ダークブリングマスターの憂鬱  【完結】   作:闘牙王

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第九十一話 「差異」

「すまない……遅くなった。ハル、エリー……」

 

 

白い外装をはためかせながら時の番人ジークハルトはハル達を庇うように姿を見せる。その表情は既に真剣そのもの。いつ戦闘が始まっても対応できる臨戦態勢。ジークはそのまま真っ直ぐに自分たちと相対しているルシアとジェロと向かい合うもまるでそれに対抗するかのようにジェロもまたルシアの前に出る。互いの役割を理解したかのように両者の間に緊張感が走る。だがそんな中、ハル達以上にルシアは理解できない事態の連続に混乱することしかできない。

 

 

(ジークッ!? な、何でこんなところに……!? 今のは空間転移か……? でも確かあの魔法はミルディアンの民全てが協力して成功するかどうかの魔法のはずじゃ……)

 

 

いきなりジークが乱入してくるという予想外の展開に呆気にとられるもののすぐさまルシアは我にかえりながら状況を整理する。たしかに原作ではあり得なかった星の跡地にジークが姿を現わしたことは驚くべきことだがあり得ないことではない。既にこれまで自らの影響によって原作の流れは大きく変わってしまっている。ならばジークが登場することもあり得る。ピンチに現れるという点ではシンフォニアの再現。故にルシアが驚愕しているのはジーク自身の変化。

 

 

(明らかにシンフォニアの時とは雰囲気が違う……! この感じ……下手すれば四天魔王級なんじゃ……)

 

 

その纏っている空気と存在感が桁外れに上がっている。魔導士ではないルシアをして感じ取れるほどの膨大な魔力。先の空間転移も一人で可能な程の出鱈目さ。明らかにかつてシンフォニアで接触した際とは別人。この短期間で何があったのか知る術はないもののルシアはとりあえずいつでも動けるように警戒しながら改めてハル達に向かい合おうとするもジェロは一向に動くことはない。ルシアとは比較にならない程ジェロの空気が凍りついて行く。同じ魔導士としてジェロはルシア以上にその危険性を見抜いているからこそ。

 

 

「誰かと思えばジークハルト、お前か。シンフォニアの時といい乱入する趣味でもあるのか?」

「…………」

 

 

そんなジェロの危険な気配を感じ取り、戦々恐々としながらもルシアはジークに向かって話しかける。ある意味敵役のお約束のような挑発。ここで主導権を握らければジェロが勝手に動きだしかねないことを危惧したための行動。胸元で騒いでいるシンクレア達は一切無視しながら声をかけたもののジークは応えることはない。ルシアとジェロを交互に見比べているだけ。奇しくもルシア同様現状を把握するための沈黙。

 

 

「ジーク!? 本当にジークなの!?」

「ああ……遅れて済まない。本当ならもっと早く合流する予定だったんだが……どうやら間に合ったようだな」

「ジーク、来てくれたんだな。シュダもこっちに来てる。おかげで助かった」

「……六祈将軍達はどうなった? ハジャがお前達に刺し向けたはずだが」

「あの人達ならもうやっつけちゃったよ」

「そうか……だが喜んでばかりはいられないな」

 

 

ジークは目だけをハル達に向けながら状況を確認していく。救援であるシュダが間に合ったこと。六祈将軍の襲撃を退けたこと。ハル達が無事であり最悪の事態が避けられたことにジークは安堵する。ハル達のことは信頼しているもののやはり相手は六祈将軍。万が一のこともあり得たのだから。しかしジークは安心ばかりはしていられない。それ以上の危機が今、目の前に迫っているのだから。

 

 

「……どうやら四天魔王を配下にしたというのは本当のようだな」

 

 

ジークはその視線をジェロに向けながらルシアへと問う。四天魔王を配下にするためにルシアが魔界に向かったという情報をジークはミルツから聞かされていた。俄かには信じがたい話ではあったが目の前の光景はそれを裏付ける。常軌を逸した魔力に重圧。姿は知らずとも目の前の女が四天魔王の紅一点、絶望のジェロであることは疑うようのない事実。恐らくは他の三人の魔王もルシアに下ったと見るのが妥当。ミルツが危惧していた最悪の事態が現実になったことにジークは内心焦りを感じるものの表情に出すことはない。

 

 

「気をつけて、ジーク。あの冷たい女の人、ものすごく強いよ。ドリューもあっという間に倒しちゃったんだから!」

「ドリューを……? お前達が倒したのではないのか?」

「う、うん……あたし達は負けちゃったんだけどあのジェロって人がやってきて……」

「ならドリューが持っていたシンクレアはルシアが持っているのか?」

「ううん、それはあたしが持ってる、ほら。本当はもう一つあったんだけどハジャって奴に盗られちゃって……四つ目のレイヴも一緒に……」

「…………」

 

 

エリーはこれまでの経緯を簡潔にジークへと伝えて行く。その内容はジークが得ていた情報とほぼ同じ。ルシアもまたそれを確認しているのか動くことはない。だがエリーはどこか落ち込むような姿を見せるだけ。自分たちが敗北した記憶、ダルメシアンから受け継ぐはずだったレイヴと渡してはならないシンクレアを奪われてしまったのだから。だがそれは

 

 

「……心配するな。お前達にこれを渡すためにオレはここに来たんだからな」

 

 

ジークの言葉とその手の中にある光によって払われる。その光にその場にいるすべての者が目を奪われる。そこには確かに聖石である四つ目のレイヴがあった。ジークはそのままレイヴをハルに手渡す。本来あるべき、受け継がれるべき主の元に四つのレイヴが揃う。

 

 

「……未来のレイヴ」

「ほ、ほんとだ! どうしてジークがそれを持ってるの!?」

 

 

エリーは信じられない物を見たとばかりに声を上げるもそれは無理のないこと。ハジャによって奪われたはずも未来のレイヴを何故かジークが持っているのだから。だがエリーとは対照的にハルはどこか静けさを感じるほどの冷静さで未来のレイヴを見つめている。レイヴマスターであるハルには未来のレイヴの存在が感じ取れるからでもあるがそれを差し引いてもハルの様子が普段と違うことにジークもようやく気づくもそのまま説明を続ける。

 

 

「……ハジャを倒したからだ。どうやらあの覆面の男は最初からハジャの相手をオレにさせる気だったらしい」

「覆面の人が?」

「ああ、直接会ってはいないが……とにかくハジャが持っていたレイヴはオレが回収した。心配するな」

「……? うん、分かった」

 

 

エリーはまるで何かを言いかけてやめてしまったようなジークの態度に違和感を覚えるもそれ以上追及することはない。だがどこかいつもと違う視線をジークが自分に向けていることだけははっきり感じ取れていた。

 

 

(シャクマのことはハル達に話しても通じない。余計な混乱を生むだけだろう……)

 

 

ジークはあえてシャクマの存在をなかったことにしてハル達へ伝える。クロノスによって存在を消されたシャクマのことはジーク以外は思い出すことはできない。ならば初めからいなかったものとして扱うしかない。クロノスという魔法の恐ろしさを改めて実感しながらももう一つの問題がジークにあった。それは

 

 

(シャクマが言っていたこと……やはりあれは真実なのか……?)

 

 

エリーの正体がリーシャ・バレンタイン本人であるということ。信じがたいことではあるがそうであれば辻褄が合うことが多い。事実、ジーク自身ほぼそれが間違いないことを確信していた。だが直接エリーに確かめることはできない。エリーを悪戯に混乱させることになりかねない。確証はないのだから。何よりも

 

 

「なるほど……てめえがハジャを倒したってわけか」

 

 

今はそれを確かめている余裕はない。ルシアとジェロという恐らく最高戦力の二つが自分達の目の前にいるのだから。

 

 

「……そうだ。これで六祈将軍は全滅したことになる」

「そんなことはどうでもいいさ。それよりも奴が持っていたシンクレアはどうした。レイヴと一緒に奴が持ってたはずだぜ?」

「…………」

「……ふん、どうやらここには持ってきていないようだな。だがハジャを倒してくれたことに礼だけは言っとくぜ。おかげで裏切り者を消す手間が省けたわけだ」

 

 

裏切り者とはいえ自分の配下が敗北したにも関わらずルシアは全く気にするそぶりを見せない。それどころか喜んでいるほど。そんなルシアの姿を見せながらもジークは口を開くことはない。もちろんジークはレイヴと同時にシンクレア、ラストフィジックスも回収している。だがジークはシンクレアをこの場には持ってきてはいなかった。

 

それはシンクレアを二つ同時に持つ、同じ場所に置くリスクをなくすため。今ルシアはシンクレアを三つ所持しており、残るは二つ。もし二つ同時に奪われればその瞬間シンクレアは揃い、世界は終わってしまう。ならば一つを別の場所に隠したほうがリスクは少ない。既にハジャによってシンクレアが奪われるという事態が発生している以上無視することはできない問題。そのためジークはシンクレアをそのままミルディアンハートへと封印していた。ルシア達では知り得ない場所だからこその判断。ジークは己の判断が正しかったことに安堵するしかない。しかしこの場にはジーク以上にそのことに感謝している者がいた。それは

 

 

(あ、危ねえええ―――――!?!? マジで、マジでヤバかった!! マジで死ぬかと思ったわ!?)

 

 

他ならぬルシア・レアグローブ本人。ルシアは心の中で絶叫しながらもガッツポーズをとるしかない。比喩でもなんでもなく九死に一生をルシアは今体験していた。もしジークがラストフィジックスをレイヴと共にこの場に持って来ていればその瞬間、全ては終わっていたのだから。しかも直下にはエンドレスもいるというおまけつき。まさに寸でのところで世界崩壊が防がれたことにルシアは身体を震わせる。

 

 

(お、落ち着け俺……! まだ何も終わってないっつーの! とにかくジークがハジャを倒したのは間違いねえ……確かにそれならジークの変化も説明がつく)

 

 

狂喜乱舞したいのを抑えながらルシアはジークが恐らくはハジャを倒し、大魔道を超えたのだということに気づく。原作ではその強さを見ることはなかったがミルツの言葉を借りれば世界最強の魔導士とされるほどの成長をジークは遂げていたのだから。確かに今のジークならばハジャなど相手にはならないだろう。

 

 

(問題はラストフィジックスの場所か……原作だとミルディアンだったが確かめるわけにもいかねえし……というか絶対に探すわけにはいかねえ! 近づいただけでアウトになっちまう!)

 

 

問題はジークがラストフィジックスをどこに隠したか。原作ではミルディアンに封印していたがそこまで同じとは限らない。というかルシアとしては知りたくもないし確かめたくもない。もしここでヴァンパイアを手に入れればシンクレアは四つ。その状態ならば近づいただけでエンドレスが完成してしまう。世界消滅にリーチがかかったようなもの。

 

 

『ふむ、どうやら相手も馬鹿ではないらしい。ラストフィジックスをどこかに隠したようだな』

『そうですね。ですが逆を言えばあの魔導士から居場所を聞き出せばすぐに見つけることができるということでしょう』

『なるほど、アナスタシスあなた頭がいいわね! どうやって見つけようかと思ってたのに!』

『ほんとに馬鹿なのねぇ。そもそもあなたには私達のおおよその場所が分かるはずでしょぉ?』

『そ、それはそうだけど大まかな方向だけよ! そのせいでドリューを見つけるのは手間取っちゃったんだから……』

『なんでもいいわぁ。でもいい気味ね。今頃一人で泣き叫んでるんじゃないかしら? しばらく放っておくのも面白そうねぇ』

『お、お前ら……』

 

 

誰一人ラストフィジックスの心配をしていないことに同情を禁じ得ないがルシアとしてもそれはいたしかたないこと。ともかくおおよその事情が分かったことでルシアがどう動くか考え直そうとするも

 

 

「……そろそろおしゃべりは終わりでいいかしら。これ以上あなた達のおしゃべりに付き合うほど暇ではないわ。シンクレアを渡すか死ぬか、さっさと選びなさい」

 

 

今まで言葉を発することがなかった絶望の宣言によって断ち切られてしまう。瞬間、凄まじい冷気が辺りを包みこんでいく。ルシアがいる手前ハル達の会話を見逃していたが聞くべきことは聞いたとばかりにジェロは迫る。もっとも半分以上はシンクレア達のおしゃべりに対するものであり、その証拠にシンクレア達は静まり返ってしまっている。まるで飼い主に怒られた犬のよう。自分よりもよっぽどシンクレア達をコントロールできるジェロにうらやましさを覚えるほど。

 

 

「……ジーク、アキはオレに任せてくれないか」

「っ!……ハル、本気か? 相手はあのルシアだぞ」

 

 

絶望の冷気に襲われながらもハルは何かを決意した表情を見せながらTCMを手にし、ルシアへと向きあう。そんな予想していなかったハルの行動にジークは思わず聞き返すしかない。シンフォニアでは戦うことを忌避していたこと、何よりもその時の実力差からハルはルシアと戦うことを良しとしないだろうとジークは考えていた、何よりも四天魔王のジェロに加わっている。最悪自分が時間を稼ぎ、ハル達を逃がさんと考えていただけにジークはどうするべきか迷うも

 

 

「やらせてやれ、ジークハルト。どうやら勝機がないわけでもないらしい」

 

 

その場から離れた場所からの男の声が洞窟に響く。そこにはどこか楽しげな表情を見せ黒いコートに身を纏っているシュダの姿があった。

 

 

「シュダ……いつからそこにいた」

「そんなことはどうでもいい。ハルとルシアの戦い、オレが立会人となろう。遅かれ早かれ避けられん戦いなのは貴様も分かっているはずだ」

「…………」

 

 

シュダは剣士としての決闘こそがハル達の戦いには相応しいと告げる。レイヴマスターとダークブリングマスター。シンフォニアとレアグローブ。二人が争うことは運命であると。ジークは改めてハルへと目を向け気づく。ハルの力の根源、レイヴマスターとしての力が以前とは比べ物にならない程増していることに。未来のレイヴを手にしたことによってそれはさらに増している。シュダが言う勝機もこれを含めたもの。さらにシュダとジークは一瞬の目配せで互いの意志を疎通する。立会人。決闘を見守る存在であり手出しはできない。だがシュダはもしハルにもしものことがあればその誓いを破ってでも割って入る意志がある。ハルを守ることはシュダにとってはゲイルと交わした誓いなのだから。

 

 

「分かった……だが無理はするな、ハル」

「ああ……悪い、ジーク……」

「ハル……」

 

 

一度目を閉じながらもジークは今のハルを止めることはできない。それはエリーも同じ。もはやハルを止めることはできないと悟りながらもいつもと様子が違うハルに不安を隠しきれない。できるのは見守ることだけ。

 

 

(よし……! ジークの乱入は予定外だったがとりあえずハルとの一騎打ちにはなったか……!)

 

 

ルシアはそのやり取りを見ながらとりあえずは計画通りに事が運んでいることに溜息を吐く。ルシアの目的はハルと戦い、シンクレアを手に入れること。無理にジークやシュダと戦う必要はない。後は自らの戦いに集中するだけだと気合いを入れるも

 

 

「そう……なら私はあの魔導士の相手をするわ」

「…………え?」

 

 

絶望さんのさも当然とばかりの宣言によってルシアは思わず素の声を上げてしまう。一体何を聞いていたのかと叫びたい物の流石にハル達の前でそんな姿を見せるわけにはいかないルシアはどうにか抑えながらジェロに問いただす。

 

 

「どういうつもりだ……? これは俺とレイヴマスターの決闘だぞ」

「ええ、それを邪魔するつもりはないわ。これは私の役目よ。あの魔導士を生かしておくわけにはいかないわ……他の有象無象は見逃しても構わないけれどアレだけは看過できない」

 

 

ジェロは氷のような冷たい視線でジークを貫きながら宣言する。ジークハルトを排除することが今の自分、四天魔王の役目だと。大魔王を守護することがジェロの目的。その意味ではレイヴマスターとルシアを戦わせることも許されないのだが人間界に来た際の契約によってハルとエリーに手を出すことはできない。何よりもハルではルシアには及ばないと確信しているからこそ。ジェロにとっては目の前のジークの方が脅威度ははるかに高い。同じ魔導士であるジェロにはルシア以上に今のジークの力を感じ取れる。その内にあるであろう存在も。ハル達全てを含めてもジーク以下。それが四天魔王としての、ジェロの判断。

 

 

(ちょ、ちょっと待てよ!? 何でそんなにやる気満々なわけ!? ウタじゃあるまいし、じゃなくてどうすんだ!? いくらジークが強くなったっていってもジェロが相手じゃ殺されちまうんじゃ……)

 

 

既に臨戦態勢、殺る気満々の氷の女王の姿にルシアは冷や汗を流すしかない。ハジャを倒し、大魔道を超えたとはいえ相手はジェロ。その恐ろしさ、出鱈目さをルシアは身を以て知っている。しかも自分が受けた手加減したものではない本気の彼女に敵う者など現段階ではウタ、もしくは自分だけ。ハルやエリーであれば手を出すなと命令することもできるがジーク相手では通用しない。ハルと決闘しながらジェロを抑えることなど不可能。もしかすればジークはリーシャの墓に関係する影響でその時が来るまで死ぬことはないのかもしれないが希望的な観測に過ぎない。何とかジェロを止める方法はないか頭を働かせる続ける中でようやく一つだけ手段を見い出す。

 

 

「分かった……だが殺すな。そいつには最後のシンクレアの場所を聞かなきゃならねえからな」

 

 

最後のシンクレアであるラストフィジックスの場所を聞き出すためにジークを殺さないこと。それがルシアが必死に考えた中の苦肉の策。ギリギリ最後の妥協点。本当なら手を出すなと言いたいところだがそんなことをしても言うことを聞かないのは経験済み。ならば一番無理がない理由でジークが死ぬことだけは避ける方法をルシアは選択する。もっともシンクレアの場所が分かってしまう危険も付き纏うまさに背水の陣。自分に対してだけ絶望の二つ名を欲しいままにするジェロにいくら感謝してもし足りない有様。

 

 

「……ええ、最初からそのつもりよ」

『あはは! 騙されちゃだめよ、アキ。ジェロったらさっきまでそのことを忘れてたんだから!』

「…………」

『あ、はは……ごほん! と思ったんだけどそんなわけないわよねー! 相手を殺さずに生かしたまま氷漬けにするのがジェロの特技なんだし、これ以上に敵役はないわね!』

『いつも凍らされておる貴様が言うと説得力が違うの……』

 

 

バルドルが鬼の首を取ったかのように大笑いをするも、すぐさまそれはジェロの絶対零度の視線によって終わりを告げる。できるのは条件反射のように言い訳になっていないような言い訳をするだけ。ハル達から見れば戦闘前の緊迫した状況であるはずなのに何故いつも自分の側はこんなにグダグダなのかとルシアは嘆くしかない。

 

 

「……ここではハルとルシアの戦いの邪魔になる。場所を変えるぞ」

「いいわ。好きな死に場所を選びなさい……」

 

 

戦いは避けられないと判断したジークは星跡の洞窟から外の山へと戦場を移すことを提案する。魔法戦となれば間違いなく洞窟が保たないであろうこと、何よりもハルの戦いの邪魔になることを避けるための行動。加えてジーク自身にとってもこの戦いの意味は大きい。四天魔王という敵の最高戦力の一つを削ることができる千載一遇の機会。他の三人の魔王もいれば勝機は微塵もないが一対一であれば可能性はゼロではない。

 

対してジェロには全く油断も慢心もない。ただあるのはルシアにとっての脅威となる物を排除することだけ。場所を変えるという点においては利害が一致した両者はそのまま飛行魔法によって風のような速さのまま洞窟から姿を消す。互いに己の役目を果たすために。奇しくも超魔導という同じ称号を持つ二人の魔導士の決戦が始まらんとしていた。

 

 

『し、死に場所って……あいつほんとに俺の話聞いてたんだろうな……?』

『まあジェロだし。あんまり当てにするのはよくないかもねー』

『あら、ジェロがいなくなった途端強気になるのねぇ?』

『あなたも人のことはいえないと思いますが。声が震えていますよ?』

『う、うるさいわね! ジェロに凍らされたことがないあなたには分かるはずがないわぁ!』

『そうよそうよ! あの恐怖を味わったらもう何も怖くないわ!』

『情けなさの極みじゃな……』

 

 

姿が見えなくなったジェロに一抹どころではない不安を抱きながらもルシアにはどうすることもできない。唯一できるのは一刻も早くハルとの戦いを終わらせ、ジェロの元に行くことだけ。

 

 

「さてと……じゃあこっちも始めるとするか、ハル」

 

 

ルシアは気を取り直しながらネオ・デカログスを構える。様々な条件があるものの今すべきことはハルと戦い、シンクレアを手に入れること。言葉にすれば単純だがルシアにとってはその限りではない。ただ相手を倒すのではなく、相手を殺すことなく制する戦い。全力で暴れることは許されない試練。

 

だがハルにとってそんな事情は知る由もない。ハルにとってこの戦いは避けて通れない、シンフォニアでの戦いの続き。そしてカトレアとの約束を守るための試練。だがハルはまだ気づかない。気づけない。自分の内にある感情を。この戦いにおける自分がいつもとは違い、平常ではいられない理由。アキと戦うことの本当の意味を。

 

 

「……エリー、見ててくれ。オレはアキを止めて見せる。オレはアキよりも強い」

「ハル……?」

 

 

エリーにはそんなハルの心の内を知る術はない。あるのは胸が締め付けられそうな不安だけ。ハルとアキ。共に大切な存在である二人が争うこと。何よりもハルの変化こそがエリーにとっては気がかり。だがもう賽は投げられた。立会人であるシュダも言葉を発することなく二人の剣士の戦いを見届けるのみ。

 

 

『ふん……どうやら四つ目のレイヴを手に入れたことで調子に乗っておるようじゃな。よかろう。我と主の力を見せつけてやろうではないか』

『……? 何言ってやがる。俺はてめえを使う気なんてさらさらねえぞ』

『なっ!? ど、どういうことだ!?』

『悪いが一発ギャグを見せられるのは御免だ。俺はてめえを使わねえ。俺はてめえを使わねえ…………ほんとお前は使えねえ』

『な、何故二回言った!? というか最後のはどういう意味じゃ!? まだウタの時のことを気にしておるのか!? あれは例外じゃ、そもそもあれはお主が…………!』

 

 

心底投げやりになりながら、それでも絶対の覚悟を以てルシアはマザーの不使用を宣言する。マザーはあまりにも自分への待遇が悪いこと、久しぶりに役に立てると意気込んでいたため食い下がるもルシアの決意は固い。この状況でマザーを使うほどルシアはお約束を守れない。例え世界の修正力があったとしても抗って見せるほどの覚悟が今のルシアにはある。最後の呟きは心からの声。

 

 

ハルとルシア。両者の間にある凄まじい温度差を超えながら再びレイヴマスターとダークブリングマスターの戦いの火蓋が今、切って落とされた――――  

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