもつアキを止めるには強さが必要になる。それをシンフォニアでハルは身を以て味わった。あれからひたすらに修練を積んできた。確実に強くなってきている。間違いない事実。でもまだ足りない。アキには及ばない。だが先の戦いでその可能性を見いだした。未来のレイヴを手に入れればそれが叶う。レイヴを手に入れることはレイヴマスターとしての力を増すことを意味する。四つのレイヴがあればアキに届くかもしれない。初めてアキに勝つことができるかもしれない。そうすればきっと―――

 

 

「ハル……? どうしたの、怖い顔しちゃって……もしかしてまだどこか怪我してるの?」

「―――っ!? エ、エリー!? な、何だよいきなり……びっくりしただろ!」

「あ、ひどーい! せっかく心配してあげたのに。いいもんいいもん、行こ、プルー。ハルは怖い顔で考え事がしたいんだって」

『プーン』

「そ、そんなこと言ってねえだろ……ま、待ってくれよエリー!」

 

 

ぷりぷりと怒り、プルーを抱きかかえたままエリーはハルを置いて先に走って行ってしまう。ハルは我に帰り、慌てながらその後を追って行く。いつもと変わらない日常。

 

 

「ったく……相変わらず見せつけてくれるじゃねえか。こっちは一人身だってのによ。オレも本気で彼女探そうかね……」

「わ、私もお手伝いしますよムジカさん。できれば美しい女性の方が……」

「あ、見えてきたポヨ。あの洞窟がゴールポヨね!」

 

 

やれやれといった風にムジカは頭を掻きながら二人の後を追って行く。悪態をつきながらも表情は楽しげなもの。ずっとおままごとのようなやり取りを見せられてきたもののそろそろ何とかならないかと思案するもあの二人ではまだまだ先になりそうだとあきらめるしかない。そんな中、森を抜けた先に目的地である洞窟が見えてきたことでルビーたちもまた走り出す。誰が一番に辿り着くかの競争かのように。その場に残されたのは先導していたはずのシュダのみ。だがシュダは置いて行かれたことに文句を言うことなくその場に立ち尽くしたまま。

 

 

「…………」

 

 

その瞳はハルの後姿だけを映し出している。正確にはその背に背負っている剣、TCM。それが何を意味するか誰も知らぬままハル達はその場所に辿り着いた。同時に一人の老人がハル達を出迎えてくれる。

 

『エバーマリー』

 

ハルの父であるゲイルの育ての親。ひょんなことからシンフォニア国王と知り合った彼はゲイルを育てながらその洞窟に七十年間住み続けていた。

 

『星跡の洞窟』

 

それがその洞窟の名。星のような輝きを放つ巨大な水晶で満ち溢れている幻想的な洞窟。その正体はかつて星の記憶があった場所。この星の生命であり全てとも言われる星の記憶。ハル達が探し求めている存在がかつてここに会ったことを知り、ハル達は驚くことしかできない。

 

星の記憶があったことを示すように星跡の水晶には触れた者の記憶を映像化する力が備わっている。エバーマリーの勧めでハル達は皆星跡に触れ、己の記憶を映像化していく。生まれてからの様々な出会い。自らが生きた証、記憶を確かめるように。唯一エリーだけはその事情から星跡に触れることを決断できないでいたものの、エバーマリーによってハル達は星の記憶の正体を明かされる。

 

『時空操作』

 

星の記憶に辿り着いた者だけが手にすることができる力。全てを手にし、全てを失うこともできる奇跡。もしもあの時こうしていれば、あれがなければ、そんな過去の出来事を覆すことができるほどの力が星の記憶にはある。それこそが闇の組織が星の記憶を狙う理由であり、ジークハルト達、時の民が時を守る使命を持つ理由。

 

その扉を開く力を持つのがレイヴでありシンクレア。レイヴが正面からの入り口であればシンクレアは裏口。共に星の記憶を繋ぐ存在でありながら対極に位置する存在。

 

自分たちが戦う意味、大きさを感じながらハル達はそのまま星跡の洞窟で一夜を過ごすことになったのだった――――

 

 

 

「…………」

 

 

皆が寝静まった深夜。一つの人影がゆっくりと星跡の洞窟に姿を現す。真夜中であるにもかかわらず洞窟は星の光で照らされているかのように明るさを保っている。その中をゆっくりと、どこか恐る恐る少女、エリーは進んでいく。まるで禁じられた行為をするかのように。

 

その足が水晶の前で止まり、意を決したかのようにゆっくりと手を伸ばしていく。その手が触れれば全てが分かる。記憶喪失であり、その記憶を取り戻すことを目的に旅してきたエリーにとっては答えが目の前にあるも同然。しかし

 

 

「…………ハァ」

 

 

エリーは大きな息を吐きながらその手を下ろしてしまう。表情は戸惑いと不安に満ちている。本当の自分が知りたい。でもそれを知るのが怖い。矛盾する感情。自分自身でもどうにもできない板挟みに肩を下ろしている中

 

 

「エリー……やっぱりここにいたのか」

 

 

聞き慣れた、どこか安心を感じられる声がエリーに向かってかけられる。驚きはなかった。きっと来てくれるだろうと、そんな不思議な確信がエリーにはあったのだから。

 

 

「ハル……ごめんね、起こしちゃった?」

「いや……オレも眠れなかったからさ。今日は色々あったし」

「そうだね。いろんなことがあったもんね……」

 

 

ハルはいつもと変わらない雰囲気でエリーの隣に立つ。そういえば二人きりになるなんていつぶりだろうか、とふと思い返すもハルには全く緊張はなかった。そうさせない程の何か不思議な雰囲気がこの星跡の洞窟にはあるかのように。

 

 

「…………ごめんね、ハル。やっぱり変だよね、せっかく記憶が目の前にあるのに……それを知るのが怖くなるなんて……」

「エリー……」

 

 

エリーはどこか自嘲気味に自らの心情を吐露する。自分が探し求めた答えが目の前にあるにも尻込みしてしまう臆病さ。唐突に答えを見せられることへの不安。本当の自分が分かれば、今までの自分が無くなってしまうのではないかという恐怖。言葉には表し切れない感情がエリーの中には溢れかえっていた。だがそれは

 

 

「いいじゃねえか? 怖くたって……」

「…………え?」

 

 

ハルの何気ない言葉によって救われる。ハルはどこか言葉に詰まり、恥ずかしそうに頭を掻きながらも必死に自らの心を形にする。

 

 

「きっとオレがエリーと同じ立場でも怖くなると思う……自分の中にもう一人自分がいるみたいなもんだしな」

「ハル……」

「それに……うん、自分の記憶を見るのってちょっと恥ずかしいしさ。昼間みんなの前で見せた時も恥ずかしい場面がでないかどうかヒヤヒヤしてたんだぞ」

「え? そうだったの?」

「ああ……あんまり言いたくないけど、小さい頃はアキと一緒に結構馬鹿もやってたしさ。バレたら姉ちゃんに怒られそうなこともあるし……」

「ふふっ……じゃあよかったね、イタズラがバレなくて! もしアキがいたらきっと今のハルと同じような顔してると思う」

「ひ、人聞きが悪いこと言うなよ。言っとくけど悪いのはほとんどアキだったんだからな。オレはそれに巻き込まれてただけで……」

「そーかなー? 小さい頃のアキもやんちゃそうだったけどハルも負けてなさそうだったよ?」

 

 

ハルの暴露によってそれまでの雰囲気が嘘のようにエリーはいつもの楽しそうな表情に戻って行く。そんなエリーの様子にハルは安堵しながらも改めて見とれてしまう。星跡の輝きのせいかいつも以上にエリーの長い金髪が映えて見える。

 

 

「……? どうかした、ハル?」

「え? い、いや……何でもない……」

「変なハル。でもありがとね、あたしのこと心配して来てくれたんでしょ?」

「うっ……ま、まあな……」

 

 

エリーと目が合い、ドギマギしながらも悟られまいと必死に誤魔化しながら二人はそのまま他愛ない話を座ったまま続ける。これまでの旅のこと。これからのこと。今まで二人きりではできなかった会話を楽しむかのように。そしてその内容は次第にレイヴとDB。アキの内容へと移っていく。エバーマリーから聞いた星の記憶の話と合わせて避けて通ることはできない問題。

 

 

「アキは何でシンクレアを集めてんのかな……やっぱり星の記憶を手に入れるため……なのか?」

「あたしもそれは分からないけど……でもきっと心配いらないよ。アキのことだもん。そんな大変なこと怖がってできないだろうし、第一ママさんもいるから無茶はしないよ、きっと」

「そっか……アキのこと、信じてるんだな……」

「それはハルもでしょ? でもうーん……よく考えたらママさんの方が無茶してたような気もするけど……ま、いっか」

 

 

エリーはかつてのアキとマザーのやり取りを思い出しながらもとりあえず大丈夫だろうと勝手に結論づける。何だかんだで似た者同士の二人であり心配はないだろうと。だがそんな中、ふとエリーはハルが何かを考え込んでいることに気づく。それは何か聞くよりも早く

 

 

「なあエリー……一つ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

 

 

ハルが何か聞きづらそうにしながらもエリーに向かって問いかけてくる。いつものハルからは考えられないような姿。

 

 

「いいけど……何?」

 

 

ハルが何を言おうとしているのか想像できないエリーはいつもの調子で応えるだけ。それからどれだけの時間が経ったのか。ハルは口を開く。エリーと出会ってから一年以上、聞きたくても聞けなかった、聞くことができなかった問いを。それは

 

 

「エリーは……アキのこと、どう思ってるんだ……?」

 

 

エリーがアキのことをどう思っているか。単純な、それでもハルにとってはこれ以上にない問いだった。

 

 

「え……? アキのこと……?」

「ああ……エリーはどう思ってるのかなって……」

 

 

予想外のハルの問いに一瞬ぽかんとしてしまうもエリーは素直にその問いを反芻する。もっとも深く考える必要がないほど明確な問いではあるのだが。

 

 

「うーん……面白い、かなやっぱり。ママさんと一緒にいると楽しいし。でも勝手にあたしを置いて行ったのは許せない! 今度会ったらもう一度文句を言わないと……」

 

 

思い出していく中で怒りを再燃したのか、拳を握っているエリーであったがようやくハルがどこか真剣な表情で自分を見つめていることに気づき、動きを止める。

 

 

「どうしたの……ハル? あたし、何か変なこと言った?」

「いや……そうじゃないんだ。オレが聞きたいのは…………エ、エリーはアキのことが好きなのかどうかってことなんだ……」

 

 

今度こそエリーは完全に動きを止めてしまう。それほどにハルの質問はすぐさま理解できない問い。

 

 

「え……? それって……」

 

 

それが何を意味する問いであるか。流石のエリーも気づかないはずはない。知らず鼓動が激しくなっていき、顔が赤くなっていく。年頃の少女であればそうならない方がおかしい質問。だがそれはハルも同じ。いや、ハルはエリーの比ではない。エリー以上に顔を赤くし、顔を伏せたままハルはただエリーの答えを待ち続ける。永遠にも思える刹那。無音が星跡の洞窟を支配する。そこにいるのは一人の少年と一人の少女だけ。エリーが突然の質問にどうこたえるべきか、自分がその問いにどんな答えを持っているか思考する中

 

 

大きな音が洞窟に響き渡る。まるで風船が割れたような衝撃音。だがそれは風線ではなく、ハルが自らの頬を両手で叩いた音だった。

 

 

「ハ、ハル……?」

「ごめん、エリー……オレが卑怯だった。エリーの方に言わせようなんて……ずるいもんな……」

 

 

ハルは頭を振りかぶりながら何かを決意したかのようにエリーの正面に回り真っ直ぐにその視線を向ける。変わらず顔は赤いまま。知らず握った拳が震えている。だがそんなハルの姿にエリーは目を奪われるだけ。自分の鼓動が速くなるのを感じ、それが何を意味するのか、ハルが何をしようとしているのかを心のどこかで理解しながらも頭が追いつかない。

 

 

「オレ……エリーのことが……」

 

 

その全てを振り切ってハルが己の気持ちを伝えようとしたその瞬間

 

 

 

「見つけたわ……レイヴマスター。それにお前がエリーね……」

 

 

あり得ない第三者、どこかで聞いた覚えのある声が響き渡った。

 

 

「―――っ!? お前は、あの時の―――!?」

 

 

突然の来訪者によって動きを止めるもすぐさまハルは弾けるようにその手に剣を持ち、エリーを庇うように前に出る。エリーもまたハルの邪魔にならないように後ろに下がるしかない。だが二人の表情は険しく、緊張状態にある。対して来訪者である女性はいつかと変わらない絶対零度に近い冷たさを以てそこに君臨している。ハル達はその存在を知っていた。

 

四天魔王 『絶望のジェロ』

 

かつてドリューとの戦いに乱入し、自分たちが敵わなかったドリューをこともなげに葬った氷の女王。レットをして絶対に戦うなと言わしめるほどの絶望。六祈将軍などとは比べ物にならない魔王の名を持つ怪物。だが驚きはそれだけで終わりはしなかった。

 

 

それはもう一人の来訪者の存在。ジェロの後に続くように確かな存在感を持った、ジェロすらも超える風格を持った少年が姿を現す。金髪に黒い甲冑。背にはTCMと対になる黒い大剣。見間違えるはずがない風貌を持つ、もう一人の王。奇しくも先程まで二人が想い浮かべていた存在。

 

 

「アキ……」

 

 

DC最高司令官であり金髪の悪魔の異名を持つ少年、ルシア・レアグローブ。シンフォニアで出会った時と違うのは大魔王という新たな称号と三つ目のシンクレアを手にしていること。そしてその瞳から何かを悟ったかのような意志が見えることだけ。

 

 

今ここに、レイヴマスターとダークブリングマスター。互いの思惑が交差する邂逅が再び巻き起ころうとしていた――――

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