とある少女の救済神話 【完結】   作:カリーシュ

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表ルート:第8話

sideほむら

 

 

――あの怪物に襲われて(?)から一夜明け。

状況は、お世辞にも良いと言えるものでは無かった。

 

まどかとさやかと杏子は、魔法少女の真実の一部を知ってしまい。

 

『怪物』の正体は、魔女では無いということしか分からず。

 

オマケにクトも、件の怪物を追っていったまま行方不明ときた。

 

「……クトならスリーアウトチェンジとか言い出しそうね」

 

「まだストライク止まりよ」

 

「それでもバッターチェンジよね」

 

 

場所は私の部屋。 書き込みでかなりカラフルになった町の地図を私とマミで挟む。

 

「……状況を整理し直してましょう。 まず魔法少女。 佐倉さんはどんな具合かしら?」

 

「一応問題なさそうよ。 流石に真実の方は堪えたみたいだけれど、そこまで心配していないわ。

それより気になるのは、キュゥべえから聞いた、怪物に邂逅したタイミングでの杏子の反応よ」

 

「考えやすい可能性としては、SAN値の減少による狂気の発症だと思うけど……」

 

「目が覚めた後は大丈夫そうだし、時間そのものも短いから、もう治っていると判断してもいい、だったかしら」

 

「ええ。

………問題は、美樹さんよね」

 

「……このまま放っておけば、魔女になりかねないわ」

 

「……佐倉さんのことといい、随分と自信を持って言うのね。 根拠は何かしら?」

 

「………もう少し、時間をちょうだい。 まだ決心出来ないのよ」

 

「………そう」

 

……私は、怖いのだ。

問題無さそうとはいえ、発狂したマミにマスケット銃を突きつけられたトラウマが、私の勇気を削る。

 

 

「――それで、『怪物』の正体ね。 手掛かりは『不可視』と『鎖の音』。 けど不可視の方は、それ用の魔術もあるからヒントにならないわね。 それで、鎖の方だけれど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――検索したら、ヒットするにはしたのよ。 鎖を扱う邪神が、一種だけ」

 

「! それで、どうだったの!?」

 

「………それが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ヒットしたのは、『アフォーゴモン』。 時間神よ」

 

……時間、神?

 

――冷や汗が、垂れる。

 

 

「簡単に言えば、時を止めたり、時間軸を行き来する能力があるとされているわ。

暁美さん。 貴女の魔法って、」

 

「……察しの通り、時間停止よ」

 

私が答えると、マミがなるほどと小さく呟く。

 

「クトが貴女の事を『初見殺し(ピーキー)』と言った理由がよく分かったわ」

 

「……話を戻しましょうか。 私たちを襲ったのは、そのアフォーゴモンでいいのかしら」

 

「それもおかしいのよね。 アフォーゴモンの本来の攻撃手段は火炎状の雷光で、鎖を使うのは、その神性の怒りに触れた者を拘束する時だけなのよ」

 

「……こっちも分からず、か」

 

只でさえ魔法少女の事だけで手一杯なのに、こっちに関して言えば、情報量が絶望的に少ない。

……もう、どうすればいいのよ?! なんで、絶対にミス出来ない今回に限って、こんな連中が――

 

「……暁美さん、怖い顔になってるわよ。

まずは、解決出来る事からやっつけちゃいましょう」

 

停滞しつつあった会話が、流れ始める。 ……やっぱり、この人には勝てないわね。

 

「……佐倉杏子ね」

 

彼女は確実にこちら側に引き入れておきたい。

 

「……ソウルジェムの話はしたのよね」

 

「………ええ」

 

ということは――

 

『キュゥべえ、今何処かしら?』

 

『風見野市にある、廃教会だよ』

 

『なら佐倉杏子も一緒ね』

 

『……どうして分かったんだい?』

 

『あの教会で起きた火事の件なら知っているわ』

 

『廃教会なんてそうそう無いから特定出来たのか』

 

……杏子とじっくり話が出来るのは明日でしょうね。

 

「巴マミ。 明日の放課後、佐倉杏子を連れて此処へ来て」

 

「分かったわ」

 

 

 

解決出来る事からやっつける。

今1番目処が立っているのは、何の皮肉か対ワルプルギスの夜だ。

その為にも、杏子を死なせてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日 放課後

 

「――それで、アタシに話って何だよ」

 

「まずは、一昨日の一件についてよ。 あなたはあの怪物と会ったのよね?」

 

「あー、そのことなんだけどな。

実は、よく覚えてないんだ」

 

「覚えて、ない……?」

 

「正確には、会ったことそのものは覚えてるけど、どんな奴だったかを思い出せないって感じだな」

 

そんな都合のいいことって――あり得そうね。

 

魔法やそれに近いものを使えるのは、魔法少女と魔女だけじゃ無い。

ソレの扱う魔術を、私たちの物差しで測るのはやめたほうがよさそうね。

 

「……まあいいわ。 ついでで聞いただけだから。 本題は、ワルプルギスの夜についてよ」

 

「そういえば、この町に来るんだよな。 ったく、チビとその愉快な同類といい、ワルプルギスといい、この町はロクなことが無いな」

 

「……それは否定しないわ。

そのことについてなのだけれど、逃げるなら今よ。 只でさえ危険な伝説級の魔女と戦わなくてはならないのに、神話生物も如何にかしなければならないわ」

 

「ハっ! そう言われてアタシが逃げると思うか?」

 

八重歯をむき出しにして、笑う。

 

「――アタシは、逃げない」

 

「……そう。 なら良いわ」

 

「また貴女と戦えるわね。 よろしくね、佐倉さん!」

 

「あ、ああ」

 

そういえば、元々杏子はマミとコンビを組んでいたのよね。 魔法に対する意識で決別したらしいけど。

そんな彼女が、まだワルプルギスと戦う理由――

 

教会でのさやかとの会話があったなら、彼女を意識して決意を固めたのかしら。

 

 

 

 

 

――ただ、私は、クトだけでなく、彼女も、処理するつもりだけど。

 

 

 

 

 

失敗は、許されない。

 

神話生物が襲いかかってくる遠縁と思わしきクトは言うまでもなく。

 

ループでの杏子の主な死因は、人魚の魔女(さやか)を相手にしての自爆。

 

ならば、私が、さやかにトドメを刺せば、彼女の自爆は防ぐことが出来る。

 

 

……今まで、何度も、見殺しにしてきた。 今更、彼女に手をかけることを躊躇う理由なんて――

 

 

「――おいほむら! 早いとこ話を始めてくれ!」

 

「え?! え、えぇ、そうね。 ワルプルギスの出現予測は――」

 

自分自身が、段々とズレテイクのを感じながらも、頭を切り替える。

 

ワルプルギスの夜そのものは、かつて一度、私とまどかで斃せている。

攻撃パターンはある程度知っているし、私自身の実力も上がっている。 それに、杏子もマミもかなりの実力者。

 

今度は、間違いなく、勝てる……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――途中、情報元を疑われながらも、ワルプルギスの攻撃パターンを一通り伝え、一息ついていると、

 

『ほむら。 さやかたちが出かけた。 かなり精神的に追い込まれている』

 

キュゥべえからの念話……このインキュベーターはどうするべきかしら?

……ここ数日、何故かあの個体以外見かけないし、穢れの溜まったグリーフシード処分用として生かしておきましょうか。

 

『分かったわ。 こっちも杏子との話が丁度終わった所よ。 そっちと合流するわ』

 

『早めに頼むよ』

 

念話を切り上げて、マミと杏子にその事を伝える。

 

 

 

 

 

――私は今度こそ、まどかを守り切ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

――キュゥべえの誘導に従って、着いたのは、工場の一角。

 

この辺りで出る魔女……影の魔女(エルザマリア)ね。

 

あの魔女の力を考えれば、正気を保ったままのさやか(・・・・・・・・・・・・)なら敗北している可能性が高い。

 

 

……ただ、あの魔女の魔力は感じられない。

その代わり、あるのは――

 

「……この魔力反応は、クトのよ」

 

 

人の姿をとり、何故か魔法少女の契約を結んだ、神話生物。

マミはアレの事を気にしているみたいだけれど――

 

「……いくら敵対しているような素振りだったとはいえ、相手は私たち魔法少女とも違う、正真正銘の化物よ」

 

盾からミニミ(マシンガン)を取り出し、初弾を装填する。

 

「!? 暁美さん、クトは、」

 

「アレはクトゥルフで、あの狂人たちが崇めているのもクトゥルフ。 極め付けは、連中の神話の総称は、『クトゥルフ神話』。

……処分する方が、私たちにとって安全よ」

 

「……言えてるな」

 

狂人を思い出したのか、僅かに青ざめた顔で杏子が同意する。

 

変身こそしているけれど、未だマスケット銃を構える様子の無いマミを置き去りに、槍を携えた杏子と、扉を蹴り開けて進む。

 

 

 

相手は、直ぐに見つかった。

 

 

 

壁の方を向いたまま、床に落としたランスを拾う事もなく、只々呆然としている、黒尽くめの儚い少女。

 

今にも消えそうだった存在感が、私たちを捕捉することで、いつものソレへと変わる。

 

 

「………随分と遅かったな。 魔女ならさやかが狩ったぞ」

 

「……」

 

「……黙りか。 その感じだと、さやかの方を追うつもりはなさそうだな」

 

念話で、杏子に今目の前にいるのが幻影か本体かの確認をとり、コレが本体だという答えが返ってくる。

 

 

「……マミはどうしてる? 黙って出てきたから、ちょっち心配でな」

 

「あなたが知る必要の無い事よ。

――死になさい」

 

トリガー引きっぱなしで、フルオートによる鉄の雨が少女の形をしたソレに突き刺さる。

 

あっという間にハチの巣になる、が。

その怪我は、弾丸が貫通するそばから再生して、一向に斃れる気配が無い。

 

「おいおい、ご挨拶だな。 魔法少女を仕留めたいならソウルジェムを狙えと――」

 

「あなた、魔法少女以前に化物でしょう」

 

「確かにそうだけどさ……」

 

銃撃と会話によって、アレの意識は完全にこっちへ向いた。

 

 

 

残弾が心許なくなって――

 

「――そこだッ!!」

 

「!? 杏子―っ」

 

アレのソウルジェムの正確な位置を探っていた杏子が、腰のポーチを切り裂く。

 

零れ落ちて来たのは、真黒なソウルジェム(グリーフシード)

 

「―っ! 上手く読心めないと思ったら、テメ、」

 

杏子の本来の固有能力は、アレに近い『幻術』。

 

そして、本来自身の思考を不特定多数の他者(・・・・・・・・)の精神に叩き付けるクトゥルフなら、

意識していない相手の思考を読む(・・・・・・・・・・・・・・・)のは不得手じゃないかという想像からでた即席の作戦だったけど、上手くいった!

 

「貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

「――――――っ!!!」

 

杏子の槍が、ソウルジェムに突き刺さる。

 

 

 

 

 

キンッ、と小さな音をたてて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

槍が、弾かれる(・・・・)

 

 

「「「……………はっ?!?」」」

 

恐る恐る、転がるソウルジェムを見ると、

 

 

「……うそ。

き、傷一つ無いなんて………っ!?」

 

衝撃のあまり呆然としていると、目の前をアイボリーの影が通り過ぎ、ソウルジェムを奪われる。

 

 

 

「いやいや、なんで………

――ッ、そういうことかよ」

 

ソウルジェムを握ったまま骨翼を大きく広げる。

 

「待ちなさい!! クト――」

 

直後、突風が私たちの全身を強く打つ。

 

目を開けると、そこにソレの姿は無く、

 

天井には、巨大な穴が開いていた。

 

 

 

 

 

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