とある少女の救済神話 【完結】   作:カリーシュ

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裏ルート:第13話

sideさやか

 

「――さ! 今日も1日、頑張るぞー!」

 

今日は日曜日! さぁ! 朝から張り切っちゃうぞー!

 

「さやかちゃん、1人で大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫! 1人じゃないし」

 

「?」

 

えっと、念話念話っと――

 

『クトー』

 

「はいはいっと」

 

私の隣の景色が歪んで、そこから女の子が出て来る。

 

「クトちゃん!? ていうことは、マミさんも近くにいるの?」

 

「いや、今は別行動中。 ほら、最近の夜は物騒っしょ?」

 

「それって裏路地の連続殺人のこと? ニュースで見たよ」

 

「ソーナンス。 という訳で、私は特訓係兼護衛ってとこだな。 向こうも残りの魔法少女3人で固まってるだろうし」

 

――そう、正体不明の魔法少女(?)クトが、昨日の夜突然転がり込んできた。

 

なんでも近い内にヤバイ魔女が出て来る可能性があって、その為にあたしに特訓をつけることにしたらしい。

 

最初こそ、そんなことしなくてもあたしは十分戦える!って息巻いたけど、

まぁ、うん。

 

ソッコーで負かされたあと、「私でも戦えない程の相手が出て来る」と言われて、納得した。

 

……ていうか、クトが勝てない魔女って、冗談抜きで世界が終わるんじゃ?

 

「フラグだからその先はいけない。 さて、まずは移動しようか」

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

―場所は変わって、裏路地。

魔女の結界の内側。

 

「はあぁぁぁぁぁぁああっ!!」

 

そこらじゅうにセーラー服が吊るされてるワイヤーが張り巡らされてる中で、スカートに腕(足?)の生えた使い魔をすれ違いざまに切り裂きながら、中心に浮いてる何処となく蜘蛛っぽいセーラー服の塊の魔女(委員長の魔女)に向かって突っ走る。

 

「っ―邪魔!!」

 

魔女が机や椅子を投げつけてくるのを弾き飛ばして、剣の間合いに入ったタイミングで両手で剣を握って、思いっきり上段に構えて―

 

「これで―――終わりっっ!!」

 

―ザンッッ!!

 

ハッキリとした手応えの後、魔女が真っ二つになったのが見えて、グリーフシードを落とす。

 

それと同時に結界が解かれて、元の景色に戻る。

 

 

「さやかちゃん! 怪我は無い!?」

 

「ノーミス完勝! さやかちゃん大勝利ー!」

 

「これこれ、慢心するでない」

 

すぐさままどかとクトが駆け寄ってくる。

 

「さて、評価タイムだけど――

良い方と悪い方どっちから聞きたい?」

 

う、悪いトコあったか〜。

 

「じゃあ、悪い方からで……」

 

「ほいよー。

まず聞くけど、魔女と戦う時、何処で戦ってる?」

 

何処でって……

 

「魔女の結界の内?」

 

「そう。 言い換えれば連中のホームグラウンドだ。 つまり?」

 

「……こっちの方がずっと不利?」

 

「正解。 あっちは罠や雑魚敵を配置し放題だし、自分にとって有利な地形にする事だって出来る。

例えば、そうだな。

さやかが魔女の立場なら、どんな所で戦いたい?」

 

「うぇ?! そんなこと想像したくないけど……」

 

えっと、あたしの武器は剣。 魔力さえあれば幾らでも作り出せる――

 

……………剣、か。

 

「……空を飛んだり、遠距離攻撃が出来る相手と相性が悪いから、剣を振りまわせる程度には狭いスペース?」

 

「だろうね。 そう考えると、さっきの魔女は遠距離攻撃(投擲)と使い魔の物量で押し切るタイプだから、広いスペースで、回避ルートや行動可能範囲を狭める為に足場はロープだけっていう構造だったでしょ。 ああされると、近接型はさやかがやってたみたいに強行突破するしか手が無くなる。

相手が弱かったから良いものの、下手したら不味かったんジャン?」

 

「うぐっ?! じゃあクトならどうするのさ!?」

 

剣しか持ってないのに、あれ以外にどんな手g

 

あらかじめ剣を大量に生(飛び道具が無いなら手持ちのモ)産からの全投影連続層射(ンをブン投げれば良いじゃない)

 

「即答?! そしてエゲツない!!」

 

「ま、安全第一ならな。 それに私なら面倒がって結界ごと叩っ斬る」

 

「超脳筋!?!」

 

「フハハハ!

で、もう1つポイント」

 

「まだあるの?!」

 

「悪いトコはこれで終わりだからモチっと辛抱。

雑魚に仕事丸投げするタイプの敵は、大抵その雑魚連中が無限湧きするか再生持ちの事が多いからな。 今回は無限湧きっぽいから別にいいけど、再生型なら剣ブッ刺してそのまま放置ってのも手だぞ。 回復阻害出来るから」

 

「そしてまた攻撃がゲスい!?」

 

なんか………言ってることが正しいのはなんとなく分かるんだけど。

あたしの想像してた正義の味方の戦い方と、違うような………

 

「そんなあなたにレッドマンの視聴をオススメします」

 

「いやアレはダメなヤツ!!!」

 

「なして? アレだって巨大ヒーローモノだよ?

…………………一応

 

「言っちゃったよ?! この人自分で一応って言っちゃったよ?!!」

 

「じゃあチャー研で」

 

「もっとアウトォ!!」

 

ネタが通じずにポカーンとしているまどかを置いてけぼりに、全力でクトにツッコむ。

 

何故だろう、魔女との戦いより疲れた気がする。

 

「そいじゃ、良かったトコだな。

ソウルジェムの浄化でもしながら聞いとくれ」

 

「あ、忘れてた」

 

変身を解いて、少し濁っていたソウルジェムの黒ずみをグリーフシードに移す。

 

「さやかのいいトコは、相手を怖がらないって点だな」

 

「え? それって当たり前の事じゃ無い?」

 

「ノンノン。 これがかーなーりー大事。 ビビってると相手の動きに過剰反応して寧ろ隙だらけになるし、腰がひけるから攻撃の威力も減衰する。 目を瞑るなんて以ての外。

……そう考えると、さやかってかなりブッ飛んでるよな」

 

「? 何処が?」

 

クトがジト目で見てくる。

 

「いや、普通の女子中学生は、いきなり異形のバケモノとバッタリ会ったら、悲鳴あげて逃げるだろJK(常識的に考えて)。 なに思いっきりタマの取り合いやっちゃってくれてんの? 私のあの時の苦労は…………ブツブツ」

 

「おーい?」

 

クトが座り込んでブツブツ言い始めた。

……心なしか、背後に『ドヨーン』って字が見える気がする。

 

「――と・に・か・く!」

 

「!?」

 

うわ復活早!?

 

 

「あんたは、私に無い才能を持ってんだ! 行き過ぎは慢心その他に繋がるから誇れとは言えないけど、胸張れ!!」

 

私の背中をバシバシ叩きながら、笑顔でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あの後、剣を連続で投げつける練習をする為に、橋の下、目立たない場所でドラム缶を的に片っ端から投げてる。

 

……ただ、

 

「―てぃっ!」

 

スカッ

 

「とりゃ!」

 

スカッ

 

「うらぁぁっ!」

 

スカッッ

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………プッ

 

「笑うなぁぁぁぁぁ!!」

 

全然当たらないぃ……

 

「いや、悪い悪いww」

 

「そんな笑うなら、あんたは当てられるんでしょうね!?」

 

「おー。 ちょっち貸してみ」

 

そう言って、突き出された剣を受け取ると、手に馴染ませる様に軽く上に投げて、浮かばせる(・・・・・)

 

「………ん ? え? ちょ、ちょっと待って?!?」

 

「別に投げ方は指定して無いだろ? 根本的にハンドガードがしっかりしてる剣は投擲には向かないし」

 

「」

 

「うわぁ……」

 

そ、それならそうともっと早く言ってよ?!?

 

「スマンスマン。

ほいっと」

 

ズガンッ!!

 

勢い良く射出された剣がドラム缶に突き刺さり、そのままドラム缶を横倒しにする。

 

………やっぱあんたって、ほんと規格外だね。

 

「フ、褒め言葉だな」

 

「だからさらっと心を読むなと――

さやか! まどかっ!!

………へ?」

 

クトがいきなりあたしとまどかを突き飛ばす。

 

何をするの、と口を開こうとして、

 

 

 

 

 

――グシャッっと、重いモノが落ちる音が聞こえる。

 

 

音がした方を見ると、赤い人型のナニカが、――

 

 

「くぅ……」

 

「この声……ほむらちゃん?!」

 

「まどか、止まれ!!」

 

まどかがほむらに駆け寄ったのをクトが制止する。

 

「―!? チッ、この感じ……

さやか! ほむらを診てやってくれ! 後、絶対にまどかから離れるな!!」

 

それだけ言い残すと、何処からかランスを取り出して、飛翔する勢いのまま何処かへ消える。

 

「おい、転校生! 何があった?」

 

「……だから、私は、ほむら………」

 

生きてはいる……!

 

回復の魔法をかけると、息苦しそうだったのが安定する。

 

「ぐっ………さやか、まどか……?

――クトはっ?!」

 

「えっと、なんかよく分かんないけど、なんかを追いかけてった!」

 

「? それより、ここは危険よ! 早く逃げないと」

 

変身を解除して、足を引きずり気味になりながらも歩き始める。

 

「ほむらちゃん、まだ、」

 

「今は逃げるのが先よ。 急いで――」

 

 

 

 

ドッゴォォォォンン!!!

 

 

 

 

「きゃぁっ!?」

 

少し離れた所に、何かが墜落したような爆音が響く。

 

クレーターが出来るほどの衝撃だったらしく、ぽっかりと空いた凹みだけが地面に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――GYAGOAAAAAAaaaaaaaaAAAAaaaaaaaaAAAAAAAAA!!!

 

「ひっ!?」

 

「まずい…っ!!」

 

虚空から、『ナニカ』の咆哮が轟く。

 

 

「――逃がすかゴルァ!! 『スティンガー』!」

 

真上から『ソレ』に対してクトが槍の穂先を突き出すも外れたらしく、根元まで刺さる。

 

「!?!! くっ、お前ら、逃げ――」

 

 

ドンッ!

 

「!? う―」

 

何を言っているのか聞こえる前に『ナニカ』に突き飛ばされる。

 

「あ――」

 

「させるかってんだよっっ!!」

 

クトには見えているのか、翼を羽ばたかせて凄まじい勢いで飛んでいく。

 

不可視の魔女?! なんて厄介な……!

 

「―それより、まどか! 転校生! 無事!?」

 

「私は大丈夫だよ! でも、ほむらちゃんが、ほむらちゃんが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――息をしてないの!!!」

 

「…………え??」

 

駆け寄って、テレビでやるみたいに手首に指を当てる。

 

 

……脈が、無い。

 

「うそ、だよね? やり方が間違ってるからだよね?!?」

 

胸の部分に耳を当てて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何も、聞こえなかった。

 

「……………うそ、こんな、こんなことって、――」

 

 

「―――へぇ、あんな存在もいるのか」

 

聞き覚えのある平坦な声が後ろから聞こえてきて、振り返ると、

 

「…キュゥべえ?」

 

「改めてどうしたんだい? 僕の顔に何かついてるのかい?」

 

「なんで、―」

 

そんな平然としてられんだと怒鳴ろうとして、

 

「キュゥべえ! ほむらちゃんを、助けて……っ!」

 

「僕には無理だよ。 あんな高速で飛び回る情報概念体に対して有効打そのものが無い。 彼女を取り戻す(・・・・)事は不可能だ」

 

「そんな………そんなのって……」

 

「何か勘違いをしているようだけど、ほむらはまだ生きているよ?」

 

「「………え?」」

 

だって、脈は止まって、

 

「ほむらは、あの怪物が攫っただけじゃ無いか」

 

「なに言ってるんだよ。 転校生はそこに――」

 

「分かってないね。 だから、彼女の本体ははさっきの怪物が攫ったと言っているじゃないか」

 

―思考が、止まる。

 

キュゥべえがなにを言っているのか分からなくて、

 

 

「君たち魔法少女が身体をコントロール出来るのは、せいぜい100メートル圏内が限度だからね。 まぁ、今回ばかりは運が無かったね」

 

「100メートル? 何のこと? どういう意味なの?!」

 

それでも、何故かその先の台詞が予感出来て。

 

 

 

 

 

「―そこにあるほむらの肉体は、ただの抜け殻なんだって。 ただの人間と同じ壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんて、とてもお願い出来ないよ。 君たち魔法少女にとって、元の身体なんていうのは、外付けのハードウェアでしかないんだ。 そして本体としての魂には魔力を効率よく運用出来るコンパクトで安全な姿が与えられている。

魔法少女との契約を取り結ぶ僕の役目はね。 君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変えることなのさ」

 

「な…………っ!? 騙していたの、あたしたちを?!?」

 

「騙してなんかいないさ。 僕は『魔法少女』なってくれってきちんとお願いした筈だよ? 実際の姿がどんなものかの説明は省略したけど」

 

眉一つ動かさずしゃあしゃあと語るキュゥべえ。

 

 

 

 

 

―パァンッ!

 

 

 

 

 

破裂音と同時にキュゥべえの頭が消し飛ぶ。

 

「……美樹さん」

 

「………マミ、さん」

 

銃声のした方を見れば、うっすらと煙を吐くマスケット銃と紫色の宝石の様な、ほむらのソウルジェムを持ったマミさんがいた。

 

そのままソウルジェムをほむらに握らせると、死んでいたはずのほむらがすぐに起きる。

 

「………

……………迷惑を、かけたわね」

 


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