sideキュゥべえ
――クトが、吐血して、倒れた。
………へ? なんで??
「ごふ、ごほっ! ったく、ホントに儘ならないなぁ。 死にたい時に死ねず、生きたい時に限ってこのザマたぁ……」
倒れ伏したまま血を吐き出し、そうボヤく。
その姿は、さっきまであった殺気や恐ろしさは霧散し、今にも消えそうな、弱々しい少女でしかなかった。
「……と、ここまでやったんだ。 やる事は、きっちり、やりますか」
ゆっくりと立ち上がり、気絶した3人のポケットを探る。
取ったのは、グリーフシード。
そのままヨロヨロと歩き、瓦礫からランスを回収すると、その場を後にする。
………もしかして、ボクがいる事に気が付いてない?
そのまま側溝を伝って、クトを追う。
ドアを幾つか通ると、すぐに魔女の結界に到達した。
この魔力反応は………さやかの、だね。
何のためらいもなく侵入していった彼女に、物陰に隠れながらついて行く。
「……さやか。 今回はチャラにしてやるが、神をコキ使った代償は、本来高いんだぞ? ったく」
そして、人魚の魔女の部屋に着くと、
ほむらたちから奪った分と、クトが元々持っていたらしいグリーフシードの限界を超える量の穢れが、
クトのソウルジェムから、移される。
パキパキと魔女が孵化し、広い部屋を圧迫する程の数が現れる。
物陰から伺えるだけでも、軽く15は超えてる。
「………借りるぞ、■■■。
さやか、お前こういうの好きだろ?
――
ゆっくりと、垂直に挙げられたランス。
左手に握られたソウルジェムからは、美しい白い閃光が発生する。
「
言葉が紡がれるたび、ランスに膨大な量の魔力が込められる。
「
超過したエネルギーがオーバーフローを起こし始め、ランスを囲うような渦を発生させる。
「────
悪趣味な装飾が消え去り、純白に金のラインが疾る、素直に美しいと言える刀身が露わになる。
そして、
「――
――ランスが振り下ろされ、魔力の奔流が魔女を一体残らず、呑み込んだ。
……………閃光が収まったのを確認すると、クトのいた所を見る。
まず目にはいったのは、蹲り、血反吐を吐くクト。
次は、散乱する大量のグリーフシード。
そして――
「……やっと、ゴホっ、やっとだ。 ゲホ、ゴフッ、やっと、追いついたぞ…………」
魔力が結界の外にまで影響を及ぼしたのか、破壊された扉、
その部屋の内側に横たえられている、
――美樹さやかの、遺体。
「……余計な、手間、かけさせやがって」
グリーフシードの1つ――元、さやかのソウルジェムだったそれを拾い、胸に抱く。
「……頼むから、上手くいけよ。
――
グリーフシードが、青い光を放つ。
少しづつだが、確かに浄化され、
それと比例するかの様に、クトのソウルジェムが凄まじい勢いで濁っていく。
「――っぐぁ………!
やっぱり、それ用の呪文じゃねえ分、負担、ヤッベぇ……ゴフッ!!」
口からドス黒い血が溢れる。
ソウルジェムは限界ギリギリまで濁るが、グリーフシードは未だ浄化しきらない。
「さやかぁ――戻ってこい!!!
テメェの居場所は、ンな暗い場所じゃねぇ!!!
私は、もう、――――
―――
ダメ押しの魔法で、
ついに、
―グリーフシードが、青く透き通る、卵状の宝石に、
「……はは。 はっははははは!!
見たかバブルスライムモドキィ!!
だぁれが鏖殺兵器だ!! 私はやったぞ!! 私hゲフゴホゴフっ!?」
血を噴水の様に吹きながらも、穢れ1つないソウルジェムを掲げて笑う。
「ケフ、ゲフっ。 し、シメだ」
這いずりながらも、さやかの手に穢れのないソウルジェムを握らせる。
「………………ぅ………」
僅かにだが、胸が上下する――呼吸が、確認出来る。
ほ、本当にグリーフシードを浄化したのかい?!?」
「?!?! きゅ、キュゥべえ?!」
「あ」
どうやら、驚きのあまり声が漏れたようだ。
「こ、これは、あの、そゲフォの、い、何時から見て、ゴホッ」
何故かアタフタし始めるクト。 その表情は、本気で焦っている。
「クト? キミこそ、今のは一体――」
『―いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』
『―いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』
「「!?」」
狂人たちの声が、すぐそこから聞こえる。
「チッ! ガチでウゼェ!!」
「あれはキミの信者だろう?!」
「勝手に発狂し始めんだから私の意志じゃねえよ!! つかほっとくと脳ミソやら心臓やらキ○タ○まで捧げてくる連中が信者とか、寧ろこっちの方が超迷惑だ!!」
「ファッ!?」
壁に手をついて立ち上がると、部屋の外に向かって歩き出す。
「キュゥべえ! もう直ぐほむらたちが目を覚ます! 迎えに来てもらえ!」
「あの狂人たちはどうするのさ?!」
「私が引きつける。
それと、キュゥべえがここで見たことは、秘密にしておいてくれないか?」
パキ、パキと割れ始めた黒いソウルジェムを握り、そう言い放つ。
「!? まずはソウルジェムを浄化しないと! グリーフシードはこんなに――」
「キュゥべえ」
見上げれば、振り返ったクトが、こちらを力強い目で見ていた。
「……私は、クトゥルフだ。 邪神だ。
悪は、人の手によって打ち取られなければならない」
「……クト? 何を言って――」
「キュゥべえ。
――今まで、ありがとう。
そして、
―――さよならだ」
side■■
「――クト! 待ってくれ!! クト!!」
背後から、小さな相棒の呼ぶ声が聞こえる。
でも、もう、後戻りは出来ない。
私のソウルジェムは、いつ魔女を生んでもおかしくない。
今は、その決定的タイムリミットを騙し騙し延ばしているだけだ。
ただ、奴等を引きつけて離れるのに必要な分以外の魔力供給を切る。
視界はボヤけ、
ランスとソウルジェムを握る感触すらあやふや。
『――― いあ ―とぅ―――』
【っ! この私を放って何処へ行く気だ!!】
視界の端でほむらたちの方へ行こうとする一団を、神威を織り交ぜた一声で繋ぎ止める。
――パキ、ピキキ……
………やっぱり、こっち関連の力は消耗が激しいな。
足に力が入らなくなる。
杖代わりの槍で何とか立ってられるけど、もう、一歩も歩けない。
「……はっ! 私みたいなクソッタレには、お似合いの場所だな、おい」
もう耳こそ聞こえないが、大方
―自分の身体すら支えきれなくなり、倒れる。
手からソウルジェムが零れ落ち、転がる。
トロトロした動きで狂信者どもが助け起こそうとするが、ハッキリ言わせて貰えば、『さわんな』だな。 ぶっちゃけ無意味だし。
――パキィッッ!!
ソウルジェムがグリーフシードへと変異し、魔女が羽化する。
………死んだのに意識あるって、すげーデジャビュ。 前にも似たようなこと無かったか?
そしてこんな状況下でこんなコメントが出るあたり、私の
それと同時に、ずっと、ずっと待ち望んでいた感覚が、
それは、剣/刀だった。
それは、矢/槍だった。
それは、拳/蹴だった。
それは、盾/鎚だった。
それは、弾/砲だった。
幾重もの武器が刺し、斬り、打ち、穿ち、貫き、撃ち。
私の命を絶とうと、この身を削る。
………それで、いい。
我は『cthulthu』。
存在そのものが悪である物。
この身は、光の元に討ち取られる。
ここは、英雄の墓場にして、私の処刑台。
ここが、私の、最期の場所。
…………………それで、いい。
助けは、要らない。
ただ、眠るだけ。
――だというのに、見滝原に来てからの記憶が駆け巡る。
……私は、
……………私は、―――
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