sideキュゥべえ
あれから一夜明け。
杏子のことが心配になったのと、ほむらから、今日は高確率でさやかが杏子と行動を共にするからと見張りを頼まれたのもあって、杏子を追う事にした。
最初はその言葉を疑ってたんだけどね。 何故なら今日は月曜日だ。 昨日あんな事があったばかりだから塞ぎ込みたくなるのは分かるけれど、普段の生活リズムを維持するというのは、精神を安定させるのに良いのだから。
……だと言うのに、ほむらの予想通り合流しちゃったよ。 サボりかい。
移動する彼らをコッソリ追い、辿り着いた先は、風見野市にある廃教会。
……佐倉杏子の嘗ての家、だ。
……………入るのは、やめておこう。
別に、内側に居らずとも、見守るだけなら十分だしね。
一度ほむらからの念話が来たくらいで、あとはただ待つだけの時間だった。
――幸いにも、今日は狂人にも、怪物にも会わずに済んだ。
けれど、少しずつ大きくなる感情の一部、多分『勘』にあたる部分が、ハッキリとした警告をあげている。
――このままでは、全てが手遅れになると。
――事態が動いたのは、翌日だった。
杏子はほむらたちの方でどうにかする事にしたらしく、ボクは3人の話が終わるまでの間(今日中にどうにかするとほむらは言っていた)、今度はさやかとまどかを見守ることになったんだ。
『―それじゃあ、頼んだわよ』
「ハイハイ。 これから魔女狩りに行くところみたいだし、いざとなったら、助けてくれよ?」
『善処するわ』
わーありがたい(棒)
っと、目を離しちゃダメだね。
見れば、丁度さやかがマンションから出てきたところみたいだね。
それに誰かが近付いてる足音もする。
「――今日の魔女退治も、ついて行ってもいいかな」
「……まどか」
「さやかちゃんに一人ぼっちになってほしくなくて、来ちゃった」
「……なんで、そんなに優しいかな。 あたしには、そんな価値ないのに……」
さやか……今朝より精神が不安定になってる。
「………あたしね、今日、後悔しそうになっちゃった。 あの時、仁美が助からなければって、ほんの一種だけ、思っちゃった……
最低だよ……正義の味方、失格だよね……
仁美に………恭介取られちゃうよ……
……でもあたし…………なんにもできない。
だってもう死んでるんだもん。 ゾンビなんだもん……
こんな身体で抱きしめてなんて言えない。
キスしてなんて、言えない………」
涙を流しながら、本心を吐露するさやか。
……おそらく、この先にあるモノが、彼女の望んだ『奇跡』の代償なんだろう。
このまま進めば、確実に彼女は『堕ちる』。
――しばらくして泣き止んだけれど、あの状態での戦闘は危険だ。
一応、連絡を入れておくとしよう。
『ほむら。 さやかたちが出かけた。 かなり精神的に追い込まれている』
『分かったわ。 こっちも杏子との話が丁度終わった所よ。 そっちと合流するわ』
『早めに頼むよ』
――で、こういう時に限って、あっさりと魔女が見つかるもんだから嫌になるよ。
場所は工場の一角。
全てがモノクロと化した世界で、一本の坂道の頂点に祈りを捧げるポーズの魔女が居て、先端が鋭く尖ったその髪が触手の様に漂う。
使い魔が見当たらないからまどかはある程度安全だけど、接近しなければならないさやかには不利な相手だ。
実際、苛烈な攻撃を防ぐので精一杯で、本体に攻撃出来ていない。
「――くッ!?」
そうこうしている内に片手を封じられ、それを解こうともがいているその背に多数の矢が迫る。
「さやかちゃん! 危ない!!」
「う―――」
「――誰に手を出している、影風情が」
ゴッォオオオオオオオン!!!
振るわれるは、禍々しい鈍い輝きを放つランス。
唯の人なら持ち上げられるかすら怪しいソレが、魔女の触手を容易く消し飛ばす。
「―クトちゃん?!」
「ワリ、遅くなった。
たくっ、次から次へと」
「さあ、何発耐えきれる?」
「……邪魔しないで。 1人でやれるわ」
「おい、無理すん―」
「はぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
剣を両手で構えたまま魔女に突撃するさやか。
当然迎撃され、首や頭部、腹部に触手が突き刺さる。
「さやかちゃぁぁん?!?」
「―ッ! 言わんこっちゃない!」
速度が低下し始めていたランスを構え直して―
「……………は………あはは……」
「………おい、さやか、まさか」
再度突っ込むさやか。 先程と同じ様にその身体に触手が突き刺さるが、剣の攻撃は届いている。
「……あはっ、あははは!
その気になれば、痛みなんて、完全に消しちゃえるんだぁ……
ふふ……あっははははははは、ぎゃはははははは!
ぅああああああああああ!!」
「………もう、やめて………」
「……………こんな、どうすればいいんだよ………」
白と黒だけで構成される世界に、狂気を孕んだ笑い声と生々しい肉を叩き切る音が響き渡る。
それは、魔女が消滅するその時まで続いた。
「――ハンッ! やり方さえ分かっちゃえばこっちのもんだね。 これなら負ける気がしないわ」
「……さやか。 それ、本気で言ってんのか……………?」
魔法で一瞬で治癒したとはいえ、血塗れのさやかにクトが話しかける。
「は? 本気に決まってるじゃん。 どうしたのさ、クト」
「…………………もういい。 分かった」
ガシャンと、ランスが手から滑り落ちる。
「さやかちゃん……」
「なに震えてんのさ。 帰るよ、まどか」
「―――1つだけ聞かせろ、さやか!」
まどかたちに背を向けたまま、クトが叫ぶ。
「お前の掲げる『正義』はなんだ!? 美樹さやかァ!?!」
「…………………」
さやかは、何も答えなかった。
「――おい、キュゥべえ」
「……やっぱり気が付いていたのか」
「ったりめーだ。 私を何だと思ってる」
「……旧支配者、クトゥルフ」
「ッ……………分かってるなら説明不要だ。
まどかを追え。 ほむらたちがこっちに来てるのは分かってる」
「………分かった」
彼女たちを追い、工場の敷地を後にする。
――少女の八つ当たり同然の魂の叫びは、雨に掻き消され。
1人の魔法少女の終わりの時は、刻一刻と、近付いていた。