sideほむら
―ジャキィッ!!
撃鉄が上がっているM29の銃口を、クトの額に押し付ける。
人の目が集まるような感覚がするが、今は気にしていられない。
寧ろ、場合によっては今ここで時間を巻き戻すことすら視野に入れる。
「オイオイ、魔法少女を一撃で仕留めるなら、ソウルジェムを狙わなアカンよ」
「………………………貴女、今自分が何を言ったか、分かっているの?!」
「モチのロナウドで」
「ッッ!!!」
薄く笑った表情で、ネタを挟みながら、何処までも軽々しく『死』を口にする。
敵になるにしろ味方につけるにしろ、彼女はここで対処しなくては。
「………ソウルジェムを出しなさい。 貴女は、危険過ぎる」
「実力的にも性格的にも、大人しく従うと思うか? ぶっちゃけ今現在ほむらの生殺与奪権は私の手の中なんだけど? あ、ジュースもーらいー」
「……………………クッ」
大人しく銃を収める。
―確かに、今の私では勝てない。
だからと言って、対ワルプルギスの夜用の対戦車榴弾を使うのは―
「……………何が目的よ?」
「都合の良い手駒の入手。 安心しな。 鹿目まどかは魔法少女にさせないし、ワルビアルのヨットもキッチリ潰すから。 それならいいっしょ?」
………最低限、私の目的を達成するにあたっての協力は取り付けられた、と考えていいのかしら?
「……………ワルとヨしか合ってないわよ。 ワルプルギスの夜、よ」
「さいで。 行くよ、キュゥべえ」
いつの間にかポテトを完食していたクトが、席を立つ。
「指示はテレパシーで送る。
………………オマケだ。いい言葉を教えておくよ」
「………何よ」
少女が立ち止まって、それでも振り返らずに言う。
「『常識に囚われてはいけない』。
だが、探るな。理解するな」
そして――
今度こそ、クトは私から離れていった。
―数日後
「『常識に囚われてはいけない』、ね………
どういう意味かしら?」
見慣れた魔女を手榴弾と拳銃弾で瞬殺し、グリーフシードのストックを確保しながら、未だ答えの出ない問いについて考える。
常識なら、数回目のループで消し飛んでいる。
そもそもの話として、魔法少女そのものが一般的な常識からかけ離れた存在だし………
ピョン
「―暁美ほむr」
バスバスバスッ!
飛び出てきたインキュベーターを、変身を解く直前だったので憂さ晴らしついでに射殺する。
「――いきなり何をするのさ? 数を増やすのにもエネルギーを使うのだから、余り無駄使いしたく無いのだけれど?」
「なら今すぐ地球から出て行きなさい」
直ぐさまもう一匹湧いてくるが、話が進まないので見逃す。
「まあいいや。 じきに僕らは、無限と言っても良い程の莫大なエネルギーを入手出来るのだから」
「………? それはまどかのことを言っているのかしら?」
「半分は正解だ」
半分は? これまでのループで、インキュベーターはまどかばかりに集中していた。
………他に、まどかと同程度の資質を持った少女がいる?
そうだとすれば、最も可能性が高いのは――例の少女。
「……なら、その残り半分は好きにすればいいわ。 私は、まどかさえ無事なら、それでいい」
話は終わったと、狙いをつけて―
「――将来的に、確実に『ワルプルギスの夜』を超えるだろう魔女を生み出すグリーフシードの元に、巴マミが向かった」
「? それがどう、し――
………まさかっ?!」
インキュベーターの頭を鷲掴み、銃口でど突く。
「答えなさい! まさか、まどかも一緒にいるんじゃ――」
ループで巴マミはほぼ毎回、魔法少女の先輩として、まどかたちを連れて魔女と戦っていた。
「気になるなら一緒に来るかい? 僕もこれから向かう所だしね」
「…………………チッ、妙な動きをしたら、殺すわよ」
「それは少し困るね」
屋根の上を走るインキュベーターを、変身したまま追いかける。
位置関係こそこの間と同じだけれど、今は銃撃は無い。
まどか―――お願いだから、無事でいて!!
〜少女移動中〜
―廃アパート
結果として、まどかは無事だった。
より正確に言うならば、危険が迫るとしたら、これからだが。
和気藹々と魔法少女についての説明をしながらの巴マミと鉢合わせしてしまう。
出来ることなら、先に仕留めておきたかったのに!!
「―あら? 暁美ほむらさん?」
「げ、転校生」
「あ、キュゥべえがもう一匹?!」
「……巴マミ。 あなた、一般人を連れたまま戦うつもり?」
「ええ、そうよ。 生まれたての魔女が相手なら問題無く斃せるし、仮に手こずったとしても、彼女たちを守りながらでも勝てるわ」
「………素晴らしい自信ですこと」
油断無くこちらを警戒するマミに対し、皮肉を言うことしか出来ない。
純粋な戦闘能力なら、マミは私を遥かに上回る。
ここは大人しく引き下がるしか無い――
「――待ってくれマミ。 彼女は僕が呼んだんだ」
「……キュゥべえ?」
………余りにも予想外の方面からの援護に、一瞬本気で驚く。
「今回の魔女――実は、もう既に別の魔法少女が乗り込んでいたのだけれど、その子と連絡が取れなくなったんだ。
状況から言って、犠牲になった可能性が高い。 マミの実力を信用してない訳じゃ無いけれど、今回は共闘してくれないかい?」
「そうね………分かったわ、急ぎましょう。 暁美さんもそれでいいわね?」
……正直、怪しすぎる。
地理的に考えれば、このあたりで魔女と戦闘になるとしたら、佐倉杏子か
けれど、佐倉杏子はまだ風見原だろうし――
だとしたら、クト?
……何にせよ、私に断るという選択肢は無い。
「………分かったわ。 油断しないで」
そして、魔女の結界に一歩足を踏み入れれば――
―巨大な
「―っ!?」
――『お菓子の魔女』
奇しくも、それは警戒すべき魔女の一体の結界だった。
けれど…………
あの魔女が、ワルプルギスの夜すら超える程強くなるのかしら?
手榴弾5、6発で爆殺出来るあの魔女が?
――使い魔一匹出ない道を歩いていく。
先に来たという魔法少女が全滅させたのかしら?
………進んで行くうちに、その魔法少女が佐倉杏子であるという線は消えたけれど。
「…………うわぁ、なにこの現場。 どこのホラー映画よ」
「………っ」
「鹿目さん、大丈夫?」
道を進むと、大量のインキュベーターの死骸が転がっていた。
あるものは首と胴を引き千切られ、あるものは頭蓋を潰され、あるものは口から裏返ったハラワタを飛び出させ、あるものは真っ二つにされ、あるものはどう殺ったか血塗れのボールにされ、あるものは……etcetc。
更に、何故か大量の
「……転校生、一昨日くらいにキュゥべえのこと殺しかけてたけど――」
「これをやったのは私じゃないわ。 そもそも、私なら銃殺が爆殺する」
殺し方で気がついたけれど――
全て、素手で殺ってるわね。 どれ程の力が必要かはさて置き。
……じゃあ、その魔法少女って、クトのこと?
――だとしても妙ね。
彼女は、佐倉杏子を呼び出す為に巴マミを始末することさえ考えていた。
なのにお菓子の魔女と戦闘している?
一体どういう事かしら……?
――更に結界を進む。
インキュベーター殺戮現場はあの一箇所だけだったようで、ポツポツと2、3体転がっていることはあれど、さっきのような血の海は無かっt
――…ズドォォォォォオン…………
「!? マミさん! 今のって、」
「ええ! まだ誰か戦っているわ! 急ぎましょう!」
割と近くから衝撃音が響く。
走り出した彼女たちの背後を念の為守りながら、結界の最深部――魔女の居場所へ雪崩れ込むと――
「―あり? お揃い……って訳でも無いけど、どうした?」
魔法少女の格好(?)のクトが、魔女を撲殺した直後だった。
「……えっと、そこの貴女? これはどういうことかしら?」
頬を引きつらせながら、マミがクトに問う。
……まあ、気持ちは良く分かる。
魔女の居場所はほぼ破壊の限りを尽くされ、クト本人も大量の返り血を浴びて、只でさえ白い肌が一層強調されている。
一番原型を失っているのが魔女本体で、なにをどうすればそうなるのか、全体隈なくボコボコに陥没していた。悲惨だ。
「………私にもことの顛末が教えてくれないかしら?」
「お? ほむらちゃん、久しぶり。 ことの顛末っつても、私も成り行きでこうなったんだけど………」
本気か演技か、訳が分からないと言いたげに肩を竦めるクト。
「実は―
「マミ! ほむら! そいつの言葉に耳を貸しちゃ駄目だ!!」
……淫獣、まだ生き残っとったんかい」
私たちについて来ていたインキュベーターが声をはりあげる。
「……キュゥべえ? それって、どういう―」
「―
「「「「えっ!?」」」」
「………ファッ?」
慌てて振り向く。
彼女の右胸には―
―確かに、真っ黒なグリーフシードが埋まっていた。
「―騙したわね!?」
「―さっさと斃させて貰うわよ!!」
「ゑゑゑ!?」
両手に持ったマグナム銃の狙いをグリーフシードに固定する。
マミも大量のマスケット銃を展開、流石のクトも驚いたようだ。
ドォンドォンドォンドォンドォンドォン!!
ドッグォォォォォォォン!!
「ちょ、お待ちくだ、ノォォォォォォォ!?!」
警告無しで即時発砲。 44マグナム弾と魔力弾が雨霰とクトに降り注ぐ。
「っおい待てほむらぁ?! マミは兎も角、そっちまでインキュベーターの台詞をさらっと信じんのかよ?!?」
「うるさい! 最初から怪しいと思っていたのよ!!」
「デスヨネーコンチキショー!!」
『インキュベーターがもたらした情報』という点で確かに引っかかるが、彼女の危険性は既に分かっている。
彼女が魔女であれ何であれ、処理出来るうちに殺しておくべきだろう。
「っさっさと当たりなさい! 貴女に勝ち目は無いわ!」
「だが断る!! そもそもこの程度の密度の弾幕に当たっとったら恥ずくてウチの妹に会えんわぁ!! リアル弾幕ごっこ経験者舐めんなよーギラスっっ!?!?」
ヒョイヒョイとまるで上から見えているかの様に弾を躱していたが、時間を止めて散弾で球体状に囲み、吹き飛ばす。
「えっと、ほむらちゃん? 今の人?話しかけてたけど、良かったの?」
「……それは、」
「気にすることは無いさ。 おそらくあの魔女は、そうやって油断を誘って不意打ちするのが目的だろう」
「いやアンタが言うなよ淫獣」
クトすら心配する心優しいまどかの問いに答えるインキュベーターにツッコミを入れるクト。
でも成る程、淫獣とは言い得てmy………
「「―なっ?!?!」」
「へーいお嬢さんs、今ブッ放すと中々に悲惨なことになるぜ痛い痛い?!」
「このっ、離れろっ!!」ドコドコ
まるで最初からいたかのように、クトが美樹さやかの隣に立って腕に絡みついていた。 で、当然のようにバットで殴られていた。
「美樹さん!? 今助けるわ!」
「早めにお願いしますコイツマジで離れない!! 蛸か何かか!?」ゲシゲシ
「……え? なしてバレたし??」
「……はぇ?? 蛸?」
「イエス! アイム、オクトパース!!」
「…………ごめんね、ちょっと頭叩き過ぎたみたい」
「ちょい待てその憐れむ様な視線は何?!?! なんか心にクルものがあるんですケド?!?!」
…………………
「―いい加減にしなさい!!」
ドゥンッッ!
さやかがツッコミ、クトは絡みつき、マミがリボンで引っ張り、まどかが可愛らしくオロオロする、一部を除いてグダグダに成りつつあった場に、1発の銃声を響かせる。
「今度はなんじゃい? 私は今ピッチピチの
「離れろ変態っ!?」
ありがとうございますっ!?!」
今度こそバットがアッパー気味にアゴにキマり 、今度こそクトが吹っ飛んだ。
すかさずマミがリボンで拘束、口径が完全に大砲のソレに合わせて、奮発してスティンガーの砲門を突きつける。 後方確認――よし、誰もいないわね。
「……何か言い残すことは?」
「君たちは騙されている。 具体的には私は魔女じゃ無いっ」
「処刑することには変わら無いわよ女の敵」
「詰んだっっ!?!? 待て、話をしよう! 話せば分k
「『ティロ・フィナーレ』!!」
「死に晒しなさい」
ぃやな感じいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ………―」
2人による大火力の攻撃で、空の彼方まで吹き飛ばされていくクト。
ご丁寧に、フェードアウトして逝った場所には、1つの星が煌いた。
………靴の裏に鏡でも仕込んでいたのかしら。
……………あれ? 『吹き飛ぶ』?
しまった! あれじゃあ死亡確認出来ない!
マミたちも、何時までも解除されない結界に警戒する。
「……魔女は斃したのに、どうして―」
「さっきの魔女がまだ生きているか――別の魔女に結界を張らせているか、ね」
――でも、後者だと説明がつかない。
他の魔女に結界を張らせたにしては、使い魔を殺し過ぎている。
お菓子の魔女本体も死ん、で――っ?!
待って、どうして私は、お菓子の魔女がもう死んでいると判断出来た?!
――
でも、普通の魔女は死んだらどうなる?
――
つまり、考えうる答えは?
――『お菓子の魔女』は、まだ生きている!!
「―巴マミっ! 魔女の残骸の注意しなさ―」
急いで振り向けば、
魔女が、いつの間にか復活して、
「――え?」
グチャァッッ!!
―マミを、丸呑みにした。
パァンっっ
「――っ!?!?」
魔女を仕留めるべく、盾を操作して時を止めようとすると、軽い破裂音と共に結界が消えた。
まどかとさやかも放り出された様で無事だったけど―
――その場に、巴マミの姿は、無かった。