裏ルート:第12話
sideキュゥべえ
クトからの短い念話を終えてからしばらくして、少し疲れた様子のマミたちが帰ってきた。
「それで、ビルの方はどうだったんだい?」
「中には入れなかったけれど、狂人だった1人には会えたわ」
「襲われたのかい?!」
「その人は正気を取り戻していたから大丈夫よ」
……今朝の話を聞く限り、正気を取り戻していたらいたで大変な事になってそうだけど。
「巴マミ、雑談もいいけれど、そろそろ……」
「……そうね。
キュゥべえ、クトと1番長い間行動を共にしているのは、あなたよね?」
「彼女が降って来たその時から一緒にいたけれど、それがどうかしたかい?」
「……なら、『クトゥルフ』という単語に聞き覚えは?」
「あるよ」
ほむらからの質問に、普通に答える。
クトから口止めされているのは、今彼女が何処に居るかという点だけだからね。
「!? 誰から聞いたの?!」
「クトからだよ。 あの時は……」
お菓子の魔女との一件の前後で聞いた事を全て伝える。
「――クト以外の『クトゥルフ』は、この世界に存在するか否かすらハッキリしない地球外生命体。 仮に存在するとしても、太古の昔に海底に封印され、今でも眠っている。
種族的能力として、精神に干渉することが出来る。
これが、ボクが彼女から聞いた『クトゥルフ』についてだ」
「……マミ、」
「原典の『クトゥルフ』とほぼ全て一致するわね」
いつの間にかマミが本棚から取り出してきた、『クトゥルフ神話TRPG』というタイトルの本のとある1頁を睨んでいるマミが、その説明を補足する。
「クトゥルフは、ゾスから眷属を引き連れて来た異星人だし、海底の封印も、ルルイエに封印されているという設定と一致するわ。 精神への干渉も、何らかの事情でルルイエが浮上したときに、感受性の高い子供や芸術家が狂死するという描写から分かるわ」
ピタリと一致する。
姿形の変化も、本によれば自由自在に変化可能との事だし。
本来の姿が数十メートルの体高の怪物がその身体能力を保ったまま人間サイズまで縮んだのなら、人類の限界を遥かに超えたあの馬鹿げたパワーにも納得出来る。
ほむらも同じような答えにたどり着いたのか、
「彼女は、『本物』かもしれないわね」
と呟いていた。
「佐倉杏子とキュゥべえ。 あなた達は鹿目まどか達と合流してほしい」
考えを纏めたらしいほむらが、班分けを提案する。
「そいつは構わねぇけど……アンタたちはどうするんだ?」
「巴マミと、クトについてもう少し探ってみるわ」
「―分かったわ。 それじゃあキュゥべえ、クトのことをお願いね」
「まずは探す事から始めないといけないけどね」
「佐倉杏子。 間違っても余計な戦闘は避ける様に」
「分かってるよ。 アレの面倒くささは知ってるからな」
〜少女別行動中〜
「さてと。 おいキュゥべえ、何処かアテはあるか?」
「彼女はアレでも魔法少女だ。 多少事情が特殊とはいえ、グリーフシードを求めて魔女を狩るんじゃ無いかな」
クトはグリーフシードの浄化が無意味だけれど、さやかと行動を共にするなら彼女のバックアップの為に現れるだろうからね。 魔女との戦闘は確実だろう。
「んじゃいつも通り魔女を探すとするか」
杏子が魔力反応を追って、魔女と出くわしたらしばらく様子を見て、何も起こらないなら魔女を狩る。
それを3回程繰り返しても、彼女たちには会えなかった。
狂人との邂逅確率を下げる為、上から探す事にして、今は高めのビルの屋上。
「クッソー。 マジで何処にいるんだ?」
「さぁ?」
途中それとなくさやかの家に寄ったけど、魔法少女の気配は無かったし。
「クトの能力は精神干渉だ。 幻覚や幻影を見せる事が出来るから、実際は何処かですれ違っていたりしてね」
「それは無いな。 アタシの目は誤魔化されない」
……杏子の能力も幻影系だ。 だからこその言葉なんだろうけど。
「油断や慢心は禁物だよ。 クトが事実『クトゥルフ』なら、あっちの能力は持って生まれたものだ」
「……アタシは信じねぇぞ」
そういえば、杏子の家は元々十字教だ。 狂気神話という代物がどれだけ異端な存在かは、三人の中で1番把握出来るだろう。
「……風が強くなってきたね」
「ちっ。 何かかっぱらうついでに場所かえるぞ」
そう言って立ち上が――
―ドゴグシャァァァァァァ!!!
「!?!? な、なんだっ?!?」
突然、轟音と共に一つ隣のビルの屋上が崩壊する。
クレーターを中心にヒビ割れが全体に走り、建築物そのものが倒壊しない方が不思議な状態――
「―おい! 逃げるぞ!!」
「きゅぶっ?! きょ、杏子? 一体―」
そこまで言いかけて、やっとその場の異常性に気がつく。
クレーターが発生するということは、そこに叩きつけられた『ナニカ』がいるという事だ。
なのに、その姿が見えない。
けれど、どこか背筋の凍る様な、ジャラジャラという鎖の様な音が響く。
【――GoooooOOOoooooooooOooooooOooooAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!】
爆音。
そうとしか表現出来ない様な、魂を、世界そのものすらを震わせるような咆哮が響き渡る。
「な、あ、あれは一体……?!」
「…………………………は、」
「――杏子?」
ボクの首根っこを掴んでいた手の力が抜け、杏子が膝を着く。
「―――は、ははは、アハハハハハハ!! もうわっかんねぇよ! なんだよ、なんだってんだよ!?! アハハハハハハハハハハ!!!」
「杏子?! どうしちゃったんだい!? 杏子?!?」
そのまま瞳孔の開いた目で笑い続ける杏子。 本当にどうしちゃったんだよ?!?
そうしてる間にも、姿を見せないソレが――
――ズガッッ!!
【!?! VOooooooooooooo!!】
「――じゃぁかぁしぃぃわぁぁぁぁぁぁ!!!」
すぐ目の前に槍が突き刺さり、大質量の物体同士が衝突した様な轟音に混じって、咆哮と、聞き覚えのある絶叫が響く。
「――クト!?」
「後だ! すっこんでろ、ザコがッッ!!!」
コンクリートに深々と突き刺さったランスを強引に振り回すと、鈍い音と共に、かなりの大きさの物体が空を切る音が聞こえる。
「クト! アレはなんなのさ!? それに杏子がおかしくなったんだ!!」
「あ? チッ! ルゥァッッ!!」
ランスを上空に蹴り飛ばすと、未だワライツヅケる杏子の頭に手を当て、
「―
一瞬の間を置いて杏子の意識が無くなる。
「!? い、今のは!?」
「理解するな。 それより、早くマミたちと合流しろ! 中々面倒な事になった!!」
初めて見る、クトの鬼気迫る表情というものに圧倒されている間に、衝撃波と共に何処かに飛んで行ってしまう。