sideほむら
――巴マミが脱落して、次の日の放課後。
幸いにも、まどかは学校に来ていた。 少なくとも、心が折れてそのまま廃人――という事態にはならなかったようね。
……前のループで一度、あったのよね。 だから、出来れば巴マミも救いたかったけれど………
もう過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がないわ。 このまままどかが契約しないように注意して、ワルプルギスの夜を斃す準備を始めないと――
…? まどか、そっちはあなたの家の方角じゃあ――
………マミの部屋があるマンションの方角、ね。
〜少女尾行中〜
まどかがマンションから出てきたのを見計らって、声をかける。
「――自分を責める必要なんてないわ、鹿目まどか」
「え……
ほむらちゃん!?」
「話があるの。
――私の忠告、聞き入れてくれたのね」
マミのマンションは、学校からまどかの家とは逆の方角にある。
図らずも、マミが普段通っていただろう道を歩いていく。
「私が……もっと早くにほむらちゃんの話を聞いてたら、マミさんは……」
「気に病む必要はないわ。 それで巴マミの運命が変わったわけじゃない。
――けれど、あなたの運命は変えられた。
1人が救われただけでも、私は嬉しい」
「………
……ねぇ、ほむらちゃんはさ。 昨日みたいに……人が死ぬところ、何度も見てきたの?」
「えぇ、そうよ。
数えるのも………諦めるほどにね」
……この会話も、何度目か。
まどかを騙しているという罪悪感にさえなまれながらも、疑われないよう、演技を続ける。
「マミさんが死んじゃった事、誰も気付かないの?」
「巴マミには、遠い親戚しか身寄りがいない。 失踪届が出るのは、当分先でしょうね。
――向こう側で死ねば、死体だって残らない。 彼女は永久に行方不明のまま……
魔法少女の最後なんて、そんなものよ」
……ましてや、魔女になってしまえば、ね。
「……酷過ぎるよ。
マミさん、皆の為に、ずっと独りぼっちで戦ってきたのに、誰にも気付いて貰えないなんて。
寂し過ぎるよ……」
「元々そういう契約で、私たちはこの力を手に入れた。 誰の為でもない、自分自身の祈りの為に戦い続けるの。
誰にも気付かれなくても、忘れ去られても……
それは仕方のない事よ」
「私―――マミさんの事、忘れない」
「そう言ってもらえるだけ、巴マミは幸せよ。 羨ましいほどにね」
……話は、終わった。
早くイレギュラーへの対策を考えないと、それにグリーフシードの確保も――
「ほむらちゃんの事だって忘れないよ!
昨日助けてくれた事……絶対忘れたりしないから!」
…………………まどか、
でも、私は………
「…………………
覚えてるわけ………ないじゃない」
「……?」
「ごめんなさい、何でもないわ。
私、先に行く……」
今までのループに無かったまどかの言葉に、涙が浮かぶ。
振り切るように走り出すと、少し前の道に、なぜか両手を地面につけて項垂れている、特徴的な
「………え?? 巴………マミ……???」
「――ほむらちゃん、待っ、て……
……………え? マミ、さん??」
うそ、どうして、
巴マミは、死んだはず、どうしてorzって、え?? え???
それに、なにか呟いて――
「………うふふ………重曹………
魔法少女に………NaHCO3……」
ますます意味が分からないわ?!?! なんで魔法少女に炭酸水素ナトリウムなのよ?!?!
巴マミに憑いているらしいインキュベーターが、なにか話しかけるような仕草をすると――
ガバァッッ!!
「「っ!?!?」」
いきなり立ち上がるし! もう何処からツッコめばいいのよ?!?
「………なんで、あなたは、死んだはず、――」
なんとかマミ生存、重曹発言、ゾンビモーションのショックから立ち直って、話しかける。
「――うふふ。 暁美さん?」
………ただし、向こうはキャラが崩壊していたけれど。
「―一晩で随分鹿目さんと仲良くなったみたいね。 妬けちゃうわ」
「っマミさん……」
「ダメよまどか、様子がおかしい!」
巴マミは、元から厨二病を患っていた傾向があったけれど、今は特に酷い。
この、過去のループで一度も無かったことは、おそらく――
「状況的に考えて……
その化けの皮を剥がしなさい。 人の死をなんだと思っているのっ!?」
例のイレギュラーが関わっているとしか、思えない!
その事を問い詰めると、何やらインキュベーターと目配せ……
「………聞いているのかしら、あなたたち………っ!」
「勿論、聞こえているわ」
「……なら、さっさと元の姿に戻りなさい」
「元の姿ねぇ……
勘違いしているようだけど、私は巴マミ本人よ?」
「……………………」
……姿形はマミそのもの。 言動も、少しおかしいが、あり得ないと断言するほどじゃない。
ということは、まさか――
「―じ、じゃあ、マミさんは無事で、ちゃんと生きてるってことですよね!?」
「ええ。 ちょっと危なかったけどね」
「―ウソね。 あの状況であなたが生還できる可能性は、0よ」
――死人を、蘇らせた………っ?!?
「……ほむら、ちゃん?」
「巴マミ。 あなたのことはもう調べてあるわ。 当然、戦い方も。
――
たったこれだけで、あの状況を、
「………じゃあ、今ここにいる私は何なのかしら? 足ならあるわよ?」
……わざわざ死者を蘇らせたのなら、なんらかの狙いがあるはず。
なら、誘き出してやるわ……!
「………どうせ聞いているのでしょう、クト。 さっさと現れないと―」
時間を止め、一切の容赦無く、大量のパンツァーファウストとRPG-7をばら撒く。
―停止、解除。
「――巴マミが死ぬわよ?」
次の瞬間――
ざっと100発程の榴弾が、巴マミとインキュベーターに迫る。
「――ほむらちゃん!?!?」
「クっ――」
慌てて変身し始めたようだけど、遅過ぎる。
仮に間に合ったとしても、マスケット銃を顕現させるのにかかるタイムラグを考慮すれば、迎撃は不可能。
だから、彼女を守るためには――
「――私、これでも御都合主義ってあんま好きじゃ無いんですけど?
まあその塊な奴が言っても説得力無いのは分かってんだけどさ」
――バケモノが、出て来るしかない。
ドゴガガガガガガガガガガガガ――――――――ッッッ!!!
双翼の魔女が、その二対の翼で、的確に榴弾を撃墜していく。
一対は、布がはためく様な動きで斬り刻み、
一対は、その翼の先端が指の様に蠢き、弾き、貫き、叩き潰し、
打ち漏らした弾は、その側面を掴んで他の弾に投げつけ、誘爆させる。
……随分とメチャクチャね。 あれを無傷で切り抜けられた以上、私1人では厳しいわね。
「………やっと現れたわね――
――クト!」
「脅しといてやっともポッドもないだろ。 悪りぃけど、この後ちょっち予定あるんだ、やるなら私も相手するぜい?」
絶望を象徴する魔女らしく、骨で形作られている翼を大きく広げ、身構えるクト。
「……一応警告しておくぞ。 幾らブッ飛んだ能力持っていようが、火力は手持ちの兵器に依存しているアンタじゃ私にマトモなダメージを通すことは出来ないし、それでなくても2対1、オマケにそっちは
「………敵の言葉を素直に信じるとでも?」
確かに、榴弾の雨は防がれた。
なら、それ以下の小ささで迫る、しかも0距離で放たれる銃弾ならどうかしら?
時間を止め、一番威力のある拳銃を盾から二丁引き抜き、右胸に輝くグリーフシードにつきつけ――
………あの身体能力相手に、正面に立つのはマズイわね。
それに、正直にこのグリーフシードが急所だとも思えない。
………ここは素直に、背後から後頭部を狙いましょう。
―停止、解除。
「……デザートイーグル.50AE、か。
「あなたに褒められてもなにも嬉しくないわ」
「まそりゃそうか。
で? 撃たないのか?」
「――どうやって巴マミを生き返らせたのか、説明しなさい」
……場合によっては、やり直しの手段が増やせる。
このループで、決着をつけられる!
「わざわざ最強のマグナムオートを出しといてそれk」
銃口でど突く。 今私が聞きたいのは、そんなどうでもいい事じゃないわよ!
「……分かったから、銃口を降ろせ。 地味に痛い」
「…断るわ」
「あ、そ。
っつてもねぇ……生き返らせたって、そもそも死んでない人に使う言葉じゃないと思うがな」
「……………続きを喋りなさい」
「いちいち頭を小突くでない。
……私は魔女じゃなくて魔法少女だって言ってるのに、話聞かなかっただろ? それで1人ずつゆっくり言い聞かせようと思って、まず近くにいたマミを拉致った。 それだけだ」
………確かに、ここまで人間に酷似していて、知能がある個体は初めて見るけど……
「…………………あなたが仮に魔法少女だとして。 なぜソウルジェムが濁りきった状態で放置しているのかしら?」
「これでももう今日だけで3回くらい汚れを落としたんだけどな? コレについては寧ろ私が聞きたい」
「………信用出来ないわね」
「ごもっとも。
取り敢えず、一旦引いてくれないか? 私としても、無駄な戦闘は避けたい」
……ここは、退くべきかしらね。
相手の情報が足りない以上、危険はつきまとうし。
なにより、まどかがいる。 コイツがまどかに襲いかかった時に、護りきれる自信が、無い……
「…………………………………………………チッ。
さっさと行きなさい」
「どーも」
銃口を下ろすと、小さな足でテクテクとマミの方へ歩いていく。
………考えてみれば、あの子、本当に魔法少女だとしたら、小学生くらいの歳よね。
……………彼女が魔法少女であることも考慮して動こうかしr――
「――マミさん!」
「? 鹿目さん?」
「また………また、魔法少女体験コースに、連れて行って、くれますか………?」
「!
――えぇ、もちろん!」
………前言撤回。
あの魔女、いつか絶対殺す!!!
折角まどかが魔法少女になる事を諦めていたのに!!
これを狙ったのね、あの悪魔ァっ!!!
「……………マミ、保護者サマがマジギレしそうだから今日はやめてくれ。 本気のアレを生け捕れとか、私でもキツい」
「……怖っ?!」
「……右に同じく。 マミ、行くよ」
「分かったわよ」
「ほむぅぅ!! ほむぅぅぅぅっ!!!」
「……えっと、ほむらちゃん? 荒ぶってるけど、どうしたの?」
「――ふっ。 大丈夫よ、まどか。
ちょっと各種手榴弾と爆薬と対物ライフルの調達を心に誓っただけよ」
「ほむらちゃん、戦争でも始めるの?!?」