sideキュゥべえ
―見滝原市 裏路地
今日も、マミたちは美樹さやかと一緒に出掛けるつもりらしく、どうせならとハブられたクトの暇潰し――魔女退治に付き合う事にした。
まあ、結果は言わずもがな、
と言いたかったんだけれどね。
「テメェはっ!! 一々ヒトの武器盗らねぇと戦えねぇのかよこのチビ!!」
「あンだとコラ?! この大いなるクトちゃんさまが手加減して槍縛りでやってやってんだから噎び泣けゴルァッッ!!」
ガッガキゴギゴガボキドゴガスズガギリドガゴシャメキゴカキュブッ――
………そういえば、佐倉杏子もボッチで、尚且つ暇潰しで魔女狩りとかしそうだなぁ。 今更気がついても後の祭りなんだけどさ。
因みに事の経緯は、
クト、魔女を半殺し中→杏子乱入、「テメェか! 最近使い魔だけブッ殺しまわってるってるバカは!?」発言→クト、安定の挑発→槍で切り掛かる→武器をゴ・ウ=ダツ、戦闘開始→激化。魔女は巻き添えくらって消し飛んだ。ついでに杏子といたインキュベーターも塵になった。←今ココ!
――ゴッギィィィィンッッ!!!
「っ?!? しまっ―」
杏子の槍の柄――正確には、多節棍の連結部が切断され、そのままの勢いで穂先が杏子の首を――
「―――っ、と」
……切り裂かずに、直前で止められる。
「………テメェ、なんで止めた?」
「私としては、遊び相手に杏子は丁度いいんだよ。 だからこんなふざけた理由で脱落すんなってこと」
「あぁ!? 遊び相手だ?!」
「ん? おう。 さやかはまだ素人だし、ほむらは
そういう意味なら、杏子は丁度いいんだよな。 程よく強いし、私も槍の練習出来るし」
あー………あれは素で言ってるね。
ほら、杏子も肩が震えてるよ。 主に怒りで。
「…………なめやがってぇ…………っ!!」
「よっと」
杏子が隙を突く形で槍の先端部を投げつけるけど、アッサリ避ける。
「上等だテメェ………ぜってぇ負かしてやる……っ!!」
「お、やる気出てきたか! さて、もいっちょやりますかぁ!」
……殺る気の間違えだろう。 ま、いいや。
『クト、終わったら声かけてくれ』
『フルバーストォ!!
―あ、いいよー』
………うん、ボクは何も見ていない。
クトが杏子に叩きつけた槍から、爆発が起きたなんてふざけた光景も、なんかクトの持つ槍がちょっとずつ変わってきてる光景も見えない。
見えないったら見えない。
………さて、クトとも別れた訳だけど、どうしよう。
あんまり離れるのも不安なんだよね。 前に一度、インキュベーターの群に殺されかけた訳だし。
……だからって、あの戦場に戻るのもなぁ。 クトがそれとなく誘導してた(魔女とインキュベーターはそれで消し飛んだ)とはいえ、ハイになったクトが周りを気にしなくなる可能性もあるし……
「おーい、終わったぞー」
「あれ? 思ったより早かったね?」
「石突きでカチ上げ喰らわせたらブッ飛んで、そのまま逃げやがった」
「………生きてるのかい?」
「大丈夫だろ。 ちゃんと自分の足で走ってたし」
そういう問題じゃ無いと思うな。
あとクト、その槍……というか、
「あんこからパクったのを私の魔力で再構成した」
「………なんというか、随分変わったデザインだね」
元となった佐倉杏子の槍は、十字架状の穂先に、多節棍にもなる長い柄が特徴の十文字槍だった。
けど、今クトの右手に握られてるのは、冒涜的で禍々しい、名状し難いナニカの爪と思われるモノを模しているだろう三角錐の長い矛先に、それこそ剣として振るうことも可能なんじゃないかと思うほど短い(と言ってもクトの片腕程度はある)柄。
「………キミの芸術センスは、その、大b、いや、少しばかり、変わってるね」
「? こんなもんだろ。
そもそも杖や観賞用なら兎も角、殺傷能力を重視する武器に相手を感動させるような装飾なんていらんし。 寧ろビビらせるくらいで丁度いい」
あ、流石にその辺は分かっていてそのデザインなんだね。
「再構成したって、よく魔力が保ったね」
「さっきウッカリぶちのめした使い魔野郎のグリーフシード使って、濁るまでのタイムラグの間でやった」
「成る程。 それなら、極短時間であれば魔法を使えるというわけだね」
「そゆこと。 そいじゃキュゥべえ、ちょいとテキトーなトコから色々パクリに行くぜい」
「そのテキトーと色々って、具体的にはなんなのさ?!」
〜人外物色中〜
―見滝原市 土手
「――いや〜、大量大量! こんだけあれば暫くは困らないぜ!」
「…………えっと、く、クト? 本気で
ボクが震えながら指すのは、クトのランス。
「そりゃ造ったからには使うさ。
え、なんかミスってる所あった?!」
「いや、どこも間違えてない、設計通りに出来てる。
………………強いていえば、発想そのものが間違えてる」
「じゃあ問題無いな」
季節外れの鼻歌――クリスマスソングとして有名な『もろびとこぞりて』、でも何処か
彼女が造り上げてしまったゲテモノが、その真価を発揮する日が来ない事を祈ろう――として、そういえば丁度よく実験台ワルプルギスの夜がいることを思い出して、思わず目が遠くなる。
………この街に未来はあるのだろうか。
「――ん?」
思わず星を眺めていると、ランスを眺めて愉悦に浸っていた(やっぱり芸術センスおかしい)クトが、急に遠くのビルを睨んだ。
「クト、どうしたんだい?」
「…………………
ガチャッと、ランスがクトの左腰に無理矢理固定され、更に能力によって隠される。
「……………キュゥべえ、先に帰ってろ」
「??? え、ちょっと、――」
次の瞬間、
彼女は、音も無く消え去っていた。
その後、マミと合流することには成功したけれど………
その晩、クトが帰ってくることは無かった。
―翌朝
―マミのマンション
……マミの朝は遅い。
学校がある平日や予定のある日なら兎も角、休日は昼前までゴロゴロしているのは珍しいことじゃ無い。
昨日の夜更かしもあって、ゆっくり寝ていたのに、
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
無粋な連続チャイムが響き渡る。
クトなら鍵の有無なんて無視して入ってくるから、わざわざチャイムを鳴らしている時点で違うだろう。
「ふぁ〜………はいはい、今いくわ〜」
まあ、無視する訳にもいかないから、マミが眠そうな目を擦りながら対応してるけど。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピn
ガチャ
扉が開くと、鬼気迫る表情の佐倉杏子と暁美ほむらがいた。
「……そんなに連打しなくても大丈夫よ。 それで? 2人共、休日の早朝になんの用よ?」
「――マミ! クトは?! あのチビは?!?!」
「えっ」
「巴マミ、説明している暇はないわ! 一刻も早くあの悪魔を――」
「ちょ、ちょっと!! 落ち着きなさい!! クトなら、昨日から帰ってないわ!!」
「「なっ――!?」」
「……取り敢えず、入ったら? 2人とも、髪がボサボサだし…………
なんかこう、血っぽい匂いがするわよ?」
なるほど、クト関連で何かトラブルがあったんだね。
因みに彼らが連れていたインキュベーターは、クトが仕掛けたトラップで人知れず無音で始末されていた。
……取り敢えず、無断で跳ね板を設置するのは辞めようか。
部屋にすら入れずに犠牲者が綺麗な放物線を描いて墜落していくのが、閉まる直前の扉の隙間から見えた。
――その後、交代でシャワーを借りた2人から、昨日の出来事を伝えられる。
痛みを感じず、四肢を吹き飛ばしても断面の骨すら使って襲いかかってくる『狂人』。
その狂人が口にしていた、謎の呪文。
その呪文に含まれていた『くとぅるー』と、クトが言った『
「……それで。 何か知ってるかしら?」
「まず、クトがヒトじゃないのは知ってるわ。 本人から聞いたし、身包み剥いで羽がホンモノなのも確かめたし」
「………よくそんなのと生活する気になったな。 アタシにゃ無理だ」
「言動や姿が人にそっくりだから、慣れると気にならないわよ。
それで、『くとぅるふ』?
………先に聞いておくけど、唯の夢って可能性h
「「ないっっ!!」」
………そう」
そう言ったマミは、スマートフォンで何かを検索して、
「――これが、『クトゥルフ』よ」
突きつけた画面には、大海に浮かぶ石造りの島に佇む、緑色の、蛸に似た触腕を無数に生やした頭部に、巨大な鉤爪のある手足、コウモリのような飛膜のある、歪で醜い竜にも、巨人にも見える怪物が映っていた。
……あれ? 全く似てないね。
「……それと、貴女たちの話に出てきた狂人。 この邪神が語られる物語に出てくる『狂信者』まんまよ。
TRPGのリプレイでも見て、夢に出たんじゃないの?」
マミがジト目で2人を睨む。
まぁクトは、頭のネジが何本か足りないのを除けば、外見は病弱そうな、何処か暗い雰囲気を持つ少女だからね。
あの何が何だか分からない醜悪モンスターと同一とは考え辛いね。
「………そんなハズは……」
「……佐倉杏子。 昨日のビルに、もう一度向かうわよ。 ついて来てくれるわよね、巴マミ」
「…………………いいわ」
「!? 正気かよ?! アイツらとの追いかけっこはもうコリゴリだ!」
「追いかけられるんじゃないわ。
――私たちが、追いかけるのよ」
「で、でもなぁ――」
「佐倉さん、知ってるかしら? 一度巻き込まれた事件を途中で放り出すのはフラグなの。 クローズドサークルモノでも、『こんな所にいられるか! 意地でも脱出してやる!』って言ったキャラは、その直後、無惨な遺体で発見さr」
「よぉし殺るぞぉ!!」
「佐倉杏子、字が違うわ」
そのままワイワイとだべりながら出掛ける3人。
……さてと、ボクの方でも調べておくとするか。
一番手っ取り早いのは、本人に直接聞く事なんだけど、念話は返答が無かったし。
………そう言えば、美樹さやかと鹿目まどかはどうしてるんだろう。
彼らはこの事態を知らない筈だし。
物は試しで彼らに念w
『キュゥべえ、今どうしてるー?』
「クトォ?! 今どうしてるはコッチの台詞だよ!?」
……念話を送ろうとしたら、まさかの本人が向こうから送ってきたよ。
『今はさやかンとこに転がり込んでっから心配せんでいいぞぃ。
あ、マミには内緒でヨロ』
「内緒でヨロって……まあいいや。
――ところでクト、聞きたい事があるんだけど?」
『なんぜらホイ?』
「………君は、一体何者なんだい?」
『…………………』
クトの明るい声が、質問と同時に途絶える。
『………杏子とほむらか。 一晩でそこまで辿り着くたぁな』
「やっぱり、彼女達を襲った狂人について、何か知ってるね?」
『…………………あぁ。
――一応、言っておく。
襲われたら、死にたく無かったら、
「………クト、君は一体、」
『彼奴らは、私が片付ける。 アレは私の、私だけの獲物だ。 絶対に手を出すな』
そう言うと、念話が切られる感覚があった。
………クト、君は一体、