sideキュゥべえ
―マミの部屋 夕方
「ただいまー。
……寝てるのね」
学校の帰りに乗っていたマミの肩から飛び降り、リビングの窓際で鼻ちょうちんを膨らませながら爆睡する(外見は)幼女の傍に座る。
マミは中学生としての生活があるのに対し、クトは、文字通り
本人曰く、やろうと思えば能力で誤魔化すことも出来るらしいけど……
ま、気紛れな性格のクトのことだ。 まずやらないだろうね。
そんなこんなで、マミが動けない日中、特に昼は町内パトロールで魔女狩りをして、余った時間で簡単な家事や趣味に没頭するという、だらけた生活を送っていた。
「はぁ………クト、起きておくれ」
「ぃぁー…………ぃぁー………」
「………」
当然といっては何だけれど、声をかけた程度じゃ、この堕落幼女は目を覚まさない。
最初の頃は、いっそ見事なまでに膨らんだ鼻ちょうちんを割ったり、額に水滴を垂らすとか、クトのリアクションを楽しめるような起こし方をしていたけれど、最近は、もっと別の方法で起こすことにしている。
……だって、
「あー手が滑ってクトの紅茶にトウガラシの種がー(棒)」
「what?!」
狸寝入りなんだもん。
キッチンから聞こえてくるマミの棒読み台詞に跳ね起きてツッコミを入れるクト。
「クト、おはよう」
「…………くーすー」
「なんでキミがそこまで惰眠を貪るのを好むか分からないよ」
「午後の陽気」
「納得したよ」
「オイマテマジか」
もはや日常の一部とかした応酬をしていると、マミが紅茶とお菓子を持ってくる。
「――! 今日はカップケーキか!」
「キミ、性格の割にはかなりの甘党だよね」
「どういう意味じゃん??」
言いながら、クトがケーキに手を伸ばすと――
「クト?」
「……あー、うん、」
マミに窘められ、照れたように指先で頰をかく。
「………お、おかえり、マミ」
……………青春だねぇ。
「………青春、違くね?」
ケーキを食べ終え、ポットの紅茶も半分になった頃。
「――クト、今晩暇かしら?」
「基本年中暇でっせ。 一応、変異した方の魔女は撃破済みだし」
床に置いてあるポーチを軽く叩くと、中から僅かに硬い物がぶつかる音がする。
「美樹さやかと魔女退治ツアー、だろ。 使い魔から成長したタイプを確認した場所はメモってあるから、そこから追えばいいさ」
「………悪いわね」
「いいってことよ。 誰かの絶望する顔見て愉悦る程、性格歪んでないし」
魔法少女にとって必須のグリーフシードすら、クトという特大のイレギュラーと、マミのような正義感のある少女の前には、別のモノ――
絶望に負けてしまった被害者、という存在になる。
グリーフシードに穢れを押し付け、インキュベーターに取り込ませるというのは、考えようによっては『殺人』となる。
もちろん通常ならグリーフシードをソウルジェムに戻す事は不可能だし、ましてやそれは、魔法少女にとっては生命線ともいえるモノ。 そこまで考えが至ったとしても、そういうものと割り切るしかない。
だけど、クトには、そんな『仕方ない』を真正面から握り潰す理不尽性がある。
ソウルジェムを、誰も想像出来なかった、というか思いついてもやらないような方法で浄化し、
魔女との命懸けの戦いも片手間で制し、
挙句、グリーフシードすら浄化可能という、まさしく『理不尽』。
……うん、改めて思い返すと、完全なまでに『ぼくのかんがえたさいきょうのまほうしょうじょ』だね。
敢えて問題点を挙げるとすれば、性格が若干、いや、かなり似合わない点だろうね。
「……おい、今ソコソコ失礼な事考えてなかったか?」
「気のせいだろう。 それよりも、予定は決まったかい?」
「先送りって事がな。 元魔法少女か使い魔成長かを見分ける方法が私の能力頼みな以上、下手にさやかに魔女を斃すなとはいえんし、かといって、ほっといて後から後悔っていうのもマズイからな。 暫くはつきっきりって事になったよ」
「成る程ね。
ところで、彼女についているだろうインキュベーターはどうするんだい?」
「今日は保留。 纏まってるのを無双するならともかく、一匹二匹だけ潰すっていうのもなぁ」
「幾らでもいるからねぇ」
ポーチに入っていたグリーフシードを小さな金庫にしまい、軽くなったポーチを腰に巻く。
「そいじゃ、飛ぶz
「歩きで行こう!? 頼むから!!」
〜少女移動中〜
――結局ボクの懇願は無視され、飛んで美樹さやかの家に向かった。
現在、出待ち中とのこと。
「………バカと煙は高い所になんとやらと言うけど、キミの場合、周りを巻き添えにして急上昇するから迷惑なんだよね」
「え? じゃあ低空飛んでソニックブームで街薙ぎながら移動するのか?」
「根本的に飛ばないという選択肢は?」
「飛べる翼がある以上、選ばないな」
「―それより貴女、音速で飛べるの?!」
「おう。 衝撃波の処理が面倒だから、普段はしないけど」
「今度いいかしら?!」
「………低温やら爆音やらでロクな環境じゃないぞ? というか私がヤダ」
「えっ」
そうこうしているうちに、さやか
――ではなく、鹿目まどかが現れる。
「――あ! マミさん! クトちゃん!」
「あら? 鹿目さん、どうしたのかしら?」
「私、さやかちゃんの事が心配で……マミさんも、あの時、死んじゃったと思ったから、怖くなっちゃって……」
「大丈夫よ。 私もいるし、今度は
「ヤバくなったら肉盾にされそーな予感」
「アイテム→使用で、全自動かつ問答無用で敵をワンターンキルする盾だね、分かるとも。 メタル狩りにもってこいだよ」
「なして例えがドラ○エ?」
「……………えっと、なにこの面子??」
あ、美樹さやか。
……………と、インキュベーター。
「まどか、このメンバーの中で君が一番弱い。 足を引っ張らない為にも、僕と契約して魔法少女n
「やったら
……さやか、いきなり目の前に魔女がいるけど?」
開口一番に契約と、クトの排除にきたか。
さやかからは、クトが魔女だというイメージは拭えてない。
すわいきなり戦闘かと、いつでも逃げれるように足に力を入れて――
「あー……それなんだけどさ、キュゥべえ。 クトって、本当に魔女なの?」
「そうだよ」「違うよ」
「???」
そっか、彼女にとっては、ボクらは同じ『キュゥべえ』だからね。
「……………そういえば、なんでクトはそのキュゥべえ以外を『インキュベーター』って呼ぶのかしら?」
「ソウルジェム、エントロピー、グリーフシード、
「……………分かったわ」
「「???」」
さやかとまどかは、全く理解出来ていないようだった。
それもそうか。 彼女たちは、魔法少女の実態を知らないんだから。
「……このままだと会話が進まなそうだから、取り敢えず今日は、ボクのことを『ジュゥべえ』と呼んでおくれ」
「……分かった。 それで、キュゥべえ。 クトが魔女って、本当なの?」
「当たり前じゃないか。 君には彼女の胸部にあるグリーフシードが見えないのかい?」
「そうなんだけどさ。 魔女っぽくないというか、なんというか……」
「君はそんなあやふやな理由で彼女を信用するのかい? 訳が分からないよ」
うぅむと腕を組んで唸るさやか。
「……………クト。 あたしたちを襲わないって、約束出来る?」
「おう。 約束しよう」
「……………ん。 ならあたしは、あんたを信じる」
「さやか!? 君は魔女に背中を預けるというのかい?!?!」
「うん。
………言い訳するみたいだけど、不意打ちもダメ、真っ向から戦ってもダメなら、一先ずは逃げなきゃだし」
「正しい判断だ。 勝てると思ったら、またおいで。 相手になろう」
「………」
………あれでまだ、まどかを魔法少女にする事を諦めてないのだから驚きだよ。
「――よし! 行こう!」
〜少女探索中〜
―裏路地
ほぼ元の景色のままの、不安定な結界を見つけ、侵入する。
「……使い魔の結界ね」
「楽に越したことはないですよ、初心者なんだし」
「――あっ! あそこ! 使い魔が!」
まどかの指す方を見れば、"クレヨンで描かれたようにデフォルメされた小さな飛行機からはえた生首がボールで遊んでいる"という、字面にするとホラー以外の何ものでもない使い魔が漂っていた。
「よっしゃ!
――くらえっ!」
変身を終えたさやかが飛ばした斬撃が、使い魔を――
バチィッ!
「!? 弾かれた…!?」
「――ちょっとちょっとー、何やってんのさアンタたち。
あれ使い魔だよ? グリーフシード持ってる訳ないじゃん?」
丁度十字路になっている場所の左側から、槍を持った赤い少女が歩いてくる。
「…魔法少女?」
「やっと来たね、杏子」
「――あっ、逃げちゃう!」
使い魔が、いつの間にか逃げ出していた。 流石に、4人もの魔法少女が集中した場所からは逃げる程度の習性はあるみたいだね。
「追わなきゃ――」
「だから、やめろっつーの。
――!?」
その穂先は、いつの間にか掴まれていた。
「………アンタ、なんのつもりだ?」
「かわいい後輩を見守る先輩だよ。
さやか、追え。 こいつは私が抑えておく。 マミ、一応ついて行ってやってくれ。 キュ…ジュゥべえ、離れとけ」
「ありがと! まどか、行くよ!」
逃げていった使い魔を追って、さやかとまどかとマミが、少女の横を通って行く。
「……クト、佐倉さんは、」
「
「――さて、さて。
最近の魔法少女は随分と物騒になったな?」
「………あぁ、そうか。 アンタが噂の
少女の視線が、僅かに揺れる。
通り過ぎて行った少女を追うように。
「……マミは死んだって聞いたんだがな」
「あの通り、ピンピンしてるよ。 アテが外れて残念だったな」
「……………」
「……………」
少女とクトの、槍を掴む力が段々強くなる。
「………いい加減離せよ、チビ」
「………格上に対する言葉使いとは思えんなぁ、
「あ"ぁ"?
――上等じゃねぇか。 どっちが上か、ハッキリさせようか!!」
ガキンッ!
槍を手放すと、魔法で新たに槍を生成、再度突き出す少女。
それに対して、クトは手元で槍を回して持ち直し、突きを防ぐ。
「――これで終わりか?」
「――っ! テメェ、いい加減にしろっっ!!」
少女が矛先を滑らせて斬りかかろうとするが、それに気がついたクトは更に槍を回して振り払う。
距離が空くが、少女は直ぐさま槍の柄を分裂させ、多節棍でクトの持つ槍の枝分かれしている部分に巻き付く。
「――ん?」
「っらぁ!!」
少女が槍を振る動きに合わせて、クトの手から槍が奪われる。
更に追撃され、矛先が、棍が、連撃でクトを襲う。
その全てを、両手だけで弾き、逸らし、防ぐ。
「チッ! さっさと死ねこのチビ!!」
「誰がチビだクソアマ!!」
ゴギィィン!!
槍による薙ぎ払いと手刀がぶつかり、もう一度距離が空く。
「………クソ、しぶといチビだな」
「ケッ! 言ってろ、もう手は見えた。 あんたじゃ私にゃ勝てねぇよ」
「あ"……? ざけてんじゃねぇぞ!!」
少女が、槍を袈裟斬りに振るい―
ギィンッ!
「!? なっ――」
「……ハッキリ言ってやろうか?
私の勝ちだ」
――骨翼が、それを受け流す。
「――魔女がっ! 正体表しやがったな!
――っ!?!?」
少女が槍を振るうも、その軌道上には既に骨翼が囲うように展開されたことで満足に動かせず、
そのまま壁に縫い付けるように、けれど傷つけないよう、少女の輪郭をなぞるように先端が突き刺さる。
「………まだ、やるか? 佐倉杏子」
「!? アンタ、どこかで会ったか……?」
「……………私の方が聞きたいよ、んなこと」
コスッ、という小さい音と共に、骨翼が壁から外れる。
「――で? どうする? 私なら幾らでも付き合えるぞ?」
「………マミが生きてるんなら、この街はアイツの縄張りだ。 大人しく帰るとする
「それは困るな」
………あん?」
槍こそ構えていないけれど、一切の油断無く、軽く腰を落とす。
「二週間しないうちに、この街をワルプルギスの夜が襲う」
「…………なぜ分かる?」
「……………私があんたの名前を知ったのと、同じ手だ」
「答える気は無いってか?」
「そうだな………
私と同じように、ワルプルギスの夜の襲来について口にする奴がいる。 そいつから聞き出したらどうだ?」
「……………考えておくよ」
軽快な音を立てて、杏子が離れていく。
「…大したジャンプ力だこと。 あれで飛べないってんだから驚きだ」
「ボクとしては、魔法少女に飛行能力が無いのは喜ばしいことだよ」
「それ、単にあんたが高い所嫌なだけだろ」
クトと杏子の話し合い(?)が終わったのを見計らって、物陰から顔を覗かせる。
「――そういえば、マミたち、大分時間がかかってるね」
「ん? ん〜……
……この感じだと、使い魔が逃げた先で魔女にバッタリ、だな。 あの魔力の感じだと、私が昼に
「………便利だね、その能力。 魔法少女からサトリ妖怪にジョブチェンジしたらどうだい?」
「だから私は邪神だって」
軽口を叩きながら、ボクらは夜の街を走る。