とある少女の救済神話 【完結】   作:カリーシュ

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表ルート:第5話

sideほむら

 

 

今日も私は、機械的に魔女を探し、狩る。

 

 

 

 

 

ループでの流れから言って、もうそろそろ魔法少女の実態が、

 

奇跡と魔法(偽りの希望)の陰に隠された呪いと現実(絶望)が顔を覗かせる。

 

幸い、現段階での犠牲者は0。 それどころか、私にもインキュベーターにも制御不能のクト(ジョーカー)まで場に出てる。

 

 

「……しっかりしなさい、暁美ほむら。 正念場はここからなのよ」

 

……美樹さやかの魔女化。 そこから転がり落ちるように退場する佐倉杏子。

その段階までマミが生き残っていたケースもあったけれど、彼女も発狂し、死ぬ事になった。

 

 

 

 

 

「真実といえば………彼女はどこまで知っているのかしらね」

 

私が時間遡行者であるや、目的を見抜き、更には共闘する魔法少女を言い当てた、骨翼の少女。

 

――彼女は、どうして魔法少女の運命を受け入れたのだろう。

 

 

確か、彼女の願った奇跡は、『失ったエピソード記憶の一部を取り戻した後に叶える』というものだったはず。

 

……なぜ、記憶を思い出す事を含めて願わなかったのだろう。

 

キュゥべえに、叶えることが不可能だと言われたのか。

 

最初から部分的記憶喪失なんて嘘なのか。

 

 

――或いは、

 

 

 

 

 

「………確か人間の脳は、強烈過ぎるトラウマからの自己防衛反応として、記憶を失うことがあったはず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無意識の内に、思い出す事を拒んでいるのか(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

だとしたら、彼女のソウルジェムの状態にも、一応の説明が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やあ、暁美ほむら。 難しい顔をしているけど、どうしたんだい?」

 

「………あなたたちを絶滅させる方法を考えていたのよ」

 

「それは恐ろしいね」

 

……相変わらず、人の神経を逆撫でする事が得意な連中ね。

 

「……なんの用よ?」

 

「なに。 君達風に言えば、勝利宣言というヤツさ」

 

「!? なんですって?! まさか、まどか――」

 

あの子――契約してしまったというの?!

 

「残念だけれど、鹿目まどかはまだ魔法少女になっていないよ」

 

「………何をしたの。 まどかに、何をっ!?!?」

 

「そう怖い顔をしないでくれよ。

僕らはまだ、鹿目まどかには手を出していないし、美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子にも何もしていない」

 

「……そう、ならよかっ――」

 

――何かしら? この、とてつも無く嫌な感じ。

 

 

気付かない内にとても大切な、歯車を奪われ、壊されたような気分は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――僕らがどうにかしたのは、君さ。 暁美ほむら。

いや――時間遡行者、と言った方がいいかな?」

 

「―――」

 

息が、

 

 

 

 

 

止まった。

 

 

 

 

 

「………まさか………………まさか………………っ!?!?」

 

インキュベーターは、やつらに似合わないような喜色の声色で、

 

こう、言ってのけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――君の盾にある砂時計の砂は、もう、どうやっても流れない。

寧ろ好都合なんじゃないかい? 時間停止の制限が無くなったのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言っているのか、わからなかった。

 

 

 

 

 

ただ、真っしろにそまっていくあたまで、わかったことは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――もう、じかんを、まきもどすことはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソよ……………ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよっ!!!」

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

 

何度も、

 

何度も、

 

何度も

 

何度も

 

砂時計を、反転させる。

 

 

 

 

 

 

 

なのに、

 

 

 

 

 

砂時計の砂は、動かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよ、――」

 

「想定以上にあっさり壊れたね。 本来なら絶望を与えるのは魔女の役割なのだけれど、なにせクトのスペックが彼の言葉通り(・・・・・・)なら、どんな状況下でも、それこそ鹿目まどかが魔女化しようが全てをひっくり返しかねない。

だからと言って、既存の戦力では彼女を追い詰めることは出来ても、止めを刺すことが出来ない。

仕方なく僕らが動いて、周りから潰すことにしたのさ。

……って、もう聞いてないね」

 

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

 

 

 

 

何度も、

 

何度も、

 

何度も

 

何度も

 

何度も、

 

何度も、

 

何度も

 

何度も

 

何度も、

 

何度も、

 

何度も

 

何度も

 

何度でも。

 

 

 

 

 

でも、

 

 

 

 

もう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時が戻る事は、無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………どれくらい、そうしていたのか。

 

 

 

ふと気がつけば、夜の街を当ても無く彷徨っていたらしい。

ソウルジェムを手に取ってみれば、8割ほど黒ずんでいた。

 

身体に染み付いた流れ作業で、グリーフシードに穢れを押し付ける。

 

「………っ」

 

――頭を、切り替える。

 

 

 

時間を巻き戻す事が出来なくなった以上、このループが、最後のチャンスということだ。

幸い、時間停止の制限が無くなったから、戦闘や武器の調達にも遠慮無く能力を使える。

 

 

 

「………このループで、

 

まどかを、助けてみせる」

 

 

 

彼女から、魔法少女の運命から救う。

 

 

私の願いは、それだけ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ワルプルギスを斃して、どうする?

 

あのインキュベーターの事だ。

例えワルプルギスの夜を乗り越えたとしても、その次が無いとは限らない。

 

 

 

その『次』が来た時、

 

 

 

 

 

 

 

私に、何が出来る?

 

 

 

 

 

 

もしかしたら、私がこれまでやってきたことは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全て、無駄だったんじゃ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―っ、辞めにしましょう。 そんな先の事を考えても仕方無い。

それより、ワルプルギスの夜を打倒するまでの事を考えないと――」

 

 

 

 

 

――ガッ、ガギィ、ガキッガッギリッ――

 

 

 

 

 

……金属音?

 

…………………この音、まさか、

 

 

慌てて音源に向かう。

 

屋根を飛び越えたり、一本道は時を止めたりして、最短時間でたどり着いてみれば――

 

 

美樹さやかと佐倉杏子が、戦っていた。

 

どれだけ戦い続けたのか、非常に高い再生能力を持つ美樹さやかが満身創痍で、佐倉杏子でさえも消耗していた。

 

 

「ちっ――」

 

 

時間、停止。

 

 

剣先と矛先の向きを強引にズラし、停止解除後には2人とも路地の壁に激突するように調整する。

 

 

―停止、解除。

 

 

「!? うわぁっ?!?」

「!?―っつあ?!」

 

美樹さやかは壁に頭から突っ込み鈍い音をたて、佐倉杏子はブレーキこそかけていたが、止まりきれずに槍を壁に叩きつけて勢いを殺していた。

 

 

「……テメェか。 何しやがったっ!!」

 

直ぐさま復帰した杏子の突きを時間停止で背後に立つ事で避ける。

 

「な、何だ?!」

 

 

……? 佐倉杏子の受けたダメージ、痣や擦過傷が殆どね。

少なくとも、剣による切傷じゃない。

 

「……随分と変わった魔法だな、アンタ」

 

「――佐倉杏子、その怪我、どうしたのかしら?」

 

「あぁ!? あのチビにやられたんだよ!!」

 

チビ………クトの事ね。

雰囲気で誤魔化されるけど、彼女の身長は小学生並だし。

 

それは置いといて、彼女が他の魔法少女と戦闘?

以前の美樹さやかとの戦闘は、まどかの話を聞く限り戦闘というより遊びらしいけど……

 

「彼女があなたを襲ったのかしら?」

 

「……………」

 

「………佐倉杏子?」

 

「チッ! アタシから吹っかけたさ! ハナっから遊ばれてたみたいだけどな! これで満足かテメェ!!」

 

「そこまでは聞いてないわ」

 

まさか………八つ当たりで美樹さやかと戦ったのかしら?

 

「……佐倉杏子。 最近は魔女の出現数が減っている。 無駄な争いは避けるべきよ」

 

「……それくらい、分かってる」

 

吐き捨てるように言うと、変身を解いて去っていく。

 

 

……そういえば、美樹さやかがやけに静かなような気が……

 

 

「」

 

「……気絶してるわね。

――起きなさい、美樹さやか」

 

うつ伏せに倒れていた彼女をひっくり返し、頰をペチペチ叩く。

 

「ぅん…………………転校生?」

 

「……私には暁美ほむらという名前があるのだけれど?」

 

「……………そうだ、あいつ――?!」

 

跳ね起きた美樹さやかが、周りを見渡し――直ぐに怪訝な顔をする。

 

「……あれ? あいつは?」

 

「佐倉杏子なら、何処かに行ったわ」

 

「そっか。

……………ねぇ、転校生。 ソウルジェムを綺麗にしておくのって、そんなに大事なことなの?」

 

「………争いに勝つ事に拘るなら、そうね。 経験や才能も肝心だけれど」

 

「……だからって、他人を犠牲にするなんて……!」

 

……本来なら、昨日の晩行われていたやり取りがあったのかしら。

 

 

 

 

 

魔法少女の在り方としては、佐倉杏子の方が正しい。

美樹さやかでは務まらない。

 

優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる。

なにより、どんな献身にも見返りは無い。

 

あのバケモノ(クト)ですら、その辺りは弁えているだろう。

 

「それに、あいつは………っ!!」

 

………大方、上条恭介について何か言われたのね。

 

――佐倉杏子に、彼女に手を出さないよう言っておくべきね。

 

 

 

 

 

 

 

学校の日直だった巴マミと合流する、と言った美樹さやかと別れ、佐倉杏子を探す。

 

魔力反応を追っていけば、彼女が入り浸るゲームセンターにたどり着いた。

 

店内をぐるっと見回り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何処にも居ない??」

 

 

もう一度、魔力反応も確認しながら、ぐるっと見回る。

 

 

……入れ違いになったのかしら。 寧ろ反応が離れていくわね。

 

 

反応を追って、店の外に出る。

 

 

 

 

そのまま探し回れば、川近くの廃ビルから反応があった。

 

一瞬、魔女を狩っているのかと思ったが………

 

 

 

魔女の反応は無い。

 

ならここが彼女の拠点かと思ったけれど……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――なぜか、とても嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

本能が、この場から全力で逃げろと叫ぶ。

 

 

 

 

 

この先にある光景を覗き込めば、二度と戻れないと。

 

 

 

 

 

 

 

……知らぬ間に流れていた汗を拭い、震える身体を抑えて、廃ビルに侵入する。

念のため、予め変身しておく。

 

 

一階………何も無い。

エレベーターは、ワイヤーが切れて、底でひしゃげていた。

 

 

 

二階、三階、四階と確認していくと、徐々に、血の匂いが漂ってくる。

 

 

 

急いで階段を駆け上がり、最上階へ足を踏み入れると――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――クソっ! 今日は厄日だっ! 何なんだよ、お前らホント何なんだよっ!?!?」

 

 

佐倉杏子が、全身から血を流している一般人たち(・・・・・)と戦っていた。

 

「佐倉杏子!? 何をしているの!?!」

 

「?! ほむら!?」

 

振り返ったその顔は、驚愕の表情が張り付いていた。

 

「あなた、幾らグリーフシードが大切とはいえ、一般人にまで手を出すなんて――」

 

「違うんだほむら!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――逃げろ(・・・)!! 今すぐに(・・・・)!!」

 

 

 

「………は?」

 

………佐倉杏子?

 

なんで、あなたが追い詰められている(・・・・・・・・・)ような声を出すのかしら?

 

 

 

 

 

背後から殺気を感じて咄嗟に回避すると、錆びたノコギリの刃が振り下ろされていた。

 

振り下ろした相手を見ると、日曜大工の道具なんて持った事がなさそうな、線の細い女性。

 

「――なっ?!」

 

その事にも驚きだけど、何より、驚いたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――魔女の口づけが、無い(・・)――?!?!」

 

 

いつの間にか私たちを囲む彼等の首筋を確認しても、誰一人として、特徴的な痣が見当たらない。

 

 

「………佐倉杏子、何があったの?」

 

「……ゲーセンでガキが1人、目の前でこいつらに攫われてな。 つい追いかけたら、このザマさ。

それとほむら。 こいつらを人間だと思わない方がいい」

 

「何を言ってるの? ただの誘拐犯のグループじゃない」

 

「相手してれば分かる! 来るぞ!!」

 

正面を見れば、錆びたノコギリの他に、カッターナイフや金槌、ささくれだった木片等、簡単に入手できる武器を愚直に振り回し、雄叫びをあげながら彼等が突っ込んでくる。

しかも適当に振り回すから、互いに傷つけ合っていた。

 

「全く、面倒ね」

 

対象の時間を停めたままだと極僅かな介入しか出来ないから、小刻みに時間停止と解除を繰り返し、片っ端から気絶させる事にする。

 

先ずは目の前のスーツ姿の男性。

特殊警棒で、後頭部を手加減して殴る。

 

ゴリ、という手応えを確認して、時間を停め――

 

 

 

「――うごあああああああああ!!」

 

「?! なっ、」

 

咄嗟に屈んで目の荒い(鬼目の)金属ヤスリを避ける。

 

しかもその一撃は、後ろにいた別の人の腕を服ごと抉り、

 

 

 

 

 

 

 

 

――痛み一つ訴える事なく、2人揃って手に持った工具を振り下ろしてきた。

 

 

「!?!? 止めなさいあなたたち! その怪我で、なんで動けるの……?!」

 

 

真横からの殺気に対し、転がって避けて――

 

 

 

その光景に、絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――腕が折れ、骨が飛び出ている。

 

その折れた骨の先端で攻撃してきていた!!

 

 

『『『う――ごああああああああああ!!』』』

 

「――っ?!?」

 

まるで痛みを感じていないかのような動きをする彼等の攻撃を、死に物狂いで避ける。

 

出来る事なら逃げ出したいが……

 

全方向を囲まれているうえ、このビルは天井が低い。 ジャンプして飛び越えるのは、高さが足りない。

 

時間停止中は、私が触れたモノの停止も解除されてしまうから、魔法も使えない。

 

 

それに、今気がついたけれど――

 

 

彼等の手にある武器は、命を奪うより、どちらかといえば、治りにくい傷を付けることに優れている。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

避けきれなかった攻撃を、武器を叩き落として迎撃するも、――

 

 

「うごああああああ!!!」

 

「!? がっ!」

 

そのまま首を絞められる。

 

魔法少女の力で、手加減無しで腹部を蹴りつけるけれど――

 

 

「!?!? なん、で、効かな、」

 

 

明らかにナニカを蹴り壊した感覚があったのに、気絶することも、痛みに悶えることもなく、人間とは思えないような馬鹿力で首を掴まれる。

 

 

「――ほむら!? くっそぉぉぉおお!!!」

 

佐倉杏子が槍を振るい、その両腕を切断する。

 

そこまでやって、なんとか脱出出来る。

 

「ゲホッゴホッ! や、やり過ぎよ、あなた――」

 

「アレを見てまだ言うか!?!」

 

彼女の指差す方を見れば、

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで私の首を締めていた男が、その両腕から血が吹き出ているにもかかわらず、噛み付いてきた(・・・・・・・)

 

「ひっ――」

 

「いい加減にっ―――しやがれぇっっ!!!」

 

佐倉杏子がその眉間を蹴り飛ばすと、槍を投擲して、強引に退路を作る。

 

 

「――逃げるぞ!」

 

 

その道を、全力で走る。

 

時間停止の事も、本来なら私たち魔法少女が常人より身体能力が優れているのも忘れ、全力で走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………体力を使いきって立ち止まる頃には、件のビルは遥か遠くにあった。

 

「はぁっ、はぁっ、おいほむら、無事か?、はぁっ、」

 

「幸い、怪我は無いわ。

それより、なんだったのかしら、彼等」

 

「んなもん、アタシが、聞きたい」

 

幸い、無意識の内にも目立つ道を避けていたのか、場所は裏路地。

 

多少非現実的な話をしようと、周りの目を気にする必要はない。

 

 

「……なんだったんだろうな、アイツら」

 

「魔女の口づけも、魔力の痕跡も無いなら、普通(?)の狂人という事になるけど………

だとしてもアレは異常ね。 全く痛みを感じた様子が無かった」

 

「痛みが無いにしろ、骨が飛び出てたり腕や足が吹っ飛んでるのに平気な顔して襲いかかってくるヤツなんているのかよ?!」

 

彼女が堪らずといった具合に叫ぶ。

気持ちは分かる。 私も、ただの悪夢だと思いたい。

 

けれど、鼻にこびりついた血の匂いが、

首に残る、鈍い痛みが、それを、否定する。

 

 

「………兎に角、対策を考えましょう。 あんな連中がいるのなら、それこそ夜間の魔女狩りも危険――」

 

 

 

 

 

――突然、絹を裂くような悲鳴が響き渡る。

 

佐倉杏子と顔を見合わせ、その現場に急ぐと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきのビルにいた、私に最初にノコギリで切りかかってきた女性が、別の女性を執拗に切りつけていた。

 

その度に、被害者の女性は悲鳴をあげ――回数を重ねる毎に、弱々しくなり、

 

 

 

 

 

最後には、絶命して、悲鳴が、永遠に、途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

「……………うそ、」

 

「……こ、こんな所にいられるか。

おい逃げるぞ」

 

後退りして――ネチョ、という音と共に、何かに、ぶつかる。

 

 

 

自分の事ながら、まるで錆びたブリキ人形のような動きで、泣き出す直前の表情の佐倉杏子と目を合わせ、そのまま振り返ると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの、両腕の無い男が、ナニカを呟きながら立っていた。

 

 

「…………うそだろ…………は、ははは……………」

 

「あ、あああああ…………!!」

 

咄嗟に佐倉杏子の手をとり、疲れ切った身体に鞭打って走る。

 

目の前の現実から逃げるように。

 

あの男の呟きから、逃げるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"――ふんぐるい むぐるうなふ

くとぅるー るるいえ うがなぐる ふたぐん"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!!!"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――この時の私たちは、分かっていなかった。

 

 

突如として、世界に湧き出た、その存在を。

 

この世界が、どんな存在の争いの火中に迷い込んだのかを。

 

 

 

 

 

――私たちの逃走劇は、終わらない。

 

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