とある少女の救済神話 【完結】   作:カリーシュ

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ーーただ哀しむことしか出来なかった、心優しい『少女』は、もう、居ない


そこに居るのは、感情(狂気)と、感情(憎悪)と、感情(絶望)に溺れる『邪神』






共通ルート:第2話

sideほむら

 

 

――扉を開けた瞬間、冒涜的としか言い表せない寒気が全身を包む。

 

 

 

黒い空。

 

 

草木一本生えない不毛の大地。

 

 

至る所に墓標の様に突き刺さる、古びた武具。

 

 

中央部には銀杯が鎮座し、赤黒い液体が溢れる。

 

 

杯に乗せられているのは、蛸の様な『ナニカ』。

 

 

 

そして、それに群がる、黒い影。

 

 

 

 

 

「……ここ、まるで、お墓だね………」

 

「クトにしてみれば、本当にそうなんでしょうね。 彼女が殺めた人たちの

――――そして、クト自身の」

 

 

まるで肯定するかのように、使い魔が魔女に張り付いていた部位から赤黒い血が噴き出る。

 

人の胴ほどの太さのある触腕が断ち切られ、地に堕ちると溶け、地に染み込む。

 

 

「!? あれが、魔女を攻撃する使い魔」

 

「ああ。 ………やっぱり違和感あるな」

 

多くの魔女の結界とは違い、明確に『死』を連想させる光景に怯む。

 

 

 

 

 

「――ここで怯えていても、何も変わらないわ。

行くわよ!!」

 

「それもそうね!」

 

周囲に大量のマスケット銃を浮かべて突っ込んだマミに合わせて、私も盾に収納しておいた対物ライフルを構える。

 

 

「援護射撃よろしく!」

 

「おい、病み上がりで無理するな!?」

 

一歩出遅れてさやかと杏子が飛び出し、迎え撃ってくるだろう使い魔を処理しようと、スコープを覗いて――

 

 

 

 

 

「ティロ・ドッピエッタ!!」

 

「はぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「チッ、いくら何でもどうなってんだ?!」

 

 

魔弾が、斬撃が、槍の一閃が、使い魔を屠る。

 

だと言うのに、使い魔はこちらをチラとも見ない。 一心不乱に魔女を攻撃する。

 

 

「それならそれで好都合。 一方的に殲滅するまでよ。

まどか、これつけときなさい」

 

「きゃ!?」

 

米軍基地からパクった特殊なイヤマフをまどかにつけさせると、使い魔の頭部に当たる部分に弾丸を撃ち込む。

 

泥の塊の様な物が飛び散るけれど、その穴は一瞬で埋まってしまう。

 

「あの使い魔も規格外だね。 通常の魔女の使い魔なら、魔女に成長している程の魔力が流れてる。 戦力的には、あれ全部が魔女だと思った方がいい」

 

「くっ、どれだけいるのよ。

マミ、さやか、杏子! 聞こえていたわね!」

 

「ええ! なら、レガーレ・ヴァスタアリア!! からの――」

 

リボンが広範囲の使い魔に巻きつき、――

 

「――ティロ・ボレー!!」

 

 

大量の魔弾が降り注ぐ。

 

使い魔の集団を容赦なく抉り、その多くを消し飛ばす。

 

 

「よし! だいたいの強さは掴んだわ! これなら――」

 

グヂュリ、という音がする。

何事かと、そちらを見れば、

 

 

「!?!?」

 

「ひっ?!」

 

魔女の頭部に、1つの眼球が浮かび上がる。

血涙を流しながら、私たちを順繰りに眺める、荒れた海のような碧い瞳。

 

「く、クトちゃん!! 分かる、私だよ!! 私たちは、あなたを――』

 

【――ooo―――】

 

 

ギチギチと目玉が蠢き、

 

 

マミの方に、固定される。

 

 

 

 

 

――いや、違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――マミに倒された、使い魔(・・・)を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――OOOOOoooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!

 

 

 

幾つもの鐘を大砲で打ったような、地の底にまで轟そうな咆哮が響き渡る。

 

触腕が絡まり合い、根元から切り落とされると、かなりの数の使い魔を巻き込んで、最初に切断された触腕のように溶ける。

 

 

「〜〜〜っ!! 何がしたかったんだよ、コイツ?!」

 

「分からないわ。 でも様子がおかしいわ!! 油断しないで!!」

 

「りょーk――」

 

 

パァンッ!

 

 

くぐもった銃声がなる。

 

でも私は撃ってないし、マミも発砲していない。

 

じゃあ、いったい誰が……?

 

 

「……一体、どこから、」

「――さやか? おい、さやか?!」

 

杏子の悲鳴のような叫びが響く。

 

手近な使い魔に弾丸を叩き込みつつ、横目で見て、

 

 

 

 

 

 

 

――目を見開く程驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかの身体は、マミへの返事を言いかけたまま止まっていた。

 

特有の色の違いこそあるけれど、私だから分かる。

 

あれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さやかの時間が、止まっている(・・・・・・)!?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《――■■、■■■■■■■■■■■!!》

 

 

ゴポリ、と、使い魔ごと触腕が溶けた泥から、人影のようなナニカが立ち上がる。

 

手には、細長い棒状の物体。

 

「あれが原因ねっ!」

 

素早くレティクルの中心に合わせ、引き金を絞る。

 

轟音と共に鉛玉が発射され、直撃する。

 

 

 

 

 

《………■■? ■■■■■■■■■?》

 

「なっ!? 効いてない?!」

 

こちらを見ながら首を傾げる影。

ピチャピチャと泥を垂らしながら、今度は短い棒の先端を自身に向けると、

 

パァンッ!

 

「!? なっ?!」

 

「自分を撃ったの!?」

 

ダメージは無いのか、平気そうな様子で両腕をダラリと垂らすと、

 

一瞬でスコープから姿が掻き消える。

 

「!? な、一体何処に、」

「――!? キャァ!!」

 

マミ?!

 

銃口ごと向き直れば、強化された視力でも目で追いきれないほど早いスピードで、人影がマミに襲い掛かる。

マスケット銃を交互に撃つことで応戦しているけど、追いつけていない。

 

「くっ、レガーr」

「■■、■■■■■◾︎!!」

 

魔弾を潜り抜け、泥をまき散らしながら、古式の長銃と短銃(・・・・・・・・)から連続で弾丸が放たれる。

 

「!? ま、まさか――」

 

何かに気がついたらしいマミが、リボンを自身に巻きつけて引っ張るという荒っぽい方法で銃撃を躱す。

 

 

「――ぁい!! ってえ?! ど、どうなって、」

 

「美樹さん! この人の相手は私がやるわ!! 貴女たちはクトをっ!!」

 

映画顔負けのガンカタを影相手に繰り広げながら、ハイスピードで戦場を移すマミ。

 

 

 

「チッ、やっかいね!!」

 

さやかが無事に復帰したけれど、私たちのなかでトップクラスの火力を持ったマミが離脱したのは痛い。

 

一体一体が魔女に匹敵するあの使い魔を倒すには、各個撃破するにしても多少なりとも時間がかかる。 反撃してくるような様子は、マミと戦っている個体以外は無いけれど、数が尋常じゃない。

 

「っもう!!」

 

盾の収納魔法を操作、種類問わず幾つもの無反動砲や対戦車榴弾砲を並べる。

 

時間を止め、その間に撃って――

 

《――■■■◾︎!!》

 

「!? う、嘘でしょ!?!」

 

マミと撃ち合っていた筈の影が、私に古式銃の銃口を向ける。

 

咄嗟に手に持っていたAT4をそちらに向けて撃つも、アッサリ迎撃される。

 

「どうなってるのよもうっ!?!」

 

《■■! ■■■■■■■■■■!!》

 

ミニミを引き抜き、フルオートの反動を強化された腕力で押さえ込みながら、一気に近づく。

 

恐ろしい事に、毎秒15発前後を吐き出す軽機関銃を相手にしているというのに、その超スピードを活用して一切被弾していないのだ。

 

こんなの、どうやって対処しろっていうのよ?!?!

 

 

 

パァンパァン!!

 

 

両手から銃弾が放たれる。

 

背後にまどかがいるから避けるわけにはいかず、盾で受け止める。

 

その衝撃で魔法が解除されたのか、時間が正常に流れ出す。

 

 

 

「!? くぅっ!!」

 

チッ! やっぱり私がよくやるように、マミをあらかじめ銃弾で囲ってたわね!!

 

 

もう時間停止は使えない。 この影が真っ直ぐに私を撃ちに来たから良かったものの、先にさやかや杏子の方に行っていたら、もっと大変なことになってたわ。

 

 

「さやか! マミの回復を頼むわ!」

 

「へ? う、うん!」

 

さやかを妨害しようとする影に対してスパスの12ゲージ散弾を喰らわせる。

 

衝撃で多少なりとも怯ませる事には成功するも、やはりダメージが通ってる様には見えない。

 

「暁美さん! 彼女(・・)の相手は私がやるわ!」

 

《■◾︎! ■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■◾︎!!》

 

首をグリンと回し、短銃の射線がマミを捉える。

引き金にかかる指が見えたのか、銃口ごと躱すように倒れこみながら魔弾を撃つ。

 

《■■■■■■■■■■◾︎!!》

 

「ああもう! この件については全部喋ってもらうわよ!!

暁美さん、美樹さん! 貴女たちはクトの方に集中して!!」

 

「無茶よ、マミ!!」

 

「いいのよ。 悪いとは思ってるけど、だって私、今、――」

 

 

両手のマスケット銃を影に突きつけ、叫ぶ。

 

 

「――とっっっても、ワクワクしてるもの!!」

 

「は?!?」

 

銃撃だけでなく、銃身やストックを使った殴り合いまで交えて戦闘が白熱していく。

 

 

「マミさん、どうしちゃったの?!」

 

「……取り敢えず、ほっときましょうか」

 

…………相手も待ちくたびれているようだし、ね。

 

 

 

 

 

 

再度魔女の触腕が絡まり、使い魔を巻き込んで溶ける。

その数、3。

 

使い魔の半分以上がそれで消えるけど、あの溶けた跡からは、あの影のように強力な使い魔が現れるでしょうね。

 

「!? クトちゃん!? どうしてこんなことするの?!?」

 

「きっと、力付くでボクらを結界から追い出すつもりだね。 あの使い魔の攻撃、かなりセーブされてる」

 

「手加減されてるって事かしら?」

 

「そもそもあの魔力濃度なら、純粋なエネルギーとして爆発させるだけでこの空間にいる魔法少女を全員即死させられるよ」

 

「ええええええ!?!」

 

 

 

「……その割には遠慮が無い気が、ああ。 まだ憎まれたがっているのね」

 

 

ポイッと、さっき撃ったAT4の筒を投げると、一瞬で蜂の巣にされる。

 

《■■■■■■■■? ■◾︎■■、■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■》

 

「何言ってるか全然分からないわね」

 

今度は拳銃持ちが相手ね。

いえ、連射能力と妙に大きなサイズからしてサブマシンガンかしら?

 

 

チラッと確認すると、杏子は有角のメイスを持った影を、さやかは槍を扱う影を相手にしているようね。

 

 

 

 

「1人につき一体……やるしかないようね」

 

《■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。 ■■■■、■■■■■■■■■■■■■■。 ■■■■■》

 

Vz61(スコーピオン)を引き抜くと同時にコッキング。

 

 

「――まどか、下がってなさい」

 

《■■、■■■■■■■■■■。 ■■、■■■■■■■■■■■■■》

 

 

 

 

 


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