とある少女の救済神話 【完結】   作:カリーシュ

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表ルート:二章 歪んだ悪
表ルート:第6話


sideほむら

 

 

――足元すら見えない暗闇を走る。

 

周りの風景は全く見えないのに、何故か、迫り来る人影はハッキリと見える。

 

 

――全員、あのビルにいた狂人たちだった。

 

 

 

線の細い女性が、

 

スーツ姿の男性が、

 

学生服の少女が、

 

よぼよぼのお爺さんが、

 

砂場で遊んでいそうな男の子が、

 

 

その手に、凶器を持って。

 

 

 

ノコギリ、ヤスリ、ワイヤー、カナヅチ、ナイフ、ガラス片、スパナ、カッター、ハサミ、鉄パイプ、クギ、鎌、ドライバー、松明、栓抜き、缶切り、ペン、スコップ、ビニール袋、杖、ツルハシ、傘、シャベル、木片、バット、バーナー、鉛筆、錆びた包丁、折れた骨、歯、削った爪、―――

 

 

 

 

 

逃げる私。

 

迫る彼等。

 

 

 

あの呟きが、叫びが、聞こえる。

 

 

 

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

 

 

 

 

 

「いや!! 来ないでっ!!」

 

 

耳を塞いで走っていると――

 

 

 

目の前に、見覚えのある、ピンクの髪をツインテールにした少女が倒れていて、

 

 

「………まどか? まど――」

 

 

その身体に、無慈悲にノコギリの刃が振り下ろされる。

 

 

「あ――」

 

 

よく見れば、彼女の身体は、真っ赤に染まって、

 

 

「あああああああああああああああああ」

 

 

また走りだす。

 

しかし、考えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

――なんでこの場には、私しかいない?

 

 

佐倉杏子は?! 美樹さやかは?!?! 巴マミは?!?!?!

 

 

 

 

 

 

 

―ふと、振り向いた。

 

――振り向いて、しまった。

 

 

 

 

 

 

 

そこには、倒れ伏し、全身を血で染めた、佐倉杏子が、美樹さやかが、巴マミが、

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

そして、その彼等の傍に立ち、凶器で、その遺体を傷付け続けているのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂人と同じ笑みを受けべ、

 

狂人と同じ文句を呟く、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――わたし(暁美ほむら)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

腕を強い力で掴まれる。

 

あの時避けたノコギリの刃が、迫る。

 

もう私には、それを避ける事は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――い、起きろ! ほむら? ほむらっ!!」

 

「――はっ?!」

 

……目を覚ますと、泣き出すのを堪えているような表情の佐倉杏子が、私の肩を揺さぶっていた。

 

「や、やっと起きたか! アタシは、アタシはてっきり………ぐすっ」

 

「……………ここは、………」

 

周りを見渡すと、至る所に町の地図や、ワルプルギスの夜の情報が紙媒体で貼られている部屋。

 

 

………思い出した。 昨日、佐倉杏子の手を掴んだまま自分の部屋に駆け込んで、窓と扉に即席のバリケードを作って、そのまま寝落ちしたんだった。

 

「……じゃあ、さっきのは、夢――」

 

「……すごい魘されてたぞ。 大丈夫か?」

 

「……あなたこそ、目が真っ赤よ」

 

言い返して、ソウルジェムを確認すると――やはり、大分濁っていた。

 

まあ、魔法少女の変身を維持したまま長時間全力疾走した事を考えれば、こんなものだろうけど。

 

グリーフシードで手早く浄化し、京子にも浄化を促す。

 

それで気が抜けたのか、一気に全身の力が抜け、

 

 

 

 

 

 

 

――カリカリカリカリ………

 

 

「「!?!?」」

 

窓のバリケードから聞こえてきた音に、飛び上った。

 

「まさか、アイツら?!」

 

「おおおおお落ち着きなさい佐倉杏子!! バリケードを退かした瞬間に、いえいっそこのまま全力砲撃をぶちかませば――」

 

「いやアンタが落ち着け! そんでロケランしまえ! 部屋ごとブッ飛ばす気か!?」

 

 

盾から取り出したRPG-7を巡って一悶着した後、無関係だった場合も考えて、バリケードを退かした瞬間に槍とショットガンを突きつけ、奴らなら即排除。 手加減無しの殺す気で掛かることにした。

 

 

 

 

 

「――覚悟はいいか?」

 

「………いつでもいいわ」

 

「それじゃ、

――それっっ!!」

 

バリケードが退かされ、穂先と銃口が突きつけられたのは、――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ。 これはなんの騒ぎだい?」

 

「……キュゥべえ?」

 

憎きインキュベーターだった。

 

 

………普段なら即排除だけれど、今回は見逃そう。

 

断じて、安心し過ぎて力が抜けたからではない。 断じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで、なんの用よ」

 

「2人のソウルジェムが急速に濁っていく反応があったからね。 何事かと思って来てみれば、バリケードの所為で入れないし」

 

「………そうね。 あなたにも話しておくべきかしら」

 

「?」

 

いつも通りの無表情なインキュベーターに、昨日の出来事を伝える。

 

 

謎の狂人たちについてと、謎の文句について。

 

 

「………なるほど。 災難だったね」

 

「………一応聞いておくわ。 あれは魔女とは無関係なの?」

 

「無関係だね。

ただ………」

 

インキュベーターが珍しく言い淀む。

 

「? 何か知っているの?!」

 

「………彼等が口にしていたという言葉。 そのなかで、近い発音の単語をしっているんだけd」

「「教えろ(えなさい)!!!!」」

 

「そう言うと思っていたよ。

ただ、僕が知っているのは、本来発音不可能な単語だ。 その言葉を無理矢理発音した場合に近いというだけで、手がかりであるとは限らn

「「いいから!!!」」

……どれだけ怖かったんだい??

ま、まあいいや。 その単語は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くとぅるふ』、或いは、『くーるー』。 これらが、その文句の中では『くとぅるー』に近い発音の単語だ」

 

 

「くとぅるふに、くーるー……?

聞いた事も無いな」

 

京子は首を傾げる。

 

ただ、私は、

 

「…………………………何処かで、聞いたような覚えが………?」

 

「マジか!? 思い出せるか?!」

 

「ちょっと待ってて。 今やってるわ」

 

 

………あれは、確か、私がまだ入院していた頃。

 

何かの本で読んだような……………

 

確か、タイトルは、………………………………

 

 

 

 

 

 

 

……………それ以上は思い出せないわね。 なんとなくだけど、当時の私には難解で、読んでる途中で放り投げたような気がするわ。 こんな事なら、ちゃんと読んでおけばよかった。

 

 

「………何かの、本に書いてあった。 それしか思い出せないわ」

 

「本、か。 そういやキュゥべえ、アンタどこでこの単語を聞いたんだ?」

 

確かに、気になるわね。

そこから情報を得る事も可能だし。

 

「………君たちの話を聞く限り、知らない方が幸せだろうけど、本当に知りたいのかい?」

 

「ええ。 アレをどうにかしない限り、見滝原に平和は訪れないわ」

 

「………僕は警告したからね。

 

 

 

 

 

――クトだ。 彼女が、自分がその『くとぅるふ』だって」

 

「……………………」

 

「…………………………マジ、かよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―絶望と、ちょいとした理由で狂気を司る『邪神』、『くとぅるふ』』

 

 

彼女は、確かに、そう言ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ヤバい、マミ!!

アイツ、クトと一緒に、」

 

「急ぎましょう!!」

 

バリケードをさっさと退かすと、変身して窓から飛び出る。

 

 

どういう事か、説明して貰うわよ。

クト!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少女爆走中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―マミのマンション

 

 

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピn

 

ガチャ

 

「……そんなに連打しなくても大丈夫よ。 それで? 2人共、休日の早朝になんの用よ?」

 

壊さんばかりの勢いでチャイムを連打すると、眠たげな表情の巴マミが出てくる。

 

「――マミ! クトは?! あのチビは?!?!」

 

「えっ」

 

「巴マミ、説明している暇はないわ! 一刻も早くあの悪魔を――」

 

「ちょ、ちょっと!! 落ち着きなさい!! クトなら、昨日か(・・・)ら帰っ(・・・)てない(・・・)わ!!」

 

「「なっ――!?」」

 

 

血の気が引くのが、自分でも分かる。

 

 

まさか、本当に、昨日の件にクトが――

 

 

「……取り敢えず、入ったら? 2人とも、髪がボサボサだし…………

なんか、血の匂いがするわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その後、交代でシャワーを借りながら、昨日の一件と今朝の情報を伝える。

 

途中から、クトが普段連れているインキュベーターも混ざっていた。

……この個体、やっぱり他のインキュベーターと比べて、表情豊かね。 今だって、寝惚けた顔で何とか体勢を保っているように見える。

 

 

「……それで。 何か知ってるかしら?」

 

「まず、クトがヒトじゃないのは知ってるわ。 本人から聞いたし、身包み剥いで羽がホンモノなのも確かめたし」

 

「………よくそんなのと生活する気になったな。 アタシにゃ無理だ」

 

「言動や姿が人にそっくりだから、慣れると気にならないわよ。

それで、『くとぅるふ』?

………先に聞いておくけど、唯の夢って可能性h

「「ないっっ!!」」

………そう」

 

そう言ったマミは、スマートフォンで何かを検索して、

 

「――これが、『クトゥルフ』よ」

 

突きつけられた画面には、大海に浮かぶ石造りの島に佇む、緑色の、蛸に似た触腕を無数に生やした頭部に、巨大な鉤爪のある手足、コウモリのような飛膜のある、歪で醜い竜にも、巨人にも見える怪物が映っていた。

 

……正直、クトとは似ても似つかない。

 

 

「……それと、貴女たちの話に出てきた狂人。 この邪神が語られる物語に出てくる『狂信者』まんまよ。

TRPGのリプレイでも見て、夢に出たんじゃないの?」

 

疑惑の視線が私たちを貫く。

当たり前だ。 私だって体験していなければ信じなかっただろう。

 

「………そんなハズは……」

 

「……佐倉杏子。 昨日のビルに、もう一度向かうわよ。 ついて来てくれるわよね、巴マミ」

 

「…………………いいわ」

 

「!? 正気かよ?! アイツらとの追いかけっこはもうコリゴリだ!」

 

「追いかけられるんじゃないわ。

――私たちが、追いかけるのよ」

 

「で、でもなぁ――」

 

「佐倉さん、知ってるかしら? 一度巻き込まれた事件を途中で放り出して逃げるのはフラグなの。 クローズドサークルモノでも、怯えて密室に引き篭もったキャラは、その後、無惨な遺体で発見さr」

「よぉし殺るぞぉ!!」

 

「佐倉杏子、字が違うわ」

 

何にせよ、怯えて縮こまるだけよりはマシね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少女警戒中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……問題のビルに到着、したまではよかったけれど……

 

「………」

 

「………」

 

「まあ、そりゃそうよね」

 

ビルの周りには、黒字で『KEEP OUT(立ち入り禁止)』と書かれた黄色テープが張り巡らされ、青いビニールシートが入り口を覆っていた。

そして、そこらじゅうにいる警官(・・)

あとオマケで野次馬と報道陣。

 

軽く聞き耳をたてるだけで、様々な憶測が飛び交っているのが分かる。

 

 

 

『――ビルの中で、カルト連中が集団自殺を図ったらしい。』

 

『――いや違う。 連続殺人鬼のアジトだ』

 

『――昨日まではいつも通りだったのに、どうしてあの人が―』

 

『――路地裏でも殺人事件があったらしい』

 

『――終末の兆しだ。――バカ言え、宇宙人の実験場だ』

 

 

 

……取るに足らない喧騒の中で、ある一つの情報が、意識を、揺さぶる。

 

 

 

 

 

『――緑の髪をした、黒いワンピースの女の子がいたらしい―』

 

 

 

 

 

「……巴マミ。 聞き取れたかしら?」

 

「ええ。 これは調べないと駄目ね」

 

「? ? ?」

 

イマイチ聞き取れ無かったらしい佐倉杏子を置いて、野次馬に聞き込みをしている警官に目をつける。

 

「……今、事の詳細を知っているのは警察ね。 巴マミ、演技力に自信は?」

 

「ふ――任せなさい!」ドヤァっ

 

「…………………やっぱり私がやるわ」

 

なんでよ?! という叫びと、展開に置いてけぼりにされた人の顔に書いてある?をスルーして、近付いてきた警官に向き直る。

 

 

軽く深呼吸――問題無い。 数々のループでまどかをつき離さざるを得なくなった時に身につけた演技力、その目に焼き付けるといいわ、2人とも!!

 

 

 

 

 

「――君たち、この辺の子かい? 悪いんだけど、あのビルについて、何か知ってるk」

「あ、あの! 私の友達を見かけてませんか?! 昨日から見てないんです!」

 

「」

 

両手を胸の前で組み、精一杯涙目で『心配なんです!』と訴えんばかりに上目遣いで見る。 ちなみにメガネはかけている。

 

「――はっ?! え、えっと、その友達っていうのは、どんな子だい?」

 

「これ位の身長で、緑色の髪の毛の女の子なんです! 昨日は珍しく黒い格好をしてました!」

 

「!! そ、その女の子、何処に住んで――」

 

ヒット。 昨日のビルには、今言った特徴の狂人はいなかった。

なら目撃されているのは、十中八九、クトね。

 

欲しい情報は手に入った。 後は適当にはぐらかして、逃げるだけね。

 

「ありがとうございました! さよなら!」

 

「あ、ちょ、君?!」

 

ポカンとした顔でフリーズしている2人の手を強引に引っ張り、角を曲がって直ぐの細い路地に隠れて、追跡をやり過ごす。

 

 

「ふぅ、これで一安心ね」

 

「」

 

「」

 

「……いつまで固まっているつもりなのかしら? 佐倉杏子、巴マミ?」

 

目の前で手を振ってみる。

 

「…………………わっ、―」

 

あ、巴マミは反応した。

 

 

「わ?」

 

「――私の暁美さんが、あんなに可愛いハズがないっ!!」

 

「誰があなたのものよ?!」

 

思わずツッコム。

 

その声で意識を取り戻したのか、佐倉杏子も復活した。

 

「…………………可愛いは正義、か…………」

 

「鉛玉ブチ込んででも正気を取り戻させてあげましょうか?!」

 

ただし、何故かアルカイックスマイル(悟ったような微笑み)でだったが。

 

「「冗談(だ)よ、冗談」」

 

「はぁ……………胃薬でも買おうかしら……………」

 

私の友達は、まどかと胃薬だけ…………

 

……虚しくなるから辞めておきましょう。

 

「………それよりも、どんな形であれ、クトがこの一件に関わっているのは間違いないわ。 ソウルジェムで魔力反応を追えば――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――君たち、さっき警官に話しかけられた子よね」

 

「「――っ!??」」

 

後ろから、話しかけられた。

 

見たところ一般人だから、それだけなら特に気にしないけれど――

 

 

この女性、昨日、あのビルにいた……!

 

「あ、ちょ、ちょっと待って! 君たち、その緑色の髪の子の友達なんだよね!!」

 

「――っええ、そうよ」

 

「だったら、伝えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――"助けてくれて、ありがとう"って!」

 

 

「……………は?」

 

 

想定外の言葉に、思わずポカンとする。

 

よくよく考えてみればこの人は、あの呪文を呟く以外は雄叫びと唸り声しか出せなかった時と違って、まともな会話が出来ている。

 

……どういう、ことなの………??

 

 

 

 

 

 

 

――詳しく話を聞いてみると、

 

「……信じてもらえないと思うけどさ。 昨日、突然頭の中に、変な映像が流れ込んで来たんだよ。

内容は………覚えてないけど。

それで気がついたら、自分でも訳のわからない言葉を叫びながら、カナヅチを君たちくらいの子供に振り下ろしかけてるところでね。 手首を掴まれて、止められてたんだ。

後ろを振り向いたら、緑色の髪の小学生くらいの子が、『ゴメンナサイ』って何度も呟きながら、カナヅチを私から取り上げてね。 その後、その子がゴニョゴニョなんか呟いたと思ったら、いきなり意識が無くなって、目が覚めたら家だったんだ」

 

……との事だった。

 

「………全てあなたの夢だったという可能性は?」

 

「いや、無いね。 カナヅチなんて変な物振り回したっぽいから、手にタコが出来てるし、枕元に、『あなたは誰も、傷つけてない』って紙があった」

 

「……………」

 

昨日あなたに襲われたんですけど、という言葉は飲み込む。

 

「………分かったわ。 必ず伝えておく」

 

「………そうか、悪いね」

 

そう言って、その女性は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――一先ず、情報を整理しましょう」

 

場所は変わって、喫茶店。

 

「整理っつっても、訳わからんの一言で済んじまいそうだけど……」

 

「そう言う訳にも行かないわ。 今この瞬間も、街の住人が危険に晒されているもの」

 

特に、まどか。

インキュベーターや美樹さやかがいるから、今この瞬間に命が奪われている可能性は低いでしょうけど。

 

 

「まず、狂人についてまとめましょう。

彼らは痛みを感じず、四肢を失っても襲うのを辞めない。

狂人となるきっかけは、『謎の映像』が関わっている可能性がある。 狂気を解くことも可能だけれど、方法は不明」

 

「……大体、そんなものね」

 

「なーマミ、狂人って、さっき言ってた『狂信者』と似てるんだろ? そっちはどうなんだ?」

 

「基本的には、現実の宗教でも時々問題になっている過激なカルト系信者と同じよ。 物語の中では、彼等神格が太古の昔に連れてきた眷属の血筋がそういった狂信者を束ねてるんだけど、そういった存在は外見が人間離れしてるから、一目見れば分かるわ」

 

「じゃあ、手掛かりは無い、か……」

 

「なら、あの呪文については?」

 

「長い方は、『ルルイエの館にて、死せるクトゥルフ夢見る内に待ちいたり』という意味よ。

短い方は………簡単に言えば、一種の讃美歌ね」

 

「うえ、あんな気色悪ぃ讃美歌なんてあんのかよ………

つーか、さっきからちょくちょく出てるくとぅるふって、小説に出て来る化け物なんだろ?」

 

「ええ、そうよ。

初出は1926年。 ある1人のパルプマガジン作家が書いた、のちのホラージャンルの先駆けとなったと言っても過言ではない作品。 タイトルは、」

 

「……思い出したわ。 『クトゥルフの呼び声』」

 

「そう、それよ!」

 

「……何にしろ、作り話なんだろ?

あの連中(狂人)やクトとは無関係だろ」

 

「問題はそこなのよねぇ」

 

……昨日の狂人は、実在していた。

 

だというのに、彼等の口にしていた台詞に、クトの言葉。 それらが指し示すのは、実在しないモノ。 フィクションの存在。

 

普通に考えれば、私たちの聞き間違いで、クトの言葉はインキュベーターが私たちを混乱させる為に嘘をついた、と考えられる。

けど………

 

 

 

 

 

 

 

「……『常識に囚われてはいけない。 私たちと付き合うなら、あらゆるモノを疑え。

だが、探るな。理解するな』」

 

「? 暁美さん、それは?」

 

「……私が、最初にクトに出会った時、去り際に言われたのよ。 ただ、どう考えても意味が矛盾して……」

 

疑え、と言いながら、探るな、理解するなと言う。

なら、疑ったまま信じろと?

 

「……キュゥべえなら、何か知ってるかしら?」

 

「インキュベーターが?」

 

「ええ。 といっても、普段クトが連れているキュゥべえね」

 

「ああ、あの妙に顔つきが違う奴か?」

 

「私が知る限り、クトと1番付き合いが長いのはあのキュゥべえよ。 もしかしたら、何か知っているかも。 一度、部屋に戻りましょう」

 

手探りとはいえ、方針は決まった。

 

あのイレギュラーの謎へと続く、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――魔法少女の闇が可愛らしく思える程の、遥か昔に仕掛けられた、狂気が隠れる謎への。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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